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〔2〕精神症状の特徴  〈文献に見られるCS患者の精神症状〉

〈1〉ランドルフ博士の著作より 「人間エコロジーと環境汚染病」
〈2〉運転中の反応 「人間エコロジーと環境汚染病」
〈3〉入院患者の例 「人間エコロジーと環境汚染病」
〈4〉北里研究所病院・石川哲医師のお話 「化学物質過敏症」文春新書
〈5〉元美容師の手記より 「CSネット通信」11号
〈6〉シックハウスで発症した女性の話 「化学物質過敏症」文春新書
〈7〉シックハウス・薬が原因で発症した女性 「化学物質過敏症症例集1」
〈8〉自宅近くの洗車場の洗剤によって発症した女性の例 「CSネット通信」17号
〈9〉家の改築とガーデニングの農薬により発症した女性の例 「化学物質過敏症 症例集2004」

 私が本の中に見つけたCS患者の精神症状の例を、いくつか引用します。

〈1〉ランドルフ博士の著作より
 まずはじめに、「化学物質過敏症」という病気の発見者、セロン・ランドルフ博士の著作より引きます。ランドルフは、多くのCS患者を診察する中で、患者の症状の現れ方には一定のパターンがあることを見抜きました。CS患者は、身体症状の他に、次のような精神症状が現れるということです。
『疲れ、活力の減弱、仕事へのイニシアチブや意欲の欠如、健忘症、思考困難、集中障害、読書困難で、時にはユーモアも解せなくなることがある。』

『いっそう重い慢性体質疾患が現われてくると、局所症状は弱まるようである。例えば、いっそう重い精神的錯乱や軽いうつ状態を特徴とするいわゆる“ノイローゼ”の慢性の段階がある。その症状は次のようにいろいろである。固定概念、幅の狭い思考、非社会性などの傾向やむっつりした、ふきげんな、引っ込み思案の、時には敵対的、偏執的な行動、示唆に対する拒絶、麻酔にかかったようなぼんやりした状態、ふらふら歩行、周囲への無関心、時には居眠り状態になることもある。
 上記の症状は融合し増強していわゆる精神病の段階にまで達する。それらは、重いうつ病、見当識障害、退行、時には幻覚、妄想や健忘症に特徴づけられる。』

 また、患者が“興奮”期に入ると、次のような症状が出ます。

『第一段階では、患者は活発で、機敏で、やや興奮しているが、そのほかの症状はない。(中略) やがて、過敏性が強まり、適応が弱まり、“興奮”が始まり、エネルギーが噴きだして、体を動かし、多動となる。その状態では数時間の間、神経質になり、調子が上がり、いらいらし刺激性である。周囲の人々は対人関係のトラブルにしばしば巻き込まれることがある。これを“情緒的混乱”と呼んでいる。』

『いっそう激しい反応も起こることがある。そのときは顔面が紅潮し、不器用になり運動失調を起こし、理屈っぽくそして攻撃的になる。この場合、ほかの人たち巻き込む可能性はいっそう増大するが、犠牲者の行動はこの時点では明らかに異常であるのに、周囲の人たちが深刻に受けとめることは少ない。』

「人間エコロジーと環境汚染病」セロン・ランドルフ/著、農文協/刊


〈2〉運転中の反応
 さらにランドルフは、自動車を運転している最中に、化学物質の影響で、CS患者に次のような症状が現れることを指摘しています。

『臭気や煙霧の吸入に対する最も危険な慢性反応は、じわじわとおそってくる疲労と耐え難い睡魔であろう。これは通常数時間の曝露後に起こるので、ドライバーの催眠状態と肉体的疲労を鑑別することは不可能でないにしても極めて困難である。

 この反応で起こる疲労は、二日酔いのような状態(記憶力、注意力、精神集中力や理解力などの障害)やいらいらである。反応を起こしている人々は、必要に応じて素早く判断し行動することがなかなかできにくく、ほかの人や物事に対しすぐに腹を立て怒りやすい傾向がある。これは時には極端な怒りとなって現われる。混乱したドライバーはこの怒りをほかのドライバーや車に向けるかもしれない。他人の誤りを認め、対応し、許容する能力の減退は非常に深刻であるが、最大の危険は空気や食物中に添加されたり混入されている化学物質や食物そのものに反応して、ドライバーが居眠り運転することである。』

