2006年2月

思想の戦いと社会主義の改善

 「われわれに忍び寄り、われわれを脅かす超帝国は自然で絶対的に論理的な出来事、つまり、誰かの死を待っている。彼らは私を考えることで私を尊敬しているのだ」

フィデル・カストロ、2005年11月17日

 カストロはハバナ大学に入学した60周年記念で、帝国主義者に対応し、革命の将来のための彼ら自身の計画を開発するように同胞たちに挑んだ。カストロの演説は、工場、協働組合、農業協同組合、通り、そして各地区と「国全体に及ぶ激しい議論」とフェリペ・ペレス・ロケ(Filipe Perez Roque)外相が称するものの出発点となった。

 カストロはいま79歳で、CIAによって組織された暗殺計画の目標だが、活力には緩みがない。米国の外交ミッションによる挑発に対し、1月24日には100万人のハバナ住民がデモをしたが、そこでもカストロは大また歩きをした。カストロが生きている間は、キューバ革命を打倒できないという米国帝国主義者の結論は、キューバを孤立させ、飢えさせ、落ち込ませ、つぶすというキャンペーンが失敗したことを示している。カストロは、帝国主義者の軍事的征服には屈せず、「彼らは決してわれわれを滅ぼすことはできやしない」と主張する。だが、「この国は自壊できるだろうか。そう、われわれは自滅できる。そして、それがわれわれの欠点だろう」と警告した。

 12月23日の国会演説で、ペレス・ロケ外相は脅威の本質を詳述している。

ペレス・ロケ外相

「私たちは軍事的には不死身を成し遂げました。経済封鎖にもかかわらず、経済的な不死身も達成できるでしょう。そして、私たちはイデオロギー的、そして、政治的な不死身を守るためにも戦わなければなりません。革命世代が私たちと共にいる限りは、これは問題ではありません。ですが、敵はその戦略を、混乱させ、破り、バラバラにし、こき使われることになる思想に置いているのです」

■素晴らしき年

 こうした議論が始まったことはキューバの弱さというよりも、その進歩の結果である。キューバ人たちは2005年を「アメリカへのボリバリアン協定の年」(see Socialist Voice26)と名づけたが、ペレス・ロケ外相によれば「素晴らしい、勝利の年」だった。経済は実に11.8%も成長し、2006年は10%の成長が期待されている(キューバの経済成長には、商業取引と同様にソーシャルサービスも含まれている)。

 キューバは、カナダ等の帝国主義国との貿易への依存をかなり減らし、ベネズエラや中国が今のキューバの主な貿易相手国となっている。その経済力の更新で、キューバは、電力供給や労働者の暮らしの改善を目標とする政策強化にかなりの投資を開始できた。相当の賃金増加や年金アップが実施され、2006年には10万戸の新たな住宅が建設されることであろう。

 さらに重要なことは、キューバの孤立が緩められていることである。キューバと同盟する大衆運動は、ベネズエラやボリビアでの選挙で勝利をおさめ、親米の政策を取ると見られた大統領候補はラテンアメリカ全域でその職を失っている。帝国主義者の圧迫に対し、キューバはラテンアメリカ全域の人民運動に影響力を及ぼしつつあるのだ。

■人道的救助

 キューバは世界で最も効率的にして、献身的な人道救助国としての道徳的な権威も得つつある。例えば、パキスタンの地震後には、野戦病院と診療所を設立するため2,200人医員を急遽派遣した。12月中旬には、凍結したヒマラヤの奥深くに設置されたテント内で高性能の設備により3,500もの手術が実施された。一方、国連主導の取組みは、技術的にも人的にもはるかに劣っていた。現地は極寒地域なのに、35万ケのテントを送ったもののそれは冬季仕様ではなく、ごく少量の冬用テントもストーブを欠いていたのだ。

 キューバは第三世界諸国に対する眼の治療でも優れ、この一年半で17万人のベネズエラ人が、キューバで目の手術を受けた。2万5000人以上のキューバの医療専門家がボランティアで貧しい、農村、僻地で活動しているが、115ケ国出身の2,400人の学生たちもキューバの大学で無料の医学教育を受けている。

■危険な兆候

 こうした業績は、キューバの労働者たちの道徳力の強靭さと信念を示すものだ。にもかかわらず、11月17日のカストロの演説は、国家資産財産の盗用し、資材を横流して、ニューリッチ階層に向けて流出する資金という社会主義の価値観への道徳的な危険の兆候に焦点をおいたものだった。調査から、政府のガソリンスタンドでは「販売するのと同量の燃料が盗まれていることが判明している。カストロ自身、班長、労働者と多くが建設現場で市場に売るためにセメント、鉄鋼、木製、ペンキをあらかじめ確保しているのを眼にした。

 カストロはこう語る。

「こうした問題は新しいものではない。だが、スペシャル・ピリオドがそれを悪化させたのだ。この時代に多くの不平等の高まりを目にしたからだ。そして、ある人民は多くの金銭を蓄積できた。数千人もの寄生者たちがいる。連中はグアテマラの山中で働くキューバの医師の40倍か50倍をも稼いでいるのだ」

 ペレス・ロケ外相は、1991年の危機以来には39歳だったが、以来、ほとんどすべての政治活動を実施しているが、スペシャル・ピリオドの衝撃を重視する。

「キューバのGDPは35%も落ち込み、その輸入は4年間で85%も縮小したのです」

 食料供給不足で平均キューバ人の日カロリー摂取量は一時的には3,000から2,000カロリーに切り詰められた。

「こうした歳月に直面したことは、語り草になるほどの功績でした。ですが、この歳月に個人主義やフィデルが引用する自分のための悪が強まったのです。こうした弊害は、その労働に応じて各自が給与を受ける社会では育まれません」

