水俣市山間部の産廃処分場計画に53人の有識者が反対声明

“環境大臣・県知事・市長は反対の意思表示を”

=宇井純・土本典昭さん、環境省に申し入れ=


国内最大規模の産廃最終処分場が水俣市の山間部に建設される計画に対し、「このままでは水俣病の教訓が活かされない。この問題を広く世の中に知らしめたい」として、沖縄大学名誉教授の宇井純さん、記録映画監督の土本典昭さんら53名の研究者・表現者が連名で「水俣市山間部の産廃最終処分場建設反対を求める声明」を2005年6月24日発表、同時に環境大臣、熊本県知事、水俣市長の各行政責任者に「それぞれの役割において建設計画に明確な反対の意思表示をするよう」求めた。両氏がよびかけに各界の53人が賛同、この日のアピールになった。

この日はまず環境省記者クラブで宇井純、土本典昭さんが記者会見、声明文を公表した。
会見では、土本さんが「水俣病に関わってきて40年になるが、昨年春頃から当初はゴルフ場の用地として丸ごと買われていた土地が日本でも有数の規模の産廃処理場になるらしいという話を聞き、ひっかっかっていた。それが噂でなく本当の話だと知り、来年は水俣病発見50年という節目に、こともあろうになぜ産廃処理場が? という気持が強い。ご承知のように、水俣はすでにゴミを20数種類に分別しており、その水準は全国でもトップレベルにある。しかも計画では水俣の産廃処理量は0.5か1%程度で、あとは県内のものが70%、他県からのものが30%だという。水俣病であんなに辛酸をなめ、いまなお後遺症に悩まされている人がいるのに一体何を考えているのかという思いだ。その上、水俣市長はこの計画に「権限がない。中立だ」と言っている。これは容認につながりかねない。
東京にいると、この話しはほとんど伝えられていないことに気づき、これまで研究とか表現などで何らかの形で「水俣」に関わってきた我々が立ち上がらなければならないと思い、広く呼びかけていきたい」と、今回の声明に至った経過と思い入れを説明した。

この計画は断じて許されないと53人の連名の声明文を発表した
続いて、宇井さんが「流れとしては臨海部の埋立てによる処理場が満杯に近くなってきたため、建設地が山間部に及んできたということだが、技術屋の立場からすれば“安定型”にしろ“管理型”にしろ、完全でなく、全国的に汚染という問題を起している。そういう状況なのに、よりによって湯出(ゆのつる)の上流に最大規模の最終処理場を作るなどということはいくらなんでも無理だ。水道の水源近くに作るシロモノではない。これまでアセスメントをやって計画が否決された例はごく一部を除いてない。許認可権は知事がもっているが、アセスが行なわれてから止めることはほぼできまい。したがって計画段階で止めるしかないと考える。そのためには全国に広く知ってもらい、この計画を反古にしたい。しかし、“ではどこに作れば良いのか”という議論が必ず出てくるので、これをキチンと議論する必要がある。また、環境省として今後この種のアセスメントのやり方を変えるのか? などもこの際問うていきたい」と、技術者・研究者の見地から、この計画への反対意向を表明した。


水俣市山間部の産廃最終処分場建設への反対を

環境大臣・熊本県知事・水俣市長に求める声明

 「水俣市の山間部に、九州一円の産業廃棄物を集める最終処分場が計画されている」と聞き、私たちは驚きを抑えることができません。場所は湯の鶴温泉の近くで、水俣市や津奈木町・御所浦町の水源上流。完成後は全国でも最大規模の処分場になるとのこと。すでにIWD東亜熊本が事業用地総面積95ヘクタール(水俣湾埋立地面積の2倍)を取得、アセスメント手続きに入っていると聞きます。
 しかし、チッソ水俣工場のアセトアルデヒド工程からの排水という産業廃棄物が、公式発見から50年を迎えんとする今も不知火海沿岸の住民を苦しめていることは言うまでもありません。水俣湾の漁業も復興途上で、ひとたび汚染・破壊された自然や生命環境が復元困難なことを、水俣の地はその存在をもって世に警告し続けています。本来、水俣の海と山は水俣病の受難と教訓を伝える貴重な場として、まるごと保全されるべきものです。
 そして、水銀毒を一手に背負い、水俣病と闘い、更に生活廃棄物の分別リサイクルにも全国有数の実績を挙げている水俣の人びとに、このうえ外からの汚染負担を強いることは、人道上の大問題でもあります。
 すでに水俣市議会も反対意見で固まり、市民の圧倒的多数もこれに反対とのことですが、この問題への憂慮は水俣市民のみにとどまりません。私達は、水俣に心を寄せる全国の人々にこの事態を伝えていきますが、この計画を容認する為政者はその政治姿勢が後の世までも問われ続けることは必至です。
 問題は、手続きの当否や技術的修正などではありません。私達は、環境をこれ以上損なわさせないことは「水俣の憲法」ではないかとの地元の声に共感し、反対する市民や患者の皆さんに心からの敬意を表します。そして、水俣に心を寄せる者として、また研究・表現などを通じて水俣病に関わってきた立場から、この大規模産廃処分場の建設に強く反対するものであることをここに声明します。
 同時に、行政の各責任者におかれても、反対の意思を明示されるよう訴えます。


