第11章 青く燃える湖に未知なる怪魚を求めて
牙をぬいた俺は迷っていた。
更なる大物を追って、ザンペジ川上流のダムへ更なる大物を求めて行くか
それとも更に未知を追い、新たな地に行くか。
決定を下すのに、そう時間はかからなかった。
「未知を追うぜ!アフリカ大地溝帯最後の湖、マラウイ湖へと挑もう!」
大した肉食魚はいない、そんなことをどこかで聞いたことがあった。
そんなことより・・・
「体力的にマジやばい!
正直クタクタ、少しやすませて〜」
マラウイ湖畔には旅人向けの安宿や、リゾートドッジがある場所があるという。
「リゾート地なら借りれるモーターボートもあったりするかも?」そんなことを期待してみたり。
・・・ってなわけで、バックパッキングの正しい楽しみ方(?)、1箇所に留まり、のんびりダラダラやることにしたのだった。
モザンビークから再度マラウイに入国。
マラウイ南部、
どこまでも続く一本道をトラックは行く
両サイドに広がるサトウキビ畑がひろがっている。
ふと旅先での出会いが頭をよぎった。
「JICA」とよばれる途上国支援機構(?)のような日本の組織から農業技術者として派遣されている方や、
おなじくJICAの看板事業とも言える青年海外協力隊員の方(農業分野)との出会いのことだ。
この広い土地をどのように使っていくか。
人口爆発はここアフリカでも深刻で、食糧問題と農業は切り離せない。
荒野に作り上げた畑、くみ上げた地下水は地表に塩を蓄積し・・・
一筋縄ではいかないのだ。
揺れるトラックの荷台
乾燥帯にぽっかり浮かんだ巨大農場
サトウキビ畑ではスプリンクラー(水撒き機)が回っている
ここにもが現在進行形のアフリカがあった。
マラウイ湖までの道中
ブランタイヤにたち寄った俺は、前述のNさんと祝杯を挙げた。
サトウキビの糖分を利用した(?)現地ビール
その喉越しにほのかに残る甘さが心地よくって。
Nさんも最高に喜んでくれた。
一人旅はそれはそれで最高に楽しいけど、
喜びを、日本語で共有できる幸せ。
「いつか、きっと英語でも・・・」
手元の“牙”の頭の剥製を眺めながら、
今夜だけは少しだけ自慢しながら。
・・・・この夜のこの酒の味を、俺は一生涯忘れない。
翌朝、ブランタイヤを後にした。
永遠にこんな景色です
湖畔の目的の村に着いた。
観光地として整備されたその村、
外国資本で立ち並ぶそのリゾート街
中には白人達がいっぱいいた。
ここマラウイ湖は世界で一番安くダイビングライセンスを取れることでちょっと有名。
日本の5分の1程度の値段で取得できるのだ。
アフリカに来る前、大学の臨海実習の夜、
教授から偶然にもダイビングライセンスの話題になった。
その教授は
チョウチョウオやクマノミのいる海でライセンスを取得
現在
その免許はサンプルのイソメ獲りに使われているそうだ。
(正確に言うとイソメとは違うんだけど・・・)
海底でのイソメ掘りのためにダイビングライセンス取得・・・教授、渋すぎますよ!(笑)
まぁ、そんなこんなで、
どんな形で役に立つかはわからないが、今後の進路を思えば、
機会があればライセンスを取れたらいいなと思っていた。
そもそもアフリカにおいて
真昼間に太陽の下にいると倒れる
朝まずめ、夕まずめに釣りをし、
日中は水中でレッスンを受けながら、怪魚を探し、
またそのつき場を調査しよう
・・・という奇策を思いついたのだった・・・。
朝 釣り
昼 ダイビング
夜 釣り
1泊500円ほどの宿に長居を決め込むと、
ダイビングで得る大して役に立たない情報をもとに(笑)
俺は来る日も来る日も朝夕は湖に出撃したのだった。
1週間ほどの滞在中
俺は一人の男と仲良くなった。
現地でビーチボーイズ(笑)
と呼ばれる男たちのうちの一人、
名前は源氏名:ジロー (本名:フォネックス)。
まぁ簡単に言えば何でも屋のタカリなんだけど・・・
はじめはウザったい限りだったが、
しばらく付き合ってみるとそんなに嫌な奴でもない。
ことあるごとにせびってくる、ちゃっかりしてる奴だが、
市場や、うまいポテト屋、そして船を使って魚のたくさんいるところへ案内してくれた。
釣りをするならこっちだ!
