【レポート】
「第7回有明海・不知火海フォーラム in 天草」

安田本渡市長も「有効な意見交換に期待」

2004年7月31日/8月1日の2日間、本渡市で開催された「第7回有明海・不知火海フォーラムin天草」について事務局長の生駒研二さんがまとめた「事業報告書」から要旨を抜粋したものを紹介する。
                                                          =文責・編集部



1日目の参加者は約200人。講師の話に熱心に耳を傾けた
《プログラム》
□1日目(7月31日)
・開会式(13時〜13時20分)  
  開会あいさつ………………寺崎幸男実行委員長
  歓迎の海のメドレー……… 〈ティンクルズ:大正琴〉
  来賓あいさつ………………安田公寛本渡市長
・講演1(13時20分〜14時00分)………………堤 裕昭
・講演2(14時00分〜14時40分)………………佐々木克久
・諫早の現地からの報告(14時40分〜14時50分)………大島弘三
・質問・休憩(14時50分〜15時20分)
・講演3(15時20分〜16時00分)………………宇井 純
・意見交換(16時〜17時)
・夕食交流会:本館1階(19時〜21時)
 
フォーラム開始前に会場脇の本渡干潟はその姿を見せていなかったが
□2日目(8月1日)
・公開討論会(9時〜12時)  
  特別報告1………………「諫早訴訟の状況」  堀 良一(弁護団事務局長)
  特別報告2………………「川辺川ダム問題」  松野信夫(衆議院議員)
  【公開討論会】  コーディネーター/生駒研二
    前田 力(荒尾のノリ漁師)
    古川清久(佐賀の公務員)
    つる詳子(八代の薬剤師)
    吉田耕一(芦北の元美術教師)
    田辺達也(八代の印刷所経営・河童共和国)
    北垣 潮(龍ヶ岳の漁師)
・次回開催地代表あいさつ(12時00分〜12時03分)………柳川(井上)
・アピール採択(12時03分〜12時06分)……………………中川みどり   
・閉会あいさつ(12時06分〜12時10分)……………………海秀道副実行委員長

実りある議論に期待すると、休日返上で駆け付け支援のエールを送った安田・本渡市長
《主な概要》
□1日目
寺崎実行委員長の力強い挨拶の後、〈ティンクルズ〉の大正琴による海のメドレーで開幕。開催支援を受けた本渡市の安田公寛市長が来賓挨拶で、本集会に寄せる期待が語られた。
フロアーからの質問に実例を上げ丁寧に答える堤さん
堤講師:有明海の赤潮、諫早湾干拓による潮流変化の影響大

堤先生の講演では、有明海異変の原因を短期調査の結果をもとにわかりやすく説明いただいた。有明海の赤潮は、近年富栄養化が進行していないにもかかわらず発生しており、諫早湾干拓による潮流変化の影響が大きいと明確に指摘された。
3講師への質問は突っ込んだものが多く、講師の佐々木さん(中央)も率直な答弁をした
佐々木講師:なぜ農水省は中期調査をしないのか疑問

佐々木先生は、「ノリ生産量の変化や赤潮発生状況から、堤防閉め切り後に有明海の環境変化したのは明らかだ」と訴えられた。また、短期調査その他の調査で、有明海異変の原因は農水省も諫早湾の閉め切りであることを知っているために、中長期調査をしないのではないだろうかと問題提起され、農水省の調査能力を認めながらも、問題点を隠し、抜本的解決を図ろうとしないその姿勢のおかしさを指摘された。さらに、これまでほとんど調査された事のない不知火海の問題点を、漁民からの聞取りを中心に話された。今後の専門家による調査が求められていると感じた。
休憩時にも控室で安田市長(中央)と意見交換が。環境NGOの植村さん(左)と講師の宇井さん(右)
宇井講師:自然破壊する公共事業がストップしないのは止める側にも問題

宇井先生の講演は、自然を破壊するような公共事業がなぜストップしないのか。それは進める側だけの問題ではなく、止める側にも問題点があったのではないか。ピラミッド型の組織に依存した運動は、芸術化が死に物狂いで自分の思いを表現するように、死に物狂いで阻止しようと言うものは少なく、トップを懐柔恫喝することで、簡単に切り崩された。ただネットワーク型の運動は、たとえ一部がやられても、全体の運動にはさほど影響を与えず、再び修復しながら粘り強く続いていった。このネットワーク型の運動こそ、これからも我々が構築すべき運動スタイルである。さらに、海の問題を海側からだけでなく、陸側から見る視点の重要性を指摘され。様々な汚染物質を出す、人間の生活スタイルをどう改めるか、し尿処理ひとつとっても、昔の人々は自分たちの出すものを、完全に循環させていた。いつから人間は自分の出すし尿を汚いものとするようになったのか。もう一度原点に返って、し尿の循環からでも考えていったらどうかとの提案を受けた。

