=国の水俣病「新対策」に未認定患者猛反発=

「出水の会」など差別撤廃を求め新たな動き

関西訴訟後の申請者2000人超える


2004年10月の水俣病関西訴訟判決以後、環境省は2005年4月7日、国として初めて「新対策」を公表したが、この新対策に対し、いわゆる未認定患者、とくに、「政治解決時」に対象にならなかった鹿児島県・熊本県の未認定患者たちの不満は強く、早晩新たな訴訟に発展する可能性も強まってきている。そして、両県への公健法に基く認定申請も5月17日についに2000人を超えたことが明らかになった。ここ2カ月間の動きをまとめた。



■既存6団体が口火 初めて連名で「要求書」
6団体連名の要求書を手渡す佐々木清登・水俣病患者連合会長(右) 環境省側の説明を聞く6団体代表(右側)

医療費の全額負担など5項目求める

国が水俣病「新対策」をまとめるに先立ち、チッソ水俣病関西訴訟原告団や水俣病被害者の会全国連絡会など水俣病患者関係6団体は2005年3月22日、連名で小池環境大臣宛に「要求書」を提出した。午後1時過ぎから、東京・永田町の参議院議員会館で松野信夫(民主党)、近藤正道(社民党)、仁比聡平(共産党)ら国会議員が見守る中、佐々木清澄・水俣病患者連合会会長が滝澤環境省保健部長に手渡した。6団体がこのように連名で公式要請をするのは初めて。

提出した「要求書」は次の5項目にわたっている。
  1. 現行の水俣病総合対策医療事業を患者団体などの意見をよく聞いて充実すること。とりわけ保健手帳対象者に対して、医療費の自己負担分を全額負担すること
  2. 水俣病医療事業の受付を再開するにあたっては、最低限の施策として医療費の全額支給を補償すること。また、1995年政府解決策との整合性を保つためにも、保健手帳だけでなく医療手帳の窓口も再開すること
  3. 関西訴訟原告及び二次訴訟元原告に対し、速やかに医療費を支給すること
  4. 1995年12月15日に閣議決定された「総理大臣談話」を見直し、行政責任を明確にしたものに変更すること
  5. 水俣病被害の実態調査を前提に、全ての水俣病被害者を迅速かつ正当に救済することを含む全面的な解決につながる特別立法の制定をすること
要請を行なったのは、チッソ水俣病関西訴訟原告団(川上敏行団長)、水俣病被害者の会全国連絡会(森 葭雄代表委員)、水俣病患者連合(佐々木清澄会長)、新潟水俣病被害者の会(樋口幸二会長)、水俣病不知火患者会(大石利生会長)、水俣病互助会(上村好男会長)の6団体。

今回の6団体の要請は、昨年10月15日の関西訴訟最高裁判決が下されたことを受けて、熊本県や鹿児島県に対し、新たに認定申請を行なう人が急増しているにもかかわらず環境省の対応が遅れていることに対する抗議の意味と、まず最低線の要求として、「医療費の全面支給」を求め、最終的には5項目要求を実現するよう迫った。

川内議員(左端)や松野議員(立つ人)ら議員団も応援に駆け付けた
=いずれも2005年3月22日、参議院議員会館で
これに対し、環境省側は「各方面とよく相談して、よりベターな結論を出したい」などの抽象論に終始し、業を煮やした川内博史民主党議員が「関係者の中に患者は入っていないのか?」とか、「法的責任を環境省は認めていないのだな?」などたたみかける一幕もあったが、最終的には「今回のやりとりが最後ではなく、今後も案を決定する前にこの種の交渉を続ける」ことを確認しあい、午後2時前終了した。

この後、6団体は交渉に出席しなかった自民党の地元選出議員に陳情したり、財務省に要請行動を行なった。

≪追加情報≫
環境省側が約束した「新対策案決定以前に交渉する」は実現されず、結局、4月7日、環境大臣により一方的に公表された。




■水俣協立病院総院長が最新の検診結果を公表

“関西訴訟判決後の受診者の症状は決して軽症ではない”
                               
「水俣病関西訴訟判決以降の検診受診者の90%以上は総合対策医療事業対象以上の症候をもっている。軽症者ばかりではない」―というショッキングな最新の検診結果が明らかにされた。永年、水俣病患者の診察、治療にあたっている水俣協立病院(神経内科リハビリテーション協立クリニック)の高岡滋総院長が6団体と環境省の交渉の席上、「最近の水俣病検診の結果と考察」と題する“医療の立場から見た最新の受診者の実像”を浮き彫りにしたレポートを公表した。
その内容は、患者団体や支持グループが主張していることを立証するショッキングなものと受け止められた。
レポートの全文は以下の通り。


