第6章 いざ、決戦の地へ。険しい山の湖へ

 












ADDYの車とボート。タイにはこのタイプのピックアップトラックが異常に多い!
荷台に乗ってたかったのだが、長距離により、安全上止められた。残念!
自分は乗り物の中ではトラックの二台が一番好きだ。
南国の灼熱の日差しの中、受ける風は最高だ!!視界も広く、気持ちいい!






AM11時ごろコーンケンに帰ってきた。

数日前と同じように、Addy宅の門をくぐる。

そこには、トレーラーに積まれたスピードボート。

俺のやる気は最大限に膨らむ・・・事はなかった。

というのも、実は昨日のバイク転倒で首を痛めていたのだ。

むち打ちだろうか、首が回らない

よろよろになりながら、そのまま工房のビーチチェアに横になる。

雑誌を読んだり、音楽を聴いたりと、日中は寝転がって体力の回復に努めた。

明日からの日々を妄想した。が、首の痛みがうざったい。

明日にはよくなるだろうか、それとも悪化?

待ちに待ったカオレムに行くというのに、体が言うことをきかない!!

焦燥感、やるせなさ、じれったさ・・・

首を取り替えられるアンパンマンが恨めしく思えた

目を閉じた。さすがに疲れがたまっている。そのまま眠りについた。







ふと起きた深夜1時、ADDYは製品の仕上げでまだ作業していた。

「From Hearts」妥協は許さない。

「緑茶」と書かれた、ハチミツ入り、緑茶のマスカットジュース割りを飲む。

「・・・ってこれ、緑茶じゃねぇだろ!!でも日本人じゃ考え付かない発想だなぁ」

ADDYに怪我を悟られないよう、すぐにまた横になった。









 

・・・気づけば朝になっていた。

今回の遠征のメンバーは4人。ADDY、NON、UDDY、そして俺である。

NONがきた。テンガロンハットをかぶり、気合十分だ。

みんなニヤニヤしている。

4WDは力強く赤土を巻き上げ走り出す。

押しかけの俺は本来荷物を積むはずだったろうスペースで、

足を組みかえることすらできない。

「楽しいか?」

Udyはしつこく話しかけてくる。

首の痛みもあって、振り返りもせず、自分は外を見ていた。

やせた牛が草を食べていた。






 

途中、別の友人と合流するため、レストランへ。

久々の欧米料理、ステーキや、スパゲッティ。

・・・・不味い。辛いなかにもあれだけ絶妙な味付けをするタイ人が、

この味に舌鼓しているのは少し意外な気がした。

















 

カオレムについたのは夜10時過ぎ。13時間のドライブを経て、

着いた時には真っ暗だった。

センターラインを無視したADDYの運転に命の危機を感じつつ、無事ついたことを喜ぶ。

ここを過去に訪れる友人からみせてもらった写真の光景、人々が、

3次元の世界に変わっていく。

温度やにおい、いろんなものがあいまって、テンションは最高潮に達した。

「終にきたのだ、この地へ!!!」

サンゴップ親父さん、ワンチャイ兄貴との初対面。

水上家屋での夜は更けていく。

わずかな揺れが、車酔いによるものか、波によるものかわからない。

となりでNONがいびきをかきだした。

興奮でなかなか寝付けなかった。



 

腰痛が限界に達する頃、カオレムについた!!
ここは橋の上、真っ暗で何も見えないが、左側には広大なカオレムが闇の中でたたずんでいる!













朝、初めてカオレムが見えた。

昨夜は遅くについたため、暗くて何も見えなかった。

まず驚いたのはかなり水深がある山上湖、予想を大きく上回る透明度

まだ朝もやの残る湖面を、しばしボーっと見ていた。

湖水で顔を洗う。思ったより温い。

いてもたってもいられない。

水上家屋の合間に早速ルアーを通してみる。

「ズバン!」



いきなり出た!!

