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寄稿 畑 明郎さん |
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大阪市立大学教授の畑 明郎さんが去る8月、8日間にわたって韓国の環境問題調査を行った結果を寄稿してくれた。この調査は去年に次いで2度目で、公害現場では「裁判になったら証人に立って欲しい」などの具体的な要望ももたらされ、その関係は継続することによって、より緊密なものなったようだ。
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【写真撮影・提供=畑 明郎さん】
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2005年韓国環境紀行 |
清渓川の復元工事は完成したが、交通渋滞が深刻化していた
政府高官の出席などNGOの実力示した「韓日公害問題シンポ」
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昨年夏に引き続き、2005年8月22日から29日の8日間、韓国環境問題の第2次調査を行なった。調査には、私のほか、久留米大学助教授の河内俊英、大阪市立大学大学院後期博士課程の中村真悟、同前期博士課程の入江智恵子と朴在源(留学生)の5人が同行した。
今年は、韓国最大の鉄鋼メーカーのポスコ浦項・光陽製鉄所の公害問題、太田市付近のアンチモン製錬所の公害問題、世界最大規模のセマングム干拓事業の環境問題、ソウル中心部の高架道路と地上道路を取り壊して河川や橋を復元する清渓川(チョンゲチョン)再生工事、慶州の世界文化遺産などを調査した。また、第2回韓日公害環境問題交流シンポジウムに参加し、韓国の環境問題を理解するとともに、日本の公害経験を伝えることができた。
本稿では、表1の調査日程と図1の調査地点に沿って紀行レポートする。
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表1 2005年韓国環境調査日程 |
月 日
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発着・滞在地
時間
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国名
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利用交通機関
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訪問先・研究機関等
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現地における研究・調査の内容等
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宿泊先又は連絡先
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8月22日
(月)
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関空11:30発
釜山13:00着
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日本
韓国
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航空機
レンタカ
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渡航
金海空港
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関空9:30集合
世界文化遺産調査
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アシアナ航空便
慶州で宿泊
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23日
(火)
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慶州発浦項着
浦項発釜山着
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レンタカ
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浦項
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ポスコ浦項製鉄所公害調査
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釜山で宿泊
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24日
(水)
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釜山発光陽着
光陽発釜山着
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レンタカ
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午前移動
午後
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ポスコ光陽製鉄所公害調査
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釜山で宿泊
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25日
(木)
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釜山発ソウル
