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自動車

 

 車はとても便利です。車に乗って窓を閉めていれば、周囲の化学物質を直接あびずに移動できます。また、体力が弱って外出するのも一苦労というときは、体に負担がかからない移動手段でもあります。

 しかし、「シック・カー」という言葉もあるように、車内の化学物質がCS患者にとっては問題となります。自動車と私のこれまでの関わりを紹介しながら、自動車に乗るときの注意を書いていきたいと思います。

[これまでの自動車との関わり]
 1992年に車の免許を取ってから、祖父の車を借りて運転していました。これは買ってから10年以上たった車だったので、化学物質はすっかり抜けていました。しかし、祖父がよく畑に農薬(噴霧器)を積んで出かけていたので、今振り返ってみると、農薬のにおいが強い車でした。車に乗ると調子が悪かったのですが、当時は原因がわかりませんでした。

 1996年に祖父が新車に買い換えたので、私もそれを借りて時々乗っていました。この頃から1年くらい体調が悪かったので、今思うと新車の化学物質に反応していたのかもしれません。

 私は、1999年に自分がCSだと気づきました。その時には、車は買ってからすでに3年たっていたので、だいぶにおいが抜けていました。それで、その車をそのまま乗り続けることができました。それまでずっと、新車のにおいを吸い続けていたのだと思うと、心配になりましたが・・・。

 夫の車は1998年に中古車を購入したもので、買った当初はものすごくタバコのにおいが強かったです。前の持ち主がヘビースモーカーだったようでした。私は、とてもその車に乗っていられませんでした。夫が、少しでもにおいを減らそうと、いろいろやってくれました。中古車販売会社の人が、「これを使うとにおいが取れますよ」と、「バルサン」のようなものを勧めてくれました。車内を煙で燻蒸してにおいを抜くという商品です。私は、「バルサンなんてとんでもない!」と思いましたが、そのにおい取りは「天然素材のみで作られているのだから、安全だ。」というのです。その頃はまだ、何が危険で何が安全かの区別があまりつかなかったので、言われるままにそのにおい取りを使ってしまいました。そうしたら、車内の空気は前より悪くなり、耐えられないものになってしまいました。今となってみれば、「天然素材でも体に合わないものがある」ということは、分かり切ったことなのですが、当時はそのような知識がなかったのです。結局、夫の車には乗れないので、2人で出かけるときは私の車(祖父から借りたもの)で出かけるようにしました。当初、夫の車のにおいはとても強かったので、夫の服や荷物にそのにおいが強く染みついてしまいました。一緒に車に乗ると、車内にそのにおいが充満して、私はぐあい悪くなってしまいました。しばらく我慢しなければなりませんでしたが、そのにおいも1年過ぎた頃には、ずいぶん弱まってきました。

 2001年夏に、私の車(祖父から譲り受けたもの)のエアコンが故障し、新品のエアコンに交換しました。すると、エアコンをつけるたびに強烈な刺激を感じるようになり、車に乗れなくなってしまいました。新品のエアコンから発せられる化学物質に反応したようです。私は「エアコンを使いつづけていけば、そのうち化学物質が抜けて、刺激が減っていくかもしれない」と思いました。それで、夫と私の車を交換して、しばらく、夫に私の車を運転してもらうことにしました。夫が毎日の通勤でエアコンを使い続ければ、次第に刺激が減ってくるのではないかと考えたのです。8月〜10月まで夫は毎日エアコンを使いましたが、3ヶ月たっても刺激はほとんど減りませんでした。

 がっかりした私でしたが、その頃にはCSが悪化し、ほとんど外出をすることができなくなってしまっていました。当時、私と夫はそれぞれの実家に別れて住んでいました。私のCSのために、一緒に住む家を見つけられなかったからです。夫は実家から私の家まで50kmの道のりをはるばるドライブしてきて、身の回りの世話をしてくれました。外出できない私の代わりに買い物をしてくれました。どうしても外出しなければならない用事があるときは、夫に運転してもらって出かけました。夫の車で“バルサン”をたいたのは、3年以上前のことだったので、車内の空気は私が何とか耐えられるレベルになっていました。

 2002年に札幌に引っ越したとき、夫の車もフェリーで津軽海峡を渡りました。札幌でもその車に乗り続けました。私は重症になってからは、自分で車を運転することができず、夫に乗せてもらっていました。自分で運転できるようになったのは、ある程度回復してからで、2003年になってからです。

