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印刷インキ
印刷に用いるインキが印刷インキであるといえば簡単であるが、まずインキという言葉の由来を調べて見よう。世間ではインクという言葉とインキという言葉が混用されており、たとえば[広辞林]でインキの項を引くとインクを見よと指示してある。インキという言葉は英語のInkから転化したように思われがちであるが、実はこの外来語のふるさとはオランダである。江戸時代の中期に、オランダ語のInktが蘭学とともにわが国へ入ってきて、インキ、インキトまたは阿蘭陀墨(オランダすみ)という形で、同じオランダからの外来語のペンとともに使われ、当時の文献にかなり現われているという。インキには、筆記用と印刷用があるが、両者は組成的にも機能的にもかなり相違がある。その点ドイツ語では筆記用インキがTinte(Schreibtinte)であり、印刷インキはFarbe(Druckfarbe)というように、はっきり区別しているのが面白い。
まえがき
印刷インキとは何だろうか?ある人は胸を張っていう━━印刷インキはファインケミカルス(精密化学製品)であると。またある人は、印刷インキなんてしょせん混ぜ物に過ぎないと卑下した言い方をする。さらには、印刷インキは芸術品で、生き物だよと、情緒に満ちたウェットな表現をする人もいる。いずれも一つの見方であろう。印刷インキに使われる顔料、樹脂、ワニスなどをつくる反応や工程、またこれらの物性や機能はまさにファインケミカルそのものであるが、小規模のインキメーカーのように顔料とワニスを外部から入手し、これらを練り合わせてインキをつくっている場合には、インキは混ぜ物という見方も成り立つのである。印刷機にかけられたインキが、印刷され、乾燥するまでの複雑、精妙な挙動を細かく観察し、刷り上った印刷物をとくとながめれば、なるほどインキは芸術品であり生き物であるとの感を深くする。このような印刷インキを本当に理解するということは、考えてみると実は大変な事なのである。千の単位で数えられる多種多様のインキ原料、顔料分散、レオロジー、色、印刷全般、被印刷体などについての広い知識と、化学、物理、物理化学などの基礎学問と、インキを扱う者にとって必要な種々の技能と、かつ長年の経験と新技術に対する理解力などが必要なのである。
印刷インキの種類
版 式 | 凸版、平版、凹版、孔版 |
版の種類 | 活版、写真版、コロタイプ、グラビア、彫刻凹版、スクリーン、謄写版、 ステンシル、 水無し平版 |
版 材 | 石版、鋼版、ゴム凸版 |
版の凹凸を利用する印刷法の一つで、非画線部を凹、画線部を凸にして凸部にインクをつけ、紙に転写する方式。活版印刷(活字や写真凸版・線画凸版、罫線などを組み合わせて版とする)はこの版式である。活版は廃れたが、ゴムや樹脂の凸版を用いる印刷が広く行われている。印刷時での圧力により紙に凹凸が出来ることがある。また、印刷された文字にマージナルゾーンが見られるなどの特徴がある。又、フレキソ印刷も凸版が使われている。
版の上に化学的にインクの付く部分と付かない部分を作り出し、インクを画線部に乗せて、紙に転写する方式。(実際にはゴム胴などで中間転写される。=オフセット印刷) 現代日本の出版物は、多くが平版オフセット印刷で刷られている。凸版や凹版と違い、刷版が反転していないので間違いなどを見つけやすい。日本においてオフセット印刷が普及した理由として写真植字があげられる。写真植字による版下作成はその後工程として製版フィルム化(集版)が不可欠であり、この工程を経る限りオフセット印刷が最適であるからである。
版の凹凸を利用する印刷法の一つで、非画線部である凸部のインクを掻き取り凹部に付いたインクを紙に転写する方式。グラビア版は、ほかの印刷方法が錯覚を利用して濃淡を表現しているのに対し、凹部分の深さの違いによるインクの量の増減による濃淡の変化が可能であり写真などの再現性に優れ、多用されたことから、写真ページのことがグラビアと呼ばれるようになった。刷版は耐久性があり、大量の印刷に向いている。切手等において単色での印刷の場合、凹版印刷がされる場合が多い。