『症状はひどくなると、目的物に手がいかなかったり、いき過ぎたりする無器用さを示し、酔払いのような全身の運動失調に陥ることが多い。

 この酔払いのような症状は、また次の点でアルコール酔いに類似している。すなわち、患者は赤ら顔になり、声はしゃがれ、多動で、症状の程度を過小に評価するとともに、運転能力を過大に評価する傾向がある。

 この傾向はさらに進展し、アルコール酔いの人が自分の足を見ないとその位置をいうことができないように、化学物質によりこの段階の大脳症状を起こしているドライバーは、メーターを見ていなければ、アクセルやブレーキを踏む力を加減することはできない。』

「人間エコロジーと環境汚染病」セロン・ランドルフ/著、農文協/刊


〈3〉入院患者の例
 また、ランドルフの病院に入院していたCS患者が、化学物質にさらされることで、精神症状を起こした例を紹介しています。

『ほとんど症状が消えたこの時点で、患者は、きびしい禁止命令を破って、窓を広く開け放った。すると精油所の臭気でひどく汚染きれた空気が南東の微風にのって、入ってきた。すぐに患者は気が変で、いらいらして緊張状態になったと訴え始めた。そして、本を読んでも理解でないと言い、ひとつの考えだけに心を奪われているようであった。この発作の初期症状の特徴である不眠と落ち着きのなさの後に疲労と鼻づまりが続いた。』

「人間エコロジーと環境汚染病」セロン・ランドルフ/著、農文協/刊


〈4〉北里研究所病院・石川哲医師のお話
 北里研究所病院には、全国から数多くのCS患者が診察に訪れます。多くの患者を診察した経験から、石川医師は精神症状について、次のように語っています。

『過敏症の患者さんのなかには、猛烈に多弁になって、相手を攻撃するようなことを言う人がいます。しかも、それが発作的な行為で、相手にそういうことを言ったという意識さえない場合もあります。外から見れば精神異常的に見えるような症状が起こってくる。そのため離婚してしまうとか、家を飛び出してしまうということが起こってくる。あるいは、子供をひっぱたいたりする。そういう事例が確かにあります。

 結局それは、化学物質のために脳の中の情動脳といわれる大脳辺縁系が非常に過敏な状態になって、行動面でおかしなことを起こすわけです。』
『もっとも日本の患者も、この本の第一章でインタビューに答えてくれた患者さんたちのように前向きに考える人は少ない。被害者意識だけを強烈にもっている人が多いんです。国が悪い、メーカーが悪い、自分は被害者だ、そればっかり。そういう話を診察室で際限なく聞かされると、困ってしまう。被害者意識だけでは何も生まれないからです。』

「化学物質過敏症」柳沢幸雄/他著、文春新書、文藝春秋、p.172,185


 次に患者の手記から引用します。

〈5〉元美容師の手記より
 化学物質の曝露によって、衝動的に行動してしまい、自分では抑制できない様子が描かれています。

『すべての洗剤、柔軟剤、防虫剤のこれら合成のたまらなくとても嫌な匂いを吸うと、ごくごく微量で頭にカーと血が上り、相手をとことんやっつけてしまわなければ気がすまない、強い凶暴性、攻撃性が出てきてしまうのです。他人に対しては何とか抑制できても、私に対して弱い者には追い詰めてしまうところまでいってしまう。もしこれを我慢すると卒倒してしまうかもしれないという、恐いところがある。

 これは何故だろう?すごく微量の洗剤の匂いでこの反応である(ちょっと多めの柔軟剤、洗剤の匂いでは死にそうな思いになるのに……)。これを母にやってしまった。我慢に我慢をしていたのだが、とうとうキレてしまったのです。母のびっくりした顔、「何がどうしたの」というような、とても不思議な顔をして私を見ていた。私の心臓は早鐘のようになり、ハアハアと息も荒く、気が付くととんでもないことを言っていたのです。母を責めた私は胸がスカッとしたと同時に後悔、後悔が後から湧き起こってくるのです。母はすぐ「ごめん」と謝って、へナへナと布団の上に座り込んでしまいました。』

