副読本 その5  「ミロ、さらに気が遠くなる」


「 ほんとに四だな、ここまでくると俺は感心するぜ 。『 四人持碁 』 といい勝負じゃないのか?」
さすがのカミュも碁には詳しくないらしく、こちらを向いてちょっと首をかしげているが、そんなところもミロの目には魅力たっぷりにうつる。 まったく何をやっても絵になるよなぁ、と感心していると、
「 ずいぶん悩んでいるな。」
「 え? 俺はなにも悩んでなんか…、ただ、ちょっと考え事をしてただけで。」
「 そうではない。 今のお前のことではなく、昭王のことだ。」
「 あ? ああ、そうか。 それはそうだろう、いきなりお前のことを神だ、と言われたら困るなんてものじゃないからな。」
「 私も困る。 願い下げだな。」
「 しかし、中国には十二神将って神がほんとにいるのか? 確かに話を聞くと俺達と妙に重なる点は多いようだが。」
「 十二という数は、古今東西いずれの国でも重要視されている。 別に不思議ではなかろう。」
窓からの風がカミュの髪をふわりと広げ、ミロは思わず見とれてしまう。

    シャカの金髪もなかなか見事だが、俺にはなんといってもカミュのこの髪が一番だな
    聖域一、いや、世界一に違いない、なにしろ触れたときの感触といったらそりゃもう……

シャカから仏教のことを連想したミロは、ふとカミュに聞いてみた。
「 十二神将の、ええと、なんだっけ、波夷羅 ( はいら ) 大将とか宮毘羅 ( くびら ) 大将とか、あれは仏教の神様だろ? とても覚えられたものじゃないが、いったいどうやって校正のとき確認するんだ?」
「 うむ、私もさすがに自信がなかったので処女宮に行ってきた。」
「 え……」
「 さすがにシャカだな、目を閉じたままで、十二神将の名前を達筆に書いてくれて、その守護する方位や役割までそらんじてくれた。」
「 やっぱり、教えたんだろうな、その…URL……」
「 いや、私は教えなかった。」
ミロは喜色満面である。

   やっぱりカミュは俺達のことを考えてくれてるのだ。
   それはそうだ、いくら物語とはいえ、個人のプライバシーに準ずるものをそうそう人目に晒すわけにはいかないからな、
   いや、準ずるどころか思いっきりそのものだな、この先、きっと俺とカミュが………。

「 『 私にわからぬものはない。 第一回目から読ませてもらっている。 』 とシャカが言っていた。」
ミロは気が遠くなった。



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