高齢者分譲マンションをどう考えるか
関西地方発で、高齢者向けの分譲マンションが多く建設されています。最近は関東でも増加しているようです。
高齢者住宅として、有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅が制度化されていますが、『老人ホーム・高齢者専用は嫌だ』という声は小さくありません。その一方で、『子供が独立したので夫婦二人だけでは家が大きすぎる』『定年を期に都市部のマンションに移りたい』というニーズは小さくありません。高齢者、また高齢期に向かう壮年者を対象とした分譲マンションの企画は、民間企業の発想からすれば、当然のことだと言えます。折込広告やテレビCM等も流されていますからご存知の方も多いでしょう。マンション不況で、一般のファミリータイプのマンションは苦戦しているようですから『高齢者を対象とした分譲マンションを企画したい』という相談は、今でもポツポツとあります。
実は、私も介護保険制度ができた当初、高齢者対応の分譲マンションを、デベロッパー、医療法人、介護サービス事業者、管理会社、警備会社等と共同で検討したことがあります。
私達が考えたマンションは、高齢者だけを対象としているというだけではなく、将来、車椅子や寝たきりになった時のために、身体状況の変化に合せてリフォームできるという『リフォーム権付マンション』という点に重点を置いたもので、商品としてそれなりに面白みはあったのですが、結局断念せざるを得ませんでした。
当時検討した中で、分譲マンションを高齢者住宅として売り出すために、引っかかった問題は3つあります。
@ 所有権の問題
一つは、所有権の問題です。有料老人ホームの曖昧な利用権に課題が多いということは事実で、これを高額の入居一時金で購入させるという価格設定が、その問題を大きくしています。利用権そのものが法的に整備された権利ではなく、契約上の権利ですから、高額の一時金を支払っていても、退居を求められることがあります。事業者に強く、入居者に弱い権利だと言えます。高額な有料老人ホームの入居一時金は数千万円以上で、分譲マンションを購入する金額と大きく変わりませんから、曖昧な利用権よりは、強い所有権の方が良いと考える人は多いでしょう。
しかし、自分の権利が強いということは他人の権利も強いということです。
入居時は元気でも、加齢によって身体機能は低下し要介護状態になります。特に、認知症の周辺症状が発生すると、近隣トラブルは大きくなりますが、当然『所有物』ですから退居を求めることもできませんし、問題は自分たち(管理組合等)で解決しなければなりません。このような場合、本人は迷惑をかけているという自覚がないため、話し合いで解決することは難しいというのが現実です。ゴミ出し、火の不始末等のトラブルも大きくなります。
当然、これは一般の分譲マンションでも同じですし、個人の責任で解決すべきものです。一般のマンションでも音楽や足音等での近隣トラブルは発生しています。しかし、『高齢者対応』と銘打つ限り、発生可能性が高い認知症等のトラブル・リスクに対する何らかの方策・対応が求められるのではないかという意見が出ました。
しかし、それに対する明確な答えを出すことはできませんでした。
A 資産価値の問題
二つ目は資産価値の問題です。
曖昧な利用権とは違い、『所有権』は所有者が自由に『使用・処分・収益』が可能ですから、マンションとしての資産価値が生まれます。弱い利用権に数千万円を払うのであれば、魅力的であるということは事実です。実際にマンションを販売する場合、この『資産価値』というものが最大のアピールポイントとなります。
しかし、法的には資産として認められていても、金銭的な資産として成り立つには、その流通市場が必要となります。
現在は、『高齢者マンション市場』というものがないため、転売する場合、一般の中古マンションとして流通させることになりますが、本当に引き受けてくれる仲介業者があるのか、また、それは将来に渡って見込めるのかという点に疑義が生じます。残念ながら、当時の私達には、その将来的な仲介や販売を引き受けるだけの力量もありませんでした。
流通しない限り、市場で販売することはできませんし、自分たちで販売業者を探すということは現実的には不可能です。最悪の場合、住むことも、売却することもできずに、固定資産税だけが発生するということになります。厳密に『資産価値』をアピールするには難しいという結論となりました。
Bサービス提供責任の問題
もう一つ、私達が検討した中で、最大の課題は、サービス提供責任を誰が担保するのかということです。