最近の水俣病検診の結果と考察
水俣協立病院総院長  高岡 滋

1.水俣病関西訴訟判決以降の水俣病検診受信者の症候は、決して軽症者ばかりではない
厳しい未認定患者の健康状態を公表した高岡総院長(立つ人)
=2005年3月22日、参議院議員会館で
2004年11月から2005年3月8日までに、680人の方々が水俣協立病院および神経内科リハビリテーション協立クリニックの検診希望をしてきており、本日11日までに165人の検診を終了した。3月4日までに水俣病に関する検診・診察を受けた人のうち、データ集計が可能であった102名のデータをまとめた。
検診受信者の平均年令は、61.6±11.5歳で、これまでと異なるのは、60歳未満の受診者が39名(38%)にのぼり、それらの人々の症状が必ずしも軽い人ばかりではないということである。水俣病申請暦のない人が72%を占め、家族に認定患者がいる人が33%、水俣病総合対策医療事業対象患者あり(認定患者なし)という人が36%であった。

通常の筆とピンでの表在感覚障害についての診察の結果は以下の通りであった。全身性感覚障害の人も少なくない。(「全身性の障害」は、四肢抹消に感覚障害が強いものとそうでないものを合計している)
全身性触覚・痛覚障害 22%
四肢抹消性触覚・痛覚障害 64%
それ以下の障害〜なし 15%
合   計 100%
求心性視野狭窄および運動失調については下記の通りであった。多くの患者で、視野狭窄の有無は、自覚症状、対面法とゴールドマン視野計を総合的に判断しており、かなり信頼できるデータである。(緑内障のみによるものと判断したものは含めていない)
視野狭窄 上肢失調 下肢失調
あり 27% 31% 60%
疑い 10% 7% 13%
なし・不明 63% 62% 27%
合 計 100% 100% 100%
二点識別覚閾値(二点と分かる最低の距離)は、両手指と下口唇で調べているが、集計できた44名の下口唇のデータは以下の通りである。ほとんどの検診受診者で、正常者よりもかなりの高い閾値を示している。(今回の検診受診者と正常者では、二点識別覚閾値の測定方法が厳密には異なっているが、その方法による大きな差はないと考えられる)

2.水俣病認定申請希望者が続く要因。
主に、以下の二つの要因が考えられる。
・水俣病をめぐる差別が根底にあり、症状があっても言えなかった人々が多い。
・最近になって、症状を自覚しはじめた人々が少なくない。

3.水俣病に対する公衆衛生学的対応の必要性。
(検診をしてみての感想)
・このように多くの有症状者が黙っていたことは、冷静に考えてみると当り前であろうが、やはり驚きであった。
  • この地域では、全体として水俣病やその可能性を考慮した行動を起こすことに対する抵抗感が持続してきたと考えられる。
  • とくに比較的若年者は症状があっても、これまで検診を受ける機会のなかった人々が多い。
  • 差別に対する恐怖心は今なお持続している。(今でも差別を恐れて、検診を途中で断念する人がみられる)
  • 個人補償をしていくだけでは不十分である。必ず漏れが起る。最重症のもののみを被害者として、公衆衛生学的施策をとってこなかったことは間違っている。熊本県が提唱しているような包括的調査を継続的に実施すべきである。
・軽症者も公衆衛生学的に無視できないものである。
  • この地域全体に対する継続的な公衆衛生学的施策が必要である。国はメチル水銀の微量汚染に対する取り組みをしており、現実問題である水俣を無視するならば、政策の一貫性が問われる。
  • 最近になって症状の出現している患者も少なくない。加齢とともに症候が進行していく可能性が考えられる。
  • 感覚障害がメチル水銀中毒症の底辺ではない。感覚障害が正常に近くとも症状を持っている人もいる。脳の可塑性を考慮すると、メチル水銀は感覚障害を起す前段階でも人間の潜在能力を低下させている可能性があると思われる。
・比較的若年(30〜50歳)の人々は、胎児性曝露を受けている可能性や年令上の特徴から、これまでとは違った目で診療していかなければならないのではないか。
  • 若年者では症候の現われ方が異なる可能性があるのではないか。
  • これまで、精神障害や脳性麻痺とされていた人々のなかに胎児性あるいは小児性水俣病が存在している可能性がある。
≪追加情報≫
高岡総院長は4月30日、水俣市で開かれた「水俣病事件を考える集い」で、その後合計460人余り検診を行ない、その結果、感覚障害のある人が90%以上という結果は3月時点とは変わらず、患者認定の基準を満たす人も40〜50%いると報告した。