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高速鉄道
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午前移動
午後
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清渓川復元工事調査
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ソウルで宿泊
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26日
(金)
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ソウル市
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地下鉄
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市内
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第2回韓日公害環境問題交流シンポジウム参加
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ソウルで宿泊
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27日
(土)
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ソウル市
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地下鉄
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市内
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同上・現地視察
(セマングム干拓事業調査)
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ソウルで宿泊
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28日
(日)
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ソウル発大田
大田発釜山着
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高速鉄道
〃
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燕岐郡
夕方移動
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アンチモン製錬所公害調査
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釜山で宿泊
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29日
(月)
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釜山9:10発
関空10:30着
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バス
航空機
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金海空港
帰国
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関空11時解散
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アシアナ航空便
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図1 韓国環境問題調査地点 |
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1.慶州(キョンジュ)の世界文化遺産
慶州は、紀元前57年から935年まで約1000年間も新羅王朝の都であり、市内の至る所で古墳や遺跡と出会う歴史文化都市として、慶州歴史遺跡地区が世界文化遺産に指定され、「屋根のない博物館」とも言われる。現在は人口30万人だが、年間900万人を超える国内外の観光客が訪れる国際観光都市である。
釜山から高速道路で約1時間で到着し、1995年に世界文化遺産に指定された仏国寺、市内中心部に整備された古墳公園の大陵苑、新羅王離宮庭園の雁鴨池などを訪れた。韓国最大の仏教建築として名高い仏国寺は535年の創建だが、豊臣秀吉の朝鮮侵略時の1592年にほとんどの建造物が焼かれ、その後も戦火や火災に会い何度も再建され、現在の建物は1974年の復元工事によるものという。
大陵苑は、約15万uの広大な敷地に半円状の古墳23基が散在し、いずれも新羅王族の墳墓と言われる。写真1の天馬塚は、5〜6世紀の王陵と推定され、古墳の内部が見学できた。盗掘の困難な積石木郭構造で未盗掘であり、豪華な金冠や馬具などが出土し、それらが古墳内部にも展示されていた。
雁鴨池は、647年に新羅第30代文武王により造営された離宮の庭園である。
湖畔に復元された臨海殿はかつて1000人を収容する広さがあり、外国の貴賓をもてなす宴会が開かれたという。 |
写真1 慶州・大陵苑の天馬塚古墳 |
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2.POSCO(ポスコ)浦項(ポハン)製鉄所の公害問題