版(油紙など)に微細な孔を多数開け、圧力によってそこを通過したインクを紙などに転写する方式。手軽な設備で実現できる。身近な代表例は理想科学工業のプリントゴッコやリソグラフ。複製絵画に使用されるシルクスクリーンや、ガリ版も孔版の一種。 文字や画像の印刷に限らず、物体表面に各種の機能性材料の皮膜を形成する技術として広く用いられている。一例では、カラーブラウン管のシャドーマスクや液晶表示装置のカラーフィルターといった部品が、印刷技術を用いて製造されている。
印刷機械による分類
押圧形式 | 平圧機用、円圧機用、輪転 |
色 数 | 単色機用、多色機用 |
方 式 | オフセット、じか刷り、ダイリソ、ディップス、デルファイ、両面機用 |
用 途 | 軽印刷機用、フォーム印刷機用、たこ印刷機用(パッド印刷機用) |
被印刷体による分類
形 状 | 枚葉、巻取紙(長巻、ウエブ)、チューブ、ボトル |
紙 | 薄葉紙用、コート紙用、上質紙用、更紙用、化粧紙用、チタン紙用、 カルトン、クラフト紙用、段ボール用、合成紙用 |
プラスチック | 普通セロハン用、防湿セロハン用、アセテート用、未処理ポリエチレン用、 処理ポリエチレン用、ポリオレフィン用、ポリプロピレン用、ポリスチレン用、 ポリエステル用、ポリカ−ボネート用、ナイロン用、アクリル用、 塩化ビニリデンコートフィルム用 |
金 属 | 金属印刷、ブリキ板、アルミフォイル用 |
そ の 他 | 繊維用、布地用、ガラス、陶磁器用、木製品用 |
版式別インキの種類
平版インキ | 枚葉インキ | 一般枚葉薄紙用インキ |
カルトンインキ(厚紙) | ||
金属印刷インキ | ||
オフ輪インキ | ヒートセットオフ輪インキ | |
ノンヒートセットオフ輪インキ | ||
ノンヒートセット新聞インキ | ||
新聞インキ | ||
UVインキ | ||
凸版インキ | 活版インキ | |
凸版輪転インキ | ||
ゴム凸版インキ | ||
凹版インキ | 彫刻凹版用インキ | |
グラビア用インキ | ||
孔版インキ | ステンシル用インキ | |
シルクスクリーン用インキ |
印刷インキを構成する原材料
印刷インキ | 色 料 | 顔 料 | 無 機 顔 料 |
有 機 顔 料 | |||
染 料 | |||
ビヒクル | 油 樹 脂 溶 剤 |
植 物 油 | |
加 工 油 | |||
鉱 油 | |||
天 然 樹 脂 | |||
天然物誘導体 | |||
合 成 樹 脂 | |||
炭 化 水 素 | |||
ア ル コ ー ル | |||
エ ス テ ル | |||
ケ ト ン | |||
グリコール及びその誘導体 | |||
可塑剤 | |||
添加剤 | ろう(ワックス) | ||
ドライヤ(金属石鹸) | |||
界面活性剤(分散剤、湿潤剤、乳化剤) | |||
ゲル化剤 | |||
その他(皮張り防止剤、安定剤、消泡剤) |
印刷インキ用顔料および染料の分類と応用例
分 類 | 応 用 例 | |||
顔 料 | 無 機 顔 料 | 酸化チタン(白インキ) | ||
カーボンブラック(墨インキ) | ||||
ブロンズ粉(金インキ) | ||||
有機顔料 | アゾ顔料 | 不溶性アゾ顔料 | ジスアゾイエロー:黄インキ | |
アゾレーキ顔料 | ブリリアントカーミン6B:マゼンタインキ | |||
フ タ ロ シ ア ニ ン 顔 料 | レーキレッド:金赤インキ | |||
フタロシアニンブルー:シアンインキ | ||||
染 付 け レ ー キ 顔 料 | メチルバイオレット:紫インキ | |||
そ の 他 有 機 顔 料 | 昼光蛍光顔料:蛍光インキ | |||
染 料 | 酸 性 染 料 | エオシン:小切手用水性インキ | ||
塩 基 性 染 料 | ビクトリアブルー:フレキソインキ | |||
油 溶 染 料 | ニグロシン:グラビアインキ、リボンインキ | |||
分 散 染 料 | C.Iディスパースレッド60:昇華転写インキ |
特殊インキについて
【UVインキとは】