重みすら乗らなかったが、今日からの釣りに希望が膨らむ。

「やったらんかい!!」

 










朝食後、トレーラーからボートを水面の下ろすのに手間取り、

湖に出たときには太陽は既に高くのぼり、ジリジリ肌を焼いた。

おしゃべりUdyが解説する

あの山がカオレムだ。カオは鋭い、レムは山、という意味だ。あの険しい山がこの湖の名の由来だ」

ADDYもご機嫌だ。カオレムを右手に見ながら、ひたすらボートを飛ばす。

 








水草密集地帯をオールで掻き分け、いよいよポイントについた。

狙いはジャイアント・スネークヘッド。現地名プラー・シャドー。

白黒のモノトーン柄が美しい、東南アジア1のゲームフイッシュである。

釣り方は稚魚の群れが呼吸しに水面に上がってきたところにルアーを投げ、

その稚魚を守る親が怒って噛み付いてくるのを釣ろうというもの。

日本の雷魚釣りではタブーとされている釣りではあるが、

郷に入りては郷に従え、これが大きなシャドーを釣る上で最も効率的な方法なのである。

この稚魚は真っ赤であり、

日本でこの魚が「レッドスネークヘッド」の名で熱帯魚店で売られているのも頷ける。

この稚魚の群れが呼吸に上がってくると、水面にそこだけ花が咲いたように真っ赤になる。

マレーシアでは「魚華」とよばれているようそうだ。

ADDYたちは「ベビー・ボム」、稚魚爆弾と呼んでいた。


















「あそこだ!!」

ADDYが指差した。

ボムは遠い。渾身の力をこめてオーバーヘッドでフルキャスト。

ルアーは絵を描いて・・・目標地点に爆撃開始・・・とはいかななかった。

一投目、大バッククラッシュ。







・・・・




















「GO BACK JAPAN?」

ADDYは爆笑。・・・情けない




















また浮かんできた!今度こそ!!正確に長距離を射抜くため、サイドキャスト。



目標まで弾丸ライナ

















・・・・・は飛ばなかった!













「バババババババッ」
















ボートに立てかけてあったADDYの愛竿のガイドを青田刈りにした(汗




さすがのADDYも渋い顔。がすぐに、「マイペンライ、マイペンライ」とまた爆笑。

・・・・本気で日本に帰りたくなった。

 






















その日一日の釣果は散々だった。

昼食後、プラーチョンと呼ばれる別種の小型雷魚狙いに切り替えたのだ。

彼ら3人はどうやら食べてもおいしいこの魚のフェチだった。

この魚は、シャドーより浅場を好む。

水没した草原で、ボートから降りてひざまでつかりながらオカッパリでの釣りとなった。

自分はすでにウボンラットでチョンを釣っていたこともあり、

「カオレム初魚はシャドーしかない!!」
と、気が乗らなかった。

一人、首まで立ちこんで、深場のシャドーを狙う(後日、浅いところにもシャドーはいることを知る)

どんな危険生物がいるかわからない、もしかしたらワニもいるかもしれない、

そんな異国の湖で、自分は時折来る波の水を飲みながら、シャドーだけを追った。





もう、意地だった。

UDYがやってきた

「以前、友人がシャドーに首を食い破られ、死んだ。

また、別の友人は突っ込んできたシャドーが胸に突き刺さって重傷を負った。

この時期の親シャドーは危険だ。ひざまで以上の深場に行くな」

親切心はわかる、だが、ご丁寧にチョン釣りのアクションのつけ方までご丁寧に教えてくる、

そして自分の釣りを遠巻きに見ていて「違う違う」といちいち指図してくるUdyに正直俺は嫌気がさしていた。


ここでひとつ毒を吐こう。

「日本から単身乗り込んでくるようなクレイジーには、

あまりガキ扱いするとキレちゃうぜ!!」











俺はUDYの視界に入らないように移動した。

牛のウンコまみれになり、ノバラの林で切り傷だらけになりながら、

それでも「オレノサカナ」を釣りたかった。自分の釣りを貫きたかった。

牛に追いかけられた。(赤い服を着ていたのだ)、スコールに打たれた。

それでも俺はルアーを投げ続けた。

こんな遠くまで来て、手取り足取りなんてうんざりだ。

立ち泳ぎながら釣りをした。





ADDY一人が乗ったボートが近づいてきた。

 


