副読本その10 「ミロ、上機嫌になる」
「 この章はいいな、気に入ったよ!」
ミロは上機嫌である。
なんといってもカミュがいい!
小宇宙を燃やす時のカミュの美しさはどうだ!
俺なら原稿用紙十枚は書けるな、天蝎宮でこっそりやってみるのもいいかもしれない。
それにしても、この俺としたことがこんなカミュを見たことがないのは口惜しい。
夕陽のきれいな日にカミュとスニオン岬まで行って、
俺の為に黄金聖衣を纏って小宇宙を燃やしてくれ、と言ったらだめかな、やっぱり。
カミュは固いからな、私用に小宇宙を使うわけにはいかぬ、とか言って断られるのがおちか………。
ミロがそっと溜め息をついていると、
「 なかなかいいものだな、惚れ惚れする。」
「 お前もそう思うか、そうだろうそうだろう。
やっぱり俺たち黄金は聖衣を纏って小宇宙を燃やしてこそ、真価を発揮するというものだ。
うむ、実にいい!こうでなくてはいかん。」
「 そうではない。」
「 え?」
「 私の言いたいのは、お前の……いや、昭王のことだ。」
ん?気のせいかカミュの頬が赤くないか?
窓から夕陽が差し込んでるから、そのせいかな?
そういえば、聖域の夕焼けはことのほか美しく、アテナもたいそうお気に召していると聞いている。
なんでも東京の夕陽はビルの谷間に沈み、空気もあまりきれいではないので、
聖域で初めて素晴らしい夕焼けをご覧になられたときは感涙を流されたということだ。
それは確かにそうだろう、
俺の宮から見る白亜の宝瓶宮が、夕陽を受けてほんのり茜の色に染まっていくところなどは、
筆舌に尽くしがたい美しさだからな。
あれを見るたびに、俺もカミュの夕陽になろう、と決意をあらたにするのだ。
この間、カミュと海岸まで出かけたときの夕陽がまた絶品だった。
夕陽も美しかったが、カミュの白い長衣が茜色を帯びるにつれて、
その白い肌も薄紅に染まって、風情のあることおびただしい。
……ふむ、俺もなかなか文学的表現ができるようになったな、やはり、習うより慣れろ、ということか。
薄紅か………薄紅色のカミュといえば、俺が連想するのはやはり昨夜の………
いや、そんなことはいい、それよりもカミュは今、惚れ惚れする、と言わなかったか?俺に?それとも昭王に?
そのあと何度もカミュに聞いてみたが、微妙に時間をおいてしまったせいか、
「 馬に乗るというのは楽しそうだな。」とか、「 シベリアで修行中に見渡す限りの海を凍らせたことがある。」とか言うばかりで、俺の聞きたかった言葉を言ってはくれなかった。
ひょっとしたら、カミュ、お前、素直じゃないんじゃないか?
それとも俺の思い過ごしかな?
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