■環境省、国として関西訴訟後初めての「新対策」公表
今後の水俣病対策について

環境省は2005年4月7日、昨秋の関西訴訟判決後初めて、今後の国としての「水俣病対策」を公表した。公表された全文は以下の通り。

平成18年に水俣病公式確認から50年という節目の年を迎えるに当たり、平成7年の政治解決や今般の最高裁判決も踏まえ、医療対策等の一層の充実や水俣病発生地域の再生・融和(もやい直し)の促進等を行い、すべての水俣病被害者の方々が地域社会の中で安心して暮らしていけるようにするため、関係地方公共団体と協力して以下の対策を講ずるものとする。

1. 判決確定原告に対する医療費の支給
関西訴訟及び熊本水俣病二次訴訟において損害賠償認容判決が確定した原告に対して、医療費(自己負担分)等の支給を行う。
2. 総合対策医療事業の拡充
政治解決に基づき関係県と協力して環境保健行政の推進という観点から実施してきた総合対策医療事業について、高齢化の進展やこれまでの事業の実施上で明らかとなってきた課題等を踏まえ、以下のとおり拡充する。
[1]保健手帳
医療費(自己負担分)について、1ヵ月の給付上限額を廃止する。また、はり・きゅう施術費及び温泉療養費について、利用回数制限(月5回)及び1回当たりの給付上限額(はり又はきゅう1回1500円など)を廃止する。
あわせて、公健法の認定申請や裁判とは別の救済を図る道として、拡充後の保健手帳の申請受付を再開する。
[2]医療手帳
医療手帳について、通院日数月2日以上となっている療養手当の支給要件を月 1
日以上に緩和する。はり・きゅう施術費の利用回数制限(月5回)及び1回当たりの
給付上限額(はり又はきゅう1回1500円など)を廃止するとともに、温泉療養費を支給対象として追加する。
総合対策医療事業の拡充内容について [PDF 11KB]
3. 水俣病問題に関する今後の取組
最高裁判決を重く受け止め、来年の水俣病公式確認50年に向けて、水俣病被害者の団体等及び市町村からのヒアリングの結果等も踏まえ、関係地方公共団体との連携を図りつつ、例えば以下のような施策の実施について検討する。
[1]高齢化対応のための保健福祉施策の充実
水俣病被害者やその家族の高齢化に対応するため、介護予防の観点も含めた健康管理事業の充実といった施策の実施等。
[2]水俣病被害者に対する社会活動支援等
胎児性患者や水俣病被害者の生活改善・社会活動の促進を図るため、それらに関連する活動や事業に対する支援、それらを行うボランティア団体等への支援、国立水俣病研究センターによる胎児性水俣病に関する社会的研究といった施策の実施等。
[3]水俣病被害者の慰謝対策
すべての水俣病被害者を対象としたメモリアル事業等の、被害者に対して慰謝の気持ちを表す施策や水俣病発生地域の融和を図る施策の実施等。
[4]環境保全の観点等からの地域の再生・振興対策
水俣病に関係する地点を活用し、水俣地域全体をフィールドミュージアム化する等、地域の再生・振興にも寄与する施策の実施等。
[5]関係団体との連携及び国内外への情報発信の強化
国立水俣病総合研究センター及び情報センターの活用等により、関係団体との連携や水俣病に関する調査・研究及び情報の収集・保存、国内外への発信や国際協力を強化するための施策の実施等。

*この項、環境省ホームページより引用
http://www.env.go.jp/chemi/minamata/taisaku050407.html



■出水の会、「新対策」めぐり単独で環境省交渉

出水の会:明らかな差別だ、到底受け入れられない
環境省:“行政の権限”逸脱した対策は実行不可能


環境省が打出した「新対策」に対し反発、到底受け入れられないとの動きの先べんをつけたのがこれである。

差別の撤廃を強く求めた要求を尾上会長(左)が説明した
未認定患者で結成している「水俣病出水の会」(鹿児島県出水市、尾上利夫会長)代表9名は2005年4月22日、東京・霞が関の環境省を訪れ、「1995年の政治決着時の救済内容と比べて明らかに差別である」とし、小池大臣宛に7項目にわたる要求書を提出、この線にそった解決策が実行されなかった場合、国・県・チッソを提訴、司法の判断を仰ぐとする方針を正式に表明した。
要求書は尾上会長から柴垣泰介環境保健部企画課長に手渡された。要求書の全文は次の通り。
環境省
小池百合子環境大臣 殿
平成17年4月22日
水俣病出水の会 
会長  尾上 利夫
要 求 書

 貴職におかれましては、ますますご清栄のことと存じます。
 関西に移り住んだ水俣病未認定患者と死亡患者の遺族が国・県に賠償を求めた「関西水俣病事件訴訟」の上告審判決で、最高裁は行政責任を認める初判断を示しました。さらに水俣病像や国・県が頑なに固執し続けた水俣病認定制度と認定基準については「二審の判決は是認できる」とし、行政当局の認定基準よりも幅を広げ、その誤りを認めています。判決後、早六ヶ月を過ぎようとする中で、環境省と熊本県は新対策を検討されていますが、その救済内容は到底納得できるものではありません。責任が明らかになった国・県が、自ら被害者の生活被害を知り、被害者の納得できる救済策を再検討することを切望します。