「タク、釣れたか?」

「いいや、アタリすらない」

「ま、乗りな」





ADDYは俺の気持ちを知ってかしらずか、あまりしゃべらない。

(ADDY自体、細かい話ができるほど英語はしゃべれない)

「OK、OK」と言いながら、ルアーを投げる。

「ポンンッ」時々自分で捕食音をまねしてふざけながら、投げる。







 

以後数日彼と釣りをして思ったこと。

彼自身、もう釣果などどうでもいいのかもしれない。

そして、その表情はどこか寂しげだ。

宿には昔、彼がこの地が爆釣だったころの写真がある。

釣れた獲物を全部持ち帰り、その獲物の山を前ににんまり笑う写真がある。



今のカオレムは、悲しいことにそれはない。

 













ポイントを変えることにした。Udy、NONを拾い、別の水没草原へ。

「OK、もうひざまでの水深しかないよ」とADDY。

Udyがまず船から下りた。




「バシャdn&%TY%&!!」






UDYがおぼれてる!!

水深はとても足のつかないくらい深いようだ!




振り返るとADDYはなんと爆笑してる!!

水深を勘違いしたのか、イタズラがわからないが、全く助けようともせず爆笑!

おぼれるUdyが、さっきまで講釈をたれていたUdyとは似てもにつかず、

自分も笑っちゃった(笑


「いい気味だぜ!」


(笑)





60過ぎの爺さんがいたずらっ子のように笑う。

ようやく差し出されたオールにつかまったUdy。

何とか船に這い上がり、怒るでもなく、彼も爆笑した。





日が暮れてきた。

本日ADDYがシャドー1、チョン1、Udyがシャドー1チョン2

(講釈をたれてくるだけあって、腕はこの3人の中でダントツだと思う)、

NONと自分は坊主だった。長い1日が終わった




宿に帰ると、サンゴップ親父さんが笑顔で出迎えてくれた。

「明日はきっと大物がつれるよ」

彼は太ももをパンパンとたたいて見せた。

ふくらはぎだって、いやいや、腕サイズでもかまわない。

明日こそは!!

そう思いながら眠りについた。 




























2日目、同じように午前シャドー、午後チョンという組み立て。

丸一日灼熱の太陽の下で竿を振ったが、終に竿が曲がることはなかった。

二日連続坊主・・・絶望のまま帰路に着く。

カオレムといえば日本ですらシャドー狙いの一級湖としてその名を聞いていた。

そんな場所でもここまで渋いのか・・・。


がちゃんとお楽しみは最後の最後に用意されていたのだ!!







午後、チョン釣りに興じすぎたため、帰り道がわからなくなってしまった!

ここはタイの田舎の山上湖。街灯などはない。

いつもへらへらしてるADDYも、顔が険しい。





「迷ったの?」聞いてみた。








「OK,OK、マイペンライ!」






その表情は明らかに強がっている。

全員にフローティングベストの着用が命じられた。








「こんな小船で漂流?いいネタになるぜ!!」


あまりの暑さに脳みそが半分解けかけていた俺は呑気にしていたが、


事態は深刻そうだ!


面白くなってきた!







ボートを飛ばすADDY、




とそのとき・・・

「ガコッ!!



船が水中のなにかにぶつかった。

エンジンを止め、チェック。






舵を取り、船を安定させる水平版が吹っ飛んでいた・・・・。4





水上家屋の残骸に突っ込んだみたいだ。





「おいおい、結構マジ?」

 
















































その晩、その後散々迷った挙句、なんとか宿まで戻ってこれた。

心配したボートも何とか走ってくれた。(なんかふらふらししたけど 汗)

あまりに遅すぎる帰還に、宿の皆さんも心配したらしい。

総出で出迎えてくれた。少し遅い夕食をとる。

ここで俺は2日間考えていた思いをADDYたちに伝えた。




「俺は明日、ボートには乗らない!」
















おしゃべりUdyと今晩のおかずのプラーチョン。
ウンチクたれるだけあって、腕は本物。
アタックすらない俺を尻目に、目の前でバカスカやられちゃった!(汗