スモールマウスバス ホーム

 今ではすっかり定着した感のあるスモールマウスバスですが、釣ったことはありますか? 褐色の魚体、大きな尾びれ、赤い目、ラージよりも小さな口、そして底へ底へと突っ込む特有のファイト。それに魅せられて裏磐梯に通う釣り人は少なくありません。ここでは参考までに作者の調査結果から分かったことを紹介します(一部通説とは異なります)。

[ 生息域 ]

[ 釣れるサイズ ]

[ 探餌行動 ]
スモールマウスバス [ 食 性 ]

[ 深浅移動 ]

[ 繁殖行動 ]

- 生息域 -

 誰がどこから持ち込んだのかは不明ですが、1992年には全長20cm程度の魚は釣れるようになりました。おそらく1980年代後半にゲリラ放流されたのでしょう。釣れるという噂が広まったのは小野川湖が最初でしたが、今では裏磐梯の全湖沼はもちろん、猪苗代湖や遠く離れた阿武隈川でも生息が確認されていて、県外にも生息域を拡大しています。これは「身近な場所でスモールを釣りたい。」という身勝手な人間によるゲリラ放流が原因であり、スモールが泳いで行ったわけではありません。
 日本の湖沼の生態系を尊重するためにも、そしてバスとバスを釣る人々の社会的立場を下げないためにも、釣ったバスは殺して持ち帰るか、必要がなければ元気な状態で元の水に戻してください。繁殖力の強い外来魚ですから積極的に資源保護をする必要性はまったくありません。レッドデータブックに記載されている魚種こそが資源保護を必要としています。バスだけ注目するのは釣り人のエゴに他なりません。なお、レッドデータブックの詳細は環境省 自然環境局 生物多様性センターを参考にしてください。

- 探餌行動 -

 40cmを超える魚についてはまだまだ分からない部分はありますが、それ以下の魚についてはラージマウスバスよりも障害物そして岸にピッタリ付かないということが挙げられます。岸から50m以上離れた場所でライズを繰り返したり、湖の中央部でワカサギを追ってボイルするのは珍しいことではありません。また、水底に障害物が全くない場所で連続ヒットした経験も何度かあります。このことからスモールマウスバスは待ち伏せ型ではなく、群れである程度の範囲を回遊して餌を探す探索型の行動をとると考えられます。

スモールマウスバス

 スモールマウスバスが探索型の行動をとると考えられるもう一つの理由は、ヒットゾーンがラージマウスバスよりも広いということです。岸へ向かって投げたルアーをリトリーブしてくると、ボート間際でヒットしてくることが珍しくありません。実際に水中で見たわけではないので断言できませんが、ラージマウスバスよりも餌を追跡する距離が長い(範囲が広い)と考えられます。「どこからともなく現れる」という表現がピッタリです。この能力があるため、待ち伏せする性質がないのでしょう。流れのある環境でも生息できると言われるのは、持久力と瞬発力を兼ね備えた魚だからこそ成せる業です。ヒット後に底へ底へと何度も潜る特有のファイトが、これを裏付けていると言ったら言い過ぎでしょうか?
 以上のことから、私はラージマウスバスよりもトラウトに近い探餌行動をすると考え、障害物や岸際に執着せず広範囲に釣るようにしています。広い湖で移動を繰り返す魚を効率良く探し出すためには、1)普段バスが食べ慣れている餌に似た 2)良く飛ぶ 3)リトリーブ抵抗の少ない ルアーが適していると言えます。
 また、水面を移動する餌を捕食する行動もラージマウスバスと異なります。