「水俣病出水の会」の要求内容

*新規申請者全員への給付を要求するもの
(1)医療費の自己負担分全額支給
(2)はり・きゅう施術費上限なしの全額支給
(3)療養手当の支給
(4)温泉療養費の上限なし全額支給
(5)一律700万円の一時金

*保留者全員への給付を要求するもの
(1) 現在、出水の会会員で保留処分になっている3名を一日も早く、現行の行政認定すること。

*「水俣病出水の会」への支給を要求するもの
昭和48年から被害者救済に立ち上がり認定申請の手助けをし活動してきたにもかかわらず、平成7年、政治解決時の団体加算金の除外に対して納得いかない。これまでの活動による多額の出費に対して加算金を要求する。

我々「水俣病出水の会」は、上記に提案した要求案以外の解決策を一切認めない。
上記の要求案どおりの解決策が速やかに施行されなかった場合、国・県・チッソを提訴し、司法の判断を仰ぐものとする。

また、小池環境大臣は2005年5月1日に出水を訪れ、被害者の生の声を聞くべきである。そして患者の救済に全力を注ぎ対策を講じることを要求する。
水俣病出水の会 事務局 
鹿児島県出水市住吉町29−1
(TEL・FAX) 0996-67-3111

大臣の出水来訪など患者代表積極発言

「出水の会」代表団は口々に窮状を訴えた
=いずれも2005年4月22日、
環境省で
これに対し、環境省側は柴垣課長が「最高裁判決を受け止め、行政としてなにが出来るかを検討してきた。その結果、まず医療費だと考え、新対策に盛り込んだ。さらに、これまで出来なかった保健福祉の充実や胎児性患者への支給などをプラスしていく」と説明。そして「今回が終りでなくスタートラインだ」とし、今後、患者側の意向を汲み取る努力をすることも明らかにしたが、尾上会長ら患者代表はこもごも発言し、「新対策」は受け入れられないことを強調した。
また、5月1日の小池大臣の水俣訪問についても、患者から「水俣と出水は目と鼻の先。なぜ鹿児島に来ないのか?」と強く求めた。







■尾上利夫「出水の会」会長インタビュー

「新対策」は未認定患者の願いに何ら応えていない
差別の撤廃求め、もはや法的手段に訴えるしかない


水俣病関西訴訟判決以後、未認定患者の動きが表面化してきたが、その中心的存在である鹿児島県出水市の「出水の会」の動きが注目されている。リーダーの尾上利夫会長が環境省との交渉のため上京した2005年4月21日、都内のホテルで≪環っ波≫との単独インタビューに応じてくれた。尾上さんは「我々は長い間差別を受けてきた。それは水俣病患者という苦しみだけでなく、人権という社会的問題としても当てはまる。法的措置も辞さない」と強い意思表示を行なった。
【文責=≪環っ波】編集部】
―「出水の会」としては初めて単独で上京され、環境省との交渉をされるわけですが、どういう心構えで臨もうとしていますか?

尾上:いままで要望、要請、要求を上げてきた中で、昨年の10月に関西訴訟の原告団の人たちが22年という長い間のご苦労の末に最高裁の確定を勝ち取ったわけですが、これに対し国はいまだに反省どころか責任すら感じていない。小池大臣初め環境省の人たちは厳粛に受け止めとか、真摯に反省とか再三口にされていますが、これは口だけでまったく本気でないと思っています。
国は最高裁判決を無視し、鹿児島県の患者を無視しているという尾上さん
最高裁の判決後、私が申請したのを皮切りに、認定申請は熊本、鹿児島で急増しています。きょう現在で鹿児島が498名、熊本が320名、合わせて818名となっており、津奈木の松本院長の所に診察をお願いしていますが、5月8日までは予約でいっぱいの状況で、5月中には1000人を超えるでしょう。
そういう中で「出水の会」がすでに3回要望・要請・要求を出していますが、環境省の前向き姿勢はまったく見られんとです。最高裁判決を無視し、鹿児島県の水俣病患者や我々「出水の会」を無視しているとしか考えられません。

―無視ですか?