と案内してくれたビーチボーイ(冗談でなく、そういう言い方をします 笑)のジロー。
以後1週間、日中のダイビングレッスンの時間以外は
真っ黒に日焼けした(!?笑)ビーチボーイの彼と行動を共にすることになる・・・。
さてさて、初めてのダイビング。
インストラクターはもちろん英語。
でもね
言葉の問題なんて、どっちみち水中では聞こえないの!!
水中で息ができるという衝撃。
今までの素潜りでは楽しむゆとりのなかった、水中から見る水面(みなも)の輝き。
周囲には宝石たちが散らばって・・・
ダイビングの基本は
「水中生物との共存」
脅かしたり、むやみに触れてはならない。
しかし自称“枕美漁師”(笑)の俺は
湖底でステイしていたカンパンゴ(魚。後述)に
手づかみ捕獲を試みて厳重注意を受ける
その後、微弱電流を出すという目が見えない珍魚も発見!
当然感電を体験してみようと手を伸ばすも、
インストラクターの厳しい目線に気付く・・・
ごめんね、悪気はないのよ。
体が勝手に反応するの。
ダイビング風景。なんだこの顔は・・・。
さて、ダイブしてわかったこと!
カンパンゴは砂地に浮かぶ離れ岩にステイしてることが多い。
→昼間のピンスポ打ちは分がわるい。なんとなく夜行性のような気がするので、泳ぎ回るであろう夜が狙い目か?
大型シクリッドはネスト(産卵床?)をつくり、強い縄張り意識を持っている。
→8メートルライン・・・2メートルラインならロングビルビルミノーのステイを試したいが・・・
小型シクリッドは岩をついばんでおり、水深12mラインを超えてくるとめっきり数が減る。
→とりあえず浅場スピナーでしょ?
放電メクラウオ(仮称)は岩穴の中にステイして泳ぎ回らない。
→やはり夜か?しびれてみたい・・・
マウスブリーディングを行うシクリッドを発見!
→超小型ルアーでまとめて口の中に吸い込ませようかしら!?笑
トゲウナギ、クラリアスなどの珍魚や真っ白なカニも発見
→狙ってつれるほどの数ではない様な気が・・・とりあえずやっぱ夜かしら?
その後、紆余曲折を経て1週間後、
無事30メートルまで潜れるアドバンスド段階の免許まで取得!
これで日本でも圧縮空気タンクが買える!!
愛するお魚との距離がちじまった気がしてうっとりする俺だった・・・。
この旅始まって以来、初めてのんびりと1箇所に滞在した。
そんなこんなでこの村のフォトギャラリー。
クラリアス系のナマズを自慢げにみせてくれた子供達。
比較的に日本のナマズに似た愛嬌のある顔。
今晩のおかずかしら?
鉄板をヘコませてそこに油を入れて揚げるアフリカスタイルのフライドポテト屋台。
揚がった芋は隅に寄せておけば冷めにくく、実に合理的。
手前のトマトやキャベツやオニオンスライスと熱いうちに混ぜ合わせ、
塩&ピリピリ(唐辛子)でいただく。
この“アフリカンHotサラダ”、実に美味!
両手いっぱいほどのボリュームで30円ほど。
金のない俺は3食中2食はこれでした。
シマ(ウガリ)を作るジロー。
こいつの家でメシを食うことも多かった。
おかずはやっぱりカーペンターのトマト煮込み。
多分いったんもめん入り・・・汗
まだ青いマンゴーも塩とトウガラシをつけて付け合せにいただく。
日本で言う、スイカに塩の原理か?
パプアでも食った未完熟の青マンゴー。
りんごとマンゴーを足して2で割ったみたいですがすがしい。
熟したものみたいに筋張ってないのもいいね!
早朝には情報収集に魚市場(船着場?)に出かけてみると・・・
これが現地名カンパンゴ
おそらくマラウイ湖NO.1の怪魚、といっても愛くるしいナマズ君。
ダイビング中手づかみを試みて厳重注意を食らった
う〜ん、かなり狙ったんだけどねぇ・・・ダメでした。
朝の魚市場にて撮影。
この魚はほとんど料理屋が買い占めちゃう高級魚。
実際めっちゃくちゃうまいよ!!フィッシュカレーで食いました。
「カーペンター」と現地で呼ばれる「チカ」のような魚とPボーイ。
マッチザベイトも・・・・実らず!無念!!
カンパンゴをこいつの餌釣りで狙ってみるも・・・玉砕
さてさて現地での庶民の味となってるこの魚。
お腹パンパンで「シシャモのように卵でも!?」
とウキウキ腹を捌いてみたら・・・
いったんもめんのような寄生虫がでてきた!
・・・合掌。
うっひょぉおおお!!
