バス
[これまでのバスとの関わり]
子供の頃からバスに乗るのは苦手でした。よく車酔いしました。今思うと、車酔いの他に、バスの排気ガスのにおいや車両のにおいでぐあい悪くなっていたというのもあったようです。
仙台に住んでいたときは、家が地下鉄の沿線にあったので(〜2002年)、ほとんどバスに乗ることはありませんでした。札幌に引っ越してからも、自家用車のみで移動していたので、長年バスとは縁のない暮らしをしていました。自分がCSだと気づいてからは、子供の頃にバスが苦手だった理由がよくわかりました。特に、車内の消毒のにおいに反応していたのではないか、と思い当たりました。そして、「CSが治るまでは、バスに乗るのはとても無理だろう」と頭から決めてかかっていました。
転機は2004年8月に訪れました。8月のはじめから、自家用車に乗ると、エアコンの空気で強い刺激を感じるようになり、乗っていることができなくなってしまいました。目の痛みが強く、とても目を開けていられません。しばらく痛みを我慢して乗っていたのですが、8月中旬に駐車場で、車をぶつけてしまいました。このままでは大事故を起こす可能性もあったので、車に乗るのをあきらめました。
車に変わる交通手段として、バスに乗ってみることにしました。最初は「絶対にぐあい悪くなるはず」と決めてかかっていたので、短時間だけ試してみることにしました。スーパーに買い物に行くことにしたのですが、バス車内でぐあい悪くなってしまった場合、買い物を無事すませられるのだろうか、帰ってこれるのだろうかと、とても心配でした。念のため、着替えを持っていきました。バスの車内で刺激物が服についてしまうと、
バスを降りた後、ぐあい悪さのために買い物ができなくなる恐れがあります。スーパーに着いてからトイレで着替えをすれば、バスの刺激物の影響を減らすことができます。
初めて乗ったバスは…そうです、確かににおいました。バスの車両のにおい、排気ガスのにおい、乗客の服のにおい、香水、シャンプー、革靴のにおい…そんなものが混ざり合ってにおっていました。しかし、私はそのにおいを嗅ぎながらも、それほど強い反応は起こさずに目的地までたどり着きました。きっと前よりも、体が回復していたのでしょう。多分、その1年前にバスに乗ったらもっと強い反応が起きていたと思います。ここ数年で少しずつからだが回復してきたために、バスに乗れるくらい過敏性が下がってきたのです。重症のCS患者にとっては、バスはリスクの高いものなので、ある程度回復してからでないと、難しいかもしれません。
バスの車内のにおいは、乗るときによって違います。乗客が身につけているもののにおいが混じり合って、車内の空気を構成しているからです。香水のにおいの強い人、新築に住んでいるらしい人、農薬のにおいがする人など様々です。これらが無差別に襲ってきます。そのときによって何が出るかわからないので(びっくり箱のようです)、ヒヤヒヤします。雨の日は湿気があるので、より一層においが強くなります。車両が新しいと、バス自体のにおいも強いです。(塗料のようなにおいがします。) どうしても車中にいられないときは、いったん降りて、次のバスを待つこともあります。しかし、1時間に1台しかバスが来ない路線もあるので、その場合は、次のバスが車で、長時間待つことになってしまいます。もし、1本やりすごしたとしても、次のバスが大丈夫かどうかわからないので、困ります。そのようなときは、がまんして乗り続けることもあります。そのつど状況を判断して決めています。
バスの車内で、自分の座席の近くに香水や整髪料のにおいが強い人が来たときは、サッと立って他の席に移動します。席が空いてないときは、一番楽な場所に移動して立っています。ウロウロと車内をさまよっています。私は電磁波過敏症(ES)もあるので、ケータイメールをしている人もこのように避けています。(1mくらい離れると大丈夫な感じです。)
[バス会社による違い]
札幌市内は、3社の民間バス会社が、地域別にバスを運行しています。私がよく利用するのはA社のバスで、ときどきB社も利用します。*1 バスの車両のにおいや環境はバス会社ごとに違います。よく利用するA社のバスは、ほとんどの車両が刺激が少ないので、あまり警戒せずに乗れます。しかし、B社のバスは3台に1台くらいの割合で、強烈な刺激臭がするバスに当たるので、その度にものすごくぐあいが悪くなります。乗るたびによく観察し、記録をとったのですが、どのタイプのバスが刺激が強いなのか、外観から見分けることはできませんでした。原因はエアコンから吹き出てくる空気のようです。冬の間、暖房をつけているうちは大丈夫なのですが、夏になって冷房になると、刺激の強い車両に遭遇するようになります。