尾上:まったく無視しています。なぜ無視しているかと言うと、4月4日に環境省の柴垣課長が出水に来て、保健手帳の7500円の上限の撤廃、医療費の全額負担を出すから、これでなんとか折り合ってもらえんだろうか。出水のみなさんの将来に不安の残らないように環境省としては考えていきます。それと、3年間は申請の受付をしていく。それでもみなさんの不満があれば制限なしの受付の考えももっているというような説明をされた。
そして、きのう(4月20日)ですよ、こんどは滝澤部長と柴垣課長、青木疾病対策室長が見えた。そして、どうしても保健手帳については環境省の案でなんとか了解してもらえんだろうかと、いう説明だった。そんな内容ではまったく納得できませんよ、と言った。そしたら大臣も5月1日に慰霊式に来て、「出水の会」と「不知火患者会」、「芦北の会」の3団体と30分だけど会うし、今回打出した保健手帳の全額負担という線が精一杯だ。10年前の95年のあの政治解決の条件にさかのぼってというのは無理だ。これが精一杯だと重ねて言うんですよ。これが無視以外のなんでしょうか?
水俣病特有の同じ症状で、10年前の政治解決策の症状の患者が重いとか軽いとか線を引けないでしょう。なのに、どうして10年前の解決策を出してこんのか。明らかに新規に申請を上げた者に対する差別じゃないか。差別して患者を足で踏みにじっていく、おまえたちは保健手帳で我慢しろという小手先のごまかしだ。これは許されない。納得できませんよ。環境省として全面的な解決の意志を持ってるんだったら少なくとも95年の政治解決策の線を出してきなさい。なんでそんなに我々を無視するのか? あなた方は裁判でもしてみろ、やれということか? どうして、こういう差別をするのか?―やむを得ず、繰り返し言わざるをえませんでした。
かつて、あの井形昭弘先生を初めとする審査会が線引きした認定基準に照らしても、今回申請している818人のうち300人くらいは全身のしびれ、視野狭窄、舌先・口周りのしびれ、難聴、歩行困難など重症者がいますよ。そういう人たちだけを保健手帳ということですまされると思っているのか! 我々は保健手帳くらいでは絶対終らせんよ、認定だよ、認定の基準を変えろ、と。
水俣病は過去のものじゃない。現実として、実際にあるんだ。重症者がいる現場を足を運んで見てくれ。生の声を聞き、実感を知ってくれ。昭和30〜43年の劇症とは違うけど、患者が年をとったことでひどくなってるんですよ―きのうはそう申し上げたんですよ。

―環境省の役人は出水に何回か来ているようですが、そういう重症の人たちと1回も会ってないのですか?

尾上:会ってませんよ。

―会いたいとも言わない?

尾上:言いませんね。会ったらおそらくモノも言えんようになるから逃げてんでしょうねえ。

―ところで、尾上さんたちに環境省は関西訴訟判決の結果についてはどう説明しているんですか?

尾上:今回の最高裁判決は行政が責任を問われたもので、政治解決の時とは違うんだ。だから、行政の範囲でしか回答は出来ないんだ―というだけで、10年前にさかのぼって、加算金とかは到底出しならんと言うわけです。これはおかしな話しなわけですよね。出すべきですよ、今回は。
それと、なんで四肢抹消、全身しびれ、舌先のしびれ、歩行困難、視野狭窄など同じ水俣病特有の症状があるのに線を引いて、あの時は260万円(一時金)、医療手帳、医療手当、加算金を出しておいて、今回は保健手帳の全額負担ですまそうとするのか? 柴垣課長は言いなさった。今回は、我々が出来るすべてを出したと。
だけど、私に言わせれば、小手先だけだ。到底納得できない。それを言い張るなら、もう法的に争う以外にないと繰り返し言いました。

―法的措置−裁判に持ち込む気持は分かりますが、前例を見るまでもなく、かなりの時間、お金、手間がかかります。そのへんに対する覚悟のほどはどうなんですか?

法的措置は小人数でもよい。近々行動に移すとの尾上さんの決意は堅い
=いずれも2005年4月21日、都内のホテルで
尾上:除斥期間うんぬんの議論もあるけど、患者たちは一生水俣病の病状に襲われ続けているんです。その人たちはそのまま死ねということなのか! そういう事実に裁判官はもう目をそむけないと思っています。しかも、そういう症状をもちながらも何も訴えることができない人たちもたくさんいるんです。そういう人たちの掘り起こしをやって、それなら助かりますからなんとかしてくださいと言うて、初めて賛同してくれる人たちがいま出始めているんですよ。声をかけてくれてありがとうという人たちが多いんですよ。だから、私はやらなければならないと決心したわけです。
それで50人、100人というまとまった頭数で訴えなくてもいい、1人でも2人でも訴えを起し、それが認められれば行政の言い分は崩れます。

―できれば裁判には持ち込みたくないですよね? したがって、いろいろな努力をされてきた。しかし、それでも事態が打開されなければ裁判に持ち込まざるをえない―というお気持でしょうか?

