第6章 市場に風が吹き、ガキは考え込みながら水の国へ旅立つこと












読書するフェイ親父












ルダ島3日目
昨夜も蒸し暑く、なかなか寝付けなかった。
寝ぼけ眼のまま、便器に腰掛ける。

電気をつけた。(重要)







ブーーーーーン







ん?でかいハエか?







ブーン、ブーンブーーーンンン!!!!






うぉおおおおお!!!







どこからともなく無数のハチが飛び出してきた。

軽くキイロスズメバチぐらいある真っ黒のハチが、気づけば自分の周りを飛び回る。

その数、ざっと百!



そこに、パンツを下げたままの世界一情けない黄色のサルがいた。



タイ編でも書いたが、よく分からん異国のムシの恐怖ははかりしてないのだ!
毒性も、性質も、対処法も分からん。

それにここはPNG.

たとえオオスズメバチにさされ、マムシにかまれても「ま、何とかなるやろ」と笑っていられる医療大国、我らが日の出る国ではない。


「このハチ、ヤバいんとちがうか?明らかに強そうやぞ。
アナフィラキシーショックおこらんやろか?
まぁこのハチに過去に刺されたことは無いが・・・
ってあのアレルギー反応はハチの種類に関係ないんやっけ?・・・・」




もう、
ワタクシのオシリは既に引き返せない段階へと達していたのだ。






無念、無心、無想・・・・

ただ忍ぶのみ

汚れネタはもうコリゴリです。





膠着状態が続いた。
ねちょねちょした汗が頬をつたう。

意を決した俺はNatural Cutでトイレの外へ飛び出した。








勝った!









無事にトイレ脱出を成功させた俺はよく分からんが、勝ったと思った。

こんな緊張したトイレは人生初の体験である。

が、翌日も、翌々日も寝ぼけた俺は同じことを繰り返した・・・






















さて、

まだ涼しい朝霧のなかを、俺は市場へ向かった。

フェイ親父の家族、ブアイ売りを生業とするレベッカおばさんが昨晩、

「タクが手伝ってくれたら、ものめずらしさも手伝ってすぐ完売よ!」

と頼まれたので、居候の俺は

「拙者にできることなら何なりと」


とお供したしだいである。











旅の費用は現地で稼げ!!
ってのは冗談だけど、堂々違法労働をかます俺。
敷物の上に転がる緑色の木の実が例のブアイだ。





俺は大きさごとにブアイを選別し、

お客さんの対応に追われていた。

この作業の中でで俺はこの国の硬貨を覚えた。

すべて動物がデザインされ、国鳥の極楽鳥のマークが入る。

まだまだ自然が生活に息づく、この国らしいコインだ。

極楽鳥、現地でBird Of Paradise と呼ばれる。

国旗にもデザインされる、この国らしいカラフルな鳥である。

ここは動物達の楽園なのだ。










市場ではいろんなことが見えてくる











レジ打ち(?)をしてると、「お前も試してみろ」とれいのブアイを薦められた。
が、注目すべきは親子おそろいAIDSキャップ。

この国のエイズ感染の広がりは大きな社会問題となっている。

指数関数的な感染者の増加は、世界でも最速の広がりを見せる






首都部では性犯罪が深刻らしい。
後でジョージワイナさんから聞いたのだが、

「年頃の女の子は気をつけないとレイプの後、殺され、捨てられるよ。
草むらに捨てられたんじゃ見つかりようがないしな。
妻の叔父もラスカルをやっていて、過去に何人殺したか分からない

そんな話を真顔で聞かされた。驚くことではない。そんな国なのだ。

パプアに限らす、日本でもハンパ男、バーゲン女など、

エイズになろうとどうでもよいし、むしろさっさと死んでくれ!
(かわいいアノ娘に毒牙が伸びる前に!笑)

と思うのであるが、

この免疫不全症候群、母子感染するところに厄介さがあるとおもう。(100%ではないらしいけど)

生まれてくる子供に罪がないのはもちろんだけど、

それよりも自分がかわいそうと思うのは母親である。

過去の傷のせいで子供がほしくても諦めざるを得ない。

未来のわが子を思うがゆえに、未来のわが子を抱けない・・・








ま、エイズ感染は過ち100回につき1回の割合だそうだ。

あなたはこれをその程度なら安心と見るかかなりヤヴァいとみるか。

俺は「その程度か」、とみるが・・・

だがそれでも触らぬ神にたたりなし!

というよりひげの生え、ブアイで口真っ赤のPNGの女はさすがに愛せないっす!

合掌。





もとはといえばアフリカでの変態アメリカ人だ。

あまりにもエグいので省略するが、

「サルはないやろ、サルはっ!!」





ちなみに、フェイ親父の家でPNGのコンドームを見た。
・・・
指サックやん!これじゃ使う気も失せるわ。
頑張れ、我らがオカモト!!笑
















市場ではいろんなことが見えてくる




















ところで写真のこの親子から渡されたブアイ・・・・

ビンゴ!!