B社のバスにはなるべく乗らないようにしているのですが、やむを得ず乗らなければならないことがあります。そのときは、バスに乗り込むときによく車内のにおいを嗅ぎます。乗り込むときの動作をなるべくゆっくりにして、その時間でよく嗅ぐようにしています。それで刺激が強いようであれば、すぐにバスを降ります。チェックする時間が短くて判断できないときは、運転手に「このバスは○○に停まりますか?」などと質問して時間を稼ぎながら、車内のにおいを嗅ぎます。それでOKなら乗り、ダメなら次のバスを待ちます。
B社のバスに乗るときは、あらかじめバス用の服装を用意しておきます。バスに乗る直前にトイレで着替えます。有害なバスに乗ってしまうと、服に刺激がついてしまい、バスを降りてからもずっとその刺激に悩まされることになります。バスに乗る前に、バス用の服に着替え、目的地に着いてから、もとの服に着替えます。そうすると、バスの刺激がついた服を長時間着ることがないので、症状を最小限に抑えられます。着替える場所は公衆トイレですが、芳香剤のにおいが強いところが多いので、それでも困ることがあります。同じ場所に何度も行くような場合は、どのトイレが大丈夫かということをよく確認して、定番のトイレを決めています。
ほとんどのバスは、乗客が手で窓を開けられるようになっています。車内が暑くなると、窓を開ける人が出てきます。すると、車内に他の車の排気ガスが入ってきて、私はぐあいが悪くなります。特にバス停で他のバスの後ろについたときや、バスターミナルに停まっているときなど、ディーゼル車の排気ガスが車内に流れ込んできて、たまらない状態になります。バスの前の方の席に座ると少しだけ楽です。
[季節による違い]
2004年の10月頃から、ストーブの煤のような、塗料のような、灯油のようなにおいをした乗客が増えました。寒くなっていっせいに自宅でストーブを焚き始めたからのようです。夏を越した質の悪い灯油を焚いたのではないか…というようなにおいの人がたくさんいました。服や髪ににおいがついています。この頃は、混んでいるバスに乗るとつらいので、買い物などで出かけるときは、すいている時間を選んで行っていました。
2004年12月始めに本格的に雪が降り、乗客が次々と冬物のコートを着始めました。その頃からバスに乗ると、とてもぐあいが悪くなるようになりました。症状は、農薬を浴びたときに似ています。フラフラと船に揺られているようなめまいが起き、頭に水がたまったような痛みが出て、気が遠くなります。視野が狭く暗くなります。手足がしびれてだるくなります。のどが腫れて息苦しくなります。乗客のコートに防虫剤のにおいが混じっていました。樟脳、ナフタリン、パラジクロロベンゼン、ピレスロイド系(無臭だけど神経症状が出ます)。明確に嗅ぎわけられるわけではないのですが、おおよそこのようなにおいが混在していました。ナフタレンやパラゾールのにおいは久しぶりに嗅いだので懐かしかったです。この頃はバスに乗ると、フラフラになってしまい、家に帰ってからシャワーを浴びて洗い流しても神経症状が取れず、ぐあい悪さが続きました。乗車中に、だんだんと意識が遠くなっていくのが怖かったです。このまま意識を失ってしまうのではないかと思って…。
バスは満員になると、50〜60人の人が乗ることになります。満員のバスに乗っていると、さながら洋服タンスの中に押し込められたような感覚にとらわれました。防虫剤の他にも、クリーニング剤のにおいも混じっていました。冬のコートは、タンスから出したばかりが一番におうはずなので、この先、冬が深まっていけば、次第に防虫剤のにおいは薄くなっていくだろう…と予想しました。冬物のコートは玄関などに掛けておいて、いちいちタンスにしまわないので、日に日に防虫剤の成分が発散していって濃度が薄くなるはずです。それで、12月は一時的に我慢して、バスに乗らないようにしていました。外出できなくなって、すごくつまらなかったです! 1月になってから、おそるおそるバスに乗ってみましたが、12月初めに比べて防虫剤の濃度はかなり下がっており、以降またバスに乗れるようになりました。 防虫剤でぐあい悪くなったときは、のどが腫れて息苦しくなったので、のどの前の皮をつまんで空気を通してやりました(→第1章〔4〕−d「ぐあい悪くなったときの対処法」参照)。少しだけ楽になります。活性炭のマスクをしてみましたが、効果がないばかりか、かえって息苦しくなったのでやめました(→スモール・データ・バンク「マスク」参照)。バスの車内全体の空気が悪いときは、バスの先頭のドア付近に立つと楽です。停留所にとまる度に、ドアが開いて、外の空気が入ってくるからです。これも、交通渋滞などのときは、排気ガスが入ってきて逆効果になってしまいますが…。私はその場の状況に合わせて、少しでも楽な場所を探しています。
[バス停での注意]
バス停でバスを待っているときは、車の排気ガスに曝されてつらいです。バス路線はたいてい幹線道路沿いなので、交通量が多いです。バス停でバスを待っていると、もろに排気ガスを浴びてしまうので、バス停から離れたところで待つようにしています。歩道よりさらに下がった空き地・駐車場や、細い道の奥の方で待ちます。道路際から少し離れるだけでも、排気ガスの濃度は、かなり薄くなるように感じています。近くに建物があって、中で待てるような場合は、そこで待つこともあります。いずれの場合も、ときどきバス停の方を見て、バスが来ていないか確認します。
