第4章 効果的な解毒方法とは (Part 2)
〔3〕脂肪への蓄積
a.脂肪に蓄積されるのはどんなもの?
b.脂肪への蓄積のしくみ
c.体脂肪が燃焼したらどうなる?
d.脂肪に蓄積される化学物質と化学物質過敏症との関係
〔4〕解毒の方法
a.化学物質過敏症に効果的な解毒方法とは?
☆ 根本的な疑問に答えるコーナー
b.こうやって解毒しよう
※参考資料(資料一覧)
第4章 解毒 (Part 1) へ
第4章 効果的な解毒方法とは
〔3〕脂肪への蓄積
化学物質過敏症の治療については、よく次のようにいわれます。
・
化学物質は体脂肪に蓄積する。
・
体脂肪を燃焼させると、化学物質を体外に排泄することができる。
実際に、この方法はどの程度効果があるのでしょうか。 どのようなしくみで化学物質は体外に出ていくのでしょうか。ここで一緒に考えてみましょう。
a.脂肪に蓄積されるのはどんなもの?
○ たまりやすいものとたまりにくいものがある
化学物質が体脂肪にたまるというイメージは根強いです。環境汚染の話題になると、有害物質が体脂肪にたまるというお話が、必ず出てきます。また、化学物質過敏症の本を読んでも、そのようなことが書いてあります。「有害物質は何もかも脂肪に蓄積する」というイメージです。
だから、「すべての化学物質が体脂肪に蓄積されるわけではない」と言ったら、驚くかもしれません。化学物質には、体脂肪にたまりやすいものとたまりにくいものがあります。例えば、シックハウス問題で有名な「ホルムアルデヒド」は体脂肪には蓄積されません。
脂肪にたまりやすい化学物質とたまりにくい化学物質。その違いは何なのでしょうか。
この図を覚えていますか。
前に説明した、代謝・排泄のしくみです。化学物質は体の中で化学変化して、排泄されやすい形になるのでした。
水に溶けやすいものは、排泄されやすいのです。だから、もともと水に溶けやすい化学物質は、排泄が早いです。すんなり排泄されます。また、もともとが脂肪に溶けやすい化学物質でも、肝臓などで水に溶けやすいものに化学変化したものは、速やかに体外へ排泄されます。
問題となるのは、もともとが脂肪に溶けやすい化学物質で、なおかつ、体の中で化学変化しにくいものです。このような化学物質はいつまでたっても水に溶けやすい性質になれないので、排泄されにくいのです。排泄されないままに、体内を巡っているうちに、だんだん脂肪組織に蓄積されていきます。
まとめて書いてみると・・・
【1】水に溶けやすい化学物質→排泄
【2】脂肪に溶けやすい化学物質→(化学変化)→水に溶けやすい化学物質→排泄
【3】脂肪に溶けやすい化学物質→(化学変化しない)→排泄されにくい→脂肪に蓄積
1つ1つについて、具体的な例を挙げて説明していきましょう。
○ 水に溶けやすい化学物質
【1】の例としては、シックハウス問題で有名なホルムアルデヒドがあります。ホルムアルデヒドは水に溶けやすい化学物質です。これはあっさり体外に排泄されます。ホルムアルデヒドはそのままでは毒性が強いので、他の形に変化して、排泄されていきます。変化の様子を書いてみます。
(聞いたことのないような化学物質の名前が出てきますが、それは気にしないで、「ホルムアルデヒドが化学変化している」ということがわかればOKです。細かいところはサーッと眺めるだけでいいです。)
体内でこのように変化して、体外へ排出されます。水は尿と一緒に、二酸化炭素は呼気と共に出ます。
体の中のホルムアルデヒドの量が半分に減るのに、だいたい丸一日かかります。2日もたてば、ホルムアルデヒドは全部体外へ排泄されていきます。
時々、「化学物質が体の中に何年も蓄積されて害を及ぼす」というようなことを耳にします。しかし、ホルムアルデヒドの場合はこのイメージとはほど遠いですね。
ホルムアルデヒドはあっさり排泄されてしまうので、「体脂肪に蓄積して害を及ぼす化学物質」には当たらないのです。ホルムアルデヒドが体に害を与えるのは、体の中に入ってきてから出ていくまでの数日のうちです。
化学物質は、種類によって様々な性質を持っているので、体にたまりやすかったりたまりにくかったりするのです。その区別をするのは大切なことです。
○ 脂肪に溶けやすい化学物質
【2】の例としては、これもシックハウス問題で取り上げられているトルエンがあります。トルエンはペンキや油性ペンに使われています。シンナーのことです。トルエンは脂肪に溶けやすいので、体に吸収されやすいです(細胞膜が脂肪でできているから)。トルエンは呼吸と共に肺から吸収されます。体の中に入ったトルエンは、速やかに水に溶けやすい性質に変化して、体外に排泄されます。
この変化も図で描いてみます。
↑これもサッと眺めて下さい。形が変わっているのがわかればOK。
体に入ってから排泄されるまでの時間が長いと、体に蓄積してしまいます。しかし、トルエンの場合は、短時間であっさり排泄されてしまうので、蓄積されることはないのです。6〜8時間で、体内濃度が半分になります。トルエンを使用する建設作業者の血液検査をすると、作業日の夕方には検出されていたトルエンが、翌朝には検出されなくなります。
トルエンもまた、「化学物質が何年も体の中に蓄積する」というイメージとはほど遠いのです。