捕食行動の一例

ある程度水深のある場所では、ほぼ真下からス〜ッと浮上して餌にアタックするやいなや、瞬時に反転してあっという間に姿を消します。まさに渓流に棲むヤマメのようなアタックなのです。このため、音がした場所をすぐに見ても、魚の姿を見ることはほとんどありません。ラージマウスバスのアタックが「ゴボッ。」となるのに対し、「バシュッ!」と水飛沫をあげるアタックが多くなり、慣れていないとフッキングのタイミングを逃してしまいます(釣り方についてはこちらを参考にしてください)。ただし、水面直下に浮かぶフローティングニンフや、水面で絶命した小さな昆虫を捕食する小型魚の場合はス〜ッと近づき、波紋を残すだけのディンプルライズをします。
 ところで、なぜスモールマウスバスは水面直下を移動して捕食を繰り返さないのでしょうか? これには警戒心が働いているということもあるでしょうが、ある程度の深度を回遊したほうが上方の視野が広くなり、捕食に有利なためと考えられます。水面へ近づくほど見える範囲は狭まるわけですから、餌を認知できる距離内で水面から離れていたほうがメリットは大きいのです。釣り人にとっては姿を見つけにくいというデメリットになりますが。

- 深浅移動 -

 のターンオーバーが収まり表面水温が10℃程度になると、越冬場所を離れて徐々に浅場へ移動を始めるようです。そして表面水温が15℃を越える5月下旬から産卵のため水深1〜2mの浅場にも姿を現すようになりますが、それらはほとんどがオスで、メスはオスが産卵床を作り終えてからやって来るようです。ただし、天候によって表面水温が激しく変動するこの時期は深場へ一旦戻ることもあり、その行動は安定しません(放射冷却現象で冷え込むと早朝は気温が1ケタになることも珍しくありません)。ただ、産卵行動に移ってしまえばオスを中心に浅場に留まる魚が多くなります。40cmを超える大物が姿を現す時期でもあり、それを狙って5月下旬〜6月上旬は多くの釣り人が訪れます。
 例年6月下旬には産卵も終わり、浅場に孵化した仔魚(全長15mm程度の真っ黒い魚)が群れる頃、水深3〜4mの場所には藻が伸び始めます。この藻は産卵活動を終えた魚の良い休憩場になるようで、7月上旬頃まではその周辺で過ごすことも多いようです。しかし、早期に産卵を終えた魚は体力の回復を図るため浅場にも姿を見せ、トップウォータープラグやバズベイトに果敢にアタックしてきます。梅雨明けまでの期間は産卵に関与しない小型魚も活発に活動していますから、水温が20℃までならば広い範囲で小〜中型魚を比較的簡単に釣ることができます。
 真夏になり、表面水温が25℃を越えるようになると小型魚以外は浅場から姿を消し、行方を捉えにくくなります(25℃はスモールマウスバスにとって高すぎる水温なのでしょう)。適水温(経験上16〜23℃)と餌となるワカサギ当歳魚の群れを求めて水深5〜10mの範囲を広く移動していると考えられますが、これらを魚探なしで探し出すのは至難の業です。一方、絶対数は少ないものの落下昆虫やワカサギ当歳魚の群れを表層で狙う魚もおり、この時期トップウォーターで狙うには格好のターゲットになります。ただし、ワカサギ当歳魚に付く魚は飽食するためなのか非常にセレクティブであり、それなりの対策を講じないと苦汁を舐めることになります。トラウトを狙うつもりで釣ると良いでしょう。
 多くの魚が深場で過ごす傾向はにかけても続き、表面水温が下がり始めたからといってバスも接岸するわけではありません。水温が20℃前後となるこの時期、バスの居場所は餌となるワカサギの行動に大きく左右されますから、それを把握できなければ安定した釣果は望めません(このため魚探を使った釣り方が一般的です)。浅場に広く分布していた小型魚も水温の低下に伴い群れで行動するようになり、ターンオーバーを境にして浅場からは完全に姿を消します。しかし、ターンオーバー後の浅場には高活性の良型が少数残っているので、表面水温が15℃以上なら狙ってみる価値はあります。
 初冬が訪れ湖の表面水温が10℃を下回ると、岸から釣るのは非常に難しくなります。ボート釣りでも浅場を狙う限り良い釣りはできません。水深10〜15mの深場も探れる上級者でなければ、良い釣果を得るのは難しいでしょう。
 このようにスモールマウスバスの行動はラージマウスバスのそれと良く似ています。ただし、同じサイズならラージマウスバスより深場を好むようです(このことはアメリカでも認識されています)。また、大型になるほど浅場にはなかなか姿を見せません。 釣れる時期を外してしまうと浅場で良い釣りができないのが、スモールマウスバスの特徴と言えるでしょう。特に魚が浅場を離れる真夏以降は魚探があったほうが有利です。このため、初心者の方には浅場にいる魚の数が多い6〜7月の釣行がおすすめです。
 水温とスモールマウスバスの行動も参考になるでしょう。

