5章 黄色い鉄のロバにまたがり、雨のユーラシアをかっ飛ばす事




 

「ブブブブブブッ、カコッ、ブーーーーン!!」

 

朝10時、寝坊した。

外はあいにくの雨。

俺は悩んでいた。

昨晩の自分の予定としては、今日はレンタルバイクを借り、

その辺を適当に走りながら野池めぐりをしよう、というものであった。

「いくべきか、やめるべきか・・・」

 


迷ったときは、前へ突っ走るに限る。

実の親父からは

「吹雪の冬山で無理して前進し、死ぬタイプ」

と人間診断されている俺であるが、

とりあえず今は生きているのであるから、後悔は死んでからすることにする。

レンタルバイク屋でバイクを借りた。

無免許ということで、50バーツ増しの300バーツで一日のレンタル交渉が成立。

初めて乗る半ギヤ式バイク。

とりあえず黄色いロバは走り出した。

(「鉄の馬」と呼ぶには少し頼りないので「ロバ」と銘銘)

「そういや左ハンドル下の2つのレバーって何に使うの?」

走り出してから気がついた。

マイペンライ、マイペンライ、なんとかなるさ。




黄色いロバ。後ろに黄色い車があったのが誤算だった。ガッテム!!



 

さて、走り出したはいいが、「当然」情報は何一つないのであるから、

さて、どこへいこうか。

とりあえず、片道50キロくらいの距離に世界遺産(?)のバーンチアンという遺跡があるらしい。

そこを目指しつつ、付近に野池がないか探していこうときめた。

郊外に出た・・・探す必要もなく、

道沿いはオイシソウな用水路と野池でうじゃうじゃである。

雨も小降りになってきた。

とりあえず、遺跡を見学し、帰り道にめぼしをつけたところで竿を出してみよう。

どこまでも続く一本道。

地平線まで続く田園地帯。

のんびり草を食ってる水牛。

いい気分だ、実にいい気分だ。







 

右側には100キロオーバーで走るトラック。

45キロほどで安全運転をしている俺を追い抜いていく3人乗りバイク。

と思ったら右側通行で逆走してくるバイクもいる。

なーんか、イヤーな予感がした。

 


池をさがしながらよそ見運転しているている俺。

隣では100キロオーバーで突っ走る大型車。

スピード感覚の麻痺により、俺も知らず知らずのうちにスピードが出ていた。
(メーターがラリってたが、80キロくらいか?

 









「ん?」

前方に人力車(サムロー)が見えた。

日本でいつもやっているように、左手でまずブレーキをかけた。

「!!?!」

ブレーキレバーがない!

俺の借りたバイクは右手しかブレーキがついていなかった!!

パニクった俺。その上路面はぬれている。

スピード感覚が麻痺してた俺の目に、人力車は予想以上の速さで近づいてくる!!

右のブレーキをかけたとき、事態はすでに手遅れだった!

「とまらねーーーーーー!!!!」

俺はバイクを飛び降りた
















ドカッ、バタッ、プスン
























・・不幸中の幸いか?、ろばたの水牛のうんこ(だろうか、やわらかい土盛り)のおかげでかすり傷ですんだ。

何より先に釣竿をチェック。釣師の命だからね!

よかった、折れてない!

久々に肝を冷やした。泥まみれ、クソまみれだった。

バイクもなんかゆがんでますけど・・・・・・、

WHAT'S UP?!

それがどうした?なんとか動くし。

マイペンライ、マイペンライ・・・・さすがに笑えねーよ(汗

メットも工事現場用みたいなプラスチック1枚の安物、半ヘルだったけど無事だったのは

やはり日ごろの行いが悪すぎて神様が監督責任を放棄したからだろう!







あーケツに汗かいたわ。

 












その後、しばらく走ってから、

道を尋ねた雑貨屋さんが応急処置をしてくれた。

こけた時はたいしたことないと思ったが、結構流血してた。

店の奥から、消毒薬を持ってきてくれた。

「ん?ちょっとまて、なんだその毒々しい青い液体は!!」

傷口にかける。

「ぐぅおおおおおお!!!