それでは、毎日毎日切れ目なく吸い続けた場合はどうなるのでしょうか? シックハウスに住んでいる場合が、これに当たります。シックハウス症の原因となるトルエンの量はごく少量なので、毎日吸い続けていても、次々と排泄されて、血液検査をしても検出されません。なぜ、これだけの低濃度で害が出るのかは、まだわかっていません。
これと比較して、トルエンの慢性中毒の例を引き合いに出してみましょう。シンナー中毒の人は、トルエンをビニール袋に入れて、揮発したガスを吸います。トルエンは肺から血液に入り、脳に運ばれていきます。トルエンが脳に影響を与えるので、気持ちよくなったり幻覚が見えたりします。トルエンを繰り返し吸っていると、だんだん神経の細胞が傷つけられて、変化していきます。
中毒が進んでくると「体をうまく動かせない」「頭が働かない」というような状態になります。この時脳の写真を撮ると、脳が縮んで小さくなっています。「認知症」のお年寄りのような脳になります。神経細胞が死んでしまったので、二度と元には戻りません。怖いです。
毎日トルエンを吸い続けると、常に血中濃度が上がりっぱなしになります。こういう場合は、血液検査をするとトルエンが検出されます。
ビニール袋に入れて気化させたトルエンの濃度は500〜2000ppmにも及びます。
(ppmは濃度の単位です。意味を説明すると話が難しくなるので、ここでは濃度の単位だとだけわかればOKです。)
いきなり2000ppmと言われても、どのくらいの濃度なのか実感がわかないでしょう。これをシックハウスの場合と比較してみると、厚生労働省で決めたシックハウスの基準値は、トルエン0.07ppmです。住宅内でのトルエンの濃度を、この基準値以下にしないと健康被害が出るかもしれないという数値です。化学物質過敏症の人が「シンナーのにおいがする。くさい」と感じる濃度が0.07ppmくらいだとすると、トルエン中毒の場合は、その10000倍になります! どれだけ濃い濃度なのか実感していただけたでしょうか。これだけ濃いと神経に損傷が出ます。このように、化学物質過敏症と中毒では、濃度に大きな開きがあります。
トルエンは100ppmを越えると中毒症状が現れます。しかし、化学物質過敏症の場合は0.07ppmで症状が出てしまいます。なぜ、そんなに低い濃度で症状が現れるのかは、まだよくわかっていません。
○ 脂肪に蓄積しやすい化学物質
【3】については、PCB、DDT(農薬)、ダイオキシンなどがあげられます。これらの物質は、
・
脂肪に溶けやすい
・
分解されにくい(化学変化が起きにくい)
という性質を持っています。
体の中で化学変化をして、水に溶けやすい性質になれば排泄されます。しかし、これらの物質はいつまでたってもそのままの形です。脂肪に溶けやすい性質のままなので排泄されにくいのです。
前に「化学物質が腸と肝臓の間をグルグル回る」というお話をしました。3の化学物質はグルグル回りやすいグループです。そのため、いつまでたっても体の外に出て行かず、次第に脂肪に蓄積されていきます。これらの化学物質の排泄はとてもゆっくりで、いったん体の中に入ると、体内の量が半分に減るまでに何年もかかります。例えばPCBは5〜10年もかかります。
以上のように見てくると、化学物質が何でもかんでも脂肪に蓄積されるわけではないことがわかります。
体脂肪にたまりやすいものと、たまりにくいものがあります。「化学物質の体脂肪への蓄積・燃焼」について考えるときは、この区別をはっきりさせることが大切です。
【まとめ】
・
化学物質の中には、脂肪に蓄積されやすいものと、されにくいものがある。
・
シックハウスの原因となるホルムアルデヒド、トルエンは体に蓄積されにくい。
・
体脂肪に蓄積されるのは、一部の化学物質である。
b 脂肪への蓄積のされ方
○ 化学物質が蓄積されていく様子
それでは、脂肪に蓄積されやすい化学物質の体内での動きを見ていきましょう。まず、化学物質が体脂肪に蓄積されるしくみを説明します。そして、そのあとで、体脂肪が燃焼したときに化学物質はどのような運命をたどるのか、を考えてみます。
PCBやDDTなど、脂肪に蓄積されやすい化学物質は、環境汚染物質と呼ばれることがあります。ここでは、脂肪に蓄積されない化学物質との区別をつけるために、環境汚染物質と呼ぶことにします。
環境汚染物質は肺や小腸などから体の中に吸収されます。肝臓でうまく化学変化できない環境汚染物質は、ずっと「脂肪に溶けやすい性質」のままです。そして、小腸と肝臓の間をグルグル回ってしまいます。
ほとんど排泄されないので、全身の血液中の濃度が上がってしまいます。そして化学物質は血液の流れに乗って全身に運ばれていき、少しずつ脂肪組織に移行していきます。
これらの環境汚染物質が脂肪組織にたまりやすいのは、脂肪に溶けやすい性質を持っているからです。脂肪組織に引き寄せられるように移動していきます。体の中には、脂肪組織以外にも脂肪を含んでいる臓器があるので、そこにも移行していきます。
脂肪組織は脂肪細胞の集まりです。脂肪組織の中には毛細血管が網の目のように張り巡らされていて、体の他の場所と物質のやりとりをしています。
このグラフを覚えていますか?
