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第5章 資料を活用する

〔1〕資料を活用することの重要性
〔2〕情報へのアクセス方法
〔3〕資料の活用の実践例(引越の経緯)
 

 

第5章 資料を活用する

〔1〕資料活用の重要性

○ 解決のヒントを探す
 これまで私は、CS治療のために、自分で対策方法を見つけていくことが大切だと書いてきました。しかし、「自分でやるといっても何をどうしていいか思いつかない」と思う方もいるかもしれません。その時に、情報を収集することが解決の糸口になってきます。

 CSは治療法が確立していない病気です。解決のためのヒントを持っている人はいますが、トータルで誰にでも通用するような方法を知っている人はまだいません。現時点では、「この通りにすればすべてのCS患者が回復する」というような情報はありません。このような現状なので、回復のためには、CS患者自らが様々な情報を収集して、自分で判断していくことが必要になります。また、CSという病気の場合は、健康回復のための医療情報のほかに、日常生活で有害物質を避けるための情報も必要になってきます。現時点では、「有害物質を避けるために具体的にどうしたらいいのか」という情報は数が少ないので、自分で調べて対策法を考えていくことになります。CS症状のために情報に接するのが困難な場合がありますが、何とか工夫して必要な情報を手に入れましょう。

○ 調べてみよう
 資料を活用すると、原因物質を推測したり、対策を考え出すのに役に立ちます。例えば、畳に強い反応が出る場合は、畳について調べられるだけ調べてみます。一体、畳の何が有害なのか? 有害性を減らすためにはどうしたらよいのか? というようなことについて調べてみます。そのために、次のような各項目について調べてみます。

・ い草はどうやって育てられるか
・ い草の産地について
・ 防虫紙の素材は何か? 防虫成分は何か?
・ 畳の防虫処理はいつ頃から行われているのか?
・ 畳の防虫処理をやるようになった経緯は?
・ い草は染色されているのか? 染料の成分は?
・ 自分にとって安全な畳はあるか?
・ 安全な素材の畳を買うべきなのか?
・ 新しい畳を買わずにすます方法はないか?
・ 他のCS患者の体験談は?
・ シックハウス対策をしている建築家の意見は?


以上のような項目を本(図書館・書店)・インターネット・人に相談などの方法で調べてみます。

 私の場合は、引っ越しした家の畳が有害だったので、新しい畳を購入することを検討してみました。しかし、上記のことを調べた結果、新しい畳を買うのはやめにしました。私の過敏性を考えると、市販されている安全性に配慮して作られた畳のいずれも、耐えられる自信がなかったからです。 第1章〔2〕−c(「覆って有害物質の揮発をおさえる」)に書いたように、畳をビニールで覆うことで、毒性を下げる方法を選択しました。2004年に実家の畳の表替えをした時は、私が調べた情報をもとに、安全性に考慮した素材を使ってもらいました。実家は、自分が住んでいる場所ではなく、年に1、2度帰省する程度なので、そこそこ安全であればよいと判断しました。年に1,2度とはいえ、一般の畳表を使用すると、帰省した時に家に入れない恐れがあるので、安全性を考慮した素材を使ってもらいました。このように一通り調べてみると、素材に対する理解が深まるし、具体的な対策を立てやすくなります。


〔2〕情報へのアクセス方法

 化学物質過敏症は、ここ10年以内に知られてきた新しい病気・治療法が確立していない病気です。回復のためには、常に新しい情報にふれる必要があります。情報こそが治療のための生命線なのです。

 しかし、CS症状が出ていると、情報媒体に接することが難しいために、情報の絶対量が不足しがちです。不利な条件を何とか克服して、情報にアクセスするための工夫を紹介します。

本(図書館)
 図書館に行けば、たいていのことは調べられます。知の宝庫です。私にとっては、最高に楽しいところです。図書館に行って本を読み、いろいろな人の考えにふれると、普段、自分がいかに狭量な物の見方をしていたのかを思い知らされ、目を見開かされるような気がします。書店には、最近発行された本しか置いていないことが多いのですが、図書館に行くと、古い本から新しい本まで、膨大な量の本に触れることができます。