強烈にしみた。マキロンなんて目じゃない!!

痛みをこらえ、必死に考えてみる。

「銅イオン?」

たしか、銅イオンって青色だったよね・・・

銅イオンって、理科の実習でやったウニの実験で、

たしか少量でも細菌を殺してたよな。

ってか、周囲の細胞ごと破壊してたような・・・。

めっちゃ奇形のウニが生まれてたよね?将来の俺のBABYは大丈夫か?

そういや緑青って毒薬だったよね?

その消毒薬が銅イオンかどうかは定かではない

(というか、いくらタイでもそんな無茶な消毒をするはずない!・・・と思う)

が、そんなあほなことを考えて気を紛らわしていなければならなかったほど、

激痛だったのは事実である!

「マイペンライ!ケッカオーライ!破傷風菌もイチコロだぜ!」

黄色いロバがゴキゲンな排気音をだして走り出した。

「あ!マフラーホースにもヒビが!!」

 








何とかかんとか到着した「バーン チアン」

世界最古の遺跡だとか、何だとか・・・。

が、はっきり言っていく価値なし。

牛糞まみれの服をトイレの洗面台であらっただけですぐ出てきた。

 






隣のお堀でおばちゃんが餌釣りしてた。

妙なウナギやキノボリウオを釣っていた。

豪雨の中、俺も負けじとバズベイトを投げた。

おばちゃんが「そんなものでは釣れないよ」という視線を送ってくる。

「目に物見せてやるぜ!」

ここぞと選んだポイントに一投目・・・

後ろに視線を感じた。

振り返るとびっくりするぐらい近くに水牛がいた。

雨の音で気配に気づかなかった!!

ここはどうやら水牛の水浴び場らしい。

「あ!俺、赤い服着てるじゃん!」

撤収決定!!

あのツノはやばいね。戦えません!

 

この池の対岸で水牛に襲われ(?)ました。








なんとかさっきのおばちゃんのところに戻る。

ちょうど小魚を一匹取り込んでいるところだった。

おばちゃんがにやりと笑った。

・・・負けました。

 











帰り道、屋台で飯をくう。

その家の子供がなついてきた。

向こうの子供はかわいい。

夏休みに塾講師として教壇にたったときの日本のクソガキとは大違いである。
(ま、金髪坊主で教壇に上がった俺も俺ですが・・・「キモイ」といわれたのでキツーく諭してあげました。もちろん言葉で 汗)

「ビック、プラー、チョン♪、ビック、プラー、チョン♪」

食後、いつの間にか、リズムをつけて歌っていた。

ガキンチョたちも一緒に歌った。

屋台の裏の池でバズベイトを投げた。

「ミョーに派手な水しぶきだなぁ・・・」

水しぶきではなかった、バズの進行方向にいる驚いた小魚が無数にはねている。

俺は笑った。こんなに餌があるなら、わざわざ金属片などくいに来るはずもない。

豊饒なり。豊饒なり。

黄色いロバは苦しそうに走り出した。


チョン・ソングの作曲者たち。
この子たちを釣らないようにするのに気を使いました。
ちょろちょろと人懐っこくじゃれついてきます。かわいらしい!






 

その後、無数にある池、用水路の中で、

「感性にビビッときたところ」を10箇所ほど攻めてみた。

釣果はどうでもよくなっていた。

タイらしく、バズ&ペラを引き続けた。

アタリの一つもなかった。

 






帰り道、水牛が飛び出してきて、再びこけそうになった。

「水牛にぶつかるのなら事故ってもいいな。いいネタになる。

馬鹿なことを考えながら走った。

「ブブブブブブッ、カコッ、ブーーーーン!!」

俺はもう一つギアをあげた。

 



明日はコーンケンに戻る。

カオレム出撃の日は近い。