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新本登場 【寄稿】 府中太郎
環境ジャ―ナリスト・府中太郎さんが寄稿してくれた今回の【新本紹介】は
必ずしも「新本」だけではないが、
もしまだお読みでなかったらぜひにというお勧めの本である。


輝かしい躍進を遂げる東南アジアの環境問題を突く
中・韓の取り組みなど「共同体」の必要性にスポット


書   名 『環境共同体としての日中韓』
編   者 寺西俊一 監修/東アジア環境情報発伝所 編
発 行 元 集英社
 〒101-8050 東京都千代田区一ツ橋2-5-10
 TEL : 03-3230-6391
発 行 日 2006年1月22日
型番/ページ 新書(集英社新書0326B)/254ページ
価   格 700円(税別)


 「東アジア共同体」への指向が強まっている。2005年12月には東アジア首脳会議も開催された。この会議はASEAN(8ヵ国)に日本、韓国、中国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16ヵ国によるもので、これが「東アジア」ということになるが、域内貿易でみるとASEAN・日・韓・中・台湾・香港で、域内シェアは50 数%程度。60 %のEUに匹敵しそうな規模に拡大している。この拡大傾向はなお続くと見られている。域内貿易が拡大していることは、域内での物流が増加していることでもあり、そこでの生産活動、消費活動が活発化しているということだ。経済活動の活発さには人口増も大きな要因としてある。当然のことながら拡大する生産活動、消費活動、人口増に伴なう多様な環境負荷も大きくなっている。

 本書の監修者である寺西俊一さんは「経済面から見れば輝かしく躍進する東アジアの現実も環境面からみるならばいくつもの難題に直面している東アジアとしての様相をますます色濃くしつつある」と指摘し、東アジアの地域に地球環境問題をめぐる一連の問題群の縮図ともいうべき状況が凝縮的に示されているしている。また2006年1月にアジアの環境戦略に関する白書「持続可能なアジア:2005年とその後の将来」をまとめた地球環境戦略研究機関(IGES)も「アジアでは急速な経済発展が進むとともに人口増加も進行し、その結果引き起こされた環境汚染や破壊は深刻であり、このままではますます悪化することが予想される」(IGESニュースリリース)としている。 「環境共同体としての日中韓」はこうした拡大する経済・産業活動のもとで起きているさまざまな環境破壊・汚染を30項目にわたってコンパクトに報告、さらに「未来に向けた取り組みが始まった」(第5章)では環境NGOの躍進(中国)、清渓川復元(韓国)、など8件の活動を紹介している。その環境破壊・汚染は、まあ実に多様であり、あれもこれもといった状態。しかもそれらは単独での問題でもあるのだが、いくつかの問題が絡み合っているケースも少なくない。さらに同様のことが複数の地域で起こっていることがら(多発型)やその影響が国境を超えた広がりをもつ問題(広域型)など多彩でもある。取り組み面でいえば日本の経験が生かせるものもあるし、日本とは異なる深い根を持ったことがらもある。日本での活動に活かしたい韓国、中国の取り組みもある。それやこれやを考慮すれば、なによりもまずは環境問題に取り組んでいる多くの人々のネットワークが重要になるだろう。こうした問題でのネットワーク構築は、情報交換/交流にとどまらない。それぞれの活動が孤立していないということを意識しあうことの重要性が、これから一層増してきそうな気がするからだ。


尼崎など現場を取材から「国の不作為」を立証
30余年の行政の検証など「続編」も期待したい


書   名 『アスベスト禍-国家的不作為のツケ』
編   者 粟野仁雄
発 行 元 集英社
 〒101-8050 東京都千代田区一ツ橋2-5-10
 TEL : 03-3230-6391
発 行 日 2006年1月22日
型番/ページ 新書(集英社新書0324B)/222ページ
価   格 680円(税別)


 アスベスト問題は「複合型ストック公害」(宮本憲一)であるとされる。「アスベストの生産・製造・解体・廃棄過程の職業病・労働災害、周辺住民や労働者家族の公害、商品消費にともなう公害、そして廃棄物公害が複合化した社会的災害」(同、アスベスト問題=岩波ブックレット)であるからという。また日本では「工場にきわめて近い距離に居住地が存在してきたことを考慮すれば公害問題としてのアスベスト汚染は外国に例をみない形で顕在化する可能性があることは否定できない」(村山武彦、環境と公害=2005年秋)とも指摘されている。これまでに輸入されたアスベストは1000万トン(国内産は数10万トン程度)といわれ、このうち500〜600万トンが今も、建築構造物に存在している。アスベスト災害防止のために解体するにせよ、構造物の耐用年数切れで解体更新するにせよ、相当量のアスベストを的確に処理しなければならない。的確にといってもその処理における不安は容易に拭えそうにもない。「長期で不確実なリスク」(津田敏秀、朝日新聞=2005年9月)にどのように向かうかも大きな課題だ。

 紹介する「アスベスト禍」は、尼崎をはじめ各地の被害者や専門医などを丹念に取材した現場レポートでもある。そして現場報告を通じて国家の不作為(著者は国家的不作為と表現する)の「ツケ」を明らかにしていく。この本が緊急出版であるからなのか、国家の不作為あるいは行政の怠慢を突き詰めていくということからは、まだその入り口にいるのだが、アスベスト問題では行政が行ってきたことをこれまで以上にしっかりと検証することが必要で、1970年代からの30余年の行政を検証することを含めて、著者の続編への挑戦も期待したい。

