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【Action】
各地で水汚染が深刻化。早急な支援必要
=第3回中国環境問題研究会開く=
急速な経済発展と環境対策の乖離深まる
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聴衆者の質問が相次ぎ、活発に議論された
=東京・赤坂のジェトロ会館で |
中国環境問題研究会の2005年第3回会議が9月1日、東京・赤坂のジェトロ会館で開かれた。11月26日に上海で開かれる「第3回環境被害救済(環境紛争処理)日中国際ワークショップ」(上海WS)の勉強会を兼ねて開かれたもので、5人の研究者が最新の研究結果を発表した。
それぞれの発表に関連性はないものの、共通していることは水を中心にした中国の汚染度が著しく悪化しており、中国側自身の対応が必要な事はもちろんだが、日本側としてどのような協力の余地があるか、前向きに検討する必要があるとの提案も行われた。
各発表の要約次の通り。
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□淮河流域における水汚染被害の状況―2005年7月現地調査報告―
>大塚健司(アジア経済研究所) |
対中投資は資金だけでなく専門家の知見必要 |
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ガン患者への家族の介護
風景には声が出なかったと
語った大塚さん |
・ 今回の調査は2005年7月23日、上海から鄭州に飛び、さらにタクシーで3時間あまり走って周口市沈丘県槐店回族鎮に入り、旧知の淮河衛士代表の霍岱珊氏と再会。24日は午前に黄孟栄村、陳口村を訪れ、午後に東孫楼村、さらに隣村の解庄村でガン患者を訪れた。さらに25日は項城市の蓮花集団と丁集鎮の綿羊皮革の二つの企業を訪問し、蓮花集団の廃液垂れ流しの現場を案内してもらったり、皮革生産基地を見学した。
・ いくつかのことが気になった。初めて訪ねた解庄村は深井戸やろ過装置などがまったくなく、消化器系のガンの多発や死亡といった深刻な健康被害と遭遇した。
・ 一方、東孫楼では各家庭に飲み水のろ過装置が設置され、黄孟栄村では深井戸を水源とする簡易水道が敷かれるなど、より安全で清浄な水の供給が進んでいた。医師によると、感染病の発症は明らかに減ったという。
・ 農村における医療体制の不備が総じて目立った。健康診断なども一部の裕福な層に限られていた。河川の汚染、疾病との関係の入念な調査が必要だ。国内外からの支援はより必要だが、単なる資金的支援でなく、専門家の関与・参画が求められている。
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ガンが多発している黄孟営村にて、深さ38メートルの井戸水を汲み上げる。臭いをかぐだけで吐き気がする。簡易水道ができるまで村人たちはこれを常用していた。 |
黄孟営村にて県政府と郷政府が90万元(計画段階)支出して深井戸の簡易水道が整備された。水道代は1tあたり1元。2004年9月に完成。 |
隠し配管から垂れ流されている工場廃液を採取する環境NGOの霍さん |
=いずれも大塚さん撮影 |
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□CLAPVによる訴訟支援の動向―福建の事件を中心に―
>櫻井次郎(名古屋大学) |
公害訴訟支援に成果あったが限界も感じた |
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訴訟代表になった医師は
資格を剥奪されるなどの
いやがらせを受けたことを
明らかにした櫻井さん |
・ここでいう福建省屏南県訴訟とは屏南県(人口18万人)の1721名の住民が農作物被害と精神的苦痛による訴えを起した事例を言い、被告は塩酸カリウム、塩酸ナトリウムなどを生産している榕屏聯営化学工場で、排水中のクロムや排ガス中の塩素、廃棄物中のクロムが汚染物質となった。工場周辺の孟宗竹やさらに広範囲の樹木が枯れ、その上に火力発電所が増設、稼働したことで汚染被害が激化した。
・2002年3月に住民はCLAPV(中国政法大学汚染被害者法律援助センター)へ相談し、8ヵ月の準備期間を経て提訴した。1回目は2005年1月に寧徳市中級人民法院が和解を勧めたが、補償金の開きが大きく不成立となり、同年4月に第一審判決が出たが、原告、被告とも上訴した。そして8月に福建省高級人民法院で第二審の審理が開始され、法院は和解を勧めたが、やはり補償金の開きが大きく不成立となっている。
・これらの経過を見ると、CLAPVの支援の成果と限界が感じられる。汚染被害者の一定の救済や汚染状況の緩和という面では効果はあったが、法官の教育、現地の証拠収集などの改善の要や、訴訟代表になった人への地元政府の干渉やいやがらせなどがあり、結果的に個人の生活を圧迫したりしている。 |
□中国における水問題の現状と上下水道セクターの課題
>長瀬 誠(東アジア総合研究所)