冬になって雪が積もると、排気ガスによるCS症状は、かなり軽くなります。雪が排気ガスの粒子を吸着してくれるようです。そして、冬道はスリップする危険性があるので、ドライバーはスピードを落として走ります。そのため排気ガスの量が少なくなっているようです。春になって雪がとけると、再び排気ガスの濃度が高くなったように感じます。
[天然ガス自動車]
札幌市内のバス会社A社は、環境に配慮した天然ガスを燃料にしたバスを導入しています。バスに乗り始めた頃、私はときどき、とても刺激の強い車両に乗り合わせることがありました。車内では目が痛くてとても開けていられません。空いているバスでもその刺激を感じたので、乗客が身につけているものが原因なのではなく、車両由来の刺激物質のようです。何度か遭遇するうちに、刺激のあるバスは天然ガス車であることに気づきました。このことに気づいてからは、天然ガス車が来たら、1台やり過ごすことにしました。バスの車内に乗り込まなくても、外にいるだけで強い刺激を感じるので、そのバスが天然ガス車だとわかります。「天然ガス自動車」と車両に明記してあるのもありがたいです。(「地球に優しい」と書いてある車両もあります。地球には優しいかもしれませんが、私には…?) バスの本数が多い路線は、1台やり過ごせばよいのですが、本数が少なくて1時間に1本しか来ないような路線では、天然ガス車が来るととても困ります。その場合は事前に電話でバス会社に確認するようにしています。
「私は天然ガスのバスに乗ると、においでぐあい悪くなるので、明日乗る予定のバスが、天然ガスの車両かどうか教えてください。路線は○○、時刻は○○です」
というように問い合わせます。そのバスが天然ガス車であれば、予定を組み替えるようにしています。私があまりにも頻繁に問い合わせるので、バス会社の方では私のことを覚えたみたいです。最初に問い合わせたときは、バス会社の人が特別に対処してくれました。私が前日に電話で事情を話すと、バス会社の人は、
「明日のそのバスは天然ガス車ですねー。でも、わかりました。明日の配車表を書き換えて、そのバスは普通燃料車にします。」
と言ってくれました。え!? 私一人のために? わざわざ!? すごくうれしかったです。でも絶対にその時刻のバスに乗らなければならないので乗り遅れないか(乗り継ぎがうまくいくか)、ヒヤヒヤしました。バスは場合によっては、ものすごく遅れることがあるからです。このときはうまいぐあいに乗り継ぎができて、予定のバスに乗れました。翌日の予定がはっきり決まっていないときは、前日に問い合わせることができないので、バスに乗る直前に、そのつど電話で確認しています。しかし、いちいち問い合わせるのが面倒なときは、当たりはずれはあるのですが、確認せずにバスを待つこともあります。バス会社の説明では、10台に1台が天然ガス車だということです。
2005年の3月頃から、私の住む地域のバス路線で、明らかに天然ガス車の割合が増えたように感じました。以前は15台に1台くらいの割合で遭遇していたのですが、この頃は7台に1台という感じになりました。1台やり過ごしたら、次のバスも天然ガス車だった、ということが重なりました。何台もやり過ごして1〜2時間待ったこともあります。それに懲りて、バスに乗るたびに、バス会社に電話でいちいち確認することにしました。1ヶ月ほど、毎日のように電話していました。そんなことをしているうちに、その後めっきりと天然ガス車率が下がり、めったに遭遇しなくなりました。私がしょっちゅう電話するので、バス会社の方で考えて、私の家の近くのバス路線に天然ガス車を回さないように配慮してくれたのかな、と思います。(気のせいかもしれませんが…。) 本当にありがたいです。この先、環境に配慮した天然ガス車は、ますます台数が増えていくそうです。そのうち私はバスに乗れなくなってしまうかもしれません。でも、その頃までには体調がよくなって、バスにも自動車にも問題なく乗れるようになっているのではないかと思います。それが私の目標です。
追記
ずいぶん細かいバス事情を書いてきたので、これを読んだ方は「大変そう」と思ったかもしれません。確かに細かい注意は必要なのですが、ゲーム感覚でやると、「冒険」という感じがして面白いです。今ではバスにすっかり慣れて、出かけるのが楽しくなりました。自家用車にはないのんびりとした感じが好きです。バスの車内で声を掛け合ったり、席を譲ったり、人とのふれあいがあるのもいいです。ずっと自家用車に乗ったままだったら、街の人々をこんなに身近に感じることはなかったろうと思います。バスの運転手さんがすごく親切なのもいいです(A社)。
*1 札幌市及び近郊にお住まいの方への情報
バス会社は、A社・・・JR北海道バス B社・・・北海道中央バス です。
(2005.6.30)