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新本登場
コンセプトは“「環境」と「福祉」は21世紀の重要課題”
新たな学問体系の確立がファッションでないことを祈る


『環境福祉学入門』
炭谷 茂 編著


世の中、「環境」と「福祉」の時代である。この二つのキーワードは皮肉を込めて申し上げればブーム、ファッションの観すらある。その最たるものが公私立を問わず大学の学部名にこの二つのいずれかを冠して学生を集めようとする動きであり、中には大学や高校そのものの名称に付けたところも出始めた。

その上に、「環境福祉学」だそうだ。

正直なところ、確かに「環境と福祉は、共に人類にとって21世紀の重要な課題」(まえがき)ではあるが、タイトルだけを見た時、一種のハウツウ本に近いのでは? と疑った。その上、個人には何の恨みもなく、面識もないが、編著者が環境省事務次官(と、もっとも目立つ表紙にルビの如く付けてある!)とあればなおさらだ。なぜなら、環境省こそ日本の環境行政をあいまいにしてきた張本人であり、事務次官はその実質的な最高権威者であるからだ。そういう立場の人が編著した本ってどうなの? ―という偏見から、辛口の評にならざるを得ない。

そんなことを思いつつ、とにかく読んでみた。

残念ながら、編著者が自らが執筆(あるいはその名前になっている)章は「環境庁」や「環境省」が我が国の環境行政に果たしてきた、あるいは果たすべきであった役割や実績についてはほとんど触れておらず、より客観的というか第三者的な“解説”になっている。

しかし、第2編第1章「歴史の中で考える」に移ってからトーンは変る。この編の冒頭で「四大公害問題と環境福祉」を執筆した原田正純は筆者も懇意な仲だが、この種の事はこれまで枚挙にいとまがないくらい書いているが、なぜか(失礼)ここでは相当力の入った書き方をしており、質・量とも一級品である。そして高松健比古の第4章「現代に生きる田中正造の思想と行動」以下、第3編「国内の取り組み」は地域に密着した、生きた話であるだけに自ずと引き込まれていく。世の中には様々な問題が山積しているが、同時にいろいろな人たちが問題解決に努力していることが改めて分り、力づけられる。

そうして、第5編「環境ビジネス」へと移り(残念ながらこの項はいわゆるビジネス論で、ここではそぐわない感じがした)、終章の第6編「環境福祉学の展望」へとつながる。が、「展望」はなんと表裏2ページで完結している。もちろん“量”が全てではない。ここで取上げているおおぞら財団(因みに、森脇理事長も知人のひとりである)の概念も「官」の発想ではない。

「環境福祉学」は今出港する。前途には大きな未知の成果が待っている

―と編著者は結んでいる。1冊の本はおしなべて起承転結があってしかるべきと考えるが、残念ながら「起」と「結」が「承」と「転」とフィットしていないという印象を拭えなかった、というのが読み終わった後の感想だった。


  ▼版型:A5版/335ページ
  ▼発行所:環境新聞社
        〒160−0004 東京都新宿区四谷3−1−3 第一富澤ビル
        TEL  03−3359−5371
  ▼価 格:¥3524.(本体)

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