PCBはこんなふうに体に分布するのでした。
ここに新たにPCBが入ってくると、こんな感じに増えます。
全身に同じ割合で分配されます。これは、臓器によって化学物質を引き寄せやすい度合いが違うためです。全身のあちこちの臓器で化学物質の引っ張り合いになるなど、力関係に従って分配されて落ち着くという感じです。この状態で「釣り合いが取れている」と言ってもよいでしょう。
○ 少しずつ排泄される
このあとどうなるかというと、少しずつですが、環境汚染物質は排泄され始めます。
排泄に伴い、血液中の濃度は少しずつ下がっていきます。そうすると、全身の臓器から少しずつ化学物質が血液中に出始めます。
全身の臓器→血液→排泄
という流れで、体内の環境汚染物質の濃度は下がっていきます。
その排泄のスピードはとても遅いです。大部分の環境汚染物質は腸と肝臓の間を循環してしまい、なかなか排泄されません。極少量の環境汚染物質だけが排泄されます。そのため、体の中の濃度が減るのに長い時間がかかります。例えば、PCBは体中濃度が半分になるのに5〜10年かかります。
これ以上、外から環境汚染物質が入ってこなければ、すごく時間はかかるのですが、全身の濃度は下がっていきます。しかし、実際は後からまた入ってくるので、濃度は上がったり下がったりします。たいていの人は、排泄量より摂取量が多いので、体内濃度は少しずつ上昇していきます。空気中や食べ物の中に入っている環境汚染物質を毎日体の中に取りこんでいるからです。
【まとめ】
・
体の中で分解されにくい環境汚染物質は、なかなか排泄されず、体に蓄積する。
・
脂肪に溶けやすい環境汚染物質は、体脂肪に蓄積する。
・
環境汚染物質は少しずつ排泄されていくが、そのスピードはものすごく遅い。
c 脂肪が燃焼するとどうなる?
体脂肪に貯まった環境汚染物質は、そのままではなかなか排泄されません。排泄を促進させる方法はあるのでしょうか?
「体脂肪を燃焼させることによって、環境汚染物質を排泄させる」という考え方があります。体脂肪が燃焼すると、脂肪に蓄積されていた化学物質はどうなるのでしょうか。
○ 体脂肪の役割
ダイエットに励んでいる人にとっては、体脂肪は「いらないもの」「早く消えてなくなって欲しいもの」です。しかし、もともと体は必要だから脂肪をため込むわけで、体脂肪にも大事な役割があります。ふだん、毎日毎日ごはんを食べているうちは、脂肪には特に目立った役割はありませんが、ごはんが食べられなくなったとき、威力を発揮します。
人間の体を1つの精巧な機械だと想像してみてください。毎日食べている食物は、この機械を動かすための燃料です。この燃料は、体のすみずみまで正常に働かせるために必要なもので、次々と消費されます。そのため、常に給油していることが必要です。そして、「もしも」の時のために、余った燃料は倉庫に蓄えておきます。事情があって、燃料が供給されなくなってしまったときに、この蓄えられていた燃料が使われます。体脂肪は、いざというときのための燃料の備蓄なのです。
現代社会では、燃料の供給が過剰で、燃料が貯まりすぎになってしまっています。そのため体脂肪は「減らしたいもの」「不要なもの」と考えてしまうのですが、本来は、体にとって、とても大切なものなのです。
野生生物にとっては、この体脂肪がとても重要な意味を持ちます。常に食物が手にはいるとは限らないので、いざというときのために蓄えが必要だからです。
○ 環境汚染物質の運命
実際に脂肪がたまっていく様子をイメージしてもらうために脂肪細胞を1つ書いてみます。脂肪組織は、このような脂肪細胞がたくさん集まってできています。
普通の細胞は、細胞膜の中に水分が蓄えられていて、その中に核や細胞成分が入っています。
それに対し、脂肪細胞の中は、大部分が脂肪です。水の代わりにみっちりと脂肪が詰まっています。この脂肪に押されて、核や細胞成分はすみに追いやられています。
太るとどうなるかというと・・・。細胞の中の脂肪の量が増えます。そして、脂肪組織全体の脂肪量が増えます。
体の外から栄養が入ってこなくなると、どうなるでしょうか。脂肪が細胞から出て行って、全身の細胞に運ばれていきます。そして、それぞれの細胞でエネルギーに変えられて使われます。その結果、脂肪の量が減るので、体はやせて細くなります。
それでは、体脂肪の中に溶けていた化学物質はどうなってしまうのでしょうか。やせる前の脂肪細胞のイメージを書いてみます。
中に化学物質が溶けています。PCBの場合を書いてみました。
ここで脂肪が燃焼すると・・・
脂肪の量は減ったのに、PCBのつぶつぶの数は前と同じです。つまり、脂肪細胞の中のPCBの濃度が上がります。
これをグラフで書き表してみるとこうなります。
脂肪組織の濃度だけが高くなってしまいます。すると、体の他の部分に対して、脂肪組織での濃度が高くなるため、新たに釣り合いをとろうとします。
まず、脂肪細胞中のPCBは血液に移動していきます。そして全身に運ばれます。
ここでめでたく体外に排泄されればハッピーエンドなのですが・・・。
ここで「腸肝循環」してしまいます。何度も出てきておなじみになってきましたが、腸と肝臓の間をグルグル回るやつです。
PCBはもともと、腸肝循環で排泄されにくいから脂肪に蓄積されたのであって、今回だけうまいこと排泄されるということはないのです。行き場のないPCBは全身をまわります。そして全身の臓器に居場所を探します。
多分、こんな感じで移動するのではないかと思います。脂肪組織だけで突出していたPCBが、全身に再分配されて落ち着きます。そして体全体では、以前よりも濃度が高くなります。これは、「脂肪」というPCBの入れ物が小さくなってしまったためです。
