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原告側 実質勝訴の関西水俣病訴訟
最高裁:「国と県は排水を規制せず被害を拡大させたのは違法」
環境省:大臣謝罪するも「認定基準見直しは考えず」と開き直り

提訴から22年。いわゆる関西水俣病訴訟に対し、最高裁第2小法廷(北川弘治裁判長)は2004年10月15日、「国と熊本県はチッソを原因企業と認識できたのに排水規制せず、被害を拡大させたことは著しく不合理であり、違法である」とし、原告側に実質勝訴の判決を下すとともに、37人の原告に計7150万円の賠償を命じた。この判決により、これまで国・県が拠り所にしていた「認定基準」(1977年)の根拠が崩れた。
しかし、環境省幹部は判決後の会見、原告団との交渉の席上、最高裁が「国の認定基準を否定したものとは考えていない」と、基準の見直しの考えがないことを頑なに表明、今回の最高裁判決が法的にはともかく、実質的な水俣病問題の終焉にはなお課題を残した。
これに対し、細田官房長官は16日、松江市での会見で、政府部内で見直しを検討する必要性があるのではないか、と認定基準の見直しがあり得ることを示唆した。

裁判を傍聴した支援者や有識者の多くが「厳しい判決を予想した」(宇井純・沖縄大学名誉教授)だけに、今回の判決にはこぞって「遅かったが、画期的な判決」(原田正純・熊本学園大学教授ら)と高く評価したが、一方で、原告団45人のうち8人については、排水規制が可能となった昭和34年(1959年)末以前に水俣を離れたので「国・県の不作為との因果関係がない」とし、賠償対象から除くなど“積み残し”という新たな問題も生じ、手放しで喜べないとの指摘も出ている。
15日の判決前後の動きを写真で速報する。

<カメラルポ10.15>
<判決直前>
「関西訴訟団を励ます判決前集会」で、「きょうの青空は吉兆だ」と期待を込めあいさつする川上敏行原告団長
=13:00、社会文化会館で


緊張の面持ちで最高裁に入廷する原告団、弁護団(右端が松本健男弁護団長)
=14:20、最高裁・正門で


永嶋里枝弁護士(左から2人目)が「国・県の責任認める」と記した勝訴の垂れ幕を掲げると待機していた支持者から歓声と拍手が起こった
=14:20、最高裁・南門で


傍聴した有識者らはたちまち報道陣に囲まれ、判決を評価した。インタビュー中に電話インタビューに対応する原田正純さん(中央)
=15:43、最高裁・南門前で


しかし、水俣を1959年以前に離れているとして8人の原告には「因果関係がない」と切り落とされた。その一人、坂本美代子さんは落胆して座り込んでしまった。
=15:45、最高裁・南門付近で

新潟から傍聴にきた板東克彦さん(元新潟水俣病弁護団長)と宮崎からかけつけた宮澤信雄さん(水俣病上告取下げを求める全国ネットワーク代表=右)はがっちり握手
=17:00、社会文化会館前で

<対環境省交渉>
原告団は最高裁判決を背景に、環境省を訪れ、小池百合子大臣に面談。川上敏行団長(右から2人目)は「判決を真摯に受け止め、水俣病問題の解決に活かすよう強く要望する」旨の要請文を手渡した 
=17:47、環境省会議室で

環境相は当初渋っていたが、原告団の再三の求めに、最後に頭を深々と下げ、「申し訳けありませんでした」と謝罪した
=18:06、環境省会議室で

しかし、引き続き行われた交渉では時として最高裁判決を否定するかのような答弁を繰り返し、業を煮やした初代原告団長・岩本夏義さんの長女・小笹恵さんは亡くなった父親の遺影を示しながら訴えた
=18:15、環境省会議室で

普段は温厚な宮澤信雄さん(中央)も環境省役人の不穏当発言に怒りを露わにし、抗議した
=18:20、環境省会議室で

この期に及んでなおも“逃げ”を打つような環境省側の対応に、患者たち(前列)に疲労の色が強くなってきた
=18:40、環境省会議室で

医師の資格を持つ環境省役人に「医師として答えよ」と迫る熊本から来た二宮正さん(中央立つ人)も大きな声で糾弾した
=18:46、環境省会議室で

不毛な発言を繰り返す環境省側(手前後向き)に多くの支援者次々に立ち上がり発言。多くの人たちは鋭い視線を向けた
=18:51、環境省会議室で

水俣から患者たちと支援にかけつけ、的外れな答弁に対し、強い口調で迫る谷洋一さん(左側立つ人)
=19:15、環境省会議室で

そして、病躯を押して支援にかけつけ、やりとりを聞いてついに怒り心頭に達した胎児性患者の坂本しのぶさんも立ち上がり、全身で声をしぼり出して抗議した
=20:46、環境省会議室で


<散会後>
水俣病研究の先駆者・宇井純さん(右)とプロカメラマンとして初めて水俣を激写した桑原史成さんは散会後、勝訴を喜び、約40年の足跡を振り返った                =21:40、飯野ビルで


<あるコメント>
大阪市立大学でユニークな公開講座「公害と科学」を継続し、判決の前日に水俣病関西訴訟の原告の一人、坂本美代子さんを講師に招いたばかりの木野 茂さん(大阪市立大学大学教育研究センター助教授)から以下のようなコメントが寄せられた。今回の最高裁判決に対しては「高く評価」あるいは「絶賛」するものが多い中で、ひときわ辛口のコメントと言える。

一方で泣く患者を生んでしまい、もろ手を上げて喜べない
=木野 茂・大阪市立大学助教授は厳しい評価=

水俣病関西訴訟の最高裁判決が出ました、「行政責任確定」という大見出しで報道されましたので、お祝いメールをいただいた方もおられます。
しかし、私の率直な感想は「もろ手を挙げて喜べない」(毎日新聞へのコメント)、「新たに泣く患者を生んでしまった点で、つらく、許し難い判決だ」(読売新聞へのコメント)と思っています。
そんな中、今朝の朝日新聞の生活面には、坂本美代子さんをお呼びした判決前日の授業のことが写真入りで載っていましたので、ちょっぴり救われた気持ちになりました。そのうち夏義さんのお墓にご挨拶し、残された患者さんたちとのお付き合いだけは続けて行きたいと思っています。最後の判決が私の定年に間に合ったとはいえ、悲喜こもごもの思いです。


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