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第7章 治療法の選択

〔1〕 どんな治療法があるのか
〔2〕 どの治療法を試すのか決めよう
〔3〕 試す手順
〔4〕 ジャンル別選択法
☆ 私が試した治療法
コラム<1> CSの治療情報は2種類ある
コラム<2> 「この治療法は効果があるの?」〜医学的信頼性について


第7章 治療法の選択

 世の中には様々な治療法・健康法があります。CS患者は健康になるために、これまでいろいろな治療法を試したことがあるのではないでしょうか。人から勧められたこともあるでしょう。広告・宣伝を見ると、「体によい」「健康になれる」という治療法が、たくさんあることに気づきます。いろいろな情報が溢れているので、どれを選んでいいか、迷ってしまいます。

 人によって体質はちがうので、効く治療法にも個人差があります。自分にぴったりなものを選ぶと、よい効果が得られます。ある治療法が他の人に効いたとしても、それが自分にも効くとは限らないのが、難しいところです。

 化学物質過敏症の場合は、「これをやれば必ず治る」という治療法がまだ確立されていないので、患者は自分で回復の方法を見つけていかなければなりません。

 この章では、治療法を見つけるための判断・選択方法を紹介します。

 読者の皆さん、これまでにいろんな治療法を試したことがあると思います。その情報を掲示板にお寄せください。個人で試せることは限界がありますが、みんなで体験を共有すれば、情報量が何倍にも増えます。みんなで協力して、回復する方法を探りましょう。


〔1〕どんな治療法があるのか
○ 治療法の種類
 これまで私が見聞きしたり、体験した治療法の種類を表にまとめてみました。

病気全般に関わるもの 経口摂取するもの 薬・栄養補助食品・健康食品・漢方・様々な食事法など
身体に働きかけるもの 整体・気功・マッサージ・指圧・鍼灸・体操など
精神に働きかけるもの カウンセリング・瞑想など
化学物質過敏症に関わるもの 環境に働きかけるもの 原因物質からの回避
建築関係 住宅建設・リフォーム・転居
浄化・吸着するもの 空気清浄機・炭・浄水器・化学物質を吸着する対策商品など
身体に働きかけるもの 運動・入浴・サウナなど
経口摂取するもの 薬・栄養補助食品・解毒剤など
その他 酸素吸入・解毒剤の点滴など

こうしてみると、ずいぶんたくさんの治療法がありますね。私たちはこの複雑な情報の海を泳ぎながら、自分にとって有効なものを探していくことになります。

 まず、どのような治療法があるのか調べる方法ですが、これは、「第5章 資料を活用する」を参考にしてみてください。本やインターネット、人に相談、CSについて活動している団体からの情報が手がかりになります。


〔2〕どの治療法を試すか決めよう
 気になっている治療法や人から紹介された治療法を片っ端から試していくと、時間もお金もどんどん無くなっていきます。たくさんある中から必要なものを選ぶためには、自分なりの「選択方法」「選択基準」を決めることが大切です。

  私が試した方法は次のようなものです。
・ 気になっている治療法を一覧表にしてみる
・ 根拠の薄いものはやめる
・ 原理を調べる
・ インターネットで評判を見る


以下に順を追って説明していきます。

○ 一覧表を作る
 今、気になっている治療法には、どんなものがあるのかを表にしてみます。表を作ると、様々な治療法を比較したり、優先順位をつけることができます。

表の例  ※ この表は説明のために作成しました。(商品は架空のものです。)

商品名 紹介先 単位価格 効果が出るまでの期間 無料サンプルの有無 返品可能か 期待できる効果 さらに調べる
健康茶 知人Aさん \7500/月 6ヶ月 あり ×  
Aさんはとても熱心に勧めてくれた。すごく効果があるそう。無料サンプルがあるから試してみようかな。
発酵飲料 ネットの掲示板 \5000/月 3ヶ月 なし ×  
ネットですごく評判になっている。ちょっと高いけど、ぜひ試してみたい。飲んで具合悪くならないか心配。
ビタミン剤 病院 \2000/月 3ヶ月 なし ×  
患者はみんな試しているみたいだから、飲んでみたい。胃が痛くならないといいけど。
におい消し液A(スプレー) 知人Bさん \2000/本   × ×
環境問題に詳しいBさんに勧められた。サンプルもないし、返品もできないので、効くかどうか心配。植物抽出液というのでだめかもしれない。
におい消し液B ネットで検索 \3500/本   ×  
他のにおい消し液を調べてみた。AもBも天然成分が原料みたいだけど、どう違うのかな。高いけど、サンプルありだから、試してみてもいいかも。
浄水器 訪問販売 30万円  
高すぎ。あと、訪問販売の人、怪しすぎ。でも、うちの水道水がすごく汚れていると言われ、不安になった。
マスク(アメリカ製)10枚組 支援団体の会報 \12000(送料込み)   × ×
今まで合うマスクが見つからなかったから、これはいいかも。でもけっこう高い。返品きかないし。