 アスベスト問題では国家、行政の責任は当然重いが社会全体の責任もある。我々一人一人の責任も問われていい。まずは現在、なにがどのように起こっているのか、それはどういうことなのか。インターネットでの情報やアスベスト関連の書籍も増え始めている。まずは、今全国各地でどのようなことが起こっているのかを多様な報告、資料などから把握し、同時にアスベスト問題の深さを理解していきたい。併読をお薦めしたいのが「アスベスト汚染と健康被害」(森永謙二編著、日本評論社、2005年)と「アスベスト問題」(宮本憲一、川口清史、小幡範雄編、岩波ブックレッド、2006年)。有害化学物質削減ネットワーク(Tウオッチ)が2005年8月に行った緊急アスベスト学習会の報告も一読されては。


明快に示した有明海の環境汚染の原因
“開門”へ向けインパクトになり得る期待


書   名 『有明海の生態系再生をめざして』
編   者 日本海洋学会
発 行 元 恒星社厚生閣
 〒160-0008 東京都新宿区三栄町8
 TEL : 03-3359-7371 FAX :03-3359-7375
 [URL]http://www.kouseisya.com/
発 行 日 2005年9月15日
型番/ページ B5版260x180mm/211ページ
価   格 3,800円(税別)

 諫早湾締め切り・埋立は有明海生態系に如何なる影響を及ぼしたか。日本海洋学会海洋環境問題委員会の4年間にわたる調査・研究そしてシンポジウムでの議論を基礎に、有明海生態系の劣化を引き起こした環境要因を浮かび上がらせ・・・と、これは出版元のメッセージであるのだが、この報告書が潮受け堤防の撤去に向けた(まずは開門と言うことになるのだろうが)具体的な動きにインパクトを与えることを期待したい。諫早湾に限らず、内湾の干拓・埋立は素人目にも生態系に負荷を与えるものであることは明らかであるが、その環境負荷と干拓・埋立によるメリットとが秤にかけられて、埋立が選択されてきた。と思われる人も少なくないだろうが、実はそうしたトレードオフなどなく、環境への影響など言い訳程度の評価しかされずに、埋立事業は進んできた。とりわけ諫早湾については行政の事業実施への強硬姿勢が目立っていた。

 この本では有明海の物質循環と生物生産の特徴を明らかにし、諫早湾干拓事業をはじめとしたこれまでの開発行為がどのようなものであったのか、その結果として考えられる有明海の環境、生態系異変とその要因を分析して、生態系の再生案を提示している。とりわけ潮受け堤締め切りによって諫早湾の干潟・浅海域生態系が破壊され、水質浄化力が失われたため、水・底質が悪化して赤潮と貧酸素がひどくなったことを、具体的な調査研究結果として明らかにしたことは注目されよう。1989年からの諫早湾干拓事業が潮流の変化や調整池からの汚濁物質の負荷を与えたことによって、それまでの埋立やダム建設などの行為で劣化していた漁場環境の悪化をさらに強めた可能性が高いこともまた具体的に明らかになった。急がれる有明海の再生計画については当面の課題として「潮受け堤防の開門」を提案、開門によって期待される生態系の改善効果を示している。


11年目迎えた東大のテーマ講演「環境の世紀」のまとめ
“エコブーム”は環境問題の解決に貢献しているかに踏み込む


書   名 『エコブームを問う/東大生と学ぶ環境学』
編   者 東京大学環境三四郎「環境の世紀」編集プロジェクト
発 行 元 学芸出版社
 〒600-8216 京都市下京区木津屋橋通西洞院東入
 TEL : 075-343-0811 FAX : 075-343-0810
 [URL]http://www.gakugei-pub.jp/
発 行 日 2005年5月30日
型番/ページ 210x150mm/255ページ
価   格 2,200円(税別)

1993年、東京大学に「環境三四郎」という環境サークルが発足した。そのサークルの活動の一つがテーマ講義「環境の世紀」。責任教員とサークルメンバーが共同で企画運営し、毎年夏学期に1、2年生を対象とした選択科目として10年以上続いている人気の講義だという。11年目に当たる2004年に行われた講義を編集したのがこの本で、2004年のメインテーマは「エコブームを問う」。エコブームは環境問題の解決に貢献しているのだろうかとの疑問をベースに、環境問題に対しての「多角的視点を獲得する必要性の認識」を共有しようとの狙い。2004年の講義でその目的がどの程度達成できたのかはともかく、「予防原則と世代間倫理」(村上陽一郎)、「ビジョン2050と知識の構造化」(小宮山宏)など興味深い13の講義が並んだ。講義の構成は@我々は環境問題の捉え方を間違えていないか? A工学と技術は環境問題を本当に解決しているのか? B環境問題の現場では何が起こっているのか? C環境学を学ぶ人たちへ―に分類されている。もとより教育の現場での講義であり、そこには環境教育の視点もある。その環境教育で今最も重視しなければならないであろうと思われるのが、ものごと(ここでは環境問題といわれることがら)に対する冷静な視点と、そこにある(存在している)であろう背景としての多様なできごとを連携させて考える思考力を高めることだ。「環境学」というものについての様々な指摘、例えば「学」としてはたかだか20〜30年のものでしかなく、「学」としての体系つくりを、といった意見などがあることも踏まえるならば、何よりも「環境」という言葉がもつイメージへの切り込みも重要になる。まさにそのことからいえるのが「エコブーム」の解析であるのではないだろうか。第1講義で廣野喜幸東京大学大学院総合文化研究科助教授の「クリティーク(批判・吟味)という知的作業ができるようになってほしい」という学生へのメッセージには全く同感する。さらに最終講義における山下英俊一橋大学大学院経済学研究科専任講師の「東大に環境学は可能か?」で触れられている故飯島伸子さんや西村肇さん、宇井純さんなどの生き方を、その人たちの著作などを通じて読み取りたいものだ。

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