○ 図書館でのCS問題
 図書館の問題点はいろいろあります。本の紙のにおい・インクのにおい・綴じてある糊のにおい・図書館の建物のにおい・本に生えているカビ・ホコリ(アレルギーの人は注意)・来館者が身につけている化学物質(シャンプー・香水・ヘアスプレー・衣類の洗剤・クリーニング溶液・防虫剤・タバコのにおい・その他)。本自体にもこれらのにおいが移ってしまっていることがあります。

 これらの問題に対処する方法は第1章〔2〕−b「近づかない」〔4〕−b「新しい場所に行く時の注意」に書いたので参考にしてみて下さい。しかし、その方法ではとても対処できない人もいるでしょう。重症度が高いと、患者本人は図書館に行けないこともあると思います。その時は、家族の人に借りてきてもらい、ビニール袋に入れて読むとか、何とか工夫して情報にアクセスしてみて下さい。私の場合、重症だった時は、図書館に行けない時期が1年くらいありました。何とか行けるようになってからも、体調が悪くて、とても調べものをしていられないような時期が、さらに1年くらいありました。現在は、その時の体調や環境にもよりますが、ほとんど問題なく調べることができるようになっています。

○ 図書館で調べよう
 図書館で調べる方法を具体的に書いてみます。例えば、図書館で除草剤について調べる時には、司書に相談したり、検索機で検索して、除草剤関係の本を5冊くらいざっと読みます。この際、「除草剤は有害」という本だけではなく、「除草剤の有効な利用法」などという、除草剤を使う側の視点で書いた本を読むのも、役に立ちます。「ゴルフ場の芝生の管理」*1 という本は、とても細かく使用法が記載されており、じっくり読むことができました。ゴルフ場は一筋の雑草も許されないようで、除草剤の使用が徹底しています。芝の種類についてもこと細かに記されており、それらの記載を読んでいくと、すぐには役に立たないような情報でも、知識を広汎に身につけるのに有効です。1つの事項について、1冊だけではなく何冊も読んだ方が、情報が偏らなくてよいです。同じ問題でも、書く人の知識や立場によって、内容や解釈が違っていたりします。また、複数の本を読むと、相互に矛盾した記述がある場合もあります。そのようなとき、1冊しか読んでいないと、その違いに気づかないままに終わってしまいます。何冊か読むと総合的に判断できるし、筆者の立場によって発言内容が変わるからくりがわかってきます。また、どの本の情報がどれだけ信頼性があるのかをはかれるようになってきます。

 除草剤については具体的には次のようなことを調べてみます。

・ 毒性は?
・ どのような種類があるのか?
・どのような場面で使用するのか?(農地での使用場面・住宅地での使用場面)
・ 除草効果は?
・ 使用量は?
・ 使用頻度は?


このような項目について調べてみると、CS患者として生活していく上で「どのような場面が危険なのか」「どのように気をつけたらよいのか」がわかります。調べた後は、実体験に照らし合わせて検討・対策をしてみます。

○ 図書館の本に触れるときの注意
 図書館の本についての注意をもう一つ。農薬関係の本には農薬のにおいがついていることが多いです。シックハウスの本にはシックハウスのにおいが、料理の本には台所のにおいが、歯科の本には歯科医院のにおいがついていることが多いです。ペットの本は獣くさいです。どの本がどのにおいがしそうか予想して、十分に注意して接するようにして下さい。

*1 書名を正確に思い出せません。今回これを書くに当たって調べてみたのですが、引越する前に住んでいた地域の図書館で借りた本なので確認できませんでした。

本(書店)
 書店には、出版したての本がたくさん並んでいて最新情報を得ることができます。

 CSは比較的新しい病気なので、年々情報が新しくなっていきます。5年前に私がCSだと気づいた時には、シックハウス・CS関連の本はほんの一握りでしたが、現在は、ずいぶん数が増えました。情報の質も上がってきました。常に最新情報に触れるように心がけています。

 CS症状のために書店に入れない方もいるでしょう。書店の場合は、新刊本のインクのにおいや綴じてある糊のにおいが問題になってくると思います。本を購入する際の注意点・方法も図書館のところで書いたのとほぼ同じです。また、第1章の内容も参照して下さい。