一、 水俣市長は、事業認可の当事者でないからと傍観するのでなく、地元首長として
反対の意思を強く鮮明にし、住民や市議会と歩を一にされるよう求めます。
一、 熊本県知事は、アセスメントとその先での事業認可の権限者ですが、アセスの手続きを経て既成事実が積み重なってからでは取り返しがつかないおそれがあります。大所高所から、早い段階での事業撤退勧告をなされるよう求めます。
一、 環境大臣は、水俣病の教訓を生かすと述べ、地域の融和と再生を謳われる以上、この建設を放置することはできないはずです。水俣病50 年を意義あるものとするためにも、この問題についての明確な見解表明を求めます。

2005年6月24日
アイリーン・美緒子・スミス(環境ジャーナリスト)、芥川仁(写真家)、有馬澄雄(「水俣病研究」編集責任者)、石田雄(政治学研究者)、石牟礼道子(作家)、色川大吉(歴史家)、宇井純(元東大助手)、内田雄造(東洋大学工学部教員)、永六輔、 岡本達明(元チッソ第一組合委員長)、鎌田慧(ルポライター)、川名英之(環境ジャーナリスト)、北村小夜(障害児を普通学級へ・全国連絡会世話人)、喜納昌吉(歌手・参議院議員)、久保田好生(季刊「水俣支援」編集部)、栗原彬(明治大学教授)、桑原史成(写真家)、河野裕昭(写真家)、小林茂(ドキュメンタリー映画監督・撮影)、小林繁(明治大学教授)、最首悟(和光大学教員)、佐藤真(ドキュメンタリー映画監督)、澤地久枝(作家)、塩田武史(写真家)、実川悠太(水俣フォーラム事務局長)、高橋ユリカ(ルポライター)、田嶋いづみ(「水俣」を子どもたちに伝えるネットワーク)、田中泰雄(弁護士)、土本典昭(記録映画作家)、司加人(フリージャーナリスト)、鶴見和子(上智大学名誉教授)、富樫貞夫(熊本学園大学教授)、時枝俊江(記録映画作家)、錦織淳(弁護士)、西山正啓(記録映画作家)、旗野秀人(新潟水俣病・安田患者の会事務局)、林洋子(俳優・クランボンの会主宰)、原田正純(医師)、日高六郎(作家・社会学者)、堀 傑(東京・水俣病を告発する会)、松岡洋之助(フリー・ディレクター)、三浦洋(阪南中央病院 院長)、宮河伸行(劇団員)、宮沢信雄(水俣病事件研究者)、宮本成美(写真家)、本橋成一(ドキュメンタリー映画監督・写真家)、森永都子(文筆業)、山口正紀(人権と報道連絡会・世話人)、山田真(小児科医師)、山之内萩子(水俣病研究者)、横田憲一(チッソ水俣病関西訴訟を支える会)、若槻菊枝(画家)、渡辺京二(著述業)
記者の質問に答える土本さん(左)と宇井さん


=環境省、「声明文読み検討する」=
横矢室長(右)に「環境省も反対の意思表示を」と迫った
=写真はいずれも2005年6月24日、東京・霞が関の環境省で

記者会見の後、宇井さん、土本さんは大臣官房政策評価広報課を訪れ、横矢重中・環境対策調査室長に面談、声明文を渡し、環境省としてもこの計画に反対の意思表示をしてほしいと要請した。
これに対し、横矢室長は「声明文を拝見し、しっかり検討したい」と答えた。

“反対の輪 全国的に広げ、強力な外圧かけよう”

=事務局、さらなる賛同者を募る=

今回の声明文集約の事務局を務めた「東京・水俣病を告発する会」はこの日、東京・文京区の事務所で今後の戦略会議を開き、今回は有識者53名の賛同を受け、連名の声明文を発表したが、この動きは水俣を中心にした一部地域にしか伝わらないまま計画が進行してしまう危険性があると判断、今後はより広く反対への動きを広めるために、多くの人たちの「反対の意思表示」を集めることを決め、呼びかけを展開する。
同会の久保田好生氏は「8月いっぱいをメドに第2次の賛同名集約を行ない、秋に再び対外的に公表したい。声明にに賛同していただけるひとは下記あてにFAXまたはE-mailで連絡して欲しい」としている。
*連絡先*
東京・水俣病を告発する会
〒113−0024 東京都文京区西片1−17−4 ハイツ西片202
FAX 03−3814−5639  E-mail:y-kbt@nifty.com
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