○ 他の臓器への影響
それでは、脂肪組織から他の臓器へ化学物質が移動すると、どのような影響が現れるのでしょうか。
全身の組織にはそれぞれ働きがあります。
脳→全身の管理。司令塔。
肺→生命活動に必要な酸素を取り入れる。いらないものを出す。
肝臓→化学工場。毒を弱くしたり、栄養を加工したりする。
皮膚→体の表面の保護。体温調節。感覚器。
脂肪→エネルギーの貯蔵。
骨→体を支える。血液を作る。
実は、PCBが脂肪組織にあるときは、それ程毒性は出ません。なぜかというと、脂肪組織は脂肪を蓄えておく倉庫のようなもので、普段は生命維持のために重要な活動をしているわけではないからです。飢餓の時、外から栄養が入らなくなったとき、倉庫からエネルギーを出すのが仕事です。
それに対して、他の臓器は常に生命維持のために働いているので、毒の濃度が上がると大変です。大きなダメージを受けます。脂肪が燃焼することによって、他の臓器の毒の濃度が上がると、体に害が表れることがあります。
例えば、野生生物。自然界に食べ物があるときは、問題ないのですが、時には全く食べ物が手に入らなくなることがあります。そうすると、体脂肪をエネルギーに変えて、生命活動を維持しようとします。その時急激に体脂肪が燃焼すると、脂肪組織以外の臓器での毒の濃度が上がり、病気になったり死んでしまったりします。これは野生生物の観察で明らかになっている事実です。
また人間の場合も似たような現象が起こります。急にやせた人は血中での有害物質の濃度が上昇しているのが観察されています。
つまり、急激な脂肪の燃焼は危険なのです!
それでは少しずつ燃やせばいいのかというと・・・「腸肝循環」してしまい、排泄量がとても少ないので、その排泄量を上回る燃焼量だと、やはり体内の濃度は上昇してしまいます。
一般に言われている
脂肪の燃焼=化学物質の体外への排泄
というような単純なものではないのです。
【まとめ】
・
体脂肪が燃焼しても、蓄積されていた環境汚染物質は排泄されない。
・
体脂肪が燃焼すると、体内での環境汚染物質の濃度が上がってしまい危険である。
・
環境汚染物質が脂肪組織の中にあるときは、それ程害はないが、他の臓器に行くと害が出やすい。だから、脂肪が燃焼すると、環境汚染物質が他の臓器に行ってしまって危険。
d.脂肪に蓄積される化学物質と化学物質過敏症との関係
○ ちがう顔ぶれ
そしてもう1つ大切なことは、脂肪に蓄積される環境汚染物質と化学物質過敏症との関係です。環境汚染物質は一般にシックハウス症・化学物質過敏症の原因とされているものとは異なっています。脂肪に蓄積されるものは、分解されにくく、排泄されにくいため、現在では製造・使用禁止になっているものがほとんどです。(ダイオキシンは少し事情が違っています。ダイオキシンはものを燃やしたりしただけで勝手にできてしまうので、今でも生成され続けています。)
体に蓄積されやすい物質には、どのようなものがあるでしょうか、例をあげてみます。
体に蓄積されやすい化学物質の例
(化審法第一種特定化学物質)
化学物質名 | 過去の用途例 |
ポリ塩化ビフェニル(PCB) | 絶縁油等 |
ポリ塩化ナフタレン(塩素数が3以上のものに限る) | 機械油等 |
ヘキサクロロベンゼン | 殺虫剤等原料 |
アルドリン | 殺虫剤 |
ディルドリン | 殺虫剤 |
エンドリン | 殺虫剤 |
DDT | 殺虫剤 |
クロルデン類 | シロアリ駆除剤等 |
(以下略)
一方、化学物質過敏症の原因となる物質にはどのようなものがあるかというと・・・。
化学物質過敏症の原因となる化学物質の例
(シックハウス室内濃度指針値のある物質)
化学物質名 | 家庭内における用途と推定される発生源 |
ホルムアルデヒド | 合板、接着剤、防かび剤 |
トルエン | シンナー、塗料、接着剤、ラッカー |
キシレン | 塗料、芳香剤、接着剤、油性ペイント |
パラジクロロベンゼン | 防虫剤、防臭剤 |
エチルベンゼン | 塗料、接着剤 |
スチレン | 断熱材、畳、接着剤、発泡スチロール |
クロルピリホス | 殺虫剤、防虫剤、防蟻剤 |
フタル酸ジ-n-ブチル | プラスチック可塑剤、塗料、顔料、接着剤 |
テトラデカン | 灯油、塗料 |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル | 可塑剤、壁紙、床材 |
ダイアジノン | 殺虫剤 |
アセトアルデヒド | 接着剤、防腐剤、写真現像用 |
フェノブカルブ | 殺虫剤、防蟻剤 |
こうして表を見比べてみると、ちがう顔ぶれが並んでいるのがわかります。
今、私たちの体の中に蓄積されている環境汚染物質は、何十年も前に環境中に放出されたものもあります。一度作られると、ほとんど分解されないために、環境中にも長い間とどまっているのです。それが食物や呼吸を介して、生物の体にも蓄積しています。PCBやDDTは20年以上前に、「これはよくない」ということで製造禁止になりました。 PCBは1972年に製造・使用禁止になっています。しかし、現在でも私たちの体の中には、PCBが蓄積されています。
体に蓄積されやすい化学物質は、このように法律で規制されています。化学物質過敏症の原因物質は、このような規制を受けていません。蓄積性はないと考えられている物質です。