CSについて活動している団体に入会
 CSについて活動している団体がいくつかあるので、それに入会し、会報購読や相談窓口のような所から情報を得ることができます。かつて「化学物質過敏症ネットワーク」という団体があり、私がこの会から得た情報は大きかったです。この会の会報に、毎号毎号患者の体験談(生の声)がいくつも載っていたので、CSという病気の性質を把握したり、自分の症状と照らしあわせたりするのに役立ちました。とても貴重な活動でした。感謝しています。「化学物質過敏症ネットワーク」は2001年6月に解散し、現在は「化学物質過敏症支援センター」にその活動が引き継がれています。他にもいくつかCSについて活動している団体があるので、本やインターネットで調べてアクセスしてみてはいかがでしょうか。

インターネット
○ インターネットで情報収集
 インターネットは本や雑誌のように出版されたものとは違い、素人も自由に情報を発信できます。このサイトのように! だから生の声に触れることができます。ただし、情報の質は玉石混淆なので、自分で判断して選別する能力が必要です。また、大量の情報があふれているので、自分の求めている情報に行き着くのが大変です。キーワード検索や、リンクをたどるなどして、必要な情報を入手しましょう。

○ 本人がパソコンを使えない場合
 本人がパソコンを使えると便利なのですが、パソコン本体のにおいや電磁波の影響で難しい場合があります。その時は、家族にお願いして調べてもらうなど、他の方法を見つけなければなりません。私の場合は、2004年10月くらいまでは電磁波過敏症(ES)のため、自分でパソコンを扱うことができませんでした。このサイトを開設したときは、私は自分のHPを見ることができませんでした。この頃は、調べものはすべて夫にやってもらっていました。2004年11月頃からES症状が回復していったので、現在は自分でも検索できるようになりました。自分でできるようになってみて実感したのは、絞り込みは自分でやった方がずっと必要な情報を拾いやすいということです。患者本人が何とか工夫して使えるようになるといいのですが…。このサイトの制作・デザインは夫に協力してもらって行っています。私の現在のES症状からすると、私一人でサイトの制作・維持をするのは難しいです。私はパソコンの前に座ると思考力が落ちてしまうので、紙に原稿を書いています。打ち込んだ文章のチェックも紙にプリントしたものでやっています。ESなどの理由でパソコンを使えない方は、家族の人に頼んでプリントアウトしてもらって読むといいと思います。プリントしたものの紙やインクのにおいがダメなら、さらにコピーして読むとかビニール袋に入れて読むとか、工夫してみて下さい。また、パソコンを使える方でも、文章の量が多くて画面上で読むと神経が疲れるという人も、プリントアウトして読むとかなり負担が減ると思います。(このサイトの内容を簡単に印刷できる「印刷ヴァージョン」を用意しています。ご利用下さい。)

○ インターネットは新しいメディア
 私は、インターネットというメディアは情報の革命だと思っています。新しくて面白いメディアです。これまで情報を配信できるのは一部の限られた人だけでした。例えば、ある健康食品の効用を知りたいと思ったら、得られる情報はその商品を販売する業者の発信しているものがほとんどでした。業者は基本的に利益追求のために活動しているわけですから、売り上げを伸ばすために有効な情報しか発信しません。現在は、インターネットで、その商品を使った人たちの評判を聞くことができます。また、その商売が誠実ではないとか、マルチまがい商法であるとか、そういうこともすぐに世間に知れるようになってきました。その商品によって健康被害を受けた人の声を聞くこともできます。また、価格情報もオープンになったので、不当に高額な価格で買わせられる、という被害も防ぐことができます。

 CS患者は、体に合わないものがあれば、それを使うことができないので、代わりのものを探すことになります。その際、思いつきや人に勧められるままに試していくと経済的に大きな負担になってくるので、情報をうまく選別する能力を身につけていくことが必要になります。そのためにインターネットは有効な手段となります。

