第1章 古代文明、その浪漫は現代臭にかき消され。
陸地が見えた。
山吹色、点々と広がる灯が、夜の暗黒大陸に街の輪郭を結ぶ。
日本を発って13時間、発狂しそうなほど暇なフライトの末、
俺は未知なるアフリカという地に着いた。
「東奔西走・縦横無尽」
今回の作戦名だ。
詳しい目的地は決めてなかった。
「体力の続く限り、動いて動いて動きまくったる!」
世界地図を広げればアフリカ東部にはその縮尺ですら確認できるほど巨大な湖がいくつか固まっているエリアがある。
(実際はとんでもなく離れているが、あくまで世界地図上では、の話)
アフリカ大地溝帯だ。
年間数センチという速度で今も広がリ続けているこの大地の裂け目、
そこにたまった水は大河の水源となっていて、いわばアフリカ大陸の水の故郷である。
これらの湖沿いを放浪しながら、流されながら、
有鱗淡水魚の王、”暴君”ナイルパーチ、
殺し屋、”アフリカの牙”タイガーブイッシュ、
古の神秘、”幻の龍”ポリプテルス、
そして未知なる珍魚、怪魚をこの手に抱くため、
俺はこの地にやってきた。
今回の基点はケニア首都ナイロビ。
当初予定していたタンザニア首都のダルエスサラームへは、
今回利用した”Soratobu-Hitsugi"ことエジプト航空の便は運行休止となっていた。
このエジプト航空の利用には理由があった。
ただ安いだけではない。
ケニアまでのトランジット(乗り継ぎ便)の間、エジプトで数日間観光が可能なのだ!
夜のエジプトの首都カイロ、むぅとした熱気の中を俺は早速行動を開始した。
あの四角錐の浪漫を、世界一有名な遺跡をこの目で見るために。
安宿にとりあえず荷物を預けた俺は、早朝、
まだ砂漠の都市が静寂をつなぎとめる時間帯にそこに着いた。
「!?」
それが正直な感想だった。
期待しすぎていたからであろうか?
日本語で表せば
「へ?」
という印象である。
でかい。果てしなくでかい。
それが全て人力で作られたものとは信じられないない、そんなでかさである。
だが、それゆえに自然創造物と比較すれば、
「山」としてはあまりにもちっこく、チンケで
なんともマカフシギな、自分の尺度にはない、
「ヘ?」
というしかないスケールなのである。
だがしかし、
さわやかな朝日が殺人太陽へと変わるころ、
おれの気分はだんだんとすさんでいった。
大型バスで乗り付ける、人、人、人・・・。
そこは世界最大の観光地
鳴り止むことのないシャッター音、デジカメの電子音・・・
街の何倍もの値段のする水を
ガバガバ浴びるようにのむ白人諸氏。
何より突っ込みたいのは
キャミソール、ショートパンツ・・・
エジプトはイスラムの国である。
街行く女性は肌をなるだけ隠している、そんな国である。
おめーらのソバカスだらけの肌なんか見たくねーんだよ!
どこへ行っても観光地ってこうなのかな?
「コニチワ。ラクダ、ヤスイ。」
周囲をうろつくラクダ乗りのオッサンが執拗に声をかけてくる。
シカトすれば
「アニョハセムニダ!」
「ニーハオ!」
とくる。
ウザい。
マナーの悪い奴が目に付きすぎる。
ムカつく拝金主義者が多すぎる。
「!?」
注)ピラミッドは登頂禁止
拡大。手に持つのは・・・。
俺もどうでもよくなってきた(笑)
ラクダ引きのオッサンが声をかけてくる
「とにかく乗れ」
「いくら?」
「Up To You」
(ご自由に)
ひっきりなしに声をかけてくるおっさんたち、
その中で我が敬愛する”19”の3rdアルバム名を口走ったおっさん、
不思議な縁を感じて乗ってみた。
体も小柄なこのおっさん、
「ぼったくられそうになっても腕力じゃ俺が上だ」
んでもって
「俺に”ご自由に”なんていうと、ほんとに滅茶苦茶やっちゃうよ?笑」
俺はラクダにまたがり、ピラミッドの周遊に出かけたのだった・・・。
砂、砂、砂、ラクダの背中より
が、やはりというか、当然か、
別れ際、「UpToYou」と言ってたくせに、
「地球の歩き方」(日本一発行部数の多いガイドブック)に書いてある適正値段を支払うえば、
「少なすぎる、これだけでは受け取れない」
と渋り、金を受け取ろうとしないおっさん。
ま、わかってた展開だ。
「UpToYouなんでしょ?いらないならいいよ。こっちも助かったよ。」
俺はUターンしてさっさと歩きだした。
「待て待て!」
必死に追っかけてくるおっさん(笑)
「ったくよ〜手間取らせんじゃねーよ!」と胸ポケットにさっきの金を押し込んで、終了。
これ以上はまず追っかけてこない。
外国、特に観光地ではこれぐらいの自己主張がないと食い物にされるだけ。
観光地では人は例外はあるにしろ、声をかけてくる奴は十中八九集金マシーンなのだ。
人と人の付き合いは残念ながら難しいね・・・。
言いなりになってばっかりじゃシャクだ。
「それなら愉快に騙し合いを楽しんじゃえ〜!?」
いざ、出陣!