「CSネット通信」11号、化学物質過敏症ネットワーク p.7より


〈6〉シックハウスで発症した女性の話
 同じような例は、他にもあります。

『驚かないでくださいね。正直な話をすると、もともと私はイライラするタイプではなかったのですが、問題の家に入居してからキレたことがあったんです。それは風邪薬を飲んだ後でした。まだ問題の家に住んでいるとき、抗生物質を飲んでしばらくすると、突然、ローチェストを投げずにはいられないような感覚がバーッと起こってきて、二階の階段から投げつけたらすっきりした。自分でもどうして投げたのか分かりません。夫に金切りバサミを投げつけたくて仕方なかったこともあります。喧嘩をしてるときではなく、何でもないときです。

 車を運転しているとき、頭の片隅で悪魔にささやかれたみたいになって、反対車線に突っ込みたい衝動にかられたこともありました。それは排気ガスで頭痛がしているときでした。“問題の家”を出て身体が楽になってからはなくなりましたが、一番調子の悪いときはそんな状態がよくあって、これ以上この家にいたら精神を病んでしまうと思いました。夫のほうは突然キレて、私をボコボコに殴っちゃったんです。私は全治一カ月で死ぬかと思うほどでした。夫自身も、殴った後に自分が何をしたのかが分からず、とても動揺していました。』

「化学物質過敏症」柳沢幸雄/他著、p.30より


〈7〉シックハウス・薬が原因で発症した女性
この方は、うつ症状の他に、私のように離人症と似た症状も体験しています。

『薬を飲むと死にたくなる誘惑にかられる(精神症状)。精神症状が出ると、自分の子供が「人間」ではなく「物体」に見える。理由もなく「死んでみたい」と思う。朝起きて、ボーッとしている私を見て、主人が「一家心中しそうな目つきだ。会社に行きたくない」と言った。子供に食事を作ってやれない。一日中、座り込んでうつむいている私に、1歳の次女でさえ近づいてこなかった。「死のう」と思って道を歩いていると、車が大きく私をよけて通った。ある医師が「精神科へ行ったらどうですか?」と言った。』

「化学物質過敏症症例集1」化学物質過敏症ネットワーク/刊、p.28より


〈8〉自宅近くの洗車場の洗剤によって発症した女性の例
 この方は、統合失調症のような症状を体験しています。

『私自身の事に触れますと、書き出したらきりがありませんが、幻覚、幻聴、痴呆症のように聞いたことをすぐ忘れる、徘徊、自分が自分でなくなり「私の心を返して」と心の中で叫んでいた時期がありました。動作が緩慢で3時間かけて夕食を作ったり、嗅覚も味覚も失い、過食症も経験しました。子供の面倒が全く見られず、部屋の隅でニタニタしている(幻聴で)私を見て、実家の母は涙を流していました。死にたいと何度思った事でしょう。大好きだった義父母とも人間関係を崩し、夫と離婚したいと、どんなに思ったことでしょう。今は以前のように愛する人たちに戻りましたが、化学物質がこれほどまで人間を攪乱し、人間の尊厳を奪い取ってしまうものなのか、本当に恐ろしい。』

「CSネット通信」17号、化学物質過敏症ネットワークp.14より


〈9〉家の改築とガーデニングの農薬により発症した女性の例
 この方は、CS症状のうち、長年、精神症状に特に苦しめられたと語っています。

『自分の仕事は、この1年位前にすでに辞めて、というより出来なくなっていました。CSの症状の一つに集中力の低下がありますが、デザイナーという職業には致命的で、元々集中力とか根気には自信があったが由に、それは、集中力の低下というより消滅という位深刻なことで。人間としての自信とか尊厳といったものを、私からすべて奪い取ってしまったように感じられたのでした。変わらず仕事をしている主人や友人達と較べては、自分だけ世の中から取り残されてしまった疎外感に襲われて、生殺しの様な状態に生きている意味さえ問う様になり。まさに出口の見えない、深い沼に頭までどっぷりと浸っている様な心境でした。これはごく最近まで、私を苦しめ続けたのです。』

『一進一退を繰り返す症状に疲れ切り、己の身に振りかかった運命を呪い、「死にたい」と言っては泣く日々が続いていました。理解の無い人の言葉に傷つき、もう、主人や友人の励ましの声さえ耳に入らず、世の中すべてに見放されたかの様に心が宙をさまよい。生きている実感も、無くなっていました。』

「化学物質過敏症 症例集2004」p.68,70より

 

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