 だが、この原則はスペシャル・ピリオドの間に損なわれたのだった。

■気構えを持つソーシャルワーカー

 10月15日、政府は、ガソリンの横流し問題に終止符を打つため、全国の給油所に青いTシャツの何千人もの若者たちを配備した。この若者たちは、学校を中退したり、失業者たちの中から募集された2万8000人のソーシャルワーカーに属する。ワーカーたちは、大がかりな教育や準備を受けた後(現在、7,000人がトレーニング中)、国内で最もか弱い人民を支援するプロジェクトで働いている。カストロは、汚職防止への努力についてこう言及した。

「われわれは、「子ども」がドル・ショップ、ドラッグ・ストア、あるいはその他の場所にいつやって来るのかと、人民がたずねることから、日々の投票を読むことができる」

 ドル・ショップやドラッグ・ストアは、窃盗の目標としての評判がある。

「誰もがこうした子どもたちを賛美している」

 不正への弾圧には、経済的目標と同じくキューバ社会内での特権者と非特権者との間の格差を縮めるための社会的目標がある。カストロは社会的な改善目標をこう述べる。

「われわれは、シングル・マザーが子どもの面倒を見られるよう給料を得るか、あるいは彼女が仕事をしている間に子どもの面倒を見るためのサラリーを国が誰かに支払うことであれ、彼女に選ぶ可能性があるべきだと決断したのだ」

 慢性の電力不足へのアプローチでも同じ論理を目にできる。送電網と発電所の近代化に加え、キューバは「エネルギー革命の年」と命名し、省エネ・キャンペーンを立ち上げた。カストロの見解では、現在の消費エネルギーの2/3は節約できるのだ。そして、キューバの電力プログラムは、社会的な格差を減らすことも目指している。電気料金は引き上げられたが、小量ユーザの経費は、ニューリッチ階層である大口消費者の10分の1未満なのだ(それでも、キューバの最高額は、料金引き上げ後にオンタリオ州の労働者が支払うよりもるかに少ない)。

 同時に政府は蛍光灯や省エネ・キッチンや冷蔵庫を配布している。それは、エネルギー消費量を減らし、女性の家事労働への負担を軽減することで実際に人民の役に立っているのだ。また、多くの労働者階級での賃金アップの効果を配慮し、政府は全面的な賃金増加を行い、最低賃金は昨年倍増された。

 カストロは言う。

「今、この国は、そして近い将来にはこの国の全人民は、副業やサイド・ビジネス、海外からの送金に依存する必要がなく、基本的に仕事や年金と退職金で生活することになるだろう」

 スペシャル・ピリオドの間に損なわれたこうした目標は、第三世界諸国ではほんのわずかの労働者でしか達成されず、豊かなカナダでさえ保証されないものだ。だが、キューバの指導者たちは、ただ生活水準を高めることで革命を守れるという幻想をいだかないよう慎重である。

 ペレス・ロケ外相は言う。

「物質的に高水準な暮らしを達成した東欧諸国では社会主義が見えなくなりました」

 そして、国有化や中央統制経済の瓦解は物質的な改良には通じなかった。

「EUからの何十億ドルの支援にもかかわらず、ハンガリーは今年、やっと1972年に享受した生活水準を達成したのです」

 東欧のほとんどやロシア経済の1990年以降の記録はさらに悪いことを付け加えておこう。

■3つの原則

 ペレス・ロケ外相は、国会で革命の生き残りを確実にする三原則を提唱したが、それは物質的なものとはまったく異なることに焦点をおいている。

「人民を導く人々は、いつも模範となるようにしなければならない…権威は厳粛な暮らしぶりと労働への献身からもたらされる。偉大な仕事や犠牲を除き、人民を導く人々が、なんら特権を受けておらず、その家族も人民とは違わないやり方で暮らし、その子どもも労働者の子どもと同じ教育を受けていることを人民は知らなければならない」

「われわれは今、物的消費に基づくのではなく思想や信念に基づくよう圧倒的大多数の人民への支援を維持しなければならない。社会主義諸国で、人民たちがいかに無力化され、その未来が解体されたときに、通りにも出ず、戦わなかった。だが、私たちは、ヤンキーに仕掛けられた寡頭政治の軍事クーデターに直面したとき、チャベスの帰還を求めるため、ベネズエラの貧民が通りでどうふるまったのかを眼にした。キューバの革命軍は何も所有してはいなかった。その加入者たちは農民や貧しい労働者たちだった。思想と信念は、より多くを所有しているからこそ人民がわれわれをより支持するという概念ではない決断力なのだ」

「つまるところ、決定的な質問は、だれが収入を受け取るかということだ。大多数の人民か。それとも、寡頭政治の少数、多国籍企業、親米なのか。だれが土地を所有するのか。大多数の人民か。あるいは、キューバにおけるこうした特権を保証できる世界の唯一の警察官の利益に役立つ不正な少数者、ヤンキーの帝国主義のためなのか」

 この記事の第二部では、カストロの11月17日のスピーチのさらなる局面を取りあげ、革命を強化するための現在の経済対策について論じる。

(カナダのソシャリスト・ボイスからの記事)


  John Riddell, Cuba Seeks Revolutionary Renewal, Celebrating a 'wonderful, triumphant year', Number 67, February 21, 2006.

Cuba organic agriculture HomePage 2006 (C) All right reserved Taro Yoshida