「化学物質が体脂肪に蓄積する」という話には、「化学物質が何もかも体脂肪に蓄積する」かのように説明しているものがありますが、実際はそうではないのです。化学物質過敏症の原因となる物質は体に蓄積されにくいと考えてよいと思います。
体脂肪に蓄積されやすい環境汚染物質は化学物質過敏症の直接の原因ではないのですが、「潜在的に体に悪影響を与えているのではないか」という人もいます。体脂肪に蓄積している環境汚染物質の影響で、体の調子が悪くなり、その結果、アレルギーや化学物質過敏症を起こしやすい体質になってしまうのではないか、というのです。しかし、これは本当に関係あるのか、まだよくわかっていません。関係あるかもしれないし、ないかもしれません。だから環境汚染物質を体外に排泄することが、ダイレクトに化学物質過敏症の治療につながるのかは、わからないのです。
○ 脂肪に蓄積された化学物質の排泄方法(付記)
でも、一応、環境汚染物質の排泄方法を書いてみます。腸肝循環でまわっている環境汚染物質を便と一緒に排泄させることが行われています。
「便秘には食物繊維がいい」と言われています。食物繊維は、それ自体は栄養にならず、腸からそのまま排泄されます。この食物繊維に環境汚染物質を吸着させる形で、便と一緒に体外へ出してしまおうという考えがあります。
カネミ油症の患者は1968年にPCBとダイオキシンが混入した油を食べたために中毒症状を起こしました。それから30年以上たった現在でも、体内に大量のPCB、ダイオキシンが残っています。
カネミ油症の患者に食物繊維と抗コレステロール薬を与えて、環境汚染物質の排泄量を増やす実験が行われました。すると、食物繊維を与えた方が、与えない方より、排泄量が増えたそうです。
この試みはまだ実験段階だそうですが、このような排泄方法に期待が持たれています。
【まとめ】
・
体に蓄積しやすい環境汚染物質と化学物質過敏症の原因物質とは、顔ぶれが異なっている。
・
化学物質過敏症の原因物質は、体には蓄積されないと考えられている。
・
脂肪に蓄積された環境汚染物質を排泄することが、化学物質過敏症の治療に効果があるかどうかはわからない。
a.化学物質過敏症に効果的な解毒方法とは?
それでは、具体的な解毒方法について考えていきましょう。
化学物質過敏症の本を見ると、必ず出てくるのが、次の3つの方法です。
・
解毒に必要なビタミン・ミネラルを摂る
・
汗をかいて有害物質を体外へ排泄する
・
体脂肪を燃焼させて、脂肪に蓄積している化学物質を体外へ排泄する
それぞれの方法について、その仕組みを考えてみましょう。
〈ビタミン・ミネラルをとる〉
ビタミン・ミネラルは、体の中でタンパク質や脂質を合成したり、エネルギーを生み出したりするのに必要な物質です。そのためビタミン・ミネラルが不足すると体のあちこちに不具合が生じます。ビタミン・ミネラルが不足しているときは、補ってやることが必要です。
体の中に入った化学物質を「代謝」して、害のないものに分解するためには、ビタミン・ミネラルの働きが必要です。ビタミン・ミネラルが不足していると、薬の代謝・排泄が悪くなったという動物実験の結果があります。体内のビタミン・ミネラルが不足している化学物質過敏症の患者は、食事やサプリメントで補うと効果が出るはずです。
それでは、ビタミン・ミネラルが体内で不足していなかったとしても、さらに多くのビタミン・ミネラルをとることは、解毒に効果的なのでしょうか? これについて、現在医学や薬学で知られている事実は次のようなものです。
・
ビタミン・ミネラルを多量に摂取することが健康によい効果を及ぼすかは、わからない。
・
「これをとれば解毒効果が上がる」というビタミン・ミネラルの存在は知られていない。
ビタミン・ミネラルを必要以上に摂取することの効果は、まだわかっていないのが現状です。また、ビタミン・ミネラルの中には、多量に摂ると体に害を与えるものもあります。特に、ビタミンA、D、Eは大量に摂ると、中毒症状を起こし、危険です。ビタミン・ミネラルのサプリメントをとる人は、注意書きをよく読んでから飲んだ方がよいです。
【まとめ】
ビタミン・ミネラルが欠乏している人は、食品やサプリメントで補うと「解毒」に効果がある。
ビタミン・ミネラルが不足していない人は、それ以上、ビタミン・ミネラルを摂取しても効果があるかどうかわからない。
〈発汗〉
化学物質過敏症の治療で、「解毒」といえば発汗、「とにかく汗をかかなきゃ」という話をよく耳にします。
私は、ずっと、この話には違和感を抱いていました。「医学」「生理学」の本を見ると、「主な排泄ルートは便と尿」と書いてあります。汗腺についてはほとんど話にものぼりません。一言だけ書いてあるといった扱いです。
化学物質過敏症の治療では、汗腺からの排泄がこれほど重要視されているのに、このギャップは何なのでしょうか? このことが常々疑問でした。
「きっと、汗腺から主に排泄されるような化学物質があるのだろう」
と考えるしかなかったのです。
便や尿からは排泄されないが、汗腺からは排泄されるような化学物質はあるのでしょうか? その疑問から、私の資料調べは始まりました。汗も尿も主な成分は水です。腎臓と汗腺は共に水分を外に出す働きがあります。この2つの器官を比較しながら、化学物質はどうやって体外に排泄されるのかを考えてみましょう。
○ 汗腺の仕組み
人はなぜ汗をかくのでしょうか? 汗をかくと、皮膚の表面は水分で潤されます。その水分が蒸発するときに熱が奪われ、体表面の温度を下げます。汗をかくのは、体温を下げるためです。汗をかかないと、体温がどんどん上がってしまい、熱中症になったり、生命が危険になったりします。
