2005/02/02 《いま天草の海岸の生きものたちは》 −2− |
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【イントロ】 陸繋島でつながった城島と外平干潟
外平海岸には陸繋島でつながった自然状態の城島(しろしま)が存在し、潮が引く砂質〜砂泥質の干潟が広がる。このように内海で海岸上部まで砂がある海岸は、有明海・不知火海の中では唯一残された場所である。また、自然状態の陸繋島が見られるのもこの外平海岸だけである。陸繋島の場所ではアサリも採られている。このような貴重な環境をあえて潰して人工の海水浴場にしようとした公共事業に、どのようなメリットが考えられるであろうか。地元の多くの人々にとっては、昔から遊んできた故郷の一つである。
広がった干潟上に見える緑色のものはコアマモの群落である。これはアマモより高い位置の内湾海岸に群生する海草の仲間で、熊本県でもその減少が続き、今回(2004年3月)レッドリストに載る事となった。 |
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【生きものたち】
《トゲウミエラ=上》 外平の夜の干潟では“おなじみさん”
《ウミエラカニダマシ=下》
高さ20cmほどにもなるウミエラで、中心部には骨軸が通っており、広がった葉状体は黒褐色で多数のポリプが集まった群体(動物個体の集合体)を作っている。骨片が集まり葉状体の縁より出ているためごつい感じがする。写真では葉状体の裏側が写っている。
このトゲウミエラの大型群体にはウミエラカニダマシが共生していることが多い。これがカニの仲間ではないことは足の数で判る。カニ類はハサミ脚を含めて左右全部で10本であるが、カニダマシの仲間は8本である。またハサミの部分も反転しており内側に開閉し、カニ類と違って長い触角を持っている。ハサミ脚にある模様も独特で、外平の夜の干潟ではなじみの生きものである。 |
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《スナイソギンチャク》 小魚たちには脅威的な毒の銛を持つ
海の中で触手を開いているとムラサソキハナギンチャクと間違えそうだが、触手が太くて表面には白っぽい斑点状のものが無数に見えることで違いがわかる。この斑点は刺胞の塊で、私たちが触ると指にベタッと付く程度だが、小さな小魚たちには脅威的な毒の銛となる。写真では潮が引いているため、触手が塊り絡み合って宇宙人のような異様な姿に写っている。 |
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《ニンジンイソギンチャク=上》 他では見られない大群生状態で生息
《掘り出されたニンジンイソギンチャク=下》
内海の砂地の干潟で生活するイソギンチャクで、外平海岸では干潟全域に大群生状態で見られるが、このような環境は熊本県でも他では見られなくなってしまった。砂上に触手を広げ、その触手に白い斑点を持つ美しいイソギンチャクである。外平干潟では触手の数ヵ所に白い大きな斑点を持つものが多い。名前の由来はもう一枚の写真のように掘り出された体壁を見ると野菜のニンジンに似た色をしているので納得してもらえるだろう。熊本県のレッドリストでは絶滅危惧TA類に評価されている貴重な群生地である。 |
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《フドロガイ》 2つの目でみつめる顔は貝には見えない
殻は太目の紡錘型で殻長6センチほどの巻貝である。この仲間で天草で一般的に見られるものは、牛深方面の海岸に多いマガキガイで、魚屋さんで売られるほど地元では良く食べられている。この仲間は独特の移動方法を使っており、蓋を海底などに伸ばして固定し、体を引き寄せる方法で前進する。また、柄の先に付いた大きな2つの目を持っており、その目でじっとこちらを見ている姿からは貝だろうかと思わせる。
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《ハボウキガイ》 大きい貝柱のため海の幸として重用される
有明海の特産種であるタイラギの仲間で、殻が細長いことで区別がつく。砂泥地では砂の中の小石などに足糸でくっ付き砂上に立ち上がっている。静かな内湾などに多い。干潟でも砂上に見えるように貝殻上部を出して棲息しているため、人に見つかって採られてしまうことも多い。僅かに干潟上に殻がのぞいている程度の時は、はだしで歩くと足裏を怪我することもある。殻長は30cm以上になり、その貝柱は大きいために地元の人々に海の幸として採られてきた。
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《ヨツアナカシパン》 見習いたい“ゆったリズム”の生き方
スカシカシパンと同様に砂質〜砂泥地干潟に見られるウニの仲間である。その殻は直径5cmほどの円盤状で厚さはとても薄い。干潟では薄く砂を被っていることが多く、誤って人に踏まれたのか、殻が割れた個体を幾つも見た。手に取ってよく見ると真ん中近くに4個の小さな生殖孔が見える。
これらの仲間は一見すると生きているのかと考えるくらいに、その動きがわからないが、彼らは殻表面の短い刺をゆっくり動かしながら餌を集めて食べている。せっかちな私たち人間も、時には彼ら同様にゆったりとしたリズムで世の中を見てみることができれば、違うものが見えてくるかもしれない。 |