尾上:そうです。だから、きのう(出水で)会ったばかりなのに、きょうまた9人がこうして東京に来て、あした(環境省と)話し合うという面倒な事もやっているわけです。
でも、私はほとんど納得出来る回答はないと思います。したがって、司法の判断を仰ぐほかないとの思いに至っているわけです。

―具体的にはどういう形の裁判をイメージしているのですか?

尾上:2〜3人とか4〜5人でよかと考えています。これが勝てばいま申請している八百数十人が全部認められると思いますよ。それと、関西訴訟でああいう結果が出てますし、塵肺訴訟とかハンセン病とかでああいう結果が出ていますし、法治国家・日本なのですから訴えればそう長い時間はかからないと思いますよ。遅くとも3年くらいで出るのではないかと考えています。やるなら「いま」です。準備が出来次第、その段階へ進もうと思います。

―小人数での原告団の意図はどこにあるのですか? 

尾上:とにかく、事を早く進めるためには、へその緒という科学的根拠がはっきりしている人を前面に押し立てていきたいと考えているわけです。そのためには、小人数でも法律的には何も問題はない、という専門家のアドバイスもいただいています。

―3月22日に、いわゆる6団体が上京し、環境大臣あてに要求書を出し、交渉をしました。それには「出水の会」は加わっていませんでした。何か理由があったと思うのですが、今後も「出水の会」は単独で進めていくというお考えですか?

尾上:「芦北の会」(吉野英章会長)とは相通じる点がありますので連携して活動していきます。
ただ、6団体に同調しなかったのは、私どもに呼びかけはありましたが、その時の説明は「要求は一点に絞る。最低、保健手帳対象者に対して医療費を全部負担させるようにという要求にするということなので、経過を考えても条件がまったく違う。我々は差別され、まだ何もしてもらっていない。後退した線で一緒にやれと言われてもそれはできません。我々は鹿児島におる患者であり、被害者としてこれまで無視され、差別されてきたことに対する運動をしていきたいと考えています。
したがって、5月1日に小池大臣が水俣に来られ、3団体でお会いすることになっていますが、我々は独自の要求を出すことになると思います。まあ、水俣からは25分もあれば出水に来れます。水俣だけでなく、出水にも来られ、生の声を聞いて欲しいということも要求するつもりです。


■「新対策」に学識経験者からも批判
「新対策」はなんの救済にもならないと批判した花田・熊本学園大学教授
=2005年4月30日、水俣市・公民館で
【撮影:田尻雅美さん】
=「水俣病事件を考える集い」で花田・熊本学園大学教授講演=
“またしても紛争処理の弥縫策にすぎない”


2005年4月30日、水俣市で開かれた「水俣病事件を考える集い」で熊本学園大学教授の花田昌宣さんは「環境省対策案の問題点と今求められているもの―社会福祉の視点から」と題する講演を行い、環境省が打出した「水俣病新対策」はまたしても紛争処理の弥縫策にすぎず、解決策ではない、一つ一つ検討するにあたらないと強く批判した。
また、環境大臣の私的諮問機関「水俣病懇談会」についても患者不在の懇談会で「なにをするのか?」との疑問を呈した。

花田教授の講演要旨は次の通り。
いま、何が起きているのだろうか。それぞれの受けとめ。国の責任が確定し、司法での争いは、棄却取り消し訴訟だけ。

1. 95年の枠組みが根本的に変わったことを図式化するとこのようになろう。
原因企業(=汚染者)=チッソ、救済者=国、被害者=認定患者
↓↓↓↓
原因企業(=汚染者)=チッソ国 →救済者から不法行為の当事者被害者=認定患者 →「公健法上の水俣病」、「最高裁に認められた水俣病」、「総合対策医療事業対象の水俣病」・・・・・・・、認定申請者・・・・・・

まず前提として、水俣病事件50年史の中に位置づけて、現状を見る必要がある。
95年の政府解決策の枠組みが根本から崩れているということをまず認識する必要がある。
何も慌てる必要はない。慌てているのは、国・環境省だということ。
解決策・最終解決策が、解決策であった試しはない。
2.  今回の対策案はまたしても紛争処理の弥縫策
何をしようとしているのか。相も変わらず「紛争処理」
水俣病は、「認定」されている人々だけ。それ以外は何なのだろうか。
患者・申請者団体が声をあげ続けること。

3.  今後の展望:社会福祉の視点から
社会福祉とは何か:一人ひとりが地域で自立し、自分たちの望む暮らしを送ることができるよう権利を保障すること。恩恵的なものではなくて、社会の改革を必要とするものであること。

被害者・地域住民が主体になった「解決」
今、必要とされているのは何か:
介護予防と施設と健康管理は、福祉の名に値しない

何種類の水俣病があるのか・・・・
水俣病に関する認識の転換、それに基づいた生活保障→個人・家族・地域・・・・
汚染地域に居住し、汚染された魚介類を摂取したものに、手帳を交付するとともに、健康障害対策をとる。まずそれが出発点。そのことが、水俣病に対する偏見・差別をなくしていくことのベースになる。


