第5章 ルダ島での日々と運命の出会い











ルダ島に着いた。

飛行場と呼ぶにはあまりに簡素な、

一言で言えば駐車場。

一応アスファルトはひかれているものの、

ターミナルも何もない

飛行機のケツから下ろし手渡された荷物をそのまま担ぎ、

俺は歩き出した。









俺はある人物の元へ向かっている。









昨晩のこと、キャリーオヤジの友人のジョンを招いて夕飯をいただいているとき、
 
そのジョンがルダ島の彼の知人へ、自分の推薦状を書いてくれたのだ。

クセのある筆記体のその文面にはざっと



「こいつは日本から来た釣りキチだ。
悪い奴ではないので、
イヤ村へ旅立つ日まで面倒見てやってくれ」



といったことが書かれていた。










ジョンの知人の名は





トニーちゃん。






金髪美人のピチピチギャル(死語)だ!






おれはルンルン気分で歩き出した。








































って









そんなうまい話があるかい!






トニーち





ではなく、





トニー・チ



中国人で華僑


島で店をやってるそうだ。
























強盗に追われた翌日だったので手元のこの手紙はこれ以上ないほどに頼もしかった。

ジョンに言わせれば、トニーは有名人だから島の人に聞けばすく分かるという。

俺は飛行場でものめずらしそうに俺を眺める人々にトニーの居場所を聞いてみた。

「知ってるさ。島の対岸でスーパーをやっているよ」

ジョンの情報と一致した。

一番食いつきのよかったおじさんが連れて行ってくれるという。

殺人太陽の元、俺はトニーの元へと向かった

一枚の手紙だけを頼りに。


















小さな島だ

数十分後、トニーの店に着いた。

これまでのいきさつを話し、ジョンの手紙を渡し、ジョンの写真を見せた。


























が・・・・・・















「ジョンなんて知らないよ」









あっさりそういうと、さもウザそうに仕事に戻っていった。





















なんとなく、初対面から感じていた違和感。





俺はこの男とは仲良くできそうな気がしなかった。




たとえるなら


すっぱくない梅干のような男だった。

















振り出しに戻ってしまった・・・


















おれはここまで連れてきてくれたおじさんに尋ねた。



「この島、ホテルある?」

「あるけど高いよ」

「・・・いくら?」

「6000円」

「・・・マジ?」












そして俺は言った。








「泊めて?」


「問題ないさ」とオヤジ。

















こうしてこの島でも一般人の方に厄介になることになったのである。

いやはや。









フェイおじさんの家族とご対面。
荷物を降ろし、水シャワーを浴びる。
ココナッツの実入りのご飯をご馳走になった。
甘くて、こくがあって、バターライスのようで、それでいてさっぱりしてて。
PNGの庶民の食事で日本人の口に合う唯一のものかもしれない。
ラジカセが南国の音楽を流しだし、
俺はいつの間にか眠っていた。










島へついたのは火曜日
イヤ村への飛行機は土曜日



暇だ、大きく暇だ


此処は観光地ではない。

「見せもの」など何一つなかった。

そこに人がいて、日常があるだけだ。



海へ散歩に出た。



潮が引けばどこまでも干潟が広がる

煙のにおいがしてきたら、今日一日もおわり。

夕食の時間だ。


あの香ばしく、切ないにおい。

煙の行方には夕焼けの太陽。

懐かしさが胸をつく。



そういえば焚き火のにおいを最近かいでいなかった。

日本では最近、安全性とか有害物質問題とか何とかで町中での焚き火や焼却炉の使用が禁止の方向に進んでいるそうだ。

多少のリスクはあっても、自分は「趣」というものを大事にしたい。

多少のダイオキシンがなんだというのだ?

俺は趣を失っってまでの「キレイナセイカツ」のなかで長生きなどしたくない。

その一瞬、一瞬にやさしい気持ちを持ちたい。

すべてのことに感動していたい。


ただ生きるのではなく、よく生きるということ


日本は何でもかんでも禁止にしすぎる。

水辺には必ず「危険、立ち入り禁止」

数年に一度おぼれる1人の子供のために(この子にはかわいそうだが)

どれだけの子供達の笑顔を、感動を殺すのだ?


