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家さがし
 

 私は1999年2月、結婚を機にアパートに引っ越しました。しかし、そのアパートはシックハウスで、私は住むことができませんでした。結局、たった3日住んだだけで、引き払うことになりました。(→詳しい経過は、スモール・データ・バンク「リフォーム」に書きました。) その後も住むところを求めて、家さがしをする日々が続きました。

 CS患者が住居を探すときには、様々な困難に突き当たります。私の体験を書くことで、他の方々が家さがしするときの参考になれば、と思います。

[天然素材の家なら安全?]
 アパートを解約して引き払った私は、CSについて根本的に調べてみることにしました。夫と住むための新居を探さなければなりませんでしたが、どのような住居なら大丈夫で、どのような住居だとダメなのか、ということが全然わからなかったからです。

 図書館で「シックハウス」「化学物質過敏症」についての本を何冊か読んでみました。今でこそ多くの出版物が出ていますが、当時は関連本は数冊しかありませんでした。医療も建築業界も、対策はまだ始まったばかり・・・という感じでした。当時の情報で主流を占めていたのは、
「合成化学物質を使った家に住むと発病する。天然素材を使った家なら安全である。」
という考えでした。シックハウスをすでに建ててしまった場合でも、天然素材でリフォームすれば大丈夫という考えでした。知り合いに相談してみたら、何人かは「ローンを組んで自然素材の家を建てなよ。」とアドバイスしてくれました。

[モデルハウス見学]
 他によい情報もなかったので、賃貸物件を探しつつ、家を建てる方向でも動いてみることにしました。まず、一般の住宅メーカーの「シックハウス対策住宅」のモデルハウスを一軒見に行きました。そのモデルハウスは、壁が珪藻土で床下に炭が敷いてありました。しかし畳は普通の防虫紙つきのものだし、合板を使った部分も多数あり、ピンポイントの対策という感じがしました。私は畳のにおいでフラフラになり、すっかりぐあい悪くなってしまいました。

 次に、材料や工法にこだわった本格的な自然住宅のモデルハウスに行きました。昔ながらの工法で建てられた木造住宅で、床や天井は天然木無垢材、壁は漆喰で作られていました。そのモデルハウスの玄関に入ったとたん、木のにおいが鼻につき、何だかぐあい悪くなってきてしまいました。頭が痛くてフラフラします。それでも何とか営業マンにいろいろ質問して、内容をよく把握しようと努めました。そのモデルハウスでは、システムキッチンは一般の材料を使っているということでした。吊り戸棚の扉を開けると、中は溶剤のにおいが強くしていました。お風呂場は檜の無垢材を使ったものなのですが、湿度が高くカビが生えやすい場所なので、防腐塗料を塗っているということです。檜のにおい自体も強いですが、防腐塗料のにおいもしていました。ウッドデッキなどに塗ってある塗料のにおいです。キッチンとお風呂場がぐあい悪いのは仕方ないにしても、他の部屋はどうなのでしょうか?

 リビングでも寝室でも、私は何ともいえない怠さを感じました。それらの部屋は天然素材しか使っていないにもかかわらずです。キッチンやお風呂場の有害物質が家中に漂っているせいなのでしょうか? それとも、天然素材にも反応しているのでしょうか? よくわかりませんでした。

[こだわりのお宅拝見]
 この住宅メーカーで家を建てた人が自宅を見せてくれるというので、住宅メーカーの営業マンに連れられて訪ねていきました。その方は、かつては東京で暮らしていたのですが、子供がひどい喘息だったので、仙台に転勤を願い出て引っ越してきたということです。仙台に新しく建てた家にとても満足していると言っていました。子供の喘息は、引っ越してからとてもよくなったということです。

 その家に入ってみて、私はまたモデルハウスと同じぐあい悪さを感じました。そのお宅は、収納部分に合板を使ったというので、そのせいなのかな? とも思いました。とにかく調子がよくないので、何千万円もかけて家を建てるのはリスクが高いのではないかと思いました。そのお宅の方のようによい結果が出ればよいのですが、もしそうでない場合は大変なことになります。

[天然素材の病院]
 次に、アレルギー医が天然素材の医院を建てたというので、診察を受けにいきました。その医院は隅々までとことんこだわった作りで、収納や建具もすべて天然素材で大工さんが作ったのだそうです。壁・天井・床は杉材、壁の一部は漆喰、暖房はマキストーブです。木のぬくもりのある、本当にすてきな医院でした。しかし、私はここでもまたぐあいが悪くなってしまったのです。院内に杉材のにおいが充満しており、鼻やのどがヒリヒリ痛くなり、息苦しくなります。重苦しい頭痛がして、視野が狭く暗くなります。思考力が落ちてしまうので、診察の度に伝えたいことを紙に書いていきました。その場ではとても思い出せないからです。この体験から、私は天然木に反応する体質なのかな、と思いはじめました。

