第2章 砂漠の湖に梨のつぶてを投げること
僕らの道は遥か遠く 果てしなく遠い。されど心は熱く。
♪STANCE PUNKS「青道」
「寒い。」
8月中旬、冬のケニア首都:ナイロビは予想よりかなり上回る寒さだった。
「さてこれからどうしようか?」
この時点でアフリカ大地溝北部のケニア・ツルナカ湖を手始めに、南下しながら開拓する北回りルートか、
それとも一旦、一番南にあるマラウイ湖まで南下し北上しながら旅を進める南回りルートか、どっちにすべきか決めかねていた。
今回の旅の予定は約50日。過去最長だ。
過去の旅の経験で、はしゃぎすぎにより後半は息切れし、体調を崩すのは予想できた。
ならば体力のあるうちに、金にゆとりのあるうちに、アコガレの“龍”を・・・。
事前情報では“龍”の候補地は「半砂漠」「治安的にも強盗多発」と今回の最難関地帯。
だがしかし「行ってみないとわかんねぇ!」のである。
(パプアじゃ外務省基準では危険度2地帯と大したことないのに散々な目にあったしね・・・)
自分の目で見たもの、聞いたこと、それが全てだ。
俺は北回りルートを選んだ。
そうと決まれば行動するのみである。
東アフリカの地図を購入、
釣具を売っている店を数件回り(専門店は見つけらんなかった)情報収集を試みるも収穫なし。
到着の翌日朝にはもう北上するバスの中にいた。
目的地はケニア北部、エチオピアにまたがるツルカナ湖。
周辺にはあの有名なマサイ族に近いツルカナ族の人々が暮らしている。
湖畔まで「道」が通っている村は1つ。
選択の余地なく、
そこを目指さざるをえなかった。
ヒッチハイク、トラックの荷台、スシ詰めミニバス、ありとあらゆる手段で移動&移動・・・
高原地帯ナイロビ、
険しい山脈をこえ、
サバナ帯を抜け、
進む、進む。
景色は砂漠へと変わった。
道中、ルアーを見せれば人だかり。
向こうの人々はオシャレ、キラキラ光るルアーに興味津々。
左のおばちゃんが、典型的ツルカナ族ファッション
後ろの壁は家畜のウンコでできている。
進め、進め
ツルカナ族の伝統宗教の聖地(?)
チンケな墓石のような遺跡。
人々はここからツルカナ族が生まれたと信じている。
進む、進む、進まない・・・。
なんだかんだで到着まで丸3日もかかってしまった(汗)
「つ、着いた・・・汗」
これがツルカナ族の村。かまくらの様な、バフンウニのような、カヤでできた家が点在しとります。
平和な村だ。
子供達は半裸で走り回り、
夕暮れになれば、
子供達がその辺の砂に転がって、すやすや夢の世界へ。
わが子でなくても、
家の前で眠ってしまった子を見れば
女性達が毛布を掛けて回る。
プライバシーやら、堅苦しいことは何にもない。
みんなで助け合い、暮らす
アフリカらしい時間がそこにはあった。
俺は翌日からの釣りの為、ボートを所有している人をさがし、交渉。
明日からの予定を立てた。
(この時重大な勘違いをしていたことに俺は後で気づく)
その日はその人の家のとなりで野宿させてもらうことにした。
夜、砂の上に転がった。
湖に近いこともあり、砂漠でありながら気温の低下はそれほどでもない。
マットを一枚、大の字に寝転べば、そこは満天のプラネタリウム。
「星座」、そんなコトバが消えうせるほどの、無数の星。
背中しみわたる、暖かな砂、昼の残り香、太陽の面影。
いい気分だ。実にいい気分だ。
そんな時だ。
「ワニに食われた・・・」
外国人が来たといううわさを聞きつけて、片手片足の老人が杖にしがみつくように俺の寝床へやってきた。
「金を恵んでくれ・・・」
ふとタイの市場で見た乞食が頭をよぎる。
たかりに金を出さないこと、それが鉄則のようになっているバックパッキングという貧乏旅行にあって、