POSCOは、POhang iron & Steel CO.ltd.の略称であり、年間粗鋼生産量が3000万トンに達し、世界3位の3100万トンの新日鉄に次ぐ世界4位の一貫製鉄メーカーである。POSCOは、浦項製鉄所(1300万トン)と光陽製鉄所(1700万トン)の2つの製鉄所を有する。浦項製鉄所は、1970年に創業した古い製鉄所であるが、POSCO創業の地であり、本社とPOSCO歴史観という製鉄博物館がある。POSCO創業前の浦項市の人口は67,000人だったが、現在約51万人に増加している。1960年代に朴大統領が製鉄所建設を試みるも、必要性と資金繰りの問題で頓挫しかかったが、日韓条約の対日請求権の一部資金の利用と、旧八幡製鉄からの技術導入を得て成功した(写真2)。
浦項製鉄所付近の道路を車で通ると、独特の悪臭がするが、工場見学では、「とくに公害問題は起こっていない」という会社側の説明だった。しかし、韓国環境運動連合浦項支部の朴委員長にヒアリングした結果は、まったく逆であった。
つまり、浦項製鉄所の大気から一般ごみ焼却場の1,700〜4,000倍のダイオキシンが検出された。大気汚染物質の排出量を過小申告する手口で最大60億ウォン以上の大気汚染負担金を脱漏した。排水基準は守っているが、排水量が多く、汚染物質の総量は問題がある。大気汚染は、1km離れた所まで粉塵が飛んでいた10年前と比べるとましにはなったが、周辺住民の健康調査は行われていない。最近、海水浴場の砂が侵食されてなくなった。この原因は、海砂の浚渫と確認されたが、ポスコは否定している。10年前にソウル大学が労働環境調査をしたが、その結果をめぐり組合が分裂し、組合も解散させられ、現在、従業員19,000人中組合員は23人しかいない。 |
写真2 ポスコ浦項製鉄所の高炉 |
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3.POSCO(ポスコ)光陽(ワンヤン)製鉄所の公害問題
全羅南道の光陽湾の麗水工業団地に立地している光陽製鉄所の大気汚染による大規模な公害被害が社会問題化していると聞き訪れた。浦項製鉄所よりも大規模で敷地は約1,000haと広大だった。被害地の旧漁村の太仁洞から製鉄所を眺めたが、製鉄所全体がばい煙に覆われていた(写真3)。
環境運動連合光陽支部の朴事務局長にヒアリングし、現地を案内して頂いた。
朴さんは海苔養殖業者だったが、製鉄所建設後、漁業が衰退したために、環境NGO活動をしている。朴さんの住む太仁洞では、大気汚染による呼吸器系の病気が多く出ている。2003年に光陽市がソウル保健大学に依頼した調査によると、全国平均の5倍、子供は53倍の呼吸器系疾患の発生率だった。
2003年にシアン排水を10万トンも垂れ流し、約10億ウォンの課徴金支払いを政府から命ぜられた。この件で朴さんは、日本のJFE西日本製鉄所まで調査に行ったという。2004年にソウルの国会前でデモを行った結果、光陽製鉄所が国政監査を受けることになり、ポスコは謝罪と調査の確約書を提示した。確約書では、2005年中に大気、水、土壌、汚染源などの調査を行うとした。2005年8月に太仁洞3,200人の住民集会を行い、裁判するかどうかを協議する。
光陽湾は、製鉄所に加え、石油化学工場、火力発電所、コンテナ基地など、韓国最大の工業団地となっており、公害のひどさは蔚山・温山工業団地を上回るという。日本の瀬戸内海沿岸の水島コンビナートに類似していた。
光陽市の人口は14万人程度で、ポスコ従業員は約2万人と、製鉄所近くにヨーロッパ風の瀟洒な社宅が立ち並び、企業城下町と化していた。 |
写真3 ポスコ光陽製鉄所の遠景 |
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4.清渓川(チョンゲチョン)復元工事
昨年、訪れたので、再訪である。昨年は工事中であったが、今年は工事が99%完了し、10月1日の清渓川復元記念式を待つ段階だった(写真4)。道路を取り壊して清渓川を復元する区間は約6kmある。河道部に40cmの河川水位を保つためには、一日12万トンの水量が必要であり、地下鉄湧水2万トン/日に漢江から10万トン/日を導水する。子供たちが水遊びできるように、漢江の水を浄化処理して流す計画である。
しかし、漢江の水を管理する政府の水資源公社から取水料金を請求され、現在、価格交渉中とのことだった。清渓川復元工事には、3,900億ウォンかかり、ソウル市がすべて負担した。高速道路や地上道路を廃止して、河川を復元する清渓川復元工事は、都市環境再生事業として世界的に注目されたが、交通渋滞の激化、強引な周辺市街地再開発事業、別水系の漢江の導水、歴史的な石橋復元の遅れ、ハンナラ党市長の大統領選挙出馬に利用などの批判も出ている。
ちなみに、雨が降っていたので、現地見学をバスでしたところ、清渓川両岸に残された2車線の道路は、バスが立ち往生するほど渋滞しており、ソウルの交通渋滞問題の深刻さを実感した次第である。 |
写真4 ほぼ完成した清渓川復元工事 |
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5.第2回韓日公害環境問題交流シンポジウム
日本の全国公害弁護団連絡会議・日本環境法律家連盟と、韓国の緑色連合環境訴訟センター・環境運動連合環境法律家センター・民主社会のための弁護士の集まり(民弁)環境委員会の主催で、8月26日にソウルで「東アジア、環境訴訟の交流と連帯」と題する韓日環境弁護士シンポジウムが開かれ、私たちも含めて日本から約50人の弁護士・科学者・公害被害者らが参加した。
祝辞では、環境NGO出身の国会議員や大統領諮問室長が挨拶し、現職検事や裁判官も参加するなど、環境NGOの政府への影響力を示すものだった。
セッション1では、日本から「日本の公害被害者と公害裁判の歩み」のビデオが上映され、足尾鉱毒事件、四大公害裁判、カネミ油症事件、名古屋新幹線公害裁判、四大大気汚染裁判、尼崎・東京大気汚染裁判、横田基地公害裁判、有明海干拓事業裁判などが紹介された。韓国からは、アメリカに留学していた李弁護士から「市民団体から見たアメリカの環境法の実体」が報告された。
セッション2では、日本の小田弁護士から「日本におけるダムと堰に関する公共事業をめぐる動き」が報告され、長良川河口堰建設事業、建設省のダム審議委員会設置、河川法の改正、淀川水系流域委員会などが紹介された。韓国の朴弁護士からは、「韓国での道路建設において法的問題点に関する一考察」が報告され、高速道路等建設に伴う自然環境破壊例を具体的に紹介された。