高齢者分譲マンションには、一般のマンション管理に加え、コンシェルジュや医療介護サービスとの提携、棟内レストラン等、様々なサービスが提供されています。高齢者の生活を考えた豊富な生活サポートメニューが一つのセールスポイントです。ただし、商品設計においては、これらは誰の責任で、どのような契約で提供されるのかということを検討しなければなりません。
一般の分譲マンション管理の場合、管理会社と契約するのはマンション入居者で組織された理事会(管理組合)となります。恐らく、高齢者マンションでも、それぞれのサービスとの契約は、同様に理事会との契約となるのでしょうが、その場合、販売時のサービスを誰が保証するのかという問題がでてきます。
例えばレストラン。利用者が少なければ撤退するでしょうし、値上がりもするでしょう。一般の管理やコンシェルジュについても、入居者が集まらなければ、利用料・管理費は上がっていきます。約束していたサービスが削減されたり、提携していたこれらサービス提供者が撤退するという可能性も検討しなければなりません。
当時の企画では、管理会社が調整するということにしていたのですが、それでも最終的には『入居後は入居者で組織された理事会の責任ですよ』『私達はサービスが継続されるかどうかの責任は持ちませんよ』ということになります。各サービス事業者に、当初の契約を義務付けると言っても、竣工後2年程度が限界でしょう。デベロッパーや主たる管理会社が『将来10年に渡って維持を約束する』といった設定が可能なのか検討しましたが、それも難しいという判断になりました。
また、管理が必要なく、費用の伴わない外部サービスとの連携や利用割引等を増やすという案もでたのですが、確実なメリットとしてその提携内容を文書化するのは難しく、『提携病院』『介護サービス事業者との提携』と銘打っても、有料老人ホームの協力病院と同じで、実際にどのようなメリットがあるのか明確になりません。『サービスの安定』『安心・快適』を求める高齢者を対象とした商品として脆弱さは否めないという結論となりました。
以上、私が高齢者分譲マンションの企画を中止した理由を3点挙げましたが、その他、マンション管理、大規模修繕などの問題もあります。当然、これは当時私達が検討した内容であり、現在、販売されている高齢者分譲マンションのことを述べているのではありません。それぞれに商品内容は違い、詳細に検討されているだろうと思います。これらの問題が解決されないとしても、入居希望者に対して十分に説明がなされ、それを理解して選ばれるということであれば、何ら問題はありません。また、『どのような状況になっても、安心して暮らせる』ということを保証することなどできないということも事実です。それは有料老人ホームしかり、高専賃しかりです。
ただ、この『所有権』『資産価値』『サービス提供責任』の問題を解決することは簡単ではありません。高額な商品ですから、『安心・快適』というイメージだけで販売し、『売れたら終わり』という商法では限界があます。不十分な説明でトラブルが多発することになれば、将来、売主責任が問われることになるでしょう。
私は、マンション修繕やマンション管理の問題に詳しい鰍bIPの須藤社長と懇意にさせていただいており、お話を伺う機会が何度かあるのですが、一般の分譲マンションでも、すでに『資金不足で大規模修繕ができない』『管理費未納者が多く管理できない』といった分譲マンションもかなりの数に上り、実際には破綻している状態のマンションも増えていると聞きます。
様々な煩わしさを嫌ってマンション暮らしを希望する人が多いのですが、一般のマンションであっても、そのサービス水準・資産価値を維持していくことはそれほど簡単なことではありません。特に、相手は高齢者ですから、トラブルへの対応力は低下します。また、『元気な内だけ快適に過ごせればよい』という目的で高齢者住宅に入居するわけではありませんから、その商品内容やリスク、責任等について誤解がないよう、十分に説明されなければなりません。トラブルも指摘され始めていますから、これらの問題を曖昧にしたままでは、高齢者分譲マンションはこれ以上の成長・拡大は見込めないでしょう。
このように述べると批判的に聞こえるかもしれませんが、その一方で、私は、今でも商品化の余地がないとあきらめているわけではありません。高齢者限定ではなく、子供が成長した後の50歳代、60歳代のニーズを考えれば、大きな成長が見込める面白いマーケットではありますし、不動産の流動化やリバースモゲージ等にも広がる話です。
これらの問題を整理して、しっかりしたシステムを構築できれば、経済の活性化にも寄与するような、大きなマーケットが開けると考えています。ポイントは、『システム』『ターゲット』『説明』にあると思います。
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