 その後、特に問題もないカーライフが続いていましたが、2004年8月に、私は突然、車に乗れなくなってしまいました。エアコンをつけると猛烈な刺激臭が吹き出てくるようになったのです。目の痛みのためにとても運転していられません。無理して運転していたら、駐車場で車をぶつけてしまったので(対物自損)、それ以来、車に乗るのはやめました。それからは公共交通機関を利用して移動しています。

 エアコンの何が原因で刺激が生じたのかは、今もってよくわからないです。古い車なので、「エアコンの冷却ガスが漏れたせいなのか?」 あるいは「エアコンにカビが生えて刺激を感じるのか?(カビくさいにおいはしませんでしたが…)」などと、 いろいろな可能性を検討してみましたが、結局、原因はわかりませんでした。ボンネット内にオイルがこぼれていたので洗浄してみましたが、効果はありませんでした。

[自動車の運転]
 車を運転していると、常に交通事故の危険性がつきまといます。特にCSで神経の不調があるとき、集中力が落ちているとき、体が弱っているときは、注意が必要です。

 私はCSだと気づく前も気づいた後も、体調が悪かったので、自分の運転が危ないと感じるときが多くありました。今はかなり回復して、しっかり運転できるようになりました。今、当時を振り返ってみると、「よくもあんなにぐあい悪い状態で運転していたものだ・・・」と怖くなります。大きな事故を起こしていないのが不思議なくらいです。

 2003年春までは、CS症状が重く、常にめまいがあり、視野が狭く暗かったので、よほど注意して運転しないと、とても危険でした。車に乗っているときは、化学物質からの回避よりも、交通安全が優先になります。そのことだけは運転するたびに、いちいち心に刻み込むようにしていました。運転中バスやトラックの後ろにつくと、ディーゼル車の排気が一気に迫ってきて、平静ではいられなくなります。しかし、それを避けようとして不自然な動きをすると、事故を起こしかねないので、よくよく自制して運転するようにしていました。

 体調が悪いときは運転しないように決めていました。しかし2003年までは「体調のよいとき」というのがめったになかったので、少々体調が悪くても運転するようにしていました。運転するかしないかを判断する基準がとても曖昧でした。それでも、危険を避けるために一定のルールを自分に課していました。次のようなものです。

○出かける前に目的地までのルートをよく確認し、危険を予測する(化学物質に出会いそうな場所・運転上注意しなければならない場所をチェックしておく)
○信号機のない交差点で右折しない。(どうしてもしなければならないときは、代わりに左折を3回する)
○信号機のないT字路で右折をしない。(しないですむように遠回りする。)


 右折するときは周囲にまんべんなく気を配らなければなりませんが、首を左右に振るとめまいがひどくなるし、動いている車をうまく目で追えないので、とても危険なのです。それで、上記のようなルールを決めて守るようにしていました。2001年にCSが重症になってからは、初めていく場所は必ず夫に運転してもらい、連れて行ってもらうようにしていました。1人で行くと思わぬ有害物質に遭遇し、運転不能になる可能性があるからです。

[車内の空気の管理]
 車の中は狭い密閉空間なので、少しでも有害なものがあると車内の汚染濃度がすぐにあがってしまいます。私は少しでも疑わしいものであればトランクに積むようにしています。最近はハッチバック式でトランクがない車が増えてきました。その場合は、衣装ケースなど、きっちり蓋が閉まる収納ボックスを車内に積み込むといいと思います。(ケースはよく日に干してにおいを飛ばしてから使います。) 車内の収納の工夫については、第1章〔3〕−a「量・距離・時間の法則」〔3〕−b「すべての物・場所をレベル別に分類する」〔3〕−c「有害物質を避けるための収納の工夫」〔4〕−b「新しい場所に行くときの注意」にも情報があるので見てみてください。

車の運転中、私は窓を閉めます。私の場合、車内の空気より外気の方が有害だと感じる場合が多いからです。都市部では他の車の排気ガス、田舎では農薬が問題になります。人によって事情は様々でしょう。新車などで車内の空気の方が有害性が高い場合は、窓を開けて走った方が楽だと感じるはずです。事情に合わせて選択してみてください。