昔はそれをやさしく見守る老人達の目があったのだろうと思う。

夕しずみの散歩、危ないと思えばやさしく声をかける。

そして、子供達はひとりでに危険を知っていく。


「最近の子供は外で遊ばなくなった」


遊ばなくなったのではない、遊べなくなったのだ。

遊ぶ場所がなくなったのだ。



コンクリ固めの川辺に

「ゴミを捨てないで。自然を大切にしましょう」

の看板

寝言もだいがいにしとけよ?



三面張りの中ではしゃぎまわる子供達はいない。

コンクリート護岸に佇む老人達もない。

「川」には水の流れだけ。

時間は流れてはいない。







ずいぶん話が脱線したな。

さて







ふと振り返ると後に少年が立っていた。

「誰だ、お前?」

そんな顔で俺を見る。

黒い肌の、黒い目の奥に純白を見た。



桟橋の先では何人かの釣り師が手釣りをしていた。

サッパをふとくしたような魚がつれていた。

そいつを餌に、小型のロウニンアジもつれていた。


俺は先端に腰掛けて、煙と夕焼けのにおいをかいだ。
























翌朝









フェイおじさんの友人が船を出し、

小魚つりに行く予定だったが、

昨夜はおじさんの仕事が忙しかったため、お流れとなった。

おじさんは夜間救急車の運転手。

昨夜はけが人多数で忙しかったのだそうだ(詳しくは後述する)



俺はフェイおじさんの家族のラピとデイシーと共に、

イヤ村への航空券を買うべく空港(ただの敷地とトタン小屋)に向かった。


空港にて。右から空港の職員さん、ラピ、デイシー。
別にフェイ親父の息子や娘ではない
フェイおじさんの家族は血縁ではなく、知人同士が寄り集まって暮らしている、
そんななんか不思議な家族であった。




帰り道、初めてブアイを食った。

発ガン性があるとかで、キャリーオヤジと一緒にいるときは

食べるのをとめられて、いまだに試せずにいたのだ。

ブアイとは一般に「ビートルナッツ」と呼ばれるもので、直径5センチほどの緑色のヤシの実である。

皮をはぎ、まだ若い種子と、「ライム」と呼ばれる石灰をつけた「マスタード」と呼ばれるサヤインゲンのようなものを一緒に噛む。

軽い覚醒作用があり、PNGの人々はガムをかむような感覚でこいつをキメる。

20個に1つくらいの確実で、特に強烈な覚醒作用があるものが混じる。(クレイジーブアイと呼ぶ)

シシトウの「アタリ」のようなもんだが、

かなりアブナいロシアンルーレットだ





・・・・



とにかくやってみよう!


バリッ
(皮を歯ではぐる音)

クチャクチャ
(ブアイとライムとマスタードをかみ混ぜる音)


















「ウゲッ!!!」






「ま、まずい!!」








なんだ、このアクを凝縮したような渋み強烈な胸焼け感は!!




とめどなく流れ出してくる唾液のみを吐き捨てながら、

更にクチャクチャやるのがPNG流なのだが、

おれはブアイごと吐き出した



「む、無理・・・・・・」



しかもこいつは口の中で化学反応を起こし、

真っ赤に変色するのだ。

さながら、小学校の時にやったカラーテスターのようになる














          










こ、怖すぎる!!!!













人でも食ってんじゃねーのか?ってかんじだ。












だから、PNGの路上は吐き出した真っ赤な唾液の跡


血痕が飛び散りまくっているように見える!







初めてこの血痕もどきをみた時






「と、とんでもないところにきてしまった!」


と思った。



























!?



















ライム=貝殻の粉末=消石灰=炭酸カルシウム












CaCO






これ、とけたらアルカリ性だよね?




















!?












お、思い出した・・・・















これってフェノールフタレイン反応では!?











中学の理科の実験での真っ赤な噴水!!




こんなやつ













それも口の中で!!






