- 繁殖行動 -

 例年、裏磐梯では5月下旬〜6月上旬をピークに産卵が行われます。産卵場所はラージマウスバスと同様、水深1〜2mの底に小砂利のある水通しの良い場所ですが、表面水温が16℃以上で、かつ水位が安定することが産卵の条件と考えられます。潮回りも関係しているようですが水温が最も重要な要素であり、あまり潮回りを重視する必要はありません。たとえ大潮でも水温が低ければ卵が孵化しないリスクがあるわけですから、やはり水温が最重要項目です。また、一部では「冷水魚」と言われるスモールマウスバスですがそれは間違いで、裏磐梯の湖沼では10〜15℃で産卵が行われることはほとんどありません。
 表面水温が16℃になる頃には25〜30cmのオスが直径50cm程度の産卵床を作るようになり、水位が大きく低下しない限りオスは産卵床付近に留まります。この産卵床は偏光グラスをかけていれば簡単に見つけることができますから、バスの行動を知る上では非常に参考になります。それではスモールマウスバスの産卵について、もう少し詳しく見てみましょう。

 図1は産卵に関与すると考えられるメス(全長24cmを超える個体)728匹の卵巣重量比を月別に表したものです。

グラフ 卵巣
産卵前
仔魚

 5月に釣れるメスの卵巣重量比は個体差が大きいものの、おおむね5〜15%の範囲内にあり、黄色い卵の直径は1.8mmほどになります(写真上段)。また、肛門が赤くお腹も膨れているので外見からもメスであることがすぐに分かります(写真中段)。ただし、全てのメスが産卵するわけではなく、成熟する大きさに成長しても産卵しない魚もいると考えられます。6月以降は産卵することにより、卵巣重量比は徐々に低下して8〜9月に最低になります。卵巣重量比が5%以下の場合、卵径は1mm程度にまで縮小し、色も鮮やかな黄色からくすんだ黄色に変化するので、この状態で産卵するとは考えられません。例年6月下旬になると真っ黒な仔魚が浅場に群れ始めます(写真下段)から、7月にはほぼ完全に産卵は終わっていると判断できます。
 このように卵巣重量比の変化からも裏磐梯に棲むスモールの産卵期は5月下旬〜6月中で、活発に産卵が行われるのはその間の2週間程度と推測されます(もちろん年によって多少のズレはあるでしょう)。また、6月に釣った全長24cmを超える魚583匹の胃内容物を調べたところ、メスは12%が空胃であったのに対しオスは40%が空胃だったことから、子育て期間中のオスはラージマウスバス同様、捕食に対して積極的ではないと考えられます。
 無事に産卵を終え夏を過ごしたスモールの卵巣は、10月になると早くも発達を始めます。ラージマウスバスと同様、メスの体内では翌年の産卵に備えて冬の間でも卵巣は大きくなり続けているのでしょう。8〜9月に最低となり5月にピークを迎えるというサイクルで、卵巣は縮小と発達を繰り返すようです。真冬、ワカサギ釣りのテントが立ち並ぶ厚い氷の下では、早くも次の産卵に備えて着々と準備が進められているのです。水温の低い裏磐梯の湖沼で繁殖するためには、ラージ同様これくらいタフでなければならないのでしょう。

福島県では2001年6月1日よりブラックバスとブルーギルの移植が
禁止になりました。違反すると懲役2ヶ月以内または罰金10万円

裏磐梯バスフィッシング情報 〜桧原湖とスモールマウスバス〜