行政に質問・相談
○ 市への質問
 2001年6月に地下鉄に乗ったら激しい目の痛み・頭痛を感じました。その刺激は、とても車両に乗り続けられないほど強いものでした。これは電車の消毒や洗剤の使用が原因なのかと思い、行政に質問状を出してみました。何もないところからいきなり質問状を出すのはちょっと勇気がいります。この時は「市民による街づくり提案」というアンケート用紙があったので、それを使いました。
 
 数日後、丁寧な回答があり、私がぐあい悪くなった日の電車の清掃・消毒・ホームの洗浄について、詳しく説明が書かれてありました。また、日常的に電車・ホームをどのように管理しているのかのシステムについての説明もありました。回答の内容はとても参考になったのですが、このときは結局、強い刺激の原因を特定することはできませんでした。その後、私は地下鉄に乗るたびにその強い刺激を感じるようになり、ついには地下鉄に乗ることができなくなってしまいました。のちに、この症状はCS症状ではなく、電磁波過敏症(ES)であることがわかってきました。このときの体験では、行政の回答文書を直接解決に生かすことはできなかったのですが、このように質問に答えてくれることがわかったということが、大きな収穫だったと思います。

○ 浄水場に相談
 2003年11月に、水道水が刺激を帯びるようになって困ったことがありました。市内の水道設備を調べるために、「水道記念館」に行きました。このときは記念館は丁度休業中だったのですが、隣接した浄水場の職員が水道システムについて親切に説明してくれました。私が知りたかったのは「水源はどこか?」「どのようなルートを通りどのような処理を経て自宅まで届けられるのか?」ということでした。市内にいくつの浄水場があり、どこが水源でどのようなルートで運ばれるのか、浄水処理はどんなものなのか、などということがわかりました。我が家の水道は川水を水源にしていることがわかりました。市の大半はダムが水源です。ダムの上流にはほとんど農地がないので、よい水源だと思いました。我が家は川水なので、上流に住宅や資材置き場・工場などがあり、ダムよりは条件が悪そうでした。この時、ダム水系に住んでいる知り合いに水道水を分けてもらって、自宅の水と嗅ぎ比べてみました。ダムの水系の水の方が我が家のものよりずっと刺激が少なかったです。それで我が家の水系には、上流から何かが流れて混じり込んだのではないかと推測しました。水道の安全基準はもちろんクリアーしているのでしょうが、私の過敏性が高いために刺激を感じたのだと思います。その後、水道水は少しずつ刺激が減っていき、1ヶ月後には元の状態に戻りました。水道水に問題がある人や引っ越しを検討している人は、水系を調べてみるとよいと思います。私がもし市内で引っ越しするのなら、ダム水系の地域に引っ越そうと思いました。

 浄水場に行く際の注意点を1つ。浄水場は、建物全体に塩素のにおいがします。塩素に過敏な人は、行かない方がいいです。私は塩素にはそれほど過敏ではないのですが、それでも少しCS症状が出てしまいました。症状は鼻に刺激・息苦しさ・思考力低下です。

○ 他にも様々な働きかけを
 私の体験はこれくらいですが、他にも行政に働きかけた例を本で読んだことがあります。農薬に過敏なCS患者が、家の近くの公園に薬剤を散布する時期を行政にあらかじめ告知してもらっているという話でした。行政の利用方法はいろいろありそうです。

地形図(国土地理院発行)
 第1章〔4〕−bでも書きましたが、地形図は本当に便利です。国土地理院で発行している白地図で、大型書店や政府刊行物販売センターで購入できます。(電話帳で調べてみて下さい。) また、インターネットでも見ることができます(国土地理院のホームページなど)。図書館で閲覧することもできます。(画面の1/2までならコピーも可。) 載っている情報は、次のようなものです。

● CS関連事項・・・・・田・畑・果樹園・林・工場・煙突・廃棄物処理場・高速道路・線路・ゴルフ場・清掃工場・下水処理場・公園・空港など。
● ES関連事項・・・・・高圧送電線・発電所・変電所・電波塔など。


 CS対策をする上で必要な情報満載です。自分の住んでいるところは是非、手に入れてみましょう。引っ越し先を検討している人は必見です。私は旅行の時も、行き先の地形図をチェックします。色鉛筆を使える人は色を塗り分けると見やすくなります。(土地利用別に塗り分けたり、工場の位置をチェックしたりできます。)

