宇井純・土本典昭さん、水俣産廃処分場建設反対に立ち上がる

地元の人たちの「環境をこれ以上損なわさせない」の声に共鳴

環境大臣・県知事・市長への“反対声明”を準備


水俣市民の60%の上水を賄う水がめ付近の山間部に、国内最大規模の産廃最終処分場の建設計画が昨年浮上したが、地元住民・市議会などの反対にもかかわらず、計画事業者はすでに土地を取得、事業認可申請へ向け熊本県知事によるアセスメント手続きに入っていて、「このままでは水俣病の教訓が活かされない、この問題を広く世の中に知らしめたい」として、沖縄大学名誉教授の宇井純さん、記録映画監督の土本典昭さんが連名で「水俣市山間部の産廃最終処分場建設反対」の意思表示を環境大臣、熊本県知事、水俣市長の各行政責任者が明確に行うよう求める動きをみせている。声明は両氏が旧知の研究者・表現者によびかけており、6月下旬に発表の予定。

計画概要は別項の通りだが、もし計画通り産廃最終処分場が建設されると、水俣市だけでなく周辺の津奈木地区や海底パイプにより提供されている御所浦島への供給水源や簡易水道を汚染する公算がきわめて大きく、宇井純さん、土本典昭さんは「手続きの当否や技術的修正の話しでなく、環境をこれ以上損なわさせないことは“水俣の憲法”であるとの地元の人たちの声に共感する。これまで永年、研究や表現などを通じて水俣病に関わってきた立場から強く反対し、同時に行政の各責任者が明確に反対の意思表示をするよう求めていきたい」とし、いわば“外野席からの支援”に立ち上がったもの。
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今回のアクションについて、両氏は≪環っ波≫に次のようなコメントを寄せてくれた。

宇井純さん : 「水俣」にこれ以上、さわるな!

講演で御所浦を訪れた際にこの計画を聞いたという宇井純さん
=2004年7月2日
この問題は昨年、御所浦島を訪れた際に初めて耳にした。水俣から水を手当している御所浦としてはこの最終処分場によって水源が汚染されることに強く危惧していたが、当然のことだ。

水俣病を経験した水俣は再び愚を繰り返さないだろうと思っていたら、現実はどうやらそう甘いものでなく、その後の事業者や市の対応を聞くに及んで、ここで“待った”をかけなければ水俣の行政はまた誤りを繰り返すことになると危惧した。

この問題については大きく言って2点。第1は、海岸線をメチャクチャにしておいて、こんどは山の上という安易な発想は考え直せということ。第2は、廃棄物の側から見た産業構造の再点検をする時期に来ている訳だから、それを見直せ、ということだ。

とにかく、「水俣」にこれ以上さわるな! と声を大にして申し上げたい。


土本典昭さん : “おどろくべき忘却のはじまり”に抗議する!

水俣はすでに十分に埋め立てたのに山まで埋め立てるのかと怒る土本典昭さん
水俣での産業廃棄物の処理場の話を聞いたとき水俣で生まれる廃棄物のためと思っていて戸惑いましたが、ゴミ総量の0.5%が水俣から出るもので、あとは熊本各都市(7割)と九州全市のゴミとのこと。九州で最大規模のものです。

これに対し、水俣市長は許認可の権限をもてない以上“中立”でありたいとのこと。それはGOサインを出したと同じことでしょう。

もう水俣は広い海を有毒へドロで埋め立てに供しました。なぜ山までも提供しなければならないのか!