■3団体、小池大臣に水俣で再要請

“人間としてのぬくもり感じなかった環境大臣の応対”
5月中にもまず「人権侵害」で具体的アクション起す


「出水の会」、「不知火患者会」、「芦北の会」の3団体は2005年5月1日、水俣病犠牲者慰霊式出席のため訪れた小池環境大臣と面談、先に環境省が打出した「新対策」について話し合った。3団体は揃って不満の意を表明、各団体がそれぞれ要求書を手渡した。
「出水の会」の尾上利夫会長は5月2日、そのもようを電話インタビューで次のように語った。
―5月1日、水俣で慰霊式の後、3団体が式に出席した小池環境大臣に会い、意見交換されました。どうだったのでしょう?

尾上:残念ながら我々との会談は儀礼的というか形式的というか、大臣からは人としてのぬくもりが感じられない、無味なものでした。私たちが手渡した要求も受取っただけで開いて読もうともしませんでした。

―3団体は揃って要求を出したのですか?

尾上:それぞれ異なるところがあるので別々にしました。

―「出水の会」としては4月22日にも上京された際に大臣あてに要求書を出しています。この時のものと変わった点はありますか?

尾上:基本的な要求は変わっていませんし、変わりようがありませんが、あえて4月22日のものと比べると、文言としては―現在の補償案では1995(平成7)年の解決策によって救済された患者と新保健手帳取得者への待遇に明らかに差が生じており、同じメチル水銀中毒という被害を被った者に対しての不当な差別である。政治解決策同様、汚染者であるチッソに患者への一時金を負担させることを要求する。

現在、申請している患者達は、これまで差別を恐れて申請出来なかった患者も多く、決してこれまでの医療手帳該当者に比べて軽症ではない。地域の医師達によって、既に重症患者も多いことが確認されている。このような重症患者が未だに放置されていることは、国・県の怠慢である。

なお、今回の新救済策案も、どのような条件によって対象者を限定するのか、何を根拠に線引きするのかも未だ不明確である。基準によっては、今回の新救済策案も、政治解決策と同様、切り捨てられた患者を生み出すことになりかねない。我々は、これ以上、不知火海沿岸の住民が根拠のない基準で差別されることなく、全員が救済されるまで、国・県の責任追求を続けていく。責任が明らかになった国・県が、自ら被害者の生活被害を知り、被害者の納得できる救済策を再検討することを要求します。
―ということを追加し、要求内容の「一律700万円の一時金」については「加害企業チッソの負担による」ことを明記しました。
それから、今回とくに―我々は、国・県による人権侵害を絶対に許さない。一刻も早く国・県・チッソは加害者としての謝罪・補償をするよう要求する。
―ということを加えました。
最後に、水俣だけでなく、なぜ鹿児島、出水に足を運ばないのか? ということも重ねて言いました。

―それに対して、大臣の回答なり反応は?

小池大臣(中央)に要望書を読み上げる3団体の代表。右端は潮谷熊本県知事
=2005年5月1日、水俣市・文化会館で
【撮影:荒木千史さん】
尾上:「新潟にも行っていない。今回はお許しください」の繰り返しでした。

―環境省幹部が来出しての話合い、「出水の会」が上京しての交渉、そして大臣との話合いなどを経て、今後どうするのか重ねて伺います。

尾上:聞くふりはしてくれていますが、我々の求めに対しては残念ながら何ら具体的な答えはありませんでした。この上は、早急に「人権擁護の申立」ということで人権擁護委員会(九州弁護士連合会)にまず訴えたいと考えています。

―具体的にはいつごろ?

尾上:いま準備をしています。様式が整えば、5月中にもアクションを起す予定です。広く社会的なご理解をえられればありがたいと思っています。



■民主党、「水俣病対策」独自案の提出控え2度目の現地調査

水俣→獅子島・御所浦島→出水など訪ね生の声聞く

民主党の水俣病対策ワーキングチーム(松野信夫座長)は「次の内閣」で、(1)公害健康被害補償法の活用を計って公健法上の認定拡大を図る (2)公健法で救済できない被害者は特別法「有機水銀中毒症窮策特別法」(仮称)で救済する (3)公健法活用のための環境整備を進める―を柱とする独自の水俣病対策を承認、今国会に提出する準備を急いでいるが、その一環として、対策案の概要、特別法案の骨子について熊本・鹿児島両県の患者団体などに説明するとともに、診断書を書いた医師などと意見交換した。昨年12月に次ぐ2度目の現地訪問。