汗腺の構造を書いてみました。毛細血管から、水分が汗腺の根っこに運ばれます。血液は赤血球が入っているので赤い色に見えます。汗が作られるときには、血管から赤血球は出て行かないので、汗の色は透明です。体温が上昇すると、汗腺の根っこから細い通路を通って水分が皮膚表面まで運ばれ、体の外に出ます。この時、汗のもとに含まれていた塩分やミネラル分は、通路の途中で吸収されて、体の中に戻っていきます。塩分やミネラル分は体にとって必要なものなので、再吸収されます。汗をかく目的は、体温を下げることなので、水分が皮膚表面に出ればいいのです。
発汗量は、普通に暮らしていれば、だいたい1日に750〜900ミリリットルくらいです。激しい運動をすると、1時間に2〜3リットルになることもあります。サッカー選手は一試合すると、体重が2〜3kg減るといわれていますが、これは汗として失われた水分の分です。一日中、大量に汗をかくと、発汗量が10リットルになることもあります。
汗の成分は、99%以上が水です。その中に、ナトリウム、塩素、カリウム、カルシウムなどが溶けています。
【まとめ】
汗の働き=水分を出して体温を下げる
<腎臓の働き>
腎臓は、体の中の血液を漉して、体にとって必要なもの・不要なものをより分けています。不要なもの・有害なものは、尿と共に排泄されます。
腎臓はそら豆型をした臓器で、左右に2つあります。前から見ると、胃や腸の裏側(背中側)にあります。腎臓には、大量の血液が流れ込んできています。
腎臓は、濾過装置です。血液を濾過して、体に必要なものと不要なものとを選り分けています。有害な化学物質はここで分けられて、尿と共に排泄されます。
腎臓の働きは、浄水器に似ています。
有害物質を含んだ血液が流れ込み、きれいになった血液が出てきます。
腎臓の断面拡大図。腎臓の中は、曲がりくねった管がいっぱいです。これが濾過装置です。腎臓の中にはこのような小さな部品がいっぱいあります。片方の腎臓で100万個、左右両方で200万個あります。
濾過装置を1セット取り出してみました。この装置は、血管と尿を作る管(緑色)で構成されています。赤い血管が動脈、青い血管が静脈です。尿をつくる管の周りには、細い血管がからみついています。管と血管の間で、活発に物質のやりとりをしています。
この小さな部品は、濾過する部分と、再吸収する部分からできています。腎臓に流れ込む血液の量は、1日に約1700リットルです。腎臓の膜で濾過されて、尿のもとが作られます。その量が、1日に170リットルくらい。ここでの濾過の仕組みは、粒の大きいものと小さいものに分けることです。血液の中の、粒の大きいもの(赤血球・タンパク質など)は、濾過されずに残りますが、粒の小さいものは濾過されて、外に出ます。そのあと、管の中を通るうちに体に必要なものは再吸収されて体の中に戻ります。必要のないものは、そのままながれていって、尿として体外に出ます。
この間に、水分の99%が体の中に戻ります。尿のもとは1日に170リットルも作られるので、それを全部排泄してしまったら大変です。水分の大部分を体の中に戻して、濃縮された尿が排泄されます。この再吸収の時の「膜」が優れもので、様々な物質を細かくより分けているのです。一日の尿量は、約1.7リットルです。
【まとめ】
腎臓の役割
・有害なもの、不要なものを排泄する
・大事なものは出さないようにする
↑ この2つを選り分けている
腎臓は「排泄器官」です。排泄のための精巧な仕組みがあります。
○ 汗腺と腎臓の違い
汗腺も腎臓も、共に水分を体外に出すために働いているのですが、その働きには大きな違いがあるということが、おわかりいただけたでしょうか。
腎臓は、排泄のための器官です。1日に大量の水分を処理し、精巧な仕組みで物質を選り分けています。それに対し、汗腺は水分を出すことが目的なので、選り分ける仕組みはありません。(単純な再吸収の仕組みがあるだけです。)汗腺の働きは、本来は、排泄のためのものではないのです。
時々、二日酔いの時に、体からアルコールを抜くために汗をかくのがよい、といわれることがあります。運動したり、サウナに入ると、アルコールが汗と共に体外に出るというのです。しかし、実際には、汗腺からアルコールはほとんど出ません。汗をかいてもかかなくても、体内のアルコールの量には違いがないのです。アルコールはほとんどが(化学変化して)尿と共に排泄されます。汗から出るのは、あったとしてもほんのわずかです。
このように「汗から化学物質が出る」という考えは広く浸透しているのですが、実際にはそのような事実はないのです。アルコール以外の化学物質も同様で、尿よりも汗から優先的に排泄されるような化学物質はありません(一部の例外を除く)。
だから、化学物質過敏症の原因の化学物質を体外に出すためにいくら汗をかいても、化学物質はほとんど出ません。尿で出す量に比べたら、微々たるものです。
腎臓が1日に処理する水分量は1700リットルです(ドラム缶10本分)。それに対し、猛烈に汗をかいた状態でも、汗の量は1日に10リットルです。普通に暮らせば1日に1リットルくらい。軽い運動をしても、数百ミリリットルといったところでしょう。その差は歴然です。腎臓の処理能力はすごいです。しかも、ただ水分を外に出すのではなく、精巧な仕組みで、体に必要なものと不要なものをより分けているのです。
汗は必死に体を動かしたり、入浴したりしないと出ません。それに対し、腎臓は寝ていても働いているのです。
化学物質に曝露されてぐあいが悪くなったときに、必死で汗をかこうとがんばるより、ゆっくり休んでいたいと思いませんか?
