瞳をとじて君を描くよ それだけでいい たとえ季節が僕を残して色を変えようとも 記憶の中に君を探すよ それだけでいい なくしたものを越える強さを君がくれたから |
「瞳をとじて」 詞 : 平井
堅
フランスにいたとき、カミュはどんな子供だったのだろう
そのころのことをカミュの口から聞いたことがない
カミュがフランス人だということは、初めて聖域で会ったときにサガから教えられたのだと思う
「フランス? フランスなら知ってる! ギリシャとおんなじでワインがたくさんできる国♪」
村にフランスから何人かワインの勉強に来ている人がいて、そのときに俺はフランスのワインのことを知ったのだ
あとから考えれば、それは技術協力とか栽培の研修といったものだったのだろう
「ほぅ、よく知っているね。 カミュはここに来たばかりでまだ友だちがいないから仲良くしてやって欲しい。」
「はいっ!」
サガのマントの陰に半分隠れているように立っているカミュの頬がロゼのようにきれいに染まっていた
「うちじゃ葡萄を作ってそれをワインにしてるんだよ! カミュのうちもそうなの?」
「ううん……あの……ワインって葡萄から作るの?」
フランス人はみんなワインを作ってるものだと考えていたので、カミュがそんなことも知らなかったのに当時は驚いた
「そうだよ! フランス人なのに知らないの?」
びっくりしてそう言ったときの、困ったような悲しそうなカミュの顔を俺は忘れない
「あの………子供だからワインってあんまり見たことないし……たまに外で見かけるくらいだったから……」
「外で見かけるって? だって食事のときに大人はみんな飲むし、子供だって少しくらいは飲ませてもらえるよ、ほんのちょっとだけど♪」
ワイン農家にとってはワインは水みたいなもので、食卓には欠かせない
10を過ぎればグラス一杯くらいは許されるし、まだ小さかった俺もごく甘口の白を一番小さいグラス半分位はもらっていたのだった
「ううん、そんなことしなかった。」
「ふうん、フランス人ってあんまりワイン飲まないのかな?」
「さあ………よくわからない。」
カミュの育った環境を知らなかった俺には、それが何を意味するのか想像もできなかった
ただ、フランス人にもいろいろあるのだな、と思っただけだ
大きくなってカミュと初めてワインを飲んでみた
俺のほうは強くて カミュが極端に弱い体質だったことを知ったのはいつのころだったろう
真っ赤になってすぐに酔いが回り倒れそうになるのは大人になっても変わらなくて
俺はそのたびに はらはらしたり、どきどきしたり、緊張したり
それでも頬を染めるカミュが可愛くてきれいで、見ているのがとても楽しみだったものだ
「酔った?」
「ん………少し…」
「少しなら、まだ大丈夫♪」
「ミロ………私はこれ以上は…」
「違うよ………このあと お前を酔わせるのは俺の役目ってこと♪」
「あ……」
少しばかりのワインでロゼに染まったカミュを幾度抱いたことだろう
甘くていい匂いのする一夜をともに過ごした
毎朝 手を伸ばしてお前の記憶を探り、夜が来るたびに心に身体に残された想いを追いかける
青い海を見晴らすこの丘に登り、過ぎた記憶を確かめる
今日はロゼをそそごう この土に この海に この俺の尽きせぬ想いに
二人して頬を染めたあの日のことを忘れぬように
今にして思えば、カミュからもっとフランスのことを聞いておけばよかったと思う
いつかそのうち、と考えているうちに二度と聞くことは叶わなくなってしまったのだから
いつかフランスに行って カミュの足跡を確かめよう
フランスワインを買って来て 俺の村のワインといっしょにしてこの丘にそそごう
カミュ………カミュ………俺も もうすぐそこに行く
頬を染めて待っていてくれ
あの夜と同じだ 長くは待たせない
この曲が好きです、気がつけばミロカミュ。
悲しみは一度 心で消化して さらなる高みに昇らせたい、そう思います。
「仏蘭西物語」 から思いはフランス篇に飛びました。
構想はあと二つ、カミュ様の足跡を辿ります。
※ 関連作品 古典読本 81 ・ 「 君の名は 」
89 ・ 「 赤い靴 」