おどろくべき忘却のはじまりに抗議したいと思います。



=建設計画の概要=
【事業者】 産業廃棄物処理業の「(株)IWD東亜熊本」(本社:熊本県水俣市長崎1520番地43、社長:小林景子氏)。東亞道路工業(本社:東京)のグループ企業。
【建設場所・規模】 湯出(ゆのつる)・長崎地域(長崎字東山、字馬尻田、湯出字清水、字建壁、字村上、字村下の各一部)の敷地面積95万2000平方メートル。
【設置予定施設の概要】 「安定型最終処分場」および「管理型最終処分場」を併設。「安定型」は埋め立て面積約8万6000平方メートル。埋め立て容積約196万平方メートルで、埋め立て期間20年間。「管理型」は埋め立て面積約9万5000平方メートル、埋め立て容積約203万平方メートルで、埋め立て期間約15年間の予定。
【埋め立て対象物】 「安定型最終処分場」には廃プラスチック、ガレキ類、ガラス・陶磁器くず、金属くず、ゴムくず、一般廃棄物。
「管理型最終処分場」には燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック、ゴムくず、金属くず、動物の糞尿、煤塵、一般廃棄物など。
【埋め立て物の搬入】 主として熊本県内からの搬入とするが、一部九州圏内からの搬入を計画している。埋め立て物の搬入はトラックによる搬入が主で、大型トラック(10トン)と小型トラック(4トン)で同量の廃棄物を搬入する。
【事業スケジュール】 環境影響評価調査(平成16年4月から平成17年秋頃まで)、熊本県への許認可申請(平成17年秋頃から平成18年春頃)を経て、建設工事(平成18年春頃から平成19年頃まで)が行われ、平成19年春頃から供用開始の予定。
*この項、水俣市議会共産党議員団ホームページより抜粋


=これまでの主な経過=
≪2004年≫
3月30日 水俣市環境審で計画内容明るみに
市長の諮問機関の水俣市環境審議会(藤木素士会長)で市が「IWD東亜熊本」から提出された産業廃棄物最終処分場の建設計画などを報告。計画が明るみに。

5月15日 県環境アセス審査会が計画地視察
会社側から事業概要の説明を受け、計画地周辺を視察。会社側は「向こう2年間で環境アセスの手続きを終え、2007年の供用開始目指す」

5月28日 地元・湯出住民が「反対する会」結成
予定地近くにある湯出(ゆのつる)地区の住民約100人が「湯出最終処分場建設に反対する会」を結成。代表幹事に梅下富一さんを選出。「処分場予定地がある山の西側斜面には簡易水道の取水池もあり、枯渇や汚染が心配」。

6月27日 「命と水を守る市民の会」を結成       
市民350人が反対集会。「水俣の命と水を守る市民の会」を結成。代表に水俣市地域婦人会元会長の坂本ミサ子さん。講演した安東毅・九州大学名誉教授が雨水への重金属等の溶出・遮水シートの耐久性などについて疑問を投げかけた。 江口隆一市長や吉永和世県議らも出席。

7月20日 湯出の「反対する会」、市長に陳情
 「湯出最終処分場建設に反対する会」(梅下富一代表幹事)は、江口隆一市長に同地区の有権者593人分の署名と陳情書を、市議会の松本満良議長に請願書を提出した。江口市長は「中立の立場で住民と企業双方の話を十分に聞いて判断したい。建設許認可の権限は熊本県にあるので、市としては皆さんの声を県や企業側に伝える」と弁明。

8月23日 「命と水を守る市民の会」、熊本県知事に直訴
「水俣の命と水を守る市民の会」の坂本ミサ子代表と5世話人が、建設現場周辺の実情を潮谷義子知事に直接訴えた。「巨大な処分場ができれば、水俣病の教訓をもとに環境を重視した街づくりに取り組んできたのが無駄になる」と訴え、市民の会の6.27決議文を手渡した。潮谷義子知事は「まだ環境影響評価の手続きが入り口の段階であり、今後の経過をしっかり見極めて対応していきたい」と答えた。

9月13日 水俣市長、「処分予定地買い上げ」を市議会に打診
水俣市議会厚生委員会は湯出住民から出されていた「最終処分場建設反対の意見書提出を求める誓願」を、7人全員一致で採択。与党も含め市議21人全員が反対という苦境に立たされた江口隆一水俣市長は、市議会全員協議会で「市の事業として反対しろ、と言われていると判断した。業者の進出を止められるならば、税金を使っていくらかでも色をつけて土地を買い上げるしか方法がない」と提案。

