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老人ホームがあぶないA

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  『有料老人ホーム・高齢者住宅』は倒産する 

 

もちろん、現在運営されている有料老人ホームや高齢者住宅の多くは、その重要性、社会性、公共性を理解し、着実に運営されています。しかし、その一方で、需要増加に対する過剰な期待の中で、不安定な不動産投機の対象となり、バブル的に急増してきた面があるということも事実です。

実際、有料老人ホームの中には、人件費の高騰やスタッフ不足、入居者不足で、経営が悪化するところが増えています。現在のところ有料老人ホームの倒産はそれほど表面化していませんが、入居一時金の長期入居リスクが顕在化し、実質的な経営状態が明らかになれば、M&A価格は暴落し、倒産・事業閉鎖となる老人ホームが激増するでしょう。

高額な有料老人ホームには、自宅を売却して入居一時金を支払っているような入居者も少なくありませんが、このような場合、支払った入居一時金はほとんど戻ってきませんから、次の有料老人ホームに入居することさえできません。

特に、要介護高齢者を対象とした介護付有料老人ホームの倒産は深刻です。入居者にとっては住居がなくなるということだけでなく、介護や食事等のサービスが止まると生きていけません。倒産発覚から数日の間に、次の生活の場所を探す必要がありますが、特養ホームは一杯ですから、そう簡単に見つかるものではありません。事業者が倒産してしまえば、これらの手配を誰の責任で行うのかも不透明になるため、入居者・家族に大きな不安が広がることになります。

秋田県仙北市で倒産、事業閉鎖となった介護付有料老人ホームのケースでは、行き場のない高齢者は特例として地域の特別養護老人ホーム等に分かれて引き受けてもらわざるを得なかったと言います。入居者の生命・生活を守るには、このような緊急避難的な措置を取らざるを得ませんが、その地域で特養ホームへの入所を待っていた緊急度の高い高齢者は、後に回されることになります。その影響は、入居者・家族だけでなく、その地域の介護・福祉ネットワークにも広がることになります。

これは、倒産せずにM&A等で譲渡先が見つかった場合や、運営が継続される場合でも同じです。

述べたように、これらの経営悪化の原因は、『開設ありきの杜撰な事業計画』にあります。初めから事業計画そのものが、長期安定経営が可能な商品として成立していないものもあり、事業ノウハウや経営手腕のある事業者に譲渡されても、それだけで運営や収支が改善される訳ではありません。

特に有料老人ホームの居住者の権利は、借家権ではなく利用権という曖昧で非常に弱い権利です。事業者が変更となった場合、入居一時金を支払い、終身利用権を取得していたとしても、事業者が変わればその権利は引き継がれません。サービスのカット、入居一時金の追加徴収、月額費用等の改定が行われることになっても抗弁することはできず、そのサービスでは生活が維持できない人や追加費用を支払えない場合は、退居せざるを得なくなります。

有料老人ホームのM&Aが盛んに行われていますが、新しい事業者に引き継がれても、事業の再生ができなれば、二次破綻、三次破綻となりその度にサービスカット、費用負担が求められるといったケースも出てくるでしょう。

経営者が変わらなくても、値上げやサービスカットが行われる可能性もあります。

有料老人ホームの契約書には、『月額費用は消費者物価指数・人件費等を勘案し、値上げすることがある』と記されていますが、価格改定においての基準やルールがあるわけではありません。実際、一方的に『月額3万円〜5万円』の価格改定を入居者に通告し、非常識だと大きなトラブルになっているところもあります。入居者・家族を含めた運営懇談会等の意見を聞くとされていますが、現在の価格でサービスが維持できない場合、『サービスカットか価格改定か』『価格改定か倒産か』の選択が求められることになります。

これは、制度の不備も大きく影響しています。

『この価格改定やサービス改定』『事業者からの契約解除に関するルール』『事業者が変わる場合の利用権の引継ぎ』等、入居者の生活の守るための制度・ルール作りは全く進められていません。

福祉施策から民間の営利事業として門戸を広げるためには、同時に入居者保護、悪徳業者排除、業界の健全育成ための体制整備が不可欠だったのですが、いまだ最低限の届け出制度すら、満足に機能していません。更に、厚労省と国交省の省庁間の歪で発生した『一定水準の高専賃』によって、入居者保護は完全に有名無実化しています。

『競争原理の導入によるサービス向上』というメリットばかりが喧伝され、『短期勝ち逃げ』『勝ち組・負け組』といった時代背景の中で、その競争に負けた老人ホームの入居者がどうなるのかが、全く考えられていません。現在の制度では、『入居者の選択責任』が全面に押し出され、行き場のない、立場の弱い入居者や家族に経営悪化・収支悪化のツケが追わされるという状況になっているのです。

また、経営の悪化によって、そのサービスの質やコンプライアンス意識は確実に低下することになります。スタッフ不足によって契約で定められたサービスが提供されず、身体拘束や介護虐待、一方的な退居勧告等の問題も増えてくるのではないかと思っています。

この問題は、『現在発生している現象』という捉え方では不十分です。団塊の世代の高齢化はこれからですし、高齢者住宅の抱える問題への対応は始まったばかりです。そして、この問題は対応が遅れれば遅れるほどその歪は拡大し、手が付けられなくなっていきます。倒産が増えれば、入居者・家族の生活が崩壊することだけでなく、ひいては有料老人ホーム等の高齢者住宅業界全体の信頼性を大きく低下させることになるでしょう。

『有料老人ホームがあぶない』という本を読まれた方から『不吉なことを言うな』とお叱りの言葉をいただきましたが、残念ながら『倒産する有料老人ホームが激増する』ということは事実です。

今すべきことは、問題を糊塗し、先送りすることではありません。特殊な社会環境、過剰な期待の中で計画された、経営が悪化している高齢者住宅の倒産を回避し、地域に密着した長期安定的な優良サービスとして再生させるシステムを構築することが不可欠なのです。

この課題をクリアできるか否かは、これからの超高齢社会が安心して暮らせる社会になるのかどうかの試金石なのです。

 


 

 

 


 

 

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