(ちなみに屋台で買い物する時もとんでもない値段を吹っかけてきますが、
値段交渉がめんどくさい場合は俺は自分が適正値段と考えるお金を置いて、品物を持って立ち去ります。
あまりに少なすぎるようなら、店主が品物を取り返しに追いかけてくるので、そのとき追加分を払えばいい。笑
もっとも最近はめんどくさくて、大して物を値切らなくなりました。
向こうもバカじゃないので、ぼったくるとはいっても日本の物価と同じかそれより少し安いくらいの値段を言ってくるので、
ぼったくられても日本の感覚なら大した額じゃないし、なにより炎天下の中値切る体力と時間がもったいない!)
エジプト人「コニチワ、ターバンつけて写真とりなよ!」
俺「タダか?」
エジプト人「タダだ」
俺「ホントだな?」
エジプト人「ホントだ!ジャパニは友達だ!」
「カシャリ」
こうやってシャッターを切った瞬間
「ゼニ、ゼニ、ゼニ、ゼニよこさんかいーーー!」となるのだ(笑)
恐ろしいほどシツコイがここは観光地、
一応本物のライフル装備の警官もいるし、
なにより観光立国エジプト、ここで暴力事件なんて起これば経済効果がマイナスになることを連中も良く心得てる。
「絶対手を出してくることはない!」
そう思った俺は憎まれ口を叩き、なおせびってくる連中をシカトしてさっさと歩き出した。
「タダだって言ってたやろが、ウソツキがっ!」
ちなみにエジプトはアラビア数字、
店の値札は読めない。
当然ぼったくられまくるのだ。
これぐらいのささやかな抵抗はアリってもんである。
そこらへんでふらついてる明らかに怪しい風貌の男が声をかけてくる。
「ユネスコ関係者だ。お前、ピラミッドに触れただろ?
わずかに崩れた。罰金払え!!」
こいつがユネスコ関係者である可能性は限りなく低いものの、
触れるどころか、登っちまった俺は返す言葉がない(笑)
それにしてもなんともセコいせびり方である。
こういうときは頭の弱い人になるに限るのだ!
・
・
・
「シュクラーン、シュクラーン!!」
(シュクラン:エジプト語で”ありがとう”)
いきなりありがとうと絶叫し始めた黄色いサルに奴は驚いたようだ。
「・・・・!?!英語わかるのか?」
立て続けに何の脈絡もなく「Yes,No、Yes ,No・・・・」と叫びながらヒゲダンスを踊る俺
「・・・・?!。英語わかるかって聞いてんだよ!」
当惑し、軽くイラついてる客引き。
「友よ、ありがとう、ありがとう」
ダメ押しに俺は唐突にそういって握手をもとめた。
「・・・。」
「だめだ、こいつは頭がイカれてる・・・」
そう判断したらしく、奴は苦笑いだ。
それ以上しつこく言い寄ってくることもなくなった。
「チ○コ、○ンコ、ボンバーイェー!!アディオス!」
俺は満面の笑顔でそういい残し、その場を離れたのだった・・・笑。
奴もあきれ顔で笑って手を振っていた(笑)
(周りに日本人観光客はいっぱいいるので、その人たちに聞こえないようには気をつけましょう 笑)
スフィンクスのまねをしたらただのキョンシーになってしまった・・・
人、人、人・・・ですね(汗)
夜は安宿で知り合った日本人と、作家:開高健も絶賛したハトを食いにレストラン行く。
歳は俺より1つだけ上のミヤザキさん、
夏休みの間、アラビア語を学びにエジプトの学校に短期で通ってるのだとか。
海外だとこういう骨太の日本人と一期一会で合えるってのも楽しみの一つだ。
いろいろエジプトの裏話を教えてもらったりした。
ミヤザキの兄貴と俺。安宿にて。
さてさて、軌道修正。はなしをレストランとハトに戻そう。
イスラム圏、飲酒ご法度の国のため自国生産ビールはあまり期待してなかったが、まずくはない。
(公衆の面前ではだめだけど、レストランでは酒は置いてます)
左手前がハト
手前に見えるのがステラ、というビール。
みうづらいがその奥にあるのがサッカーラという古代の王の名を冠したビール。なんともさっぱりしてて、俺には物足りないけど、
ビール嫌いの女の子とかにぜひ知ったかぶりして飲ませたい(笑)シャンディガフなんかにしてもイケる思うよ。
さてさて、ハトぽっぽのお味はというと・・・
う〜ん、鶏肉でいうところのせせりのような決めの細かい、それでいて油が少なく旨みが濃く滋味あふれる味である!
