第8章 運命の1冊、故・上温湯隆氏に捧ぐ




地図1
今まで陸路旅した道のり
日本の大体の大きさ

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地名がごちゃごちゃしてきたので、ここらで整理してみよう。



地図2
陸路移動してきた道のり
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エジプトはカイロから空路ナイロビへ。

ケニアのナイロビ(地図右上)に降り立ち、
ツルカナ湖に北上&暴君との出会い、、
引き返しタンザニアに陸路入国、ビクトリア湖畔で釣りしつつ、
電車でTabora駅乗換えでタンガニーカ湖畔のキゴマへ。
少し北上してゴンベナショナルパークをたずね、
航路タンガニーカ湖を南下し、ザンビア入国
首都ルサカを経由しマラウイ国境付近で“牙”(干物)確認・・・















そして5か国目、マラウイに入国


マラウイの第2都市、南部の
ブランタイヤを目指す!























上記はマラウイ国内で買った地図だ。

真の“旅的”釣行は地図の購入からスタートする。

事前に知っていたのは

ザンペジ川に牙は住む

ということ。

このザンペジ川、ザンビア・ジンバブエ国境を流れ、

モザンビークを抜けてインド洋へと注ぎ込むアフリカ第4の大河

事実ザンビア辺りには日本人釣師もちらほら来ているらしい。


だからこそザンビアは外した。















未知なる国の、未知なる川で、

“オレノサカナ”を狩る


退屈な授業中、

地図を眺めていた時のあのワクワク感。

高揚感。





「どんなところだろう?」「何があるんだろう?」


「どんな魚がいるんだろう?」







幼き日に憧れた“怪獣狩り”

今も鳴り止むことのない“冒険”という響き


装備も同行者もないけれど、

俺一人、体一つで飛び込めめる位のゼニは稼ぎ出せる歳になった。







天上天下唯我独尊、

ワガママに、我がままに、

一人、行こう。




誰も知らない、誰にも聞けない

“先行者”なんて皆無の次元へ・・・






























































これまでの放浪で、この時期(9月)、

乾季の支流は水がない危険性が大
ということがわかっている。



しかしながら、




馬鹿でかい本流域を開拓するのは果てしなく難しい
ということはパプアの大河で身に染みている。


答えは一つ

水のある適度に大きな支流

俺はザンペジ川に流れ込む支流で大きめの支流をピックアップ。



それがマラウイ南部を流れ、ザンペジ川本流へと注ぐシレ川だった。

広大なフィールド。

川辺に着くことすら困難な状況。

戦略は必然にシンプル極まりないものとなる。

時間帯と流れ込み

それだけだ。










更にもう1つ。

今回の旅、キャンプ装備などはない。

買う金などなかったし、第一荷物を減らしたかった。

ポイントなど世界地図の単位で考えている段階だ。

そんな中、最重要項目は機動力だった。

荷物の7割は釣具。

着替えは身にまとっているだけ。

いざとなればゴミ袋に包まって寝るつもりでいた。

・・・しかし、これはあくまで最終手段。

水の確保、治安・・・その他もろもろを考えれば、

近くに町(村)があること。

これもポイント選択に加えねばならなかった。











そして・・・

まるで俺に選ばれるためにあるかのように

その場所はあった


   
地図3
マラウイ南部。ブランタイヤ、チロモはピンク囲み
左上から中央下へ向けて流れる支流がシレ川。
右上からシレ川に合流する支々流れがルオ川。



Chiromo

近くにバングラ、チロモという町を有し、

シレ川とルオ川がぶつかる

この合流地点こそが

旅的に“牙”を抜く

今回の挑戦の鍵となる地に思われた。































ブランタイヤの夜。


この街はまだ“街”である。


明日からが本当の挑戦だ。


安宿で知り合った日本人旅人Nさん。

バイクで世界一周中の氏も釣り好きで、

俺の挑戦を応援してくれた。

久々に話した日本語、ホッとしたのと同時に

なんだか不屈の大和魂を込められた気がして。

ほんのり甘いサトウキビビールの栓が次々開いた。



























翌朝、

Bangula方面へのミニバスは予定時刻が数時間過ぎても来る気配がない。

まだ目的地までは100キロ以上の距離がある。

もはや心は「ポレポレ」ではない。

荒涼とした高原を突っ走りながら、

まだ見ぬこの合流点を思うと頭がいっぱいになった。



「水辺まで近づけるのか?」

「ワニは?」

「“牙”は?」































































丘の上に来た。

見えた。

「これがシレ川・・・・」

乾季とはいえ、充分な水量を湛え、

川岸は葦(?)で覆われるように見て取れた。

そこには確かな生命感。








Bangulaに着いたのは夜だった。

一泊円二百円の宿をとる。

スプリングの抜けたベッドのうえで思う。

「いよいよだ」





































朝一、俺は自転車タクシーを捕まえ、いよいよChiromoへ。

程なくしてシレ川に架かる橋を渡る。

合流地点、しめた!!うまい具合に畑があって、水辺に近づけそうだ!