休んでいていいのです!
化学物質過敏症の症状でぐあいが悪いときに、運動したり入浴したりするのは、体にかなりの負担です。汗よりも尿の方が効率よく有害物質を排泄してくれるのだから、わざわざ汗をかかずにゆっくり休んでいた方が、回復は早いのではないでしょうか。
○ 重金属の場合
発汗が、有害物質の排泄に効果的だという考えは、なぜ広まったのでしょうか?
実は、重金属は、尿より汗からの方が多量に排泄されることがあるのです。そのため、重金属の中毒患者に汗をかかせて、汗腺から重金属を排泄させる治療が行われることがあります。発汗によって、水銀中毒の人の体内の水銀濃度が下がったという報告があります。
この話が転じて、
重金属が汗腺から排泄される
↓
人工化学物質も汗腺から排泄されるはず
という発想になったものと思われます。
しかし、先に述べたように、尿より汗から優先的に排泄される化学物質はありません。効果的な解毒方法は、水分をとって尿を出す、ということになります。
○ 入浴・運動の効果
「入浴・運動して汗をかくと気持ちがいい」
「入浴・運動で症状が軽くなった」
という話を耳にします。
これまで書いてきたように、発汗によって体内の化学物質が排泄されるわけではないのですが、入浴・運動にはそれ以外の効果があるようです。例えば、血行をよくする、体のはたらきを活発にする、などの方法で、解毒効果を高めているのかもしれません。もし、運動や発汗で、体調が回復するのなら、ぜひ、続けるべきです。
<脂肪を燃焼させて蓄積している化学物質を体外に出す>
これについては、「〔3〕化学物質の脂肪への蓄積」に書きました。
☆ 根本的な疑問に答えるコーナー
発汗の仕組みについて説明しましたが、ここではもっと根本的な疑問にお答えします。従来の化学物質過敏症治療で、誰もが当然、疑問に思う点について考えてみます。
○ 脂肪に蓄積していた化学物質は汗と一緒に出て行くの?
化学物質過敏症の解毒法というと、次の2点がよく言われているものです。
・体脂肪を燃焼させ、脂肪に蓄積されている化学物質を排泄する
・汗をかくと汗腺から化学物質が排泄される
この2つを合わせると、自然と次のように考えてしまいます。
体脂肪を燃焼させ、脂肪に蓄積している化学物質を排泄しよう
↓
そのために運動する
↓
運動すると汗をかく
↓
体脂肪に溶けていた化学物質が汗と一緒に出る
図にしてみるとこんな感じ。
体脂肪に溶けていた化学物質が汗腺に入り、そのまま汗と一緒に排泄していくイメージです。
でも、実際はこのようなことは起きません!
脂肪の中に蓄積されている化学物質は「脂肪に溶けやすい性質のもの」です。だから脂肪の中にとけ込むように存在しています。これは水に溶けないものです。
一方、汗の成分はほとんどが水です。99%以上は水で、脂肪分はほとんど含まれていません。つまり、脂肪に蓄積されている化学物質は汗と一緒に外に出ようとしても、汗にはとけ込まないので、出ることができないのです!
実際には、脂肪に溶けていた化学物質は血液に入っていき、血液中を通って全身に運ばれていきます。血液もほとんどが水分ですが、血液中にはいろんな物質を運搬するシステムがあるので、それに乗っかって運ばれていきます。そして本文でも書いたとおり、
化学物質は血液中に出て行く→でも、排泄されない→またどこかに貯まる
という道筋をたどります。
○ 皮脂と汗は違うの?
ここで、
「えー、でも、皮膚に脂が出るじゃない? あれはー!?」
という声が聞こえてきそうです。
確かに、おでことか鼻の頭とか、テカテカ光ったりする・・・あれは、アブラ。皮脂です。皮脂は皮膚の表面を保護するために出てくる脂です。これは汗とは別物です。
このように皮脂が出てくる通り道と、汗の通り道は別々です。*1
夏、汗をかくと、体中がテカテカ光って脂が増したように感じるものですが、実はあれは大部分が水分です。汗は暑かったり、運動したりすると量が増えますが、皮脂は一定のペースで出ています。
皮脂の中に、脂肪に蓄積していた化学物質は含まれているのでしょうか? 皮脂は大部分が脂なので、脂肪に溶けやすい化学物質は、とけ込むことができるはずです。皮脂と一緒に有害物質が排泄されたりするのでしょうか?