目の前がぐるぐる回り、俺はぶっ倒れ吐いた

吐きに吐いた。

20個に1個のクレイジーブアイに3個目にして見事当たってしまった・・・。




・・・

15分後、回復。





デイシーが「私達だったら丸1日ねこむのに、タクは強いわね」と言った


こんな思いしてまで食うなよ・・・
































市場ではいろんなことが見えてくる













そうこうしていると周りの人々が帰っていく。

太陽は真上に近づきつつあった。








そうなのだ、ここにこの島のもうひとつの問題が浮き彫りとされている。

首都、ポートモレスビーの治安悪化の原因は貧困により地方都市から集まったラスカルと呼ばれる強盗団であった。

が、この島の場合は少し違う・・・原因は大勢のアルコール中毒患者だ。

午後になると、彼らが2日酔い(連日酔い?)から起きてくる。

そして乱闘や、商店の打ちこわしを行うのだ・・・。



失礼な言い方だが、まだまだ発展途上のこの国、

産業は原料輸出等、第一次産業に頼るところが大きい。

このルダ島は川の河口に位置しているのだけれど、

この川の上流域でオーストラリアの起業が鉱山開発をしているのだ。

工業排水はこの川を汚染し、河口のこの島の沿岸部に住む人々の生活を脅かした。


その企業は保障金を支払ったが、

ここはまだ物々交換の概念が残るこの地域
(もちろん紙幣経済が浸透しつつあるが)

突然降ってわいたような金。

その金が酒に変わるのはいわば必然であったのかもしれない。



この国の人々は概して酒に弱いそうだ。

遺伝的にアセトアルデヒド脱水酵素2型の欠落他、酒に耐性がないのかもしれない。

そんなこんなで、このら一帯では「酒を飲む」と言うだけで、マトモな人からは渋い顔をされる

晩酌を心から愛す俺にとって(笑、「売ってるのに飲めない」と言うのはつらすぎることであった。
(イヤ村ではそもそも売ってなく、手に入れられないのだけど)

フェイ親父やラピと杯を交わしたかったなぁ・・・。






ちなみに

パプアニューギニアにとって日本は最大の貿易相手国。

鉱山資源は日本にも運ばれている。

他人事ではない。




このオーストラリア企業、

この一帯の子供達の予防接種活動も行っているとかで、人々も牙を抜かれた形。

罪滅ぼしか?偽善か?


白黒つけられねぇもんだなぁ。













金を払うことだけが、保障だろうか。

金は物事をどもまで解決できるのだろう?



後日PNGビールを飲む機会があった。
ビール缶、デザインされた楽園の鳥が、どこか物悲しい。
イロニカリックなブラックジョークだ。
喉を滑るサウスパシフィック(PNGビール)が、何故だろう、少しほろ苦かった。















市場ではいろんなことが見えてくる


俺たちは帰り支度をはじめた。
























ダラダラと時間が流れる








レベッカおばさんが「ビルム」と呼ばれる、カラフルな毛糸のビルムを編んでいる。

デイシーは毛糸をより合わせている。

レベッカおばさんが言った
「次は8,9月に来たらいいわ。そしたらシンシンショーがあるから」

シンシンとはSingSingに由来した、PNG伝統のカーニバルのようなもの。

ボディーペインティングを行い、極楽鳥の羽などで飾り立て、踊る。

元は部族単位で冠婚葬祭など(?)で行われた伝統舞踊だ。





こんなかんじ




ゴロカというコーヒー名産地出身のレベッカおばさんが

「本当はもっと飾り立ててやるのだけれど・・・」
と謙遜しながら踊ってくれた。

「ゴロカ コーヒー Where♪  ゴロカ コーヒー ゴロカ コーヒー Where♪」



夜の娯楽など、何もない。テレビもない、ゲームもない。

それでもこの家はにぎやかだった。


「タクも何か踊ってよ」

・・・・












おれは「変なおじさんだから変なおじさん♪」と手をたたき、

ひげダンス
を踊るしかなかった・・・・・。










(汗)







何もできない自分が、悔しかった。




高床式住居の下、涼む俺たちを南国の風が通り抜ける。

煙の、夕焼けの匂いがした。


あぁ、腹へった。

今日も終わりだ。
















が・・・





















翌朝未明、









銃声で目覚めた。









それは親父の家の前の道路でのことで、

俺の寝ている場所から半径50メートルもない場所だった。


バン!


2発目。

肉と肉のぶつかり合う鈍い響き、ガラスが割れる音、悲鳴・・・・

窓をのぞくと逃げていく人、それを追う光、人、人、人・・・・






俺は流れ弾に当たらないよう頭を雑誌でガードし、

毛布を頭までかぶって目を閉じた。




















どれくらい時間がたったろう、眠ってしまったらしい

気づくと外は明るくなっていた。

眠そうにフェイ親父が帰ってくる。

「昨日のアル中達の乱闘で救急車は火の車、疲れたよ・・・」

銃声は警官の威嚇射撃だそうだ。








その日、俺はルダ島を後にした。

小さくなっていく島を、機上からボーっと眺めてた。

俺の感情を察したか、

隣の席のジョージ・ワイナさん(約束どおり再会できるかと不安だったが、再会できてよかった)

「イヤ村はいいとこさ」

とぽつりと言った。




消えない耳鳴りは、高度上昇によるものだろうか?