 このように一覧表を作ると、気になっている治療法が概観でき、冷静に考えることができます。どれが一番気になっているのか、どれを一番先に試したらいいのか、ということも考えられます。

 次にこれを検討する方法を紹介します。

○ 根拠が薄いものはやめる
 ある治療法が目にとまったり、人から紹介されたときは、紹介文・パンフレットをよく読みます。また、紹介者の話をよく聞きます。その情報をもとに、

「この治療法はどのようなものなのか」
「どういう効果があるのか」
「どのような原理で効果が出るのか」
「効果の根拠は何なのか」


ということを考えてみます。根拠がはっきりしないものは、この時点でやめます。

 私は人から、アレルギーによく効くという健康食品を勧められたことがあります。パンフレットをよく読んでみると、原材料は「小麦胚芽・大豆・大麦」などで、どれも日常的に食事で摂取できるものばかりでした。これなら、同じ栄養を食事からとればいいので、この商品は必要ないと判断しました。なぜ、これがアレルギーに効くのかというのも、根拠が薄いと思いました。

 また、「秘境のお茶」というのを紹介されたことがあります。パンフレットをよく読んでみると、次のような内容です。
「このお茶は、木の皮が原料です。その木は人里離れた自然豊かな場所で育った大木です。そのため、エネルギーに満ちているので、飲むと健康になれます。」
これだけでは、本当に効果があるのか、根拠が薄いと思いました。それで、このお茶を試すのはやめにしました。

○ 治った人の体験談
 また、どの治療法にも、「これで治った人がいる」という話が出てきます。紹介してくれた人から、治った人の話を聞くこともあるし、その商品の宣伝に「治った人の体験談」が載っていることもあります。これを見ると、「治った人がいるのだから、自分も治るかも」と思ってしまいます。しかし、この場合、治った人はその商品を試した人の中のごく一部に過ぎず、実際は治らない人が大部分かもしれません。だから、私は体験談だけで、効果がある治療法だと判断しないようにしています。

○ 原理を調べる
 商品の紹介パンフレットに、難しそうな科学的原理や、グラフつきの説明が載っていることがあります。一見、科学的にはっきりと証明された治療法という印象がするのですが、よく読んでいくと、おかしいことが書いてあるものも多いです。私はこういうものについては、図書館やインターネットで徹底的に調べます。そうすると、データの取り方がおかしかったり、あまり商品と関係のないデータをつなぎ合わせて、強引に結論に持って行っているものなどがあります。調べてみると、おかしいものはわかるので、そういう商品を除外します。

 私は科学の分野については専門知識がなく、まったくの素人ですが、それでも調べていけば、それなりのことはわかります。判断するために、これまでに読んできた本が役に立っています。次のような分野の本です。

「科学」(初心者向け)
「広告・宣伝の仕組み」
「悪徳商法」
「トンデモ科学(似非科学)」

など。

○ インターネットで評判を見る
 ある「治療法」について判断するときは、インターネットで評判を見てみる方法も有効です。人に紹介されたり、宣伝用のパンフレットを見るときには、たいてい、その商品・治療法の「よい面」しか、書かれていません。それらは、製造者・販売者によって作られたものなので、当然です。その商品が本当に効果があるのか、ということを判断するためには必ず、その商品に利益の絡まない第三者の意見を聞くことが重要です。

 現在はインターネットで、様々な人が情報を発信しています。ある商品を試してみて、「よかった」「悪かった」という情報を調べることができます。インターネットで調べれば、その商品の評判の他に、その商品で健康被害を受けた人がいることや、「商売のやり方がよくない(マルチまがい商法など)」というようなこともわかります。

 インターネットの情報は、匿名が基本なので、業者が一般の患者を装って宣伝したり、根拠のないデマを流したりすることもあります。どの情報がどれだけ正しいのか、ということを判断する目は必要です。そのような点に注意すれば、インターネットは治療法を選択する際の貴重な情報源となります。