講演を受けての意見交換が終わり、1日目のフォーラムは終了した。心配した入場者も、約200名となりまあまあの入りに少し安心した。交流会は7時から。花火大会は中止となり最高の舞台設定ではなくなった。しかし、それで会場の設営変更がなくなり、スタッフとしては助かった。潮湯にも入ることができ、スキッとした気分で交流会に望むことができた。
交流会は全体でみんなの紹介とそれぞれの思いを交流でき、良かったと思う。




宇井さんは次の予定のため中座するにあたって“提案”を行った
□2日目
2日目は、今日の午後から大分県中津市で行われる松下竜一さんのお別れ会に参加されるためすぐに退席される、宇井先生の挨拶から始まった。
「松下竜一さんのお別れ会に行かなければなりませんので、一言述べて出発したいと思います。運動は宝だと思います。無駄のように見えても次の時代を動かしていく。でも運動だけではなく、松下さんもそうであったが、自分の思いをどう伝えるか、表現を工夫することが大事です。そういう意味で梅原先生が昨年来られたのは、大きな一歩でしょう。
科学的データの重要性はもちろんです。堤先生や佐々木先生の報告にあったように。しかし調査には膨大なお金がかかります。ここで提案ですが文部科学省に対して、研究費の助成を要求したらどうでしょう。
また、先日清野聡子さんとお会いしましたが、そのとき教えられた【海岸保全法基本計画】はチャンスだと思います。大学改革もチャンスです。国立大学を国家鎮護の大学から、私たちの側に立つ大学に変えるチャンスです。
最後にもう一度言います。ボヤーとしたネットワークがいいのです。どこからともなくヒタヒタと押し寄せるものが本当に怖いのです。さらに、横へどう広げるのか考えましょう。芸術家並みの表現を、私たちも求めなければならないのです」
短いが、感動的な話だった。

松野講師:川辺川ダムの事業費の肥大は公共事業の典型だ

特別報告は2本。松野代議士から「川辺川ダムの問題についての国の動き」と、堀弁護士からの「国営諫早湾干拓事業の工事差し止め仮処分申請」に対する裁判の状況である。
川辺川ダム問題では、(1)ダム事業本体を止めさせる運動と (2)ダムの利水事業を止めさせる運動があり、(2)では昨年5月16日の福岡高裁での勝訴判決が出た。(1)では【ダム事業本体を止めさせる運動】【熊本県土地収用委員会における闘い】【住民討論集会における闘い】の三つの運動があるが、地元自治体との共闘が重要であると指摘された。さらに、ダム事業費は当初計画から何倍にも膨れ上がっているのが現実で、「小さく産んで大きく育てる」公共事業の典型がここにあると強調された。「まさにそのとおり」と私たちが本当に実感するのにそんなに時間はかからなかった。8月6日、国土交通省が川辺川ダム事業費の大幅な増額を試算していたことが、松野代議士らの尽力で明らかになったのだ。1976年当時の350億円から、1998年の基本計画変更で2650億円に跳ね上がった事業費は、国土交通省九州地方整備局が作成した資料では、2005年度には3300億円を見込むとなっていたのだ。いよいよ川辺川ダムは、建設阻止へ向けて大きく前進したと言える。

堀講師:「諫早湾干拓事業の工事差し止め仮処分は勝利しよう

「国営諫早湾干拓事業の工事差し止め仮処分申請」に関しては、「国の巻き返しで、決定が延びているが、我々が勝つだろう」と堀弁護士は強い自信を見せた。そしてその言葉が現実となった。8月26日、佐賀地裁は、熊本など沿岸4県の漁業者が申し立てた国営諫早湾干拓事業の工事差し止めを求める仮処分申請を認め、「一審判決まで工事の続行を禁じる」決定を下したのだ。進行中の国の巨大公共事業を止める、初めての司法判断となったのだ。榎下義康裁判長は決定理由で、漁獲量の減少などの漁業被害を認定した上で、国が設置したノリ不作等検討委員会が「干拓事業は諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えている」とした見解を「極めて信頼に値する」と重視。「干拓事業が有明海で生じた漁業被害の唯一とまではいえないが、一定程度の因果関係は認められる」と断じた。また干拓事業と漁業被害の因果関係の立証については、「漁業者らと国の間には資料収集能力などで差があり、この能力差を無視して漁業者側に高度の立証を求めるのは不公平だ」と指摘し、「国自らが設置したノリ不作等検討委員会が提言した中・長期開門調査を行っていない」として、これまでの農水省の対応を厳しく批判した。ここでもいよいよ閉め切り堤の開門に向けての大きな一歩が踏み出された。

