「ミロ!! これではどこにも出かけられぬっ!」
俺はカミュの切羽詰った声に起こされた。
「え? なに?」
寝ぼけまなこで起き上がると、カミュがすでに服を着込んで俺を見下ろしている。
「昨夜の………香水が! シャワーを浴びてもまだ落ちない……」
「え………? ………ほんとに?」
俺はどきっとして確かめてみた。

………確かにまだ香っていた。

「どうするのだ! このままでは食事にも行けぬではないか! それどころか乗馬にも!」
几帳面なカミュが慌てるのも無理はない。なにしろ、今までに香水なんかつけたことがないんだからな。
しかし、そんなにたくさんつけたはずはないし、普通、香水なんて時間がたてば効果がなくなるだろうと思ってたんだが、違うのか?。
「………と、ともかく、シャワーなんかじゃなくて風呂にはいるべきだな。 うん、そうしよう!なんなら俺が丹念に洗ってやろうか♪」
「ばかものっ、喜んでいる場合ではなかろう!!」
俺はカミュに思いっきり睨まれた。

風呂に湯を張りながら考えた。

   カミュはフランス人なんだから、香水をつけてても通用するんじゃないのか?
   なにしろ、日本人はフランスびいきだというからな、誰も疑問には思わないかもしれん。
   ファッションとフランス料理とルーブル美術館、この三つでフランスのステータスは確立してるはずだ。
   それに加えてカミュのあの容姿なら、香水をつけても、おそらく当然と思われる可能性がありそうだ。
   よしっ! これで説得してみよう、怒らせたままではまずいからな。
   日本にいる間に、もう一回くらいは楽しまなきゃな ♪

はたしてこの論理が、怒りを抑えかねているカミュに通用するのか?
それはまだミロにも謎なのである。

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