セッション3では、日本の馬奈木弁護士から「廃棄物問題・九州廃棄物研究会はこうたたかう」が報告され、九州における廃棄物最終処分場建設阻止の事例を紹介された。韓国の朴弁護士からは、「生活廃棄物処理施設の立地選定手順の問題点と円滑な立地選定のための方策」が報告され、地方自治体で生活廃棄物の埋立地と焼却場の立地選定に関する紛争が相次いでいることが紹介された。
フロア討論では、柴田徳衛元東京都企画調整局長が「美濃部都政における自動車排出ガス規制と、現在進行中の東京大気汚染裁判」について発言された。
関島弁護士は、東京の高尾山高速道路トンネル裁判について発言された。私も昨年と今年の韓国環境問題調査について発言した。伊藤弁護士は、沖縄の廃棄物処分場建設裁判について発言された。同行の河内氏は、九州の廃棄物処分場問題に関わる住民運動の大変さについて発言された。
なお、シンポジウム要旨集が日本語とハングルで発行されており、詳しくは要旨集を参照されたい。
ソウル滞在中に徳寿宮(トクスグン)を訪れた。15世紀に建設され、李氏朝鮮王族の私邸だったが、豊臣秀吉の朝鮮侵略により景福宮が焼失したため一時王宮として使用された。1910年の日韓併合前にも一時王宮として使用された。このように、韓国の宮殿は、二度にわたる日本の侵略で被害を受けたのである。
6.セマングム干拓事業
昨年、訪れたので、再訪である。セマングムの意味は、セが新しい、マンは万項(万の耕地)、グムは金堤に由来する。この辺りは、1920年代の日本植民地時代に日本人入植者による干拓が進み、中村農場や竹内農場といった地名があったという。山麓の墓地に「愛国志士の墓」があり、日帝に抵抗して殺された人が愛国の英雄として祀られており、日本人として心が痛んだ。
昨年は締め切り堤防の南側に行ったが、今年は締め切り堤防の北側に行った。北側付近では、広大な工業団地の造成工事中であり、農地用の干拓事業でないことが分かる。締め切り堤防工事は、2.7kmを残すのみで、2006年2月には完成予定という。
セマングムの干潟は、韓国最大のハマグリ産地であり、日本にも輸出していたが、ハマグリの漁獲量は最盛期の3分の1となったという。私たちが干潟を訪問した時、大勢の観光客がハマグリ狩りに来ていたが、沖合いまで行かないと、ハマグリが獲れなくなっているという(写真2)。
夜に干拓反対運動をしている漁民や弁護士と交流会が行われた。日本からは、諫早湾干拓反対運動をしている弁護団と漁民が報告し、韓国からは、裁判の進捗状況を朴弁護士が報告し、漁民の気持ちをハマグリ漁で生計を立てている女性らが訴えた。しかし、韓国人の大半は、「セマングム干拓事業がほとんど終わっているから、早く終わって欲しい」と考えており、反対派は少数派という。
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写真6 セマングムの広大な干潟とハマグリ狩りの人々 |
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7.太田市付近のアンチモン製錬所の公害問題
アンチモンによる土壌汚染被害が報告されていると聞き、訪れることにした。太田市付近の忠清南道燕岐郡全義面元省里にアンチモン製錬所が、1978年に建設され、製錬時に二酸化硫黄や重金属が排出され、アンチモン廃滓が発生した。会社は、2001年に廃棄物処理業者に処分を依頼するまで、アンチモン廃滓を工場内に約3万トン、工場外の田畑に約5万トン埋め立てた。
埋め立てた跡の田畑の地表水からアンチモンが90μg/l、稲の根から162mg/l、稲の茎から5.1mg/l、工場前民家の地下水から15.9μg/lが検出され、田畑の土壌から基準の3倍のヒ素が検出された。また、周辺の24世帯の住民10人が肝臓ガンや肺ガンでなくなり、4人がガンで苦しんでいるという。子供たちも、頻繁なセキやぜんそくなど呼吸器疾患を患い、免疫力も低下しているという。
工場労働者にも皮膚病・頭痛・無気力症などが発生し、2〜3年でやめるという。
グリーンコリア大田支部の案内で現地を調査した。廃滓埋立田の稲が不揃いなのにびっくりしたが、アンチモンやヒ素の土壌汚染の不均一さが原因と考えられた。2000年以降、工場はアンチモン製錬をやめて、アンチモン地金を中国から輸入して酸化アンチモンを作る二次加工のみを行なっているという。
1970年代に日本の滋賀県米原町にあったアンチモン製錬所でアンチモン汚染
が発生しており、その経験を紹介したところ、「日本へ調査に行きたい。韓国で裁判を起した時に証人に立って欲しい」などと言われた。
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写真7 アンチモン廃滓埋立田の不揃いの稲、後方がアンチモン製錬所 |
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*畑 明郎プロフィール
大阪市立大学大学院経営学研究科教授・環境政策論
1946年兵庫県加古川市生まれ、1976年京都大学大学院工学研究科博士課程修了、1976〜1995年京都市役所勤務(衛生公害研究所・環境保全室など)、1995年大阪市立大学商学部助教授、1997年〜経営学研究科教授(環境政策論)。
主要著書は、『イタイイタイ病』(1994年、実教出版)、『金属産業の技術と公害』(1997年、アグネ)、『土壌・地下水汚染』(2001年、有斐閣)、『拡大する土壌・地下水汚染』(2004年、世界思想社)。
役職に、環境学会副会長、環境会議理事、科学者会議公害環境問題研究委員会委員長、びわ湖の水と環境を守る会代表委員など。
[連絡先]
〒588−8585 大阪市住吉区杉本3−3−138
TEL:06−6605−2239 FAX:06−6605−2244
E-mail:hata@bus.osaka-cu.ac.jp
*びわ湖の水と環境を守る会
滋賀県の環境NGOで会員約100人。その月刊紙が『びわ湖通信』。 |