前夜の交流会でも前田さんは熱く訴えた
前田さん:ノリの不作・色落ちの原因は明らかにギロチン

フォーラム(公開討論会)は、6名の方々の報告から始まった。
荒尾のノリ漁師の前田力さんは「ノリ養殖の漁師で5代目です。閉め切り工事が始まってからタイラギが獲れなくなっていたが、閉めきられてノリも獲れなくなった。色落ちして閉め切り堤に行ったとき、7kmの堤防は限界を超えていると感じた」と、苦しい生活の中で自殺していく仲間の無念さを思いながら語られた。潮受け堤防の閉め切り以後、潮流が変わり、諫早湾周辺の海水がよどむようになった。西からの風が吹けばそれが対岸の荒尾まで直接流れてくる。中・長期開門調査をしようとしない農水省に対して強い憤りを感じ、【国営諫早湾干拓事業の工事差し止めを求める仮処分】の申請をされている。

古川さん:有明海の汚染、山の変化にも大きな原因

佐賀の自治体職員の古川清久さんは「インターネットで有明海の状況を紹介している。有明海の現在起きているノリ問題の原因の6割は、諫早干拓がもたらしたものだと考えている。次に大きな原因が、ダムと杉・桧に変わった山にある」と語られた。ダムによって砂の供給はストップし、かわりに泥を流している。杉・桧に変えられた山は、手入れも行き届かず、下草が十分生えないので、雨が降ると泥が流れてしまう。昔の広葉樹の多い雑木林であったなら、水はジワーと地下に浸透し、地下水が豊かになり、ミネラルを含んだ水は海も豊かにしてくれると説明される。

北垣さん:ミカン不況での農薬使用減りアマモ増える

天草は竜ヶ岳の漁師の北垣潮さんは、不知火海で鰯漁をしておられる。このままでは不知火海がダメになると、町議選にも出馬されトップ当選された。「川辺川の水は不知火海に流れ込んでいる。川辺川ダムができると不知火海もダメになると、ダム反対の人と東京に行ってから私は本気になった。有明海沿岸の人が諫早湾を有明海の子宮だと言われたが、球磨川が流れ込む河口一帯が、不知火海では一番大事なところです。ところが、大築島の周囲は常に赤潮が発生しています。大型船が通る航路部分が深く掘られ、貧酸素状態になっているのではないでしょうか」と、天草の海岸線の無残な状況も説明しながら訴えられた。だが、「ミカンがダメになり農薬が少なくなったのか、アマモが増えている」と嬉しい報告もされた。

吉田さん:描きたかった絵は球磨川のダムに邪魔された

不知火海に望む芦北町の吉田幸一さんは、退職して好きな絵を画きたいと思われていたが、海辺から生き生きとした人の姿がなくなり、途方にくれておられる。船も動かず、人も動かない浜は、私の描きたかったものではないと。そして、2001年6月19日に発生した赤潮を目撃してから、不知火海汚染の最大の元凶は球磨川に設置されたダムであると強調される。「この年だけ肥料や農薬を増やしたのではない、この年だけ生活雑排水は増えたのではない。この年だけ、球磨川にかかるいくつかのダムが降り続く雨に耐えられず、放流水を増やしたのだけは事実である」と。

つるさん:不知火海の状況は有明海より深刻だ

つる詳子さんは八代で薬局店を開く薬剤師さんだ。永く環境問題に取り組み、現在は川辺川ダム問題で東奔西走されている。八代市会議員にもみんなから推されて当選されたばかりだ。つるさんは「球磨川漁協の組合員が1800名から2400名へ増加した。土建業者が会社ぐるみで組合員になっている。漁業をしない人間によって、球磨川はダメにさせられようとしている。荒瀬ダムの建設から50年。不知火海も傷めつづけられてきた。有明海よりも不知火海が深刻な状況だ。かっては700軒もあったアサクサノリの養殖業者は今はひとつもない。アサリ・クルマエビ・ウノガイ・アユ・ウナギ・テナガエビも獲れなくなった」と嘆かれる。

田辺さん:大築島の埋立問題に大いに憤る

八代の河童共和国の官房長官でもある田辺達也さんは、大築島の埋立問題を憤りを持って語られた。「川辺川ダムに反対と言いながら、八代の市長も漁協も市民団体も大築島の問題になると、推進したり、同意したり、だんまりを決め込む。天草から問題点を指摘されながら、地元である八代では何の動きもない。これは強権と秘密主義で八代市民には真実が伝えられず、置き去りにされているからだ」と訴えられ、大築島周辺が県の調査によっても不知火海で最も藻場の豊かな場所で、そこをだめにしても人工藻場を作ればいいとする県や市の姿勢を糾弾された。
 この後、会場の参加者も交え、意見交換を行ィフォーラムを終了した。
3時間ほどで見事な干潟が現われ、貴重な姿を目の当たりにした
次回開催は柳川に決定

