製作にあたってU

Gカッティング

 この工程の時機の判断が非常に難しいと言われています。早過ぎると脂肪のロスが大きくなり、遅すぎると凝乳粒子(カード)が壊れ水分の流出が止まりにくくなります。本には「人指し指を凝乳に刺し込んでゆっくりと持ち上げて凝乳にきれいな裂け目が出来るようになればカッティングの時機」と書いてはありますが、実際にはおおよその時間と経験により判断する場合がほとんどです。他には凝乳の表面の変化などを観察する方法もあります。これも同様に経験を必要とします。

 いったん、カッティングをはじめたら、ためらわずに一気にカッティングすることが大切です。うまくカッティングできると、カード(固形分)から濁りの少ない透明な黄緑色の液体(ホエー:大部分が水分)が出てくるはずです。

 工場などではステンレスワイヤーを張ったカードナイフと呼ばれる道具を使って行ないますが、家庭ではこれにこだわらず長めの包丁を利用しても問題ありません。(ただし、切れ味の良いものを使って下さい。)必ずしもサイコロ状に切断できなくとも、均一な大きさになるように工夫することが大切です。

鍋でのカッティングの例

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H静置

 ここでの静置はカッティング直後のカードが非常にもろいために行なわれるので、長すぎる必要はありません。長くても5分程度で充分攪拌できる硬さになるでしょう。5分以上になるとカード粒子が固まりになってかえって好ましくありません。

I攪拌

 はじめは、ややくっついているカード粒子同士をほぐすように優しく攪拌し、カードが硬くなるにしたがい徐々に攪拌の速度を上げてゆきます。くれぐれもカードが柔らかいうちは優しく扱うことが大切です。かといって、かたまりにならないように。

 カードが壊れてしまうと後の工程へも悪い影響が出てしまいます。

J加温

 直火でもかまいませんが、湯煎で緩やかに温度を上げるのが無難でしょう。温度が上がり過ぎないように充分な注意が必要です。チーズの種類によって加温のやり方は異なりますが、まず、1分間に0.2℃程度であれば問題はないはずです。余熱に充分注意してください。

 温度を上げすぎるとカード粒子の表面に皮膜ができ、それ以上水分を抜くのが難しくなってしまいます。その結果、熟成の工程に入っても水分の流出が止まらず、チーズが食用に堪えないものになってしまいます。

Kホエー排除

 ザルや目の細かい布を使うとうまく分離できるはずです。

 ホエーはそのまま下水に捨てると環境を著しく汚染することになってしまいます。できればパンやシチュー・お菓子を作るときに水のかわりに利用することをお勧めします。また、栄養価も高いため甘味・酸味を加えて、冷やして飲み物にすることも可能です。

L型詰

 家庭では、原料乳の20%程度の体積が納まる円柱・円盤状の蓋付き容器(茶筒・水道管の切れ端など)を探して下さい。それに電動ドリルなどを使って直径2.5〜3mmぐらいの穴を、容器全体に2cm間隔で格子状に開けると簡単なモールドが出来上がります。(フタにも忘れずに穴を開けて下さい。)少々面倒ではあっても、穴は多いほうが後の工程の進行が楽になります。

 なお、外国では各種家庭用のプラスチック製フープ・モールドが通販で販売されています。

 前の工程でホエーと分離した凝乳を、モールドに平らになるように詰め込みます。この時、強い力を加える必要はありません。必要以上に強い力を加えるとカードが壊れてしまいます。

M圧搾

 工場などでは空気圧を利用して専用の圧搾機で行なわれます。家庭では原料乳重量の50%〜120%ぐらいの重量の漬物石(表面がプラスチックで覆われたもの)を3種類用意するとよいでしょう。重量の小さいものから30分〜1時間間隔で徐々に乗せる漬物石の重量を増してゆきます。漬物石はできるだけチーズに水平に乗せて下さい。

 チーズの温度が下がりはじめたら、チーズ全体を目の細かい布で覆いモールドに押し込みます。この時にチーズの表面を出来るだけ滑らかにすることで、熟成中のカビの発生を抑えやすくなります。

 外国での圧搾機のモデルをのせておきますが出来ればプラスチックや金属を利用できると良いでしょう。レンガを使うのは衛生上好ましくありません。プラスチックで被覆された漬物石を利用しましょう。

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 ちなみにこのタイプの小型の圧搾機はネット上で販売されています。(英語が少々お出来になる方は通販で購入しても良いでしょう。)

N加塩

 一般的にチーズの塩分はチーズ重量の1.5〜3%程度のものです。昨今の健康志向から過剰な塩分は好まれませんが、チーズ本来の味を引き出すうえで、不足な塩分ではぼやけた味のチーズになってしまいます。塩分によって引き出される味もあるのです。

 適当な塩分量はチーズによって異なります。大型のチーズになれば、中心部まで塩分が浸透するまでにかなりの時間を要することが知られています。熟成を完了した時点でなければ、その判断は難しいでしょう。

O熟成

 厳密にはチーズの種類によって熟成条件は異なり、工場などでは専用の熟成室が設けられ、温度・湿度が調整されています。

 家庭では、専用の小型冷蔵庫を使う方法が最も手軽ではないかと思われます。使用するときは事前に冷蔵庫の中を清掃し、アルコール(殺菌力はさほど強くない)・逆性セッケンや次亜塩素酸ナトリウム(薬局などで購入)で殺菌します。

 温度は少々低くても構いませんが、低すぎると熟成が遅くなり、速過ぎるとチーズに苦味が生じてしまいますので、まず10℃程度で試してみてください。

 一般に庫内の湿度は低いのですが、下の段に水を入れた皿を置くことで過度な乾燥は避けることが出来ます。

 熟成させるチーズは冷蔵庫にじかに接さないように百円均一にあるような小型の焼き網やプラスチックで出来たザルそば用の小型のすだれの上に乗せると良いでしょう。

 熟成中に庫内での作業を行なうときには必ず事前に手を洗いましょう。(できれば逆性セッケンや次亜塩素酸ナトリウムで手を殺菌して下さい。)チーズの反転は、熟成1ヶ月内は毎日行い、それ以降は少なくとも3日に1回は行ないましょう。

 熟成期間中にカビの発生が見られる場合は、食塩水か食酢に浸した清潔な布でカビを擦り落とす必要があります。(周囲にカビがそれ以上広がらないように注意して行なう。)次亜塩素酸ナトリウムを薄めた溶液に浸した布で軽くチーズの表面をふき取るのも効果があります。(充分に薄めて利用して下さい。)このとき逆性セッケンは使用してはなりません。

 カビを防ぐには、酸素を絶つことも効果があります。加塩後チーズの表面が乾燥した段階でチーズと共に使い捨ての小型携帯カイロ(脱酸素剤の方が好ましいのですが個人での入手は難しいでしょう。近所に常時使用しているところでもあれば交渉次第で手に入るかも?)をプラスチックフィルムに入れシールをして密封します。使い捨ての小型携帯カイロの発熱の原理はカイロ内の金属粉と空気中の酸素が酸化反応することによります。そのため密閉された空間の中の酸素が奪われ、カビが利用する酸素を奪ってしまうのです。このためカビの発生は抑えられます。密封は完全に行なう必要がありますが真空包装などのきつい包装は小型携帯カイロの働きをかえって弱めてしまいますので注意してください。密封時に軽く空気を抜く程度で充分です。

 この方法の利点はもう一つあり、密閉されているために湿度を保つ必要がなくなるのです。 


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