そのことについては、調べてみたけど、よくわかりませんでした。
もし、皮脂に有害物質が含まれていたとしても、皮脂からの排泄を促進するのは難しいです。皮脂の分泌は、意志の力で増やしたり減らしたりすることはできないからです。
運動すれば汗の量は増えますが、皮脂の量は増えることはないのです。
*1 実は、毛穴から出る汗もあるのですが、これはとても量が少ないので、ここでは省略しました。
b こうやって解毒しよう
それでは、具体的な解毒方法について考えてみましょう。
〔栄養をとる〕
○ 栄養は大切
解毒のためには、肝臓をはじめ、腎臓やその他の器官が正常に働くことが大切です。器官がよく働くためには、栄養が必要です。
特に、有害物質を分解するための「酵素」は、タンパク質でできているので、タンパク質の不足は、解毒能力を低下させます。
ラットに低タンパク質の食事を与えた実験があります。ラットはふだんは、タンパク質が20%入っている餌を食べているのですが、これを5%のものにかえます。そうすると、ラットの代謝能力が落ちます。肝臓での「酵素」の働きが悪くなってしまうのです。
この現象は、人間の場合でも見られます。ベジタリアンの人は、普通の人より薬の効き目が強く出ることがあります。睡眠薬を飲ませると、普通の人より眠い状態が長時間続きます。体の中で、睡眠薬の成分を化学変化させて、体外に排泄する働きが弱いのです。
ラットの場合も、人間の場合も、食事を普通のものにかえてやると、解毒能力は元に戻ります。
脂質も解毒には必要な栄養素です。脂肪が不足すると、解毒力が低下します。動物実験で、そういう結果が出ています。なぜそうなるのかは、わかっていません。細胞膜の成分など、体の中には脂肪でできている部分があるので、脂肪が不足すると、その働きが悪くなるのではないかと考えられています。(動物実験の結果が人間にそのまま当てはまるのかどうかは、難しい問題です。「動物でこういう結果が出たのだから、人間にも同じ影響が出る可能性がある」くらいに考えてみてください。)
○ 不足せず栄養をとる
肝臓病の人は、肝臓の働きが弱くなっています。弱くなった肝臓の働きを助けるために、よく栄養をとることが勧められています。
一昔前は、日本人の栄養状態が悪かったので、肝臓病の人は、積極的に高タンパク・高エネルギーの食事を取るように勧められていました。栄養が不足すると肝臓の働きが悪くなるので、これを補う必要があったのです。
現在では、肝臓病の人に、高タンパク・高エネルギーの食事は勧められていません。食事情がよくなったので、普通に食事をとっていれば十分な量の栄養がとれるからです。つまり、栄養は不足するのは問題だが、多ければよいというわけでもないのです。
現代は食事情が良くなったとはいえ、人によっては極端に偏った食事をしていることがあります。そのため栄養失調になっている人がいます。偏らず、不足せず栄養をとることが、解毒力をよく働かせるコツです。
○ 私の体験から
私は14歳の時に化学物質過敏症を発症してから、現在まで20年以上ぐあいが悪かったので、様々な方法を試してみました。治療と称して自己流の食事法も試していました。
・
動物性食品を一切摂らない
・
極端な少食
・
脂肪をほとんど取らない
などという食事を何年にも渡り続けました。この結果、体調はかえって悪化しました。当時はこれがよい食事法だと信じてやっていたのですが、信念とは恐ろしいものです。今、解毒の仕組みをよく調べてみて、栄養の大切さを痛感するにつけ、かつてやっていた食事法がどれほど体にダメージを与えていたかわかり、愕然としています。
民間療法の中には、私がやっていた食事法のようなものを勧めるものがあり、それに従うのは危険なことだと感じます。
自分の身は自分で守りましょう。
私と同じ轍を踏まないようにしてください。食物アレルギーがある人は、栄養の確保が難しいと思いますが、何とか工夫して、栄養をとるように頑張ってください。
〔休息〕
肝臓や腎臓を働かせるためには、休息も必要です。疲れを溜めると、肝臓や腎臓の働きが悪くなります。これは、疲れたらきちんと休息するということを意味します。ぐあいが悪いときには、無理をしない方が良いです。
〔軽い運動〕
軽い運動をすると、全身の血行が良くなって、肝臓に流れ込む血液の量が増えます。また、老人に軽い運動を定期的にさせると、肝機能が良くなったという報告もあります。
逆にハードな運動をすると、肝臓の働きは悪くなります。血液が筋肉に運ばれ、肝臓に流れ込む血液の量が減るからです。運動をやめれば肝臓の機能は回復します。ハードな運動は、長時間続けないようにした方が良いと思います。
〔排泄〕
○ 尿
水分を不足させないことが大切です。尿と共に、速やかに有害物質を排泄させましょう。水分が不足すると、尿が濃くなり、腎臓での有害物質の再吸収が増えてしまいます。
○ 便
「便秘は良くない」と、肝臓病の治療の本には書いてあります。腸内に便が滞ると、発酵してアンモニアなどができます。これが、肝臓に負担をかけるということです。
また、毒物が体に再吸収されやすくなる危険性もあります。毒物は肝臓で分解されて、毒の弱いものに変えられます。そして、便と共に体の外に出ます。その途中で、腸の中にいる微生物によって、さらに化学変化することがあるのです。せっかく肝臓で毒の弱いものに変化したのに、腸内細菌の働きで、毒の強いものに戻ってしまうことがあります。これらの物質は、再び腸壁から吸収されて、体の中に戻ります。便秘で便が滞っていると、有害物質が体の中舞い戻りやすくなるというわけです。
〔私が提案する解毒方法〕
☆
不足せず偏らず栄養をとる
☆
休息を取る
☆
水分を摂る
☆
軽い運動をする
長らく「解毒」のお話をしてきましたが、結論は割と平凡でしたか? でも、これはどれも、とても大切なことです。
「解毒」して回復しましょう!
(2005.10.20 UP)