10月7日 水俣病患者3団体、処分場反対で声明
水俣病患者平和会/水俣病患者連合/水俣病被害者の会全国連絡会は反対声明を水俣市長 水俣市議会議長 熊本県知事、環境省あて送付。「水俣市長崎の豊かな自然に囲まれた地に、産業廃棄物処分場を作ることによって引き起こされる環境破壊を許すわけには行かない。すでに水俣湾にはチッソが排出した有機水銀を含む産業廃棄物を埋め立てた58ヘクタールもの巨大産廃処分場が現存しており、いま以上の処分場は作るべきではない。私たちは、一度破壊された自然を取り戻すことができないことを身をもって経験して知っている。また、仮に処分場が稼動した場合、環境に与える影響は計り知れず、新たな環境破壊を生み出すことになるであろうし、自然および人間に影響を与えることは必至。建設予定地一帯が水俣市及び御所浦町の水源となっていることからすれば、その影響はなおさら大きい。これほど大きな処分場を作らなくともよいリサイクル社会の構築こそ必要と考える」とアピール。

11月13日 「命と水を守る市民の会」、反対決議を採択
水俣市文化会館の900人が集まり、廃棄物最終処分場建設に反対する
る市民総決起集会を開き、「水俣病という、世界に類例のない健康被害、環境破壊を経験し、言葉に言いつくせない苦しみを味わった。そして長い時間をかけてのりこえ、二度と再び不幸な出来事をくり返してはならないという、強い使命感のもと、全国に誇れるゴミ減量・分別など、市民共同の力で環境モデル都市づくりにとりくんでいる。水俣病の貴重な経験から、水俣病の教訓を学び、後世に伝えていくこと、循環する自然生態系の中の、人やその他多くの生物に配慮した産業活動への転換を促すことを内外に宣言している。この廃棄物埋立最終処分場の建設に反対し、健康で安心できる生活環境を創っていくことを強く決意し、心をひとつにして、最後まで闘い抜くことを決議する」との反対決議を採択。

12月21日 「命と水を守る市民の会」、県に建設反対陳情書提出
「水俣の命と水を守る市民の会」は約1万9千人分の署名を添えて建設反対の陳情書を県に提出した。 県側は「住民の声と受け取るが、業者の計画は法律の基準が満たされていれば、許可する形になる」と答えるにとどまった。
12月22日 市議会、処分場問題で特別委設置 
水俣市議会は産業廃棄物最終処分場問題を審議する特別委員会の設置を決めた。市はすでに建設計画の適否を判断する検討委員会を設けているが、市議会としても独自の検討が必要と判断。委員は10人。委員長に松本和幸氏(自民)、副委員長に谷口真次氏(無限21)を選任。

≪2005年≫
2月25日 元市議ら予定地の買収を市長に陳情 
計画地に隣接する同市湯出の住民7人が、計画を阻止するため、江口市長が市議会に打診した建設予定地買収案の実現を求める陳情書を167人分の署名とともに市長に手渡した。 「事業者から予定地を買収し、水源涵養林などとして利用すること」を求めた。 市長は「計画を止めるために市ができることは(予定地の)買い上げしかないと思っている。意見を市議会にも伝えたい」と応じた。

3月3日 業者、産廃処分場予定地売却に難色
市議会「廃棄物最終処分場問題特別委」(松本和幸委員長)は、事業者のIWD東亜熊本幹部らから意見を聞いたが、小林景子社長は「(リサイクル企業が集積する)水俣エコタウンの活性化のために、残さの引き受け先が必要」とあらためて意義を強調。「市民の理解を得て完成できるように努力したい」と述べた。 江口市長が提案している市費による予定地買収については「適地と判断しており、(応じるのは)難しい」と答えた。