野良犬に襲われ、間一髪現地人のおばちゃんの投げた石が犬のどてっぱらに当たって難を逃れるというアクシデントがあったが、

そんなこと気にならなかった。

終に着いた。

地図で夢見た勝負の地

正にTheベストのポイント。

俺はオリノコを結び、思い切り投げた!





左からルオ川が流れ込んでいる。
右脇の下はモザンビーク。
ルオ川は幅20メートルほどなので、
密入国も多分余裕(笑)

































・・・・しかしながら川は黙殺した。

オリノコ、ミノー、ジグスピナー、何をやってもダメだった。

水辺に近づけそうなポイントはワニに注意しながら藪コギしてみるも・・・沈黙。

朝イチから夕まずめまでの時間の中で、

「ここぞ」という場所は時間差攻撃で狙ったけど、まるで反応はない。



 
シレ川の魚たち。
左:気分転換に投げサビキでヒットしたティラピア。20代初魚・・・(汗)
右:漁師の手釣りにヒットのナマズ。食われないよう胸鰭にカエシ付きのトゲタイプのナマズが多い。


よく見ると・・・

ルオ川には川幅いっぱいに刺し網がしてある始末・・・。

周囲にポツポツ見える投網漁師

「ここでもネコソギなのか?!このアフリカという地でさえも・・・」




投網漁師に声をかけてみた。

返ってきた言葉は

「乾季のこの時期はタイガーフィッシュはいないよ。」

俺は頼み込み、周囲の投げ網漁師にも協力を依頼した。

「もし小さなタイガーでも網に入れば教えてほしい」






いるのか、いないのか・・・









数時間後・・・

「これだけだ」

「・・・。」



そこには30センチほどの2匹のタイガーが。

5,6人で網を打ち続け、数時間かけてこれだけなのか・・・。



「そういや先週は大きなタイガーが網に入って一喜一憂したもんだ」


とうれしそうに手を広げ、自慢した。

しかしその手の幅はせいぜい50センチ強・・・。










投網にかかったタイガー。確かにいた。しかしこれはせいぜい“トゲ”、“牙”ではない。

「乾季の今はタイガーはいない」

漁師達はこう繰り返した。




「乾季の今は大きなタイガーはいない。

大物は本流に下ってしまった・・・」








そしてもう一つのアフリカ新常識

「モーターボートを所有する一般人はいない」

岸釣りで打てるところは打ちつくした。









疲れがどっと出た。





日が完全に暮れる前に宿のあるBangulaまでヒッチハイク。
一台目でトラックが停まってくれた。
シレ川にかかる橋。今日も終わり。



















































安宿の部屋で一人酒





期待してた分、失望は大きかった。


このワンスポットに賭けていた







意気消沈、






アフリカに入って1ヶ月、既に疲労は限界に近づいている。







旅先、安宿の夜は恐ろしく暇である。







テレビもケータイも何もない。







「もう無理か?」


「帰りたい」


「帰国までは何して過ごそうか?」








ありすぎる時間の中、


それは白一色の世界にふと取り残されたようで・・・








「旅してなかったら?」

そんなことをふと考える。

車買って、オシャレして、休日はカノジョと・・・

そんなナイモノネダリがよぎったり。




やりきれぬ思いで掻きむしる。

全然気持ちよくなくて・・・

投げ捨てたティッシュが部屋の隅に転がった。






「疲れた、疲れた、疲れた・・・」





























ふと先日、ブランタイヤの宿でであったNさんから勧められた本を手に取った。










「サハラに死す」 上温湯隆











眠気を誘うべく手に取った単行本は、

いつしか眠気を吹き飛ばした。










その本は単身、ラクダでサハラ砂漠7000キロを横断しようとした若者の手記。

正確には彼の“遺稿”をまとめたものだ。

志半ばに、彼は22歳という若さで渇死した。

彼が愛し、青春の全てを賭したサハラ砂漠に抱かれて・・・。





そこにはサハラ砂漠への愛と執着、そして恐怖と葛藤が綴られていた。


全行程の約半分、当時としては大記録の3000キロの踏破も、盟友のラクダ:サーハビーの衰弱死という結果で1回目は挫折。
(サーハビーとはアラブ語で“友よ”の意味だそうだ)


