灯油
灯油の問題では、ずいぶん頭を悩ませてきました。特に仙台から札幌に引っ越してからは、灯油の使用量が増えたので、さらに悩みはましました。
[北海道の灯油事情]
北海道の家庭には、灯油を大量に溜めておくための「ホームタンク」というものがあります。
金属製のタンクで、我が家のものは、容量が490リットルです。仙台にいたときは、18リットルのポリタンクに灯油を買っていましたが、北海道は寒いので、それではとても間に合いません。490リットルのホームタンクに灯油を配達してもらうと、冬はだいたい3ヶ月持ちます(暖房+給湯器)。3ヶ月に1回ずつ、配達してもらっていました。
札幌に引っ越してから、灯油の質が極端に悪くなったような気がしました。ストーブを焚くと、ホコリが燃えているような、不完全燃焼しているような、嫌なにおいがします。これは、流通している灯油の質もさることながら、ホームタンクの問題が大きいようでした。ホームタンクが古いものなので、中がさびているし、汚れがたまっているようでした。現に、灯油に赤さびが混じっているのを目で確認することができました。
ホームタンクの灯油をフィルターで漉して、きれいにするサービスを利用してみましたが、あまり効果はありませんでした。(灯油をホームタンクからくみ上げて巨大な浄水器のようなものに通す浄化方法です。)
[我が家の特殊事情]
北海道の一般家庭では、手動でストーブに給油することは、ほとんどないようです。私が見た限りでは、次のようなスタイルが一般的なようです。
ホームタンクから地下パイプを通って、室内まで灯油が来ています。ストーブをパイプに接続すると、自動的に給油されます。
しかし、我が家の場合は、ポータブルのファンヒーターしか使えないため(→スモール・データ・バンク「暖房」参照)、手動でストーブのタンクに給油しなければなりません。
イラストのように、ホームタンクから、手動でポリに灯油を取り、さらにストーブのタンクに入れるということを、行っています。手動で行うということは、それだけ灯油に接触する危険性が高いということです。夫の協力も得て、なんとかこなしています。
一般家庭では、ホームタンクにフィルターがついていて、いったん灯油が漉されて、ゴミやさびを取り除かれてから、ストーブに運ばれます。しかし、我が家は、ホームタンクからフィルターを通さずに、そのままストーブのタンクに給油するので、タンクや灯油が汚れていると、その影響がもろに現れてしまうのです。
[配達されるごとに灯油の質がちがう]
3ヶ月に1回ずつ、ホームタンクに給油してもらいました。その度にドキドキしました。配達の度に灯油の質が違い、そこそこ安全なものから、かなり有害なものまで、様々だったからです。有害なものに当たったときは、3ヶ月間、そのにおいを我慢して暮らさなければなりません。冬の間は寒くて、ストーブなしではいられないので、長時間そのにおいにさらされることになってしまうのです。
灯油の質が悪すぎて耐えられないときは、配達してくれた業者と交渉して、引き取ってもらったこともあります。返金してくれる場合とくれない場合がありました。
灯油を引き取ってもらったあとは、すぐに別の業者に配達をお願いしなければなりませんでした。しかし、次の業者の灯油が安全かどうかは、試してみなければ確認できません。そんなことを繰り返しているうちに、経済的にも精神的にもかなり消耗しました。
[灯油移し替え大作戦]
2004年10月に灯油を配達してもらったときは、業者と交渉してみましたが、返金はしないし、さらに引取料がかかるということでした。このときは、しかたがないので、灯油を有効に使うために、両隣の家に、我が家の灯油をあげることにしました。
「灯油をあげる」といわれて、喜ばない人はいません。両隣の家の人たちも、我が家の事情を聞いて驚いたようですが、快く承諾してくれました。
私と夫は、2時間かけて、両隣の家のタンクに灯油を移しました。まず、我が家のホームタンクから18リットルポリタンクに灯油を移します。それを隣家のホームタンクに移します。その作業を延々と繰り返し、2時間後にようやく490リットルを移し終わりました。私は灯油のにおいでフラフラになりました。両隣の人は灯油をもらえて喜んでいました。
これを最後に、ホームタンクの灯油を暖房に使うのはやめにしました。暖房用には、いちいちポリタンクに灯油を買っています。まず、夫がガソリンスタンドに灯油を買いに行き、5リットルだけ買ってきます。(私はガソリンスタンドに近づくことができないので夫にお願いしています) それをストーブで焚いてみて、よさそうなら18リットルポリタンクに4つ分買います。それを暖房用に使いました。ホームタンクの灯油は、給湯器専用にしました。
