タイ編8  ジジの鉄砲、俺の竿

 






翌朝、ADDYたちは帰っていった。

トレーラーに船を引きずりあげた。

俺が不注意に座って叩き割ったボートの風除け板(ADDYは気づいているのかな?)が目に付く。

戦いを終えたボートから、カオレムの雫が落ちた。

「それじゃぁな」

稚魚シャドーのビニール袋がサンゴップさんからADDYに渡された。

「もしかして、ブンケンナコーン湖に放流するの?」

「へぇ、あそこを知ってるのか?その通りだよ」

俺がはじめてみたオトナのシャドーはもしかしたら放流モノなのかもしれない。

UDYはビニール袋を指して言った。

「こいつらを釣りに、もう少し腕を上げてからコーンケンにまた来な」

「最後の最後までやかましいやっちゃ!!」

NON、次会うまでに「MAKE LOVE」以外の英語を勉強しておくように!!

UDY お前ほんま口うるさいわ。次はタイ語で憎まれ口たたいてやるから覚えとけよ!

ADDY、奥さんの前で俺に裏ビデオ勧めるな!奥さんこまってるやん!(笑














「コップンカッーーーーーープ!!!!

サバイ、サヌック、マイフレンズ、NON,UDY、ADDY!!バイバーーーイ」(ありがとう、友よ楽しかったぜ!またな!!)







右からADDY、俺、UDY、NON。
我ら再び、いつの日にか。


















さて、急に静かになったミッソッパンで、俺はひとつ用事を思い出した。

4日連続で釣りして、少々疲れがたまっていたので、今日はその「用事」を済ませよう。


タイに来る前、母が言った。

「戦争中、(母のお父さんの部下が戦争中、ミャンマーでたくさん亡くなって、

死ぬ前に一度でいいから線香添えに行きたかったらしいのよ。」



そんな思いを胸に、俺が生まれる前にくたばってしまったじぃさん。

俺はその意思を受け継ぐべく、ミャンマーへと向かった。

バスで30分ほど、国境で簡単な手続きを済ませ、ミャンマーへ入った。



緑の山々、やせた牛がたくさんいる。

車は右側通行へと変わり、人々は顔に何か塗りつけている。

小学生?は緑のスカート、真っ白なシャツ。

白と緑の色彩感覚に目を奪われた。

あまり遠くにもいけない、入国口周辺の市場のみの散策という「ビザなし」の入国であったが、

タイに似ているようで、どこか違う。

食堂で飯を食った。

適当に頼んでみると、ターメリックの入ったポークカレーだった。

「インドに一歩近づいた?」


ぶらぶらと歩く


。開高さんの本で読んだとおり、ここは宝石の国。

くず宝石をいくつか買った。



ぶらぶらと歩く。


子供たちが木に登って豆?をとっていた。

豆といっても、さやは30センチぐらい、藤の実ににている。

ひとつもらって、中の豆を食べてみる。

豆のようで、ほのかに甘く、不思議な味がした。


ぶらぶらと歩く。






俺はこのときのために用意してあった線香に火をつけた。

なんか、なんとなくバツが悪くて、

歩きながら、
線香の煙が傍目につかないようにした。

戦争、どちらが良い、どちらが悪いとか、そんなことはどうでもいい。

日本人、ミャンマー人、戦い、そして命を散らしたその事実。

それはじぃさんの部下たちだけへの黙祷だけではなかった。

俺は少し立ち止まり、山々に向かって小さく手を合わせる。







すぐに線香をもみ消し、俺はまた歩き出した。

 



ミャンマー国境。歩いて国境を超えたのは初体験!
ドイツ人撮影。ドイツは暇な国なのか?パッカーにはドイツ人が多い。







タイに戻り、

ソンクラブリーへのソンテウ(トラックの荷台を座席に改造したもの)が来るのをまつ。

数人の若者に声を掛けられた

「どこから来た?」

「ニープンだ(日本だ)」

「まぁ、すわれや。これはミャンマーの酒でチャィっていうんだ。まぁ飲めや」



ビニール袋に入った白濁した液体をストローで吸う。

こんな酒の飲み方をしたのは初めてだ。

米の粒粒が感じられ、ほのかに甘い。

「おかゆを腐らせたらこんな感じ?」

「アローイ、アローイ」

俺はまたバカの一つ覚えでおどけて見せた。

みんな笑った。





 

ソンテウ(乗り合いトラック)が来た。

グネグネの峠道をバスは進む。

この辺りまで来ると、肌の色も明らかに黒く、インド人みたいな人が多い。

相席の真っ黒のジィさんが巻きタバコを勧めてくれた。


なんかいつものタバコとは違うような・・・。

チャイで酔ってたのか、それとも?!