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広がりつつある経済発展と環境対策のギャップ |
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計画の遅れと汚染の進行
のアンバランスが気になる
という長瀬さん |
・中国の「水」問題は、途上国型水問題と先進国型水問題が並存していること、市場経済の進展と残存する計画経済システム、さらには相対的に遅れた内陸と進んだ沿岸地域の格差などの二面性をもっている。
・このため、政府は(1)節水・リサイクル、汚水排出規制、処理率向上 (2)価格改革などの制度改革の必要性 (3)資金・技術不足を補う民間・外資導入の重視などの課題を抱えているが、それらへの各対策は必ずしもスムーズに進んでいない。
・一方、水汚染は明らかに進行しているが、いろいろ手は打っているものの、生活廃水や工業廃水が未処理のまま流されたり、急速な経済発展に追いつかず、汚水対策は遅れているのが現状だ。
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□中国における「循環経済」とリサイクル
>小島道一(アジア経済研究所)
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電子機器廃棄物の処理、低コストの方法に流れる |
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日中間の認識のレベル合
わせが必要不可欠と言う
小島さん |
・ 2004年11月〜12月にかけて広東省汕頭市貴嶼鎮の電子廃棄物のリサイクル現地調査を行った。
貴嶼鎮にはいぜんとして電子機器の廃棄物が集まってきていた。
・ 基盤焼きが盛んな地域で、日本からきた(メーカー名が入っているので分る)コンピュータ、携帯電話、パチンコ台なども見られた。
・ ある地区ではコークスなどで基盤をあぶり、ICチップやハンダを取る作業が行われ、5〜10人が働く作業場が100軒以上並び、中古のチップを売る店もいくつか並んでいた。また、酸を使って貴金属などを回収する工程は町中でなく、川沿いで行われ、残さが野積みになっていた。
・ 一方で米モトローラ社と提携したリサイクル工場があり、環境対策を施している電子・電気廃棄物の解体工場も出来ているが、肝心の廃品が集まってきていない。その原因は「コストが高いから」に尽きるようだ。
・ 日本の経済産業省の委託事業で、「中日における循環経済と省エネに関するワークショップ」が1月に北京で、3月に東京で行われ、ともに参加したが、日本では「循環」というと廃棄物のリサイクルというイメージがまず浮かぶが、中国の循環経済では省エネや節水の優先順位がリサイクルよりも高いというのが現状で、今後もこのようなレベル合わせというか、共通の認識の共有がプロジェクトを効率的に進める上で必要だ。
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□中国におけるクリーン開発メカニズムおよび
2013年以降の枠組みに関する議論の動向
>明日香壽川(東北大 東北アジア研究センター)
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大きい温暖化対策のカギ握る中国 |
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克服すべき課題は多いが
キーは中国が握ると見る
明日香さん |
・ 温暖化問題における中国の占める割合と果す役割は大きい―ということで考えると、今後の中国のこの問題に対する政策、動向から目が離せない。
・ 中国のCO2の排出量、クリーン開発メカニズム(CDM)市場規模、カーボン・クレジット発生量に対する予測は様々だが、いずれも中国がカーボン市場の需給、地球全体の温暖化対策という二つの意味で大きな役割を担う事が分る。
・ このような重要性を重視して、現在、世銀、アジア開銀(ADB)、国連開発計画(UNDP)の公的機関やドイツ、イギリス、スイス、ノルウェー、イタリア、カナダ、日本などが国ベースでCDMに関する様々なプロジェクトを中国で展開している。
・ 中国のポテンシャルの大きさから多くの“買い手”を引き付けているが、それだけに課題も多い。すなわち、(1)国内制度の整備 (2)クレジット価格への政府介入の程度の見極め (3)環境エネルギー政策との調整や整合性などを初めとする多くの課題の解決が求められる。
・そして、この問題は「公平性」という倫理的問題になるので、それが十分に取り入れられないと、中国を含めて、先進国が望むような途上国の「参加」は望めまい。
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*中国環境問題研究会
中国の環境問題研究に関わる有志からなる研究グループ。2003年3月に第1回研究会を開催した。2004年12月には『中国環境ハンドブック2005−2006』を出版した。
http://www.ethinkpub.net/groupchina/ |