潜ると、無数のシクリッド属に混じって岩を食んでいる。
その中で俺が目視した唯一にちかいシクリッド以外の魚。
魚市場で撮影。魚を持っているのがジロー(ガンジャ狂)
さてさてj肝心の釣りはといえば
ジローが連れて行ってくれたところは正にパラダイス。
いくらでも魚が釣れてくる。
それは食いついてくるというより、じゃれついてくるようで・・・。
宝石箱。
撮影のためタッパーに水を入れ、しばらくキープ。
これくらいはすぐ釣れる。
「こいつらはさすがに綺麗すぎて食えねぇよ」
と元気に水に戻しても・・・・
またすぐにいっぱいになる宝石箱
少し大きめの魚も釣れたぞ〜
結果・・・・
全部疑似餌でGET!!
そ、し、て・・・・
スピナーにて、終に釣ったり!
Fire-Birdシクリッド。
青き湖の青き炎、幸せの青い“魚”
潜ってても見かけなかったのに・・・僥倖!!
ブリードものとは発色が違うゼ!!
世界一綺麗な魚を世界一汚い背景にて(笑)
大物釣りだけが釣りではない
全ては愛おしいのだ。
人は湖と共に生きている
夜、カーペンターを買い込み真っ暗闇の湖にカヌーで出撃した。
狙いはカンパンゴとデンキメクラウオ。
置き竿をセット、
メタルジグを沈めた。
(メタルジグ:金属でできたルアーの名前。)
この広大な湖で、魚に気付いてもらうにはどうするか?
タンガニーカ湖の応用、光による集魚効果に賭けた。
俺はルアーの直前にケミホタルをセット。
(ケミホタル:祭りの縁日なんかの一晩だけ発光する玩具の小型版。釣りでは夜釣りの竿先なんかにつけて目印に使う)
ふるさと富山のルアーチヌ釣法の応用だ。
沈んでいくケミホタルの光がいつまでも見える。
驚くべき透明度だ。
新月の夜
魚からの反応は何もない。
俺たちは岸辺の焚き火を目印にオールを握った。
起床
ジローの家に行くと朝っぱらから酔っ払いたちがたむろっていた。
今日はダイビングのレッスンはない。
「ビールなんぞ水だ、ディーゼルだ!」
「これこそが真のペトロール、ガソリンだ!!」
酔っ払い達がわけわからんことをいいながら酒を勧めてくる。
ウイスキーともジンともつかぬ・・・
それは「C2H5OH」、
単なるエタノールのようだ。
火がつくこの酒をぐびりとあおれば、俺もだんだん気持ちよくなってきた。
朝一、寝起きの1杯はやっぱ最高やね!
洗濯、掃除とてきぱき働いている女性陣。
一方男衆といえば・・・
「ホントに“存在してるだけ”やな。笑」
なんとなく、チョウチンアンコウの雄が頭をよぎる。
絶対、「キ○タマで物事を考える」タイプの、本能にとても素直な方々と見て取れた(笑)
ジローがフシギナハッパを勧めてくる。
「・・・・・・。まぁとりあえず湖に出よや!!」
マラウイ式くりぬきボート。バオバブの木かしら?
ケツがはまらない形状、
足だけ突っ込みその上に便座のように乗るのがマラウイ式。
長時間の移動の連続でイボ○に苦しんでいた俺には正直キツイ(笑)
今日は少し遠出。
俺が前、ジローが後。
転覆しないようバランスをとりながら、2人でオールを操る。
リアルにケツが痛いが、ここは我慢。
すぐ疲れる俺に
「タクは水みたいなディーゼルばかり飲んでるからだぁ〜。ペトロ〜ル満タンの俺をみならえ〜」
ハッパとペトロールで既に真っ赤に充血した目で、このアホタレは叫んだ。
ガンジャ狂がなにやら歌いだした。
「モヒモヒカメYO〜、カメナンYO〜♪」
「・・・フフフッ、前に来た日本人に教わったのさっ!」
おれは思わず笑ってしまい、そしてなんだか楽しくなった。
湖に糸をたらす。
カヌー上での会話
「タクはいつも“ really, really ”言ってるなぁ」
不意に言われたこの言葉。それはどこか人間不信をみすかされたようで・・・。
とりあえずこうきり返した。
「・・・・・”really” は日本語で“本当”って言うんだぜ!」
ジロー 「oh wow !・・・ってホント?」
(「oh wow」hはこいつの口癖)
俺 「ハハハ、座布団一枚!(笑)」
俺 「ジローはいつも“Oh Wow!!”と驚いてばかりだな!」
ジロー 「ホント?」
俺 「笑」
俺 「オー、ワァオ!」
ジロー 「ホント?」
俺 「オー、ワァオ!!笑」
ジロー「ホント?笑」
俺 「オー、ワァオ!!笑」
ジロー「ホント?笑」
俺 「オー、ワァオ!!笑」
ジロー「セクシング!」
俺 「・・・what!?」
ジロー「Sex+ing でセクシング。ケケケ(笑)」
俺 「オー、ワァオ・・・ってReally?!笑」
ジロー「Oh Wow!!」
・・・既に意味がわからない(笑)
ジローは続けた。
「前に来た日本の女はよかったぜ〜。
かわいくて、はぶりが良くて、帰りに金も1000Mkwくれた。」
(Mkw:マラウイクワチャ。マラウイの現地通貨。1円=約1Mkw)
「・・・そしてアッチも良かったゼ。ヒヒヒ。
日本女はいいね。アフリカ女は腰が砕ける(笑)俺は彼女を愛してる〜」
こいつを湖のストラクチャーにしてやろうかと本気で思った(笑)
お国柄か?それとも単にアホなのか?