,3度ふかしてジィさんに返した。ジィさんはニヤついていた。


途中、バイクごとのりこんでくる客

みんなで乗せるのを協力し、

狭くなった荷台の上、俺は最後尾で手すりをつかんで体をのりだした。

ソンテウが走り出す。足の下を地面が流れていく。

火照った体に風邪が気持ちよい。

ジィさんの部隊もこの峠を越えたのだろうか。

60年のときを経て、孫の俺はこの地に立った。

ジジィは鉄砲を、俺は釣竿をかついでこの地に立った。



俺は遠くなっていくミャンマーの山々を見つめていた。

 














ソンクラブリーに戻った俺、

「明日からどうしよう?

船の手入れをしていたワンチャィが目に入った。

夜の小物釣りで、すっかり仲良くなっていた彼だが、

一緒にシャドー釣りはしたことがない。

タイ国ナンバー1ガイドの名声を博す、彼の釣りを見てみたいと思った。

「明日、ガイドをお願いしていいか?

「オケーオケー(OK OK)」


とりあえず明日の予定は決まった。

俺はシャワーを浴びて、一息ついた。

 





夕まず目のこと

「タァク、タァク!」

すっかり仲良くなった、ミッソッパンのやんちゃ坊主が手招きしている。

名前はフェン、年は10歳くらいだろうか、

夜の小物釣りでも俺にいろいろ世話を焼いてくれる、かわいいガキである。

手招きされてついていった先には先日の足こぎボート、

どうやら、釣りに行くぞ、ということらしい。

かなり疲れていたが、こいつの無邪気な笑顔を見ると断れない。

俺たち2人は足こぎボートでソンガリア川を目指した。

 

2日前、苦労して進んだボートも2人でこぐと幾分楽チンだ。

沈んでいた左側にはフェンが、その反対側には俺が座り、

ボートはようやく平行になった。

2人一緒には投げられない。

「このルアーで、ここで大きなのを釣ったんだよ!」

と小さなガイドは興奮しながら話す。
(たぶんそんな内容だろう。タイ語わかんないけど)

俺のルアーをかしてやったり、

逆に「これ使ってみて」といわれるのを使ってみたり。

ちっちゃいガイドとでっかいクソガキは川を上った。

「タクはアワセが悪いよ」

「そういうことは釣ってみてからいいたまえ」

「ここでもまえに大きいの釣ったんだ!」

「釣れないじゃないか」

「おかしいなぁ」

結果、二人共に1バイトずつ。

帰り道、俺は思った。

「こいつが大人になったとき、

ここはまだシャドーの楽園と呼ばれているだろうか?

ガイド業がなりたつだろうか?」

宿に帰り、フェンにキャンディを2個あげた。

「フェン、お前の初めてのガイド料だ!」

「アローイ、コップンカッ タク!(おいしい、ありがとう、タク!)」

自分もひとつ舐めた。

「お前ははしゃいでばかりで、こいだのはほぼ俺だからなっ!」


可愛いやつです。足こぎボートにて。



















サンゴップ親父の奥さんが呼んでいる。

「ごはんできたけど、一緒に食べる?」

一家に混じって飯を食った。

昨日まではADDYと共に併設レストランの料理を食っていたが、今日はフェンやワンチャイらと家庭の晩飯を囲んだ。

揚げタマゴ、野菜の煮浸し、小魚の干物・・・タイでの家庭料理はやわらかな味がする。

仲良くなったスケベでお調子者の17歳の見習いガイド(ごめん、名前忘れた!仮名:エロ 笑)がまた下ネタを話し出した。

今度は俺の飯にどんどん唐辛子をかけ、「食ってみろ!」とエロ。

悔しいので「アローイ」と汗だらだらでくう。

また笑った。みんな、笑った。

 

一服ついて、練り餌で餌釣りをした。

水上家屋、家の軒下で魚が釣れる。

足を悪くし、現在は第一線を退いた名ガイド、

サンゴップ親父さんの横で竿を出した。

ここに着てから、毎日夜の楽しみはこれである。

練り餌を沈めた。すぐにアタリが来る。フナに似た魚が釣れた。

ナマズに似たのも釣れた。

 





フェンが何か持ってきた。

「これをつけてみろ」とコオロギを差し出す。

さっきまで忙しいほどにあったアタリはさっぱりやんだ。

サインゴップおばちゃんが持ってきたデザートを食べる。

この夫婦、本当によく似ている。

笑い方がそっくりだ。

「美味しいかい?」

「美味しいよ!」

おばちゃんはニコニコしてる。

となりの親父さんも笑っている。



やさしい時間が流れる。


フェンの仕掛けは沈黙のまま。

今夜もコオロギが鳴いている。