閉会行事では、次回開催地に決まった柳川の井上さんから挨拶があった。アピールは地元天草の中川みどりさんが読み上げて採択された。そして地元実行委員会の副代表:海秀道さんの閉会挨拶で終了した。2日目は約100人の参加であった。


フォーラムでの提案生かし、県への要請などフォロー
《フォーラム後の動き》
生駒さんは、フォーラム後の動きについても触れ、フォーラムで出された幾つかの意見や提案をフォローした。その主なものは次の通り。


◇ 熊本県へのアピール文送付と、意見交換会
熊本県の潮谷知事あてに、平野みどり県議を通してアピール文を送付し、会見の場の設定を申し入れた。熊本県は、環境課・自然保護課・港湾課・水産課の4課が対応され、8月19日(木)午後1時から、約1時間強の時間を設定していただいた。当日は、諫早の大島さん・鹿島の谷口さん、八代のつるさん・田辺さん、芦北の吉田さん、天草から寺崎・鳥山・北垣・玉木・生駒など計11名が参加した。間に、渡辺県議にはいっていただいた。結局2時間30分にわたり、意見交換を行った。不知火海関係の参加者が多かったので、大築島の問題に多くの意見が出た。結局、今日出た問題点をまとめ、港湾課に提出することになった。まとめは田辺さんにお願いした。田辺さんからはすぐにまとめた文案が送られてきた。
  1. また、熊本県が計画する様々な事業に関して、情報が手に入りにくいので、どのような事業や情報があるか、環境課でまとめ、公表していただく事となった。
  2. 県の関係各課の皆様には真摯に対応していただき、ありがたかった。本当の意味でのパートナーシップをとるために、私たちもさらに勉強し、有明海・不知火海を再び生命湧く豊かな海にするために、懸命にならねばと思った。
◇ 文部科学省への要請文
宇井先生の提案を受け、脇副実行委員長を中心に案文をまとめることになった。すぐに脇案がメールで伝えられ、意見を求めた。この要請に佐々木先生から追加の提案があり、検討中である。

◇ 海岸保全基本計画策定の天草での説明会(公聴会)
フォーラムが終わった2日後の8月3日、本渡市の県天草地域振興局で、改正海岸法に基づく海岸保全計画の策定に向けた住民説明会が開かれた。
住民説明会>※ 業務連絡※ フォト・レポの該当部分へリンク。

フォーラムでの宇井先生の話や、松本基督さんからの説明会の案内などもあり、天草の自然を天草の自然を護る会のメンバーも多数参加することができた。この中で「説明会ではなく公聴会を開き、住民の意見をはっきり記録に残すべき」「説明会の開催案内や意見募集期間が短く、この会自体を知らない人が多いし、意見をまとめる時間もない」「学識経験者らでつくる計画検討委員会に住民や漁業者らを加えるべき」「住民の意見を聞く場を今後も設けてほしい」などの意見が相次いだ。7時から始まった説明会は12時近くまでなり、もう一度開くことで一旦終了した。
この説明会は、熊本県下3会場で開かれ、玉名地域振興局では7月30日、八代地域振興局では8月2日にすでに済んでおり、天草だけの公聴会としての再会であった。
2回目は、正式に公聴会として8月11日に開かれた。ここでも、多くの意見が出、住民側からこれまでの海岸工事の問題点をスライドで説明する場面もあり、夜遅くまで今後の取り組みについて話し合いが行われた。

◇ 大築島周辺埋立事業、芦北3郡熊本県に見直し要望
芦北郡の田浦、芦北、津奈木の三町で作る町村会と議長会は8月4日、合同会議を開き、大築島周辺の埋立事業について現地を視察した上、代替地の検討などを熊本県に要望していくことを決定した。3町漁協の組合長が町村会に対して先月下旬に提出した「工事の概要と影響を調査し、不知火海の環境を守ってほしい」とした要望書に基づいて対応を協議した結果である。同事業では大築島の北側で2001年に護岸工事を完了。八代港の航路整備で発生する浚渫土砂の310万dを2008年まで埋め立てる。また島の南側では2008年度をめどに1.6kmの仕切り護岸を築き、その後約10年間で460万dの土砂を搬入、42haを埋め立てる計画。組合長からは「大築島周辺は魚を育む重要な藻場。工事が進めば不知火海全体の環境を壊しかねない。すでに漁師は被害をこうむっている」などの意見が出た。「県は不知火海再生に取り組んでいるはずだが、まったく逆の行為。工事差し止めの仮処分申請も必要ではないか」との声があがった。
9月3日、芦北郡の3町長と3議長は漁協組合長らと現地を視察。今後、漁業者の意見を聞いた上で、潮谷知事に面会を求め、事業決定の経緯や、代替地の可能性について質すことを決めた。                 =以下省略

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