[中古車探し]
 2004年9月から、車を買い換えるために、中古車売り場を見て回るようになりました。中古車の営業マンに事情を話して、「においの少ない車」を選ぶことになりました。私が1台1台車内のにおいを嗅いでいって判断しました。まず、ざっと30台くらい見てみました。中古車は芳香剤の強い車、タバコのにおいが染みついている車、カビくさい車など様々なにおいがあります。中古車でも製造されてから3年以内のものは新車のにおいがきつくて、私には耐えられそうにありませんでした。車は新しいと車自体の化学物質が問題になり、古いものだと後からついた化学物質(タバコなど)が問題になります。ほどよいものがなかなか見つかりません。レンタカーや展示車、試乗車だった車は比較的生活臭が染みついていないものが多いです。芳香剤を使っていないのでその点も有利です。しかし、レンタカーにはタバコのにおいはしっかりと染みついていました。

 よくにおいを嗅ぎながら少しでも条件のよい車を選びました。30台見てみて、乗れる可能性のある車が1台あるかないかです。また、においを嗅いでみるまでもなく、一見しただけでダメだとわかる車も多かったです。北海道の中古車は、冬タイヤをセットにして販売するのが標準のようで、車内にタイヤを積んで展示している車が多いのです。タイヤが積んである車は、車内が猛烈なタイヤ臭なので、そもそもにおいを嗅ぐことができません。営業マンは「タイヤを降ろしてみましょうか。」と言ってくれました。しかし、タイヤを降ろしたところで、すぐににおいが取れるわけではないです。よほど長期間換気しなければ、タイヤのにおいは消えることはないです。もともとタイヤを乗せていない車だけを見て回ることにしました。(タイヤを積んでいない車は、全展示車の1/5といったところでした。)

 乗れる可能性がある車が見つかると、その車を細部までチェックします。制止した状態でよさそうな車も、エンジンをかけたり、エアコンをつけたりすると、刺激を感じることが多かったです。このようにチェックしていくと、私が乗れそうな車はほとんど見つかりませんでした。

 何件か中古車屋に行ったのですが、一軒とても親身になってくれる営業マンがいる店がありました。この営業マンは、1台1台よく見せてくれて、よさそうな車があれば時間をかけて細部までチェックさせてくれました。こちらの事情を説明すると、よく耳を傾けてくれました。展示場で見てみて判断できなかったときは、その車を一晩貸してくれる、とまで言ってくれたのです! とてもありがたかったです。一晩借りてみてよくわかったのですが、展示場で短時間見るのと一晩じっくり検討するのとでは雲泥の差があります。一晩借りてみた車は、昼間はよさそうだったのですが、暗くなってライトを点けると、強烈な目の痛みに襲われました。目の痛みはライトを点けた瞬間に始まり、消した瞬間に収まるので、電磁波過敏症(ES)の症状だったようです。車を一晩貸してもらったのにダメだったので、営業マンはがっかりしていました。私はとても申し訳なく思いました。さらにもう1台借りたのですが、これも長時間乗っているうちに刺激を強く感じるようになってきてダメでした。

 いくら探しても見つからないので、私はだんだん意気消沈していきました。営業マンも元気がなくなってきました。営業の人には、ここまで親切にしてもらったのに期待に応えられない、という申し訳なさがあり、心苦しくなってしまいました。これは家族に対しても、日常的に抱く感情です。

 車は高価な買い物です。買ってダメだったら…と思うと、気後れしてきました。何だか疲れてきたので、それまでよりペースを落として中古車探しをしているうちに、冬を迎えました。冬になると、展示してある中古車の車内のにおいはかなり薄くなります。気温が低くなって化学物質の揮発量が減るためです。そのため、ドアを開けて嗅いでみて大丈夫な車でも、15分くらい暖房をたいて車内を暖めてみるとにおいが強くなる、ということが頻繁に起こりました。車内を暖めてみなければ判断できないというのは、探すのに効率が悪すぎます。春になるまで車選びは延期することにしました。春に車を買って、一夏換気すれば、かなりにおいが減るのではないかと予想しています。

(2005.6.13)

[追記]  
 その後しばらく車に乗れない状態が続きましたが、中古車探しは諦め、公共交通機関を利用していました。2006年になって体調が回復すると、再び車に乗れるようになりました。

(2017.11.30)

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