 以上、様々な情報源をあげましたが、この他にもいろいろあるので積極的にアクセスしてみて下さい。


〔3〕資料活用の実践例(引越の経緯)
 CS対策をするときに、どのように資料を活用していったらいいのか、ということを説明するために、私が引っ越しした時の経緯を紹介します。

○ 水道水に反応
 2001年に仙台市に住んでいた時、CS症状が急激に悪化し、水道水に強い反応を起こすようになりました。5月頃から水道水に接すると激しい目の痛みを感じるようになり、水道水を使うのが困難になってきました。風呂・シャワー・調理・洗濯など、生活のすべてにおいて支障を感じるようになってきました。

 活性炭を使った浄水器や浄水シャワーを使っても、その刺激はほとんど減りませんでした。煮沸して有害成分をとばそうと思いましたが、蒸気の刺激が強すぎてとても沸かすことができませんでした。炭を使って有害物質を吸着させようと思いましたが、この時は過敏性が高くなっていて、炭自体にも刺激を感じるようになっていました。

○ 水道局に相談
 一通り試した後、水道局に相談しました。水道局の人が私の家を訪ねてきて調べてくれることになりました。水道局の人はうちの水道水のにおいを嗅ぐなり、
「奥さん! これは塩素だよ。暖かくなってくると塩素の量が増えるんですわ。塩素! 塩素!」
と言いました。私はすでに浄水器で塩素を除去しても刺激が減らないことを確認していたので、納得できませんでした。(塩素試薬を使って塩素が除去済みであるのを確認しました。) 水道局の人が、我が家の水道水を持ち帰って水質検査をしてくれ ることになりました。また、仙台市内の上水道の系統図を持ってきてくれるようにお願いしました。

 翌日、早速電話がかかってきて、水質検査の結果を教えてくれました。
「水質検査の結果は異常なしでした。」
というので内心、ずいぶん早く結果が出たな、と思いながら、
「どういう検査をしたのですか?」と聞いてみました。
「においを嗅いでみました。異常なしです。」
「え! それだけ!?」と思いましたが、水道局でできるのはこれくらいなのかと思い、引き下がることにしました。水質検査の方は期待通りにはいきませんでしたが、市の人が持ってきてくれた上水道の系統図は役に立ちました。

○ 仙台市の上水道水系
 仙台市内をいくつかの浄水場が分担して上水道を管理しています。水源も何カ所かあり、ダムから水を引いている所、川から直接水を引いている所など様々です。私が住んでいた地域は、隣町のダムから1割、市内を流れる川から9割を取水していることがわかりました。取水源となっている川は市内の北側を横断する川です。国土地理院発行の地形図で調べてみた所、その川の取水口より上流にはたくさん農地が広がっていることがわかりました。川の上流に一大田園地帯が連なっており、それが山の麓まで続いています。取水口はその水田地帯よりも下流にあります。上流には工場なども多数あり、何が原因かははっきりと確定はできないまでも、川の水に何らかの有害物質が混ざり込んでいること が強くうかがわれました。水道水に激しい目の痛みを感じるようになった頃は、ほぼ同時に農薬にも同じような反応を起こすようになっていました。車で水田や畑の近くを通ったり、除草剤を撒いて草が一面に枯れている所を通り過ぎると、激しい目の痛みを感じるようになっていました。痛みはとても強いもので、とても目を開けていられません。目をつぶっていると目の奥の血管が脈打っているのがわかり、ズキズキと痛みました。

 農薬に対する反応と水道水に対する反応の同一性、上水道水源の情報などにより、私は水道水に農薬が混入しているのではないか、と推測しました。多分、混入量は一般の人にしてみればごく微量なのでしょうが、過敏になった私の体には耐え難いものになっているのだと考えました。

○ 生活がどんどん困難に
 水道水に反応を起こすようになってからは、生活がどんどん困難なものになっていきました。過敏性が高かったので、浄水器・浄水シャワーは頻繁にカートリッジを交換しないと効果のないものになってしまいました。カートリッジはすぐに汚染物質が飽和してしまい、数日しかもちませんでした。新しい浄水器を買ってみましたが、有効だったのは最初の 7日間だけです。カートリッジが10年間有効というものを買ったのでがっかりしました。(この浄水器は返品しました。) 浄水シャワーのカートリッジは40リットル通水すると飽和するということがわかりました。 3ヶ月有効のカートリッジでしたが、1日15リットルずつ使っていくと、3日間しかもちません。しかし他に方法がないので1日15リットル(洗面器 5杯分)に水の使用量を制限して暮らすしかありませんでした。この量でシャワー・洗濯をまかなっていました。もっと頻繁にカートリッジを交換できればよかったのですが、それは経済的に難しいことでした。

○ 引越先の検討
 もうこのままでは生活自体が成り立たないと思い、真剣に引越を考えてみることにしました。私の過敏性の高さからいって、住めるような地域があるのかどうか疑問でした。まず地形図を使って検討してみました。その時住んでいた宮城県は西高東低の地形で、西に奥羽山脈、東が太平洋になっていて、川は西から東に向かって流れています。住宅地は東側(海側)に集中しており、その上流は人が住める限り山の麓まで水田が広がっています。山小屋で生活する以外に農薬の影響を避けることはできそうにありませんでした。川の上流に農地がない地域はないか? と全国の様々な地域を検討してみました。

引越に関しては、他にもクリアしなければならない大きなハードルがありました。それまでも私が住める家はないかと賃貸物件をいろいろ見て回ってきたのですが、住める家は見つかりませんでした。一番ネックとなったのはシロアリ駆除です。古い木造住宅を中心に探していたのですが、建材自体が古くてシックハウスの心配がないような家屋でも 、シロアリ駆除はほぼ5年に1回ずつ行います。この薬剤に耐えられず、それまで住める家を探せずにきてしまいました。その頃、夫がインターネットで調べているうちに、どうやら北海道にはシロアリがいないらしいことがわかってきました。(南部地域を除く。)
「シロアリがいない地域? そんな天国のような所がこの日本にあったのか!」
私はすごく驚き、感激して、真剣に北海道に移住することを考え始めました。

 私は、排気ガスにはそれほど強い反応は出ないのですが、農薬に対する過敏性はとても高いです。そのため、田舎よりも都会の方がずっと体が楽だと感じます。北海道の地図の中から、ある程度規模の大きな都市をピックアップし、条件に合いそうなところを探しました。

○ 札幌市の地形
 札幌市の地形図を調べてみた所、市の西と南が山地になっており、山の際まで住宅地が広がっていました。川の上流に農地がほとんどありません。南側の山にはゴルフ場が たくさんありましたが、西側の山際には農地もゴルフ場もほとんどありません。この辺で住む家を探してみたらどうか、ということになりました。市の北側と東側には農地がいっぱいあったので、ここは無理だと思いました。

 地形図で、札幌市内の次のような場所を色鉛筆でチェックしました。

農地・公園・工場・清掃工場・ゴルフ場・高速道路・鉄道・送電線・電波塔・発電所・変電所

これらを避けて家探しをすることになりました。

○ 家を探す
 私は過敏性が高かったのでとても外出できず、夫が単身札幌に飛びました。2002年3月のことでした。市内の不動産屋を次々訪ねては事情を話し、条件に合った物件を紹介して貰いました。地元の親切な業者の協力も得て何件も見て回り、私の住めそうな家を探しました。非常に幸運だったことに、よさそうな物件が見つかったので、夫はその家を契約し、仙台に戻ってきました。この とき札幌市内の水道水を汲んできてくれたのですが、私の住んでいた家のものよりずっと 刺激が少なかったので、本当にうれしかったです!!

 2002年5月に私は札幌に引っ越しました。この引越は成功し、私は水道水を使えるようになりました。これによって最大の窮地を脱することができました。資料を活用することによって、自分にとって適切な場所を選ぶことができたのだと思います。しかし、何よりも私は幸運に恵まれていました。それまでの1年間はCS対策で何をやってもほとんど効果がなく不遇な時を過ごしましたが、時には大きな当たりを引くこともあると言うことです。そして、夫をはじめ、私の引越に力を貸してくれたすべての人に、深く感謝しています。

2005年3月)

 

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