何が“真”なのか・・・わかんなくなるよ・・・。
「No」そう言った後で、俺はやり切れぬ気持ちで寝転んだ。
星が一つ流れた。
それは頬をつたう涙のようで、
満天の星の一つひとつが
この地球(ほし)の一人ひとりの憂鬱に思えた。
また星が一つ流れた。
星が一つ、死んだ。
翌朝、快晴ナリ。
昨日、湖沿いまで行ってみて、今のところわかってるのは
この砂漠の湖
遠浅すぎて釣りにならない。
かといって立ち込めば
ワニに食われる恐れあり
ってなわけで沖合いに浮かんでいるという島へ移動を決意。
そこは岸沿いでもある程度の水深がある・・・・そうだ。
不確かな情報ながら、行くしかない。
さてこのケニア:ツルカナ湖
“龍”に挑む前に
まずなんとしても釣っておかねばならない魚がいた
その名は「“暴君”ナイルパーチ」
世界の有鱗淡水魚の王であり、大きなものは200キロを超える大魚である。
アフリカを代表する魚で
世界の釣り師のアコガレでもある。
何千年も前、
エジプト文明の時代は
神の魚
として畏怖を集めた
銀鱗の怪物である
だがしかし
灼熱の砂漠
圧倒的な自然を目の前に
これから王に挑まんとする自分がおかしくなった。
なんとも不思議な気持ちだった。
しかしなんとしても
神の手で作られた怪物を
王を
自らの手で殺さねばならない。
「アフリカくんだりまで来て、ナイルを、王を仕留めずして帰れるか!」
最低限の水、食料を用意し、
いざ行かん!
話は昨日のうちにつけてある。
俺は砂漠を抜け、ボートを目指した。
村から湖までは更にこの砂漠を数キロ歩かねばならないのだ・・・
湖が見えた。
「へ?!」
昨日交渉した親父がニコニコ顔で手招きしている。
そこにあったのは・・・・・・
!?
世界の常識、日本の非常識
昨日、料金交渉やら何やらをした時、
俺は何の確認もしてなかった。
「釣りをするなら岸からじゃ無理だ。
どうしてもというなら
ボートで数キロ先の島へ渡る
しか方法ないよ。その時は俺達が舟を出してやろう」
彼らの言葉に、俺には「モーターボート」以外の発想が浮かばなかったのだ。
しかし、そんなことはどうでもいい!
さぁ出発だ。
出航だ。
ズタ袋を縫い合わせただけの帆は、
それでも砂漠の風を掴み
湖面を勢い良く滑り出した。
風を抱き、ゆけ!
ってのは嘘(汗)
ちっとも進まねーじゃん!!
一向に見えてこない島。
故郷の富山湾よりデカいこのケニア:ツルカナ湖
黄色いサルを乗せた小船は湖面でいいように弄らる。
風任せ、波任せ
優雅なもんだ。
って
「ヴぉえエえぇえ〜〜エ!!」
何が優雅なもんか!
当然船酔い・・・。
ていうかこのボート
浸水してんですけど!!!
というのも、
船底の板の継ぎ目は綿を詰めただけ
「・・・・・・・。」
だが、それが「さも当たり前」というように、連中はあわてはしない。
水を掻き出す役割の船員が乗っている・・・(?)
浸水前提で進んでいるのでございます
水を掻き出しながら
ボートは進んで(?)いく。
気持ち悪すぎで、いつの間にやら眠ってしまった。
数時間もたったろうか?
「見えた!」
「島だ!」
「釣るぞーーー!」
とかそういう意欲的な気持ちは微塵も残ってなかった(汗)
ただ、ただ、
「助かった・・・・・」
それだけである。
・・・・・
そして上陸
今にも口から飛び出しそうな胃袋を飲み込み、
俺は倒れるように横になった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
しかし翌朝
結果はすぐに出た!
・・・Fish on in KENYA
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