 初診の時は春だったのでストーブは焚いていませんでしたが、冬になってマキストーブを炊き始めると、さらに刺激を感じました。燃やしている木や紙のにおいで? あるいはストーブの塗料のにおいで? 煙突から漏れ出る排気・煤のにおいで? 原因はよくわかりませんでしたが、強い刺激を感じました。後にホームセンターでマキストーブを見てみましたが、内部に錆止め(?)の塗料が塗ってあり、その刺激はとても強かったです。これだけこだわって建てた自然住宅でぐあいが悪くなってしまうってどういうことなのだろう・・・? と私は悩みました。当時は天然素材であれば大丈夫なはず、という思いが強かったからです。

[木材の干し場を見る]
 1999年10月、隣県で自然住宅の展示会があるというので、夫と二人で出かけることにしました。駅前からマイクロバスで隣県まで案内してくれるという企画でしたが、私はバスに乗るとぐあいが悪くなりそうだったので、自家用車で行きました。モデルハウスは、床・天井は天然木無垢材、壁は漆喰でした。ここでも私はこれまで見てきた自然住宅のモデルハウスと同じようなぐあい悪さを感じました。粘膜への刺激、頭痛、視覚の変化、思考低下。

 この見学会の目玉は、材木を干している現場も見学できるという企画です。材木のにおいを嗅いでみれば、自然住宅による反応が天然木によるものなのか、それ以外のものによるものなのかはっきりわかると思い、参加しました。山間の広い敷地に大きなテントが張ってあり、その中に木材がたくさん積み上げられて干してありました。数ヶ月干して木材をよく乾燥させてから建材として用いるのだそうです。私はこの木材置き場でもぐあいが悪くなってしまいました。テントを出たり入ったりして、反応を確かめたのですが、外気よりテントの中の方が明らかにぐあい悪かったです。木のにおいがツーンとしていました。(テントの布と材木をよく嗅いで、テントによる反応なのか、材木による反応なのかを確認しました。材木による反応でした。)

 この経験から、私は天然木が体に合わないのだと結論づけるしかありませんでした。当時「天然木でCS患者がぐあい悪くなる」という記述は、どの資料にも見あたらなかったので、動揺しました。しかしダメなものはダメです。仕方がありませんでした。

[自然住宅より中古住宅の方が楽]
 その頃、モデルハウス巡りと平行して、賃貸物件をあちこち見て回っていましたが、古い中古住宅の方が自然住宅よりずっと体が楽だと感じていました。それに、シロアリの問題もあります。当時「床下の毒物シロアリ防除剤」*1という本を読んだのですが、この本の中の一例が私の目にとまりました。自分の家ではシロアリ駆除をしないのに、隣家で薬剤散布をしてぐあい悪くなった、という話でした。私も過敏性が高いので同じ事態にならないとも限りません(→スモール・データ・バンク「シロアリ駆除」参照)。家を建てて定住するとなると、このようなことが起きたときに困ります。そのためにも、いざとなったらすぐに引っ越しできる賃貸住宅の方がよいのではないか・・・と考えるようになりました。

[賃貸物件を見て歩く]
 賃貸アパート・住宅は本当に数多く見ました。紹介してもらったのは100件くらい、室内を見たのは40件くらいだったと思います。あちこちの不動産会社に事情を話し、次々紹介してもらいました。「リフォーム」の項で書いたように、次の条件で紹介してもらいました。
「前住人が退去後、リフォーム・ハウスクリーニングをしていないもの」
これに、さらに木造・築10年以上・南向き(カビ対策のため)という条件を加えました。はじめは夫の仕事の都合から、仙台市の東の方で探していました。しかしこの地域は工場がたくさんあり、街全体の空気がよくなかったので、あとからは仙台市全域で探すことにしました。何件も見て回ったのですが、「これは大丈夫」というようなところは一軒もありませんでした。それぞれにどこかしら難があります。