体に思いっきり悪そうだ







・・・・思い出してたら胸焼けしてきたわ
















さて






















帰り道、もうひとつ思い出に残ることがあった

棒の先に糸を結び、更にその先に黄色の紙を結んでひらひら振り回す女の子。

はじめ、いくつか紙を数珠繋ぎにしているのではないかと思ったが、

違った。



黄色くひらめく紙を何匹もの黄色い蝶が追いかけているのだ。


青い空、緑の大地、黒い肌に黄色の蝶


南国では色彩感覚が鮮烈になるのもうなずける。





うまく写っていない・・・





ヒラヒラ舞う蝶とケラケラわらう女の子




それはそれは綺麗であった。
























一旦昼食に家に戻った後、フェイにイヤ村出身の一族の住む家に連れて行ってもらった。








と、






なんと!!















今週末、自分と同じ便でイヤ村へ帰るという方が!!




そのお方の名はショージ・ワイナさん。

所用で村を離れていたが、久々に帰るという。






「イヤ村にきたら、自分の家にきなよ」

「兄弟でワニ漁師がいるから、紹介してあげよう。きっと船を出してくれるさ!」




これがワイナさん一族との運命の出会いであった。








しばしいろんな話をした。





「イヤ村に行けば釣れる」


数年前雑誌で読み、現在WEB上に載っている唯一の情報を元にここまできたことを伝えた。



「その時のことなら覚えているよ」




とジョージさん。いろんな裏話をきいた。



「あの辺り一帯で日本人がきたってんで当時は大きなうわさになったもんだ。
でも
更に奥地の自分の村に来た日本人は未だいない。
自分が、村で始めて日本人を家に上げた人物ってことになるなぁ。へへ」



ジョージさんがうれしそうに笑った



夢に描いてきたた2次元の世界が、軸を増やした。

リアルになった。

線がつながった。



庭の木生えていたスターフルーツをかじる。
子供達がいっぱい寄ってきた。
少ししょっぱいその果物は、何処か血の味がした。
「こいつでカクテル作ったら上質のソルティードックになるな、次来る時はウィスキーを持ってこよう。」
飲んでもないのに夢見心地、ほろ酔い気分であった。

赤ちゃんにおっぱいを上げていたおばさん、
俺が振り向くと恥ずかしそうにモンペ(?)を持ち上げ、胸を隠した。

おれは「へ、へ、へ」と笑った。

なぜ笑うのか分からなかったが、

自然と笑いがこぼれでた。






「土曜日に空港でまた会いましょう!
そういって俺たちは別れた。





偶然とは恐ろしいものだ。


もし1週間来るのがズレていたら、

フェイ親父がこの一族と知り合いでなかったら、

そもそも島についた日、空港にフェイ親父がいなかったら・・・・






すべてはどうなっていたか分からない。






ただ、俺は出会った。



偶然が重なり重なり、そして引き当てた「夢への切符」



帰り道、俺は胸の高ぶりを抑えることが出来なかった。













ごご、釣欲がたまりにたまっている俺を見かねて海へ釣れて行ってくれた。

後述するが、この島もけして治安がいいとはいえないのだ。

「一人歩きはダメだ」

何をするにも常にフェイ一家の誰かがついてきて来てくれた。

ありがたかったが、ウザかったのもまた事実である・・・






干潟の端で立ちこんだ。

サンゴが以外にやわらかいことを知った。

俺は地平線に向かってルアーを投げた。




どこまでも続くスーパーシャロー。「GTでも」と思ったが、かすりもしなかった!!
中央で立つのがワタクシ







180度以上の風景


写真ではのこせないものがそこにあった。





帰り道、同じく立ちこんで手釣りで流し釣りをしてた女の子達に主のを見せてもらった。

小さなサヨリやフエダイが釣れていた

「釣れた?」

と聞かれた

「広いところだね」

とだけ俺は答えた。






海辺まで戻ってくると、近くに住む子供達に囲まれた

いろんな問題を抱えるこの国でも、

この子達が大人になったとき、その曇りのない目が、そのままであることを望みたい。

金や、酒や、AIDSや・・・

そんなものに自由を奪われることなく、

彼らの子供達もまた、この夕焼けのなかを笑いながら駆け回っていることを。


足元には小さな子が押し合いへし合いくっついてきて、写真がぶれてしまった!



















夕焼けの干潟と子供達







煙の匂いが漂ってきた。

腹の虫が、グゥとなった。


帰ろう。