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リフォーム

 

 [アパート探し]
 1999年1月に、結婚することが決まったので、アパートを探しました。このときは、自分がCSであることに気づいていなかったので、日当たりがよくて、静かで、こぎれいなところを探しました。

 一軒とても日当たりのよいアパートが見つかったのですが、室内を見てみると、何だかにおいました。ツーンとするにおいと、肺を直接圧迫するような鈍いにおいとが混じり合っていました。
「いくら何でもこれはくさい。こんなところに住んで大丈夫なのか?」
と疑問に思いました。夫はそこをとても気に入ったので、私は自分の独特の感覚をどのように伝えたらいいのか悩みました。この時点では「シックハウス」という言葉も知りませんでしたから、このとき私の心にあったのは「漠然とした悪い予感」のようなものだったのです。

 そのアパートに住んでいる人に、直接聞いてみることにしました。いきなり訪ねていったのに、嫌な顔もせず、親切に答えてくれました。
「入居したとき、ツーンとしたにおいがしませんでしたか? それでぐあい悪くなったりしませんでした?」
と、私がきくと、
「最初はちょっと気になったけど、すぐになれたよ。だんだんにおいも薄くなってきたし。」
という答えが返ってきました。

 それで、もうそのアパートに決まりそうになりました。しかし、私の心の中の警戒心はとても強く、結局やめにしました。

 さらに何件か見ていくうちに、静かで落ち着いていて、においも少ないところがあったので、そこに決めました。木造アパート2階建(築4年)でした。下見のとき、不動産屋が言いました。
「壁の汚れは、入居までに壁紙を貼り替えるから大丈夫です。畳も替えるので、今よりずっときれいになりますよ!」

 契約後、引越直前にカーテンのサイズを測りにいったら、下見のときとは違う強い刺激を感じました。窓枠のサイズを測っているうちにだんだん胸が苦しくなり、呼吸がしづらくなってきました。私はとてもだるかったのですが、何とかサイズを測り終えて家に帰りました。

[引越]
 引越の日、荷物が運び込まれている最中に、私はどんどんぐあい悪くなってきました。すぐにでも横になりたかったのですが、家中ごった返していてとても無理です。息が苦しく、頭が痛くて、とてもだるかったです。

 夫は3ヶ月遅れで引っ越してくることになっていたので、その晩は一人で新居に泊まりました。くたくたに疲れているのに、息が苦しくてとても眠れません。息をするたびに気管がゼイゼイと音を立てていました。喘息用の吸入薬を使ったのですが、ほとんど効きませんでした。その晩は息苦しくてとても寝ていられず、座ったまま、うとうとしながら朝を迎えました。

 結局、そのアパートに住んだのは3日間だけでした。3日後、フラフラになりながら、私は実家に戻りました。このときはじめて自分が化学物質過敏症なのではないか、と気づきました。ちょうどこの頃、マスコミで「シックハウス」や「化学物質過敏症」について報道しているのを耳にしました。それで、図書館や書店に行って、CSの本をあるだけ読んでみました。書いてあることが、いちいち今回の引越の事情や、これまでの私の体調不良によく当てはまるのです。長年の体調不良の原因がわかって、かなりスッキリしました。

[シックアパート対策]
 私は本で情報収集し、夫はインターネットでいろいろ調べてくれました。それらの情報をもとに、アパートの対策を行ってみることにしました。当時は、「換気をして化学物質の濃度を下げる」「炭で有害物質を吸着させる」という方法が主流だったように思います。シックハウスの原因物質のうち、ホルムアルデヒドの濃度は測れるようになっていたので、当時はシックハウス対策=ホルムアルデヒド対策という風潮がありました。

 まず、24時間窓を開けっ放し、換気扇を回しっぱなしで換気をしました。3日くらいして、換気の効果が十分あらわれたころにアパートに行ってみました。しかし、それでも、私はその部屋のにおいに、とても耐えられませんでした。冬だったので、換気すると室温は2℃くらいでした。もし、換気をして耐えられるような状態になったとしても、この寒さではとても暮らせないと思いました。

 どの部屋のどの建材が有害なのかを確かめるために、外に通じる窓は開けたままで、部屋同士を仕切る戸はすべて閉めました。そして1つ1つの部屋のにおいを嗅いでいきました。特に刺激を強く感じたのは、和室の畳、リビングの壁紙、寝室のクローゼットです。その中でも特に有害だったのは畳でした。畳の部屋はなるべく開けないようにして、他の部屋の対策をしてみることにしました。寝室のクローゼットの合板部分に、ホルムアルデヒドを吸着するという和紙を貼りました。また、リビングの壁紙の上にアルミシートを貼りました。入居前のリフォームで新しく張り替えた壁紙は、リビング全体の1/3程度だったので、その部分にアルミシートを貼り、古い部分はそのままにしました。リビング全体だったら、もっと苦労したはずです。はじめはアルミ箔を貼ってみたのですが、箔が薄いのですぐに破けてしまい、うまく貼れません。不織布のようなもので裏打ちされている少し厚手のアルミシートを使いました。(調理用のものです。) 私は1人で作業したので、アルミ箔をうまく貼れなかったのですが、2人以上でやれば、破れないように貼ることができるかもしれません。