こいつには金と愛の境界線がないのだった。
「金」というものに過敏になってるのは、むしろ俺達日本人なのかもしれない。
“ぺトロール”を補充するジロー
グイと男前に飲み干してこう言った
「ヤりまくってエイズになるくらいなら飲みまくってたほうがイイぜ!」
「チ○コ狂いは早死にする!俺のバカ兄貴のようにね。ハッハッハ!」
・・・先ほどの言動と一貫性が全くないような気がするのは俺だけですか?!笑
更に奴は続けた
「結婚すれば嫁に財布もチ○コも握られる。俺はゴメンだね 笑」
馬鹿馬鹿しくて、そして滅茶苦茶楽しくて、俺も“ペトロール”をあおった。
ジローはゴキゲンなハッパに火をつける。
甘い香りが漂う。
来た
これがマラウイタイガー。
殺気を消す秘技酔拳釣法
酔えば酔うほど釣れる(笑)
「落水したらどうすんの?」というマジメな突っ込みはいりません(笑)
・・・とりあえず歯が鋭ければ何でもタイガーなのかしら!?
ダイブ中は見なかったけど、市場で50センチくらいまでのこの魚が並んでた。
一瞬でわかる肉食魚の悪人顔。「つ、釣りたい・・・」
・・・サイズ小さいけど、狙っていた魚が釣れて満足です。
バカ話は続いた。
男どうし、
国も、肌の色も関係ない。どこでも一緒だ。
とりあえず下ネタさえあれば分かり合えるのだった(笑)
(※変な風に分かり合ったわけではありません)
波にゆられながら、おれはまたこんなことも思った。
今回お世話になったダイビングショップの白人一同は、お隣ジンバブエから移動してきたとのこと。
黒人大統領の白人追い出し政策をうけて、逃げてきたのだそうだ。
「肌の色が違うだけで・・・」
彼女たちもまたそんなことを言った
むずかしいのぅ
とりあえず俺は酒と下ネタがあれば充分です!
帰り道(?)
キマってしまったガンジャ狂、トランスしてるアル中。
・・・当然ボートは一向に進まない。
波にキリキリ舞いするカヌーの上で、
アル中とガンジャ狂は愉快に歌いだした。
アル中 「ある〜日♪」
ガンジャ狂 「アヌーヒ♪」
アル中 「・・・。」
アル中「森の中〜♪」
ガンジャ狂「モミノカナ♪」
アル中 「・・・。」
アル中 「熊さんに♪」
ガンジャ狂 「クンニサンニ〜♪」
アル中 「・・・(汗」
アル中 「出会った〜♪」
ガンジャ狂 「デラッタ〜♪」
アル中 「・・・・。」
ガンジャ狂 「・・・・。」
「・・・・・。」
アホ二人「・・・、ラララ ら Ra ラ ら Ra〜〜〜♪」
何とか岸にたどり着いた俺達は手をつないで帰った
それはザンビアのカマリ兄貴とその友人でも見た光景。
「Hey friend」と友人に会うたびに握手する、そんなこの大陸らしい。
人と人との距離が凄く近い。
きっと、ヒッキーもニートも、イジメも、そんなめんどくさいものないんだろうな。
アホに、馬鹿馬鹿しく、テキトーに、それでも毎日なんとかやっている。
ぶっちゃけ少々キショかったが、お手々つないで俺たちはスキップしながら帰った。
いつもの方へ、いつもの太陽が沈んでいく。
波にジャンベの音が重なり、消える。
フシギなケムリ漂うハンモックの上、
なんだか空に浮かんでいるような、そんな夜だった。
Fish on in MALAWI
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