・・・全てを失い、自問自答


そして奮起、再起。


ナイジェリアの首都:ラゴスで在留日本人の助けを得て、


「フェニックス作戦」と称し、万全の再スタートのはずだった。





・・・・しかしそこに待っていたのは“死”という結末だった。
















だが“死”という衝撃の結末より俺の心を打ったのは




彼にとって冒険がすべてではなかったということだ。




彼は砂漠の中で踏破後の人生を思う。


当時まだ1975年にして


彼は先見、環境問題に目を向けた大きな仕事を夢見た。


世界を旅して、故郷日本の未来を想った。


自分の人生を見つめ、未来を模索し


そのなかで今このサハラを越えることが、


無謀とも思えるその挑戦が、


“次”に進むためにやり遂げねばならない、悶々とした青年期に“何かの答え”を見出したい


それは彼にとっての、彼だけの儚くも気高い“青春のケジメ”だったのだろう。








俺だってわかっている。


こうやって釣りをしながら世界を飛び回り続ける日々にもいつか線を引かねばならぬことを。


そして、旅のなかでおぼろげながらみえてきた“俺しかできないこと”






バカみたいにバイトした。成績は地に落ちた。


かつての“天才児”拓矢はもういない。

(こう言っても当時を知るものは否定しないだろうし、自分でもそれだけの努力はしたつもりだ)






“マトモ”な就職、

キャリア設計





周りはそろそろマジに考え出してるようだ。





はやくも研究室に通いだす者

ダブルスクール、

トイックテスト、

留学・・・













ただ、俺はまだ決められない。















ラーメン屋で誰かがつぶやいた。

「夢と理想でメシは食えない」

・・・うっせぇよハゲ。わかってっから黙ってろ。

















氏のような、大それたことなんかできなくていい。

ただ

「5時まで男、息子とキャッチボール、日が暮れれば娘とお風呂」

そんな小さな夢を実現させるため。









そのために、今、刻まねばならない。

“線”を引く、その時をもう自身に決めているからこそ





“旅的”に牙を抜いておかねばならない。


「お前がやるな、俺がやる」


































俺は彼の作戦名にあやかり、

この挑戦を氏と同じく同じく「フェニックス作戦」と名づけた。




「俺は命までは賭けはしない。それが俺のスタイルだ。

しかしもてる気力、体力、釣力のすべてを賭して、

そして必ずやこの作戦を成功させる!」
















「上温湯隆、あんたはすげぇ。ホンマモンの漢だよ。

・・・ただ、ただ一つ過ちは、それはその志半ばに死んだことだ!

あんたの達成談は、その後の活躍は、より大きな感動と勇気になっただろうに・・・」



















<フェニックス作戦概要>

整理してみよう。

@支流に大型のタイガーはいない(いても稀)
→どうやらこれは本当のようだ。雨季には産卵などで遡上するのだろうか?

Aモーターボートは利用できない
→シレ川下流、モザンビーク国境沿いに1台あるという情報が・・・ダメもとで確かめに行くことにする。

B大物はザンペジ大河本流域!










































こんなことであきらめたら上温湯さんにに笑われらぁ。



















































きらめく星は流れ やさしい風が流れ 素晴らしき青春も流れ去る。
流れ去るものは美しい。 だから俺も流れよう。(上温湯隆)





























“牙”はザンペジ本流へ流れ去った。

ならば俺も流れよう!
















良くも悪くもノせられやすい、そんな自分が嫌じゃない

テキトーに、カルく、シンプルに・・・








































安宿の従業員の話

「今日は金曜日、月曜日まで待ってブランタイヤ(マラウイ第2の都市)で
ビザとって行く意外に方法はないよ。国境じゃ無理だから」










土日の2日間足止めだと?!

2日も待ってられるか!

ダメでもともと、国境で直接交渉だ!

待つくらいなら、当たって砕けるゼ!


行ったらんかい!モザンビーク!






俺はまた国境を超える。一匹の魚に会う、ただそれだけのために。


シレ川、ルオ川合流点にて。
この流れの先に牙はいる。オリノコよ、さぁ、行こうか?







「ところでモザンビークって何語?」

「・・・さぁ?汗」




















・・・Fish on in MALAWI 

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蛇足1
「サハラに死す」を読めばこんな熱い文章の一つも書きたくなるってものよ。
こんな駄HP読んでる暇があったら「サハラに死す」を読んだほうがえぇよ。
自分のやってることがお遊びに思えてきちゃうね(汗)


蛇足2
※「当たって砕けろ」主義は恋愛では通じないようだ。
過去の経験上、俺の場合
「当たってみたら相手が砕けた・・・」
注意されたし(汗)