紫外線照射によって起こるインキビヒクルの重合反応をインキの乾燥手段に応用したものである。UVインキがわが国で実用され始めてからまだ日が浅いが、カルトン印刷、金属印刷、フォーム印刷、シール印刷、曲面印刷、プリント基板、オーバープリントなど、UV硬化印刷システムの特長を生かせる分野で着実に需要を伸ばしつつある。UV硬化の長所と短所を挙げると次のようになる。
長所
■超速乾性のため、スプレーパウダーが不要となり、生産性が向上し、乾燥スペースが削減できる。
■熱なしで乾燥出来るため、オーブンが不要になり、熱硬化性インキを使用する場合に比べて 大幅に乾燥スペースを削減でき、省エネルギーにもなる。
■乾燥皮膜が丈夫で、印刷物の諸耐性がすぐれている。
■インキの機上安定性がすぐれているため、印刷物の品質が安定する。
■無溶剤インキのため、大気汚染がなく、火災、爆発などの点で安全性が大きく、 印刷物はほとんど無臭である。
■固形分が100%のインキのため、厚膜印刷ができる。
短所
■インキの値段が高い
■インキが皮膚刺激性である。
■インキの種類や膜厚によっては硬化速度が異なる。
■硬化不足または硬化過度の場合、インキ皮膜に欠陥が出やすい。
■印刷適性はかならずしも良くない。
■光沢が不十分な物がある。
■被印刷体によっては密着が悪いことがある。
■機械の掃除には特殊溶剤を使用しなければならない。
成分
UVインキは次のような成分から成り立っている。
・顔料
・オリゴマー(プレポリマー、光重合性低重合体)
・モノマー(反応性稀釈剤、光重合性単量体)
・光重合開始剤(増感剤)
UVインキでは、顔料の配合がインキの乾燥速度に及ぼす影響が大きく、とくに青色顔料やカーボンブラックはインキの硬化反応を遅らせる。
オリゴマーとしてはポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリオールアクリレートなどがある。
モノマーには、単官能モノマーと多官能モノマーがあり、粘度が低く、皮膚刺激と臭気が少なく、溶解力と硬化性がすぐれた物が望まれる。
光重合開始剤としては、ラジカル発生効率がすぐれ、臭気、毒性、着色が少なく、保存安定性がよいものが要望される。
【金インキとは】
使用するブロンズ粉の銅と亜鉛の成分比によって、金インキには青口と赤口の2つの色のインキが市販されている。またブロンズ粉を使用しないで、アルミニウムペーストと透明な黄インキからつくった着色金インキは、光輝性ではブロンズ粉インキより劣るが、経時による金属光沢の低下、耐薬品性、無毒性などの点では優れているので、包装材料その他の印刷に使われている。
【銀インキとは】
アルミニウム粉またはアルミニウム粉を石油溶剤中に分散させたアルミニウムペーストを、ビヒクルに混入してつくる。アルミニウム粉にはリーフィングタイプとノンリーフィングタイプとがあり、リーフィングタイプからつくった銀インキではりん(鱗)片状のアルミニウム粉子がインキ膜面へ浮上、配列し、その乱反射によって銀色に輝いて見える。ノンリーフィングタイプの場合は、アルミニウム粉が膜面に浮き出ることなく、インキ膜中に一様に分散していて銀白色のメタリックな外観を呈する。
【蛍光インキとは】
昼光蛍光顔料からつくったグラビアインキ、平版インキおよびスクリーンインキは、紙器、ポスター、広告、雑誌の表紙など、輝かしい色彩効果によって人目を引かせるような用途の印刷に向けられている。昼光蛍光顔料は、一般に耐光性が弱く、粒子が大きく、ビヒクルの種類によっては蛍光性が低下するなどの欠点があり、インキはできるだけ顔料濃度を高くし、印刷はできるだけ厚盛りにして蛍光効果をあげ、かつ耐光性の弱点をカバーするようにしている。
【パールインキとは】
パールインキは、パール顔料をビヒクルに分散させてつくるか、透明で淡色のインキに銀色のパール顔料またはアルミニウム粉を混合してつくる。パール顔料の真珠光沢は、薄膜積層体における光の多重反射現象によって起こるものとされている。パールインキは平版、グラビア、スクリーンなどの方式によって印刷され、真珠光のメタリックな高級感を与え、その印刷物は包装やカタログなどに利用されている。
[岩波新書 矢崎源苦九郎 日本の外来語]
[三省堂 コンサイズ外来語辞典]
[印刷学会出版部 相原次郎著 印刷インキ入門]
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