まいう〜!!
食後はアラビア特有の水ギセルで一服!
ちなみに、エジプト料理、
トルコの影響をうけた肉料理がうまい!
アラビアらしくスパイシーだ!
牛肉を鉄芯に刺しあぶり焼きにして、焼けたところからこそぎ落とした”カバブ”というトルコ原産の料理を食う。
ターメイヤというソラマメのコロッケを食う!
脂っこい料理についてくる、小さなミカンの塩漬けがなんともさわやかで旨い!
(日本でもキンカンかなんかで作ってみようかしら?)
そして何より、コシャリである!
米、小豆、トウモロコシ、マカロニ、短く刻んだスパゲッティ・・・と
ありとあらゆる炭水化物を寄せ集め、トマトソースをかけただけ
なのだが、びっくりするほど旨い!そして安い!
これだけで50円もしない。
元はおそらくパスタ工場なんかの残りクズなんかの寄せ集め、間に合わせ料理なのだと思うけど
安く、旨く、「これを食わなきゃはじまらないぜ」のエジプトの庶民の味である。
行く機会があったらぜひお試しあれ!
そんなこんなで考古学博物館で何千年も前のミイラの王を見たり、
ツタンカーメンのマスクを見たりしながらも、俺は本来の目的を忘れてはいなかった!
日が沈み、涼しくなったころ世界最長の大河、ナイル川本流へ釣竿かついで向かったのだった。
色々やってみたんですが、魚信一つありませんでしたネ。
夜のナイル川
今から7000年以上も前に農耕が始まり、
5000年前は王朝が築かれた。
「エジプトはナイルの賜物」
与えては奪い、
そして今なお、水と歴史は流れ続ける。
現代のソレは夜もネオンを写し、
岸辺に人々のため息を抱く。
橋の上を”文明”が排ガスを撒き散らし走り抜けていった。
ネオンのナイルと、橋の上からミミズで釣れていたエレファント・ノーズ
翌日、俺はオアシスに出かけた。
サハラの端、そこにはどこまでも続く一本道。
青と金
空と砂
そんなツタンカーメンの色彩感覚を、どこか
このどこまでも続く景色に見た気がして。
見えた。
オアシスだ。
イメージの中の、ナツメ椰子が数本生える”泉”ではなく、
それは一面の砂の世界に取り残された”緑の島”であった。
黄色い綿花が揺れ、
ナツメ椰子が風を伝えてきた。
オアシスの中心の湖で少しだけ糸をたれてみた。
モエビに小さなティラピアが食いついた。
表、アフリカ初魚のナイルティラピア。きれいやなぁ〜。
裏、こいつはワーム(ネジ)で仕留めたもの。別種か亜種か、それともメスか?
「今回も旅が始まるのだな」
ティラピア大漁。
船を借りたアラブの拝金主義者達。
イケメンなのが更にムカつく。
夕暮れ時
赤に浮かぶナツメ椰子のシルエット
船を借りたエジプト人は、「もっとよこせ」とゼニの話ばかり。
・・・・ったく、どこへ行っても「ゼニ・ゼニ・ゼニ」である。
「もっちょい浪漫にひたらせんかい!!」
ため息は湖からの風にかき消され、
僕の憂鬱は 夕日と共に砂の海へと沈んでいった。
・・・Fish on in EGYPT
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