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《モミジガイ=上》 名は体を表さないヒトデの種類
《トゲモミジガイ=下》
ヒトデの仲間だがモミジガイと言う他の生きものと勘違いするような名前が付けられている。星型に5本の腕をすっきり伸ばした砂干潟を代表するヒトデである。このようなヒトデがいたから人間は五角形のデザインを書けるのであって、このような形の動物が存在しなかったら私たちは星型のアイデアを生み出せたであろうかという話も聞いたことがある。腕の横には刺が一面に生えているのがモミジガイで、上に向かった大きな刺も持っているのがトゲモミジガイである。肉食で貝類などを飲み込んで消化している。 |
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《テナガコブシ》 人の握りこぶしに見えるところから命名か
コブシガニの仲間で、特別に長いハサミ脚を持っている。コブシとは体が丸くて人の握りコブシに似ているから付いたものと思われるが、私が小さいときにはこの仲間を太鼓ガニと呼んでいた記憶がある。ひっくり返すとこのカニのお腹が太鼓のように見えるからである。また、この仲間のカニたちは前に歩くのも得意で自由自在である。そのためこれらのカニを見たら、カニは横にしか歩かないとの勝手な人間の考えは修正されるであろう。
こんなに長いハサミ脚だが、曲げるとちゃんと口元に餌を運べるようになっている。それにしても、こんな形をしていると何か有利になる事があるのかなと考えてしまう。
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《ヒモムシの仲間》 「ひもがた動物門」だが種の特定は出来ず
体が紐状になっている動物の仲間である。サンゴ類などが入っている腔腸動物門、カニ類が入っている節足動物門などの分類の中で「紐型(ひもがた)動物門」という大きな分類に分けられる動物の仲間である。
写真は干潟から掘り出したもので、かなり長い体を貫いて縦に一本の白い筋模様が入っているが、図鑑では種が判らなかった。この仲間の生息地は主に海岸部だそうである。
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《スジホシムシ》 太いミミズのようで釣りのエサに使われる
外平干潟を掘ると砂の中から太いミミズみたいな生きものが見つかる。良く見ると淡い肌色をしており、体に縦の筋が入っているのが分る。「星口動物」という一つの動物門に区別される生きものの仲間で、体は円筒形である。以前は釣りの餌にも利用されていたようで、この外平のようにたくさん棲息している干潟もほとんど見られなくなったようだ。今の私たちには直接には縁がないような生きものであるが、このような名もない生きものたちが当たり前のように見られることが健全な環境を保っている証拠でもある。
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《テッポウエビ》 潮が引いた干潟で音を出すエビ
潮が引いた干潟でパチンパチンという音を聞いた事があると思う。この音を出しているのがテッポウエビの仲間である。熱帯を中心に多くの種類に分化したエビの仲間。捕まえてみると小さなエビの形をしているが、片方のハサミ脚が大きいので見分けがつく。また、エビ類はその様々な美しい体のデザインからも私たちの注目を引く生き物である。 |
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《メリベウミウシ=上》 キュウリのような臭い、行動力も不可思議
《メリベウミウシの卵=下》
潮が引いた干潟上で写した写真のために本来の姿がわかりにくいが、体は半透明の飴色の地色をしており、背中には太い棒状の突起が10本ほどある。頭部は頭巾状で、網を広げるように口を大きくゆっくりと開けて小さな甲殻類などの獲物に覆い被さる。この写真の個体は手のひらからはみ出るほどの大きさであった。キュウリみたいな特有のにおいを持っており、小さくて美しい色彩を持つウミウシの仲間であるが、見かけも行動も不思議な生き物である。
もう一つのリボン状の写真は、このメリベウミウシの卵である。きれいに並んだリング状の小さな白い点が一個の卵。無事に子どもたちが孵化するよう願いながら、そっと写真を写させてもらった。 |
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《ホウキムシ》 共生の習性が宿主の袋の中にも入り込む
ムラサキハナギンチャクの根元に見える黒いものがホウキムシの群れである。触手動物門に位置付けされ、体は粘液で作った管に包まれ、紫褐色の触手冠を干潟表面に広げ呼吸をしたり餌を採っている。私が調べた群れでは、ホウキムシの下の方はムラサキハナギンチャクの袋の中に入り込んでおり、体の色は薄い肉色であった。図鑑では共生と記載してあったが、このような状態で宿主への危害はないのであろうか。海では、このように様々な動物たちが共生・寄生・片利共生の関係にある生き物たちが多く見られる。 |
今回はここまで。天草を訪れた人はもちろん、訪れたことのない人たちもこれらの写真で、天草の干潟のイメージを描いていただければ幸いである。ほなまた!
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