3月16日 「命と水を守る市民の会」、市長に質問状提出
「水俣の命と水を守る市民の会」は市長の対応に「大きな不安がある」として、見解などをただす4項目にわたる公開質問状を提出。 4月15日までに文書で回答するよう求めた。 江口市長は「何が一番いい方法なのか、検討しているが(建設を止める)方法があまりない。分かりやすい形で返事をしたい」と述べた。

3月17日 市長、市議会に予定地買収を再打診
江口市長は、市議会全員協議会で「議会で議論の進展が見られない」として、あらためて買収案を議会に打診した。 江口市長は、昨年9月に買収案を議会に提示したが、議会側は「議案ではなく、市長の考えと受け止める」として検討を見送っていた。 江口市長は、57自治体を対象に行った調査で、産廃最終処分場の設置申請の約86%が許可されている結果を示し、「申請は(許可権限のある県に)許可される可能性が高く、建設阻止には市が予定地を買い上げるしかない」と強調。「対応は早い方が支出も少なく済む。議会と協議したい」と申し出た。 市議からは「県の不許可もあり得る。買い上げは状況を見極めてからでもいいのでは」「他の阻止方法も調べてほしい」などの意見が出た。

3月21日 予定地買収に賛同する「考える会」発足
建設に反対する湯出地区の約30人の住民らが湯の鶴温泉センターで「自然環境を育て発展を考える会」の結成大会を開いた。「処分場建設で環境や水質の汚染、生態系の変化が憂慮される」として、市長が提案している建設予定地の買収案に賛同、「市民の森」としての活用を求めている。会長に発起人代表の柏木優さんを選び、会則を承認した。これに先立って江口市長が講演し、買収案について「建設阻止に、市ができることは買い上げしかない。設置許可の見込みが強まれば、事業者側は我々が買えないほど高い額を提示するだろう。決断は早い方がいい」と強調した。

3月28日 産廃処分場反対・買収に疑問を呈する「憂える会」発足
建設に反対する市民が「水俣を憂える会」(坂本龍虹会長)を結成。坂本龍虹会長らは「水俣病の経験を基に『環境モデル都市』を宣言する水俣市に、処分場は今後一切造らせてはならない」などと語った。同会は元市助役や元市職員、現役市議、農業者ら10人で発足。市長が取る「中立」の立場について「実質的推進と言える」と批判。江口市長が提案する建設予定地の買収にも「反対運動を尽くす前に検討するのはおかしい」と反対の姿勢を取っている。市民団体「水俣の命と水を守る市民の会」などとは「対立するものではなく、協調できる部分では協調したい」としている。

4月27日 「本願の会」など3団体、市長に明確な拒否を要求
水俣病資料館語り部の会(浜元二徳会長)、水俣病患者や支援者、市民らで組織する団体「本願の会」(同)、胎児性患者たちが通う共同作業所「ほっとはうす」(加藤たけ子代表)の3団体が江口市長に面会、「明確な計画拒否の表明」を求める文書を提出。 緒方正人本願の会副代表が「水俣は、水俣病の悲惨な事実があり、有機水銀の海を埋め立てた。二度と海山を汚してはならず、命がけで反対してほしい」などと訴えた。胎児性患者たちも「自然破壊が心配」「反対」と語った。 市長は会談後、「全国の情報を調べ直し、対応を再検討したい」と話した。

5月19日 3団体、知事にも建設反対訴え
「本願の会」など3団体は潮谷義子知事に建設反対を訴えた。 本願の会の緒方正人副代表が、潮谷知事に建設拒否を明確に表明するよう求める文書を提出。胎児性患者の松永幸一郎さんも「(建設計画は)胎児性患者の存在を否定していることと同じ。有機水銀による公害と同じ愚かさを再び犯そうとしている」などと訴えた。 潮谷知事は「今、ここで結論は申し上げられないが、皆さんの気持ちは受け止めたい」と答えた。

 
*この項、「季刊・水俣支援 東京ニュース」 t-kokuhatsu@nifty.com が『熊本日日新聞』『西日本新聞』『読売西部本社版』の記事をベースに編集したものから抜粋


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