松野座長ら一行14名は2005年5月6日に熊本県水俣市で、翌7日には鹿児島県獅子島を訪ね、立石・湯ノ口・片側・弊串を回り、御所浦では約30名の人たちと車座集会を行ない、「きびしい健康状態や生活実態などをつぶさに聞けた」(松野座長)としている。


■“水俣病懇談会”が初会合

現地視察や認定基準への疑問など指摘相次ぐ

環境大臣の私的懇談会「水俣病問題に係る懇談会」の第1回会合が2005年5月11日、環境省で開かれた。
この懇談会は、来年5月に行政が水俣病を公式に確認してから50年の節目を迎えるにあたり、水俣病問題を包括的に検証することを目的に有識者が集められたもの。
初会合では座長に有馬朗人・元文部大臣を選出し、意見交換を行なった。各委員から検証のためには現地視察が不可避とか、環境省が定めた水俣病の認定基準への疑問や有機水銀の微量汚染の実態検証の必要性などが出された。次回は6月14日の予定。

10名の委員は次の通り。
有馬 朗人 (日本科学技術振興財団会長、元文部大臣)
嘉田由紀子 (京都精華大学人文学部教授、環境社会学会長)
加藤たけ子 (社会福祉法人「さかえの杜 ほっとはうす」代表)
金平 輝子 (東京都歴史文化財団顧問、元東京都副知事)
亀山 継夫 (東海大学専門職大学院実務法学研究科長、元最高裁判所判事)
鳥井 弘之 (東京工業大学原子炉工学研究所教授、元日本経済新聞社論説委員)
丸山 定巳 (久留米工業大学工学部教授、前熊本大学文学部教授)
柳田 邦男 (ノンフィクション作家)
屋山 太郎 (政治評論家)
吉井 正澄 (前水俣市長)


■新規認定申請者の生活実態調査始まる

不知火海研究プロジェクトが250人以上から聞取り

水俣病の症状に悩まされながら、これまで様々な理由から公健法(公害健康保健補償法)に基づく認定申請をしなかった人たちの新規申請が関西訴訟の最高裁判決以後急増しているが、それらの人々の生活実態の聞取り調査が丸山定巳久留米工大教授を代表とする「不知火海研究プロジェクト」メンバーによって精力的に行なわれている。

この調査は、環境省が打出した「新対策」について、新規申請者が反発していることに対応し、これまで申請しなかった理由、今回申請したきっかけ、現在の健康状態、希望する補償など15項目にわたって聞取り調査をするもので、同プロジェクトチームによると、4月30日以降、5月中旬までに鹿児島県の獅子島や熊本県の芦北など数個所で、250人以上の人たちから聞取りを行なったという。調査結果は5月末にまとめられる予定。


■関西訴訟判決後の認定申請、ついに2000名超す

熊本県1348人、鹿児島県662人―87%が初めて申請

水俣病関西訴訟の最高裁判決後の公害健康被害補償法に基く認定申請者が2005年5月17日現在で2010人に上り、2000人の大台を乗ったことが明らかになった。内訳は、熊本県1348人、鹿児島県662人。

関係者によると、2010人のうち今回初めて申請する人は1754人で、87.3%を占め、政府解決策に基く総合対策医療事業の保健手帳対象者は8%の160人になっているという。


■環境省、医療費等の支給正式発表

6月1日から判決確定原告へ実施

環境省は2005年5月24日、水俣病関西訴訟等の判決確定原告に対する医療費等の支給を、6月1日から実施すると発表した。具体的な実施内容は以下の通り。
〈基本的な考え方〉
水俣病関西訴訟及び熊本水俣病二次訴訟において、損害賠償認容判決が確定した者に対して、手帳を交付し、研究治療費等の支給を行う。

〈給付内容〉
(1) 研究治療費(医療費等の自己負担分)の支給
(2) はり・きゅう・マッサージ施術療養費の支給
[1] はり又はきゅうのみ 1回1000円
[2] はり・きゅう併用 1回1500円
[3] マッサージ 1回 600円
以上を通算して月5回を限度として支給する。
(3) 研究治療手当の支給
[1] (1)、(2)に係る療養を受けた場合 1日当たり500円
[2] 離島に居住している者については1日につき500円を加える(離島加算)
(4) 介添手当の支給
[1] 介添日数1日以上10日未満 5000円/月
[2] 介添日数10日以上20日未満 7500円/月
[3] 介添日数20日以上 10000円/月


■手帳(資格証明書)交付始まる

水俣・御所浦・関西在住の36人に

環境省は手帳(資格証明書)交付を開始した。2005年5月26日に水俣市や御所浦の7人に、27日に関西在住の16人に、水俣病新対策の第一弾として、医療費などの支給事業の説明をするとともに、交付した。 当面の対象者は水俣病関西訴訟原告33人と二次訴訟原告3人の計36人。



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