〔3〕試す手順

◯ 自分なりの基準を決める
 上に書いたような方法で、よさそうな治療法を見つけることができたら、実際に試してみることになります。

 私は試したいものを、次の3つのグループに分けています。

【1】無料サンプル、無料体験(施術など)があるもの
【2】使用後も返品できるもの
【3】無料サンプルもなく、返品もできないもの


 有料のものを次々試していくと、お金がかかってしまうので、無料で試せるものを優先にしています。

 無料サンプルがあるものは、取り寄せて試してみます。また、使用後に返品できるものも、買って試してみます。問題となるのは、無料サンプルもなく、返品もできない場合です。このようなものについては、さらにつっこんで原理を調べ、検討します。その上で、どうしても試したいもののみを試します。

 その際に、「コストパフォーマンス」を考えます。人は誰でも「効果が大きくて、出費ができるだけ少ないもの」を望みます。図で書いてみると、次のようになります。

効果    
[1] [2]  
[3] [4]
  値段

[1] 効果があって値段が安いもの
[2] 効果があるが、値段も高いもの
[3] 効果は低いが、値段も安いもの
[4] 効果が低くて、値段が高いもの


人が物やサービスを購入するときの心理は、次のようになります。

[1] 効果があって、経済的負担の少ないものを、最も望む。
[2] 効果があれば、それ相応の金額を払ってもいいと思う。
[3] 効果は低いが、コストもそれ程かからなかったので、やむなしとする。
[4] すごく高かったのに、効果なし。最も避けたいパターン。


「効果があるかないか」というのは、試してみないとわからないので、まず、コストについて自分なりの基準を決めます。

 私の場合は、健康食品のように継続して飲んでいくようなものは、1ヶ月当たり5000円以内と基準を決めています。それより高いもので、よさそうなものがあっても、諦めることにしています。我が家の経済状態では、このくらいが限度です。空気清浄機などの大物については、3万円までと決めています。それ以上高価なものだと、買ってみてだめだった場合、経済的負担が大きすぎます。この基準は、その人の考え方、経済状態によってちがってくるものだと思います。皆さんも、ご自分の基準を決めてみてください。基準があると、商品・治療法を選択する上で一定のルールがあることになり、あれこれ迷って混乱するということが少なくなります。

◯ 試し方
 実際に試してみることになりました。試す手順は次のようにしています。

・まず、最初に害がないかを試します。口から摂取するものは、1回分を一気に飲まずに、最初は一舐め。少しずつ少しずつ試します。少しずつ量を増やしていって、ぐあいが悪くなった時点でストップします。1回分全部飲めたときは、その後、時間がたってから、ぐあいが悪くならないかを確かめます。これでOKとなったら、続けてためしてみます。

・害がないとわかれば、一定期間試してみます。健康食品など「飲むもの」系は、「6ヶ月試してみないと効果はわからない」といわれているものが多いですが、そんなに長時間試していたら、時間がかかるし、経済的負担もかなりなものです。


 ここでも、どれくらい試すのか、自分なりの基準を決めるとよいです。私の場合は1週間と決めています。短すぎるでしょうか? これまで試したものでよく効いたものは、たいてい1週間以内に効果が実感できたものが多いです。最初の1週間で効果がわからないものは、続けて飲んでもわからずに終わることが多かったです。そのため、私は「1週間」と決めています。ご自分に合う基準を決めてみてください。

 1週間続けてよさそうなものは、本格的に長期間飲んでみます。1週間続けているうちに、ぐあいが悪くなったものはやめます。問題なのは、1週間続けてみて、効果がよくわからないものです。いいのか、悪いのか、はっきりしないものは、さらに1週間試してみます。2週間試してみて効果がわからないものは、この時点でやめます。ひょっとしたら、もっと長期間続ければ効果があったのかもしれませんが、それについては(もったいないけど)切り捨てることにしています。いろんなものを試してみたいからです。

試す手順をチャートにまとめてみました。(表示がずれる方は、ここをクリックしてください。pdfファイルで、チャート図が表示されます)


〔4〕ジャンル別選択法
 これまでは主に健康食品など、経口摂取するものを例にとって、説明してきました。しかし、化学物質対策商品や施術など、これまでの説明では具体的なことを想像しづらい分野があったと思います。ここでは、私の体験も交えながら、ジャンル別に選択方法を紹介します。

 次のジャンルについて考えていきます。

・ 食べるもの、飲むもの
・ 施術
・ 化学物質対策商品
・ リフォーム


食べるもの、飲むもの(健康食品・サプリメントなど)
 健康食品は、案外イメージだけで構成されている広告が多いので、「なぜそれが効くのか」をよく読み取るようにします。根拠が薄いものはやめます。体験談だけのものも、私は保留にしています。クチコミの場合は、使った人の体験談を詳しく聞くことができます。飲んだ感じが具体的にどうなのか、などということを、詳しく聞いて判断します。その健康食品と同時に別の治療