室内では・・・合板のにおい、畳の防虫紙、塩ビ壁紙、タバコのにおい、カビなど

以上のようなものが気になりました。いくつも物件を見ていくうちに、頭の中に有害物質濃度のスケールができあがってきました。「今見ている物件は、今まで見た中ではこの辺の有害度に当たる」ということが解るようになってきました。かなり数をこなしていくと、木造築10年以上の建物であれば、室内はそこそこ耐えられるということがわかるようになってきました。しかし、木造住宅は床下にシロアリ駆除剤をまくらしく、1階は薬剤のにおいがします。物件によって濃度はかなり違っていましたが、最も濃度の低い家でも、長時間暮らすとなると、どうなるのか心配でした。集合住宅の2階以上に暮らせば大丈夫かもしれないと思いましたが、集合住宅は他の入居者が使用する化学物質が問題になります。たとえば隣家で「バルサン」をたかれた場合、耐えられるかどうか、とても心配でした。しかし、一戸建てだとシロアリの問題がある・・・なかなか解決できない問題を抱えていました。

[外気の問題]
 賃貸住宅は外の空気が問題になる場合もあります。私が物件を探していて問題となったのは次のような項目です。

外気の状況・・・
・ 隣家に古タイヤを積んでいる
・ 隣がガソリンスタンド・クリーニング店・美容室
・ 家の前の側溝(どぶ? のにおい、側溝に消毒剤を入れる場合がありそう)
・ 線路が近い(除草剤)
・ 田畑が近い
・ 住宅地はシロアリ駆除剤のにおい(あちこちで)
・ その他特定できない刺激物


 そういった様々な有害物を何とかすり抜けて、条件のよいところを探さなければなりませんでした。

 細かい問題はいろいろあったのですが、大きな問題は次の2点です。

○外気の有害性・・・室内より室外の方が有害である物件が多かった。これでは換気ができない。
○シロアリ駆除剤・・・古い住宅でも木造のものは約5年に1回ずつシロアリ駆除剤をまく。


[鉄筋コンクリートはどうか]
 「木造」−「シロアリ駆除」の問題をクリアするために、鉄筋コンクリートの古い賃貸マンションを探したこともあります。カビが心配だったので、風通しのよさそうな高層階を探しました。鉄筋コンクリートの建物は、10年経過したものでも、同じ築年数の木造住宅より建材のにおいが強かったです。そして木造にはない独特のにおいがしました(コンクリートのにおい?)。なんだか寒い感じもしました。マンションは15年以上経過したものという条件で探しました。

 2000年9月と12月に賃貸マンションを契約しましたが、結局住めませんでした。両方とも外気が原因でした。

 1軒目は8月に下見に行った時は、外気は問題なかったのです。しかし、契約後9月にいったら、外気がとても強い刺激を帯びていました。この時はマンションに行くたびショック症状のような物を起こしていたので、怖かったです。半径1kmくらいに渡って刺激が広がっていました。今でも原因はわかりません。

 2軒目は、日曜日に下見をしたときには、外気は問題ありませんでした。室内は少し問題があったのですが、何とかなるかもしれないと思い、契約しました。しかし、平日は、隣のビル(新築)の換気口から有害な空気が大量に排出されていたのです。その排気が部屋の中に入ってくるので、刺激が強くて窓が開けられません。土日になると、その刺激はやみます。年末年始の5日間は隣のビルが休業だったので、本当に空気がきれいになりました。しかし、1月4日からはもとの刺激に戻ってしまいました。隣のビルに行ってみましたが、かなり新しい建物らしく、室内は強い刺激臭がしていました。

[下見でどこまでわかるか]
 2軒ともダメだったので、精神的にも経済的にもかなり大きなダメージを受けました。住居探しはとても難しいです。賃貸住宅を下見する時は、じっくり見たとしてもせいぜい30分くらいの時間であり、実際に暮らしてみるのとは全く違います。「量・距離・時間」の法則(→第1章〔3〕−a )でいうと、「時間」が圧倒的に短いのです。

 この問題をクリアしようと奮闘している方もいます。「化学物質過敏症になった歯科医たち」(CS支援センターブックレット)に出てくる事例です。家を探す時に、不動産屋に「あらかじめ一週間住んでみてから契約するかどうか決めさせて欲しい」と交渉するのだそうです。しかし、居住権や火災保険の問題などからなかなか承諾してもらえない、ということです。

 CS患者は、日用品から高額の商品まで、「買ったのに有害で使えなかった」という経験があるでしょう。できるだけ出費は抑えたいのですが、そうもいかないことがあります。特に住宅関連の費用は大きいので、1つの不具合が大きな損失になってしまうのです。その最たるものが「シックハウス(マイホーム)」です。

 この賃貸マンションの件で意気消沈した私は、少しの間住居探しを休むことにしました。そうしているうちに、2001年5月にCSが急激に悪化してしまい、とても家探しをしていられるような状況ではなくなってしまいました。

 この話は第5章〔3〕へ続きます。

*1 「床下の毒物 シロアリ防除剤」植村振作/著 三省堂/刊

(2005.5.24)

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