 このような対策を行った結果は、あまりはかばかしくありませんでした。クローゼットの和紙は、ほとんど効果を感じられませんでした。当時はなぜなのかよくわからなかったのですが、今思うと、クローゼットの中の合板以外のものに反応していたためのようです。クローゼットの中は、合板とは別のにおいがしていました。今でもそのにおいを思い出すことができるのですが、それをとう表現したらいいのか、難しいです。あえて表現するとしたら、それは、ハッカのにおいを重苦しい感じにして、辛子を混ぜて苦みを加えたようなにおいでした。和紙を貼る作業中、クローゼットの中に空気の流れを感じました。木造なので、すきま風があるのかなと思っていました。その空気の流れに乗って、ハッカのようなにおいがクローゼットに吹き込んで来ていました。今となっては確認のしようがないのですが、多分、床下にまいた防蟻剤か、建物の構造部分に使った建築材料のにおいが、空気の循環と共にクローゼットに流れ込んでいたのだと思います。

 リビングに貼ったアルミも、ほとんど効果がなかったばかりか、かえって有害性が増したように感じられました。これは、はっきりした原因が今もってわからないです。多分、アルミシート自体が私の体に合わなかったのでしょう。

[畳を運び出す]
 その後、畳を外に運び出すことにしました。家の中で、一番有害性が高く、強い反応を引き起こしていたからです。私と夫の2人だけでは重くて運べないので、便利屋を呼んで外の物置に運んでもらいました。畳がかびないように、スノコを買ってきてその上に乗せました。そして湿気を吸わないようにビニールで全体を覆いました。畳が室外に出て、和室の刺激はかなり収まりました。しかし、畳を取り除いたあとに下板が露出してしまい、これがにおいます。畳の防虫紙のにおいが、板にも移ってしまったようでした。また、クローゼット同様に、板の隙間から風が出てくるのがわかりました。この空気の流れも、クローゼットと同じハッカのようなにおいで、嗅ぐと胃がムカムカと気持ち悪くなりました。

[ベークアウト]
 ベークアウトもしてみました。閉め切った室内でストーブを焚いて、長時間室温を上げてみることにしました。私はその間アパートにはいられないので、夫がストーブの見張りをしてくれました。しかし冬だったので思ったように室温が上がらず、効果もほとんどありませんでした。確か室温25℃以上を16時間くらい保ったと思います。もっと長時間やればよかったのかかもしれませんが、これ以上は無理でした。ベークアウトをする前に、「シックビルディング」*1 という本を読んだのですが、この本には「ベークアウトは確実な方法ではない」と書かれていました。ベークアウト直後はいったん化学物質の濃度が下がるのですが、時間と共に、もとの水準かそれ以上になってしまうのだというのです。それを知っていたので、徹底したベークアウトは行いませんでした。「ダメでもともとだが、試しにやってみよう」という感じでした。*2

[アパートを解約]
 やれるだけのことはやったけど、住めるほどにはならない…作業をしているうちに、私はどんどんぐあい悪くなってきて、最後は気力だけでやっているという感じでした。毎日のようにアパートに通って作業をしたのですが、だんだんアパートに向かう足取りが重くなってきました。

 結局、そのアパートは3ヶ月で解約しました。3ヶ月間、とぎれることなく換気をしていたにもかかわらず、有害物質の濃度は、私が耐えられるレベルまでは下がりませんでした。真冬に換気しながらの作業はとても寒かったです。


[新たに家さがし]
 この後、さらに私が住める家を探していくことになりました。このアパートでの経験をもとに、不動産屋に次のような条件で賃貸物件を紹介してもらうことにしました。
「前住人が退去後、リフォーム・ハウスクリーニングをしていないもの」
賃貸物件は、たいてい、住人が退去したあと、すぐにリフォームしてしまうようです。上記の条件に合うものを見つけるには、退去後、すぐにその物件を見に行かなければなりません。そのため、不動産屋に、もうすぐ空きそうな物件があったら、すぐに知らせてもらうようにしました。連絡が来たら、まず、建物の外観や周辺環境を見に行きます。それでよさそうなら、退去後すぐに室内を見せてもらいました。このような条件で紹介してもらうので、時間をかけて少しずつ見ていくことになりました。時間がかかってもいいから、じっくり探していこうと思いました。

 上記のような条件で探しても、私の住める家はなかなか見つかりませんでした。この続きは「家さがし」で書きます。

(注) 私は過敏性が高かったので、シックアパートの対策はほとんど効果がありませんでした。しかし、私より過敏性の低い人や建物の有害性がそれほど高くない場合は、上記の方法が有効な場合もあるはずです。この文章を参考にして自分なりにトライしてみてください。

*1 「シックビルディング」 Thad Godish/著  小林 剛/訳注 オーム社/刊
*2 私のやり方は不十分だったので効果は上がりませんでしたが、きちんとやれば効果が出る場合もあるようです。1999年当時は*1の本しか情報がありませんでしたが、その後多くの本が出版されているので、参考にしてみるとよいと思います。私が最近読んだ中で参考になった本を1冊。
「ホルムアルデヒドによる室内空気汚染に関する設計・施工基準・同解説」日本建築学会/刊。
ベークアウトの標準的な方法は、「室温30℃〜40℃を72時間保つ」と書いてあります。

(2005.3.11)

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「レンタカー」へ続く
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