ポリタンク4つ分(72リットル)の灯油を少しずつたいて、だいたい3週間持たせます。3週間に1回、夫に灯油を買いに行ってもらうようにしました。試しに5リットル買ってみて、それがダメならさらに別のガソリンスタンドで5リットル買ってもらいます。何度も試すと、夫の手間が大変なので、2回試してダメだったら諦めることにしました。刺激の強い灯油に当たったときは、3週間、我慢の生活です。それでもホームタンク(490リットル)に配達してもらっていたときに比べれば、リスクは格段に少なくなりました。
[後日談]
隣の家に灯油をあげた後の話です。灯油をあげて、室内の暖房の問題は解決しましたが、別の困った問題が発生しました。隣家で給湯器を使う度に、うちの周りが強い刺激臭で包まれるのです。その家の給湯器の排気口が我が家の方を向いているために、問題の灯油を焚く度に、こちらに刺激臭が流れてくるのです。あげたときには、こんなことは想定外でした。
しばらく刺激臭に悩まされましたが、1ヶ月もすると隣家は灯油を使い果たしてしまい、刺激はおさまりました。となりの家は灯油を使うペースがとても速いので助かりました。
[給油時の注意]
ストーブに灯油を入れるときの工夫を書きます。我が家のストーブは7リットルの灯油タンクが取り外しできるようになっていて、そこにポリタンクから灯油をポンプで給油します。灯油がなくなる度に、庭に置いてあるポリタンクのところに給油に行きます。
私は灯油のにおいが苦手なので、給油のときになるべく吸い込まないように工夫しています。灯油のにおいを吸うと、息苦しくなったり、気が遠くなったりします。頭が痛くなることもあります。給油ポンプは、電動のものを使っています。給油がすむとブザーで知らせてくれるので、便利です。ポンプをセットしてスイッチを押せば、自動的に給油してくれるので、その間はその場を離れることができます。灯油のにおいが来ないような場所に離れて待っていて、ブザーが鳴ったらそばに戻るようにしています。こうすると、手動のポンプを使うのに比べて、灯油のにおいを吸う量が格段に減ります。
ポンプをセットするとき、ポンプを片付けるときに、灯油のしずくがたれることがあります。このしずくが体にかからないように、よくよく注意して行います。給油は決して夜には行わず、昼間の明るいときにするようにしました。給油専用のビニール手袋を使い、手に灯油がつかないようにしています。
[冬の大気汚染]
札幌では、冬になると、街全体で大量の灯油を消費します。たいていの家は、部屋の中を暖かくするので、大量の灯油を焚きます。室温が25度以上のお宅もあります。そして、部屋の空気が汚れないように、室外に燃焼ガスを排気します。
また、「ロードヒーティング」といって、駐車場などのアスファルトを暖めて雪を溶かすシステムがあります。これは巨大な床暖房のようなもので、これにも大量の灯油が使われます。屋根に雪が積もると、重さで家に負担がかかるし、雪が落ちると危険なので、屋根を暖めて雪を溶かすシステムもあります。これにも灯油が使われます。また、雪がたくさん降るので、雪かきをしているうちに雪を積む場所がなくなってしまいます。雪の置き場に困ったときに、雪を溶かして処理する「融雪槽」というものがあります。このとき、雪を溶かすのに、灯油が使われます。
冬になるとこのような大量の灯油の燃焼を札幌市民(190万人)が同時に行うわけなので、街中の燃焼量は、相当なものになります。燃焼ガスは、ほとんどが室外に排気しています。そのため、冬になると、街中の外気が灯油のにおいになります。冬の初めから少しずつ濃度が上がり始め、1,2月の極寒期になると、相当な濃度になります。私は冬の初めから少しずつ体調が悪くなっていって、3月頃、冬の終わりになると、「慢性灯油中毒」のような状態になってしまいます。頭痛、息苦しさ、だるさが長期間続きます。
5月になって、市内でいっせいに暖房の使用がなくなると、空気はきれいになります。
「あー、やっと息が吸えるようになった!」
と喜びます。(しかし、そのあとすぐに、農薬シーズンが始まってしまうのですが・・・。)
このように札幌は灯油の影響が大きいので、灯油が苦手な人が住むのは、難しいかもしれません。
北海道でも、札幌のように人が密集していない場所なら、もっと楽だと思います。私は札幌に引っ越して4年になりますが、一冬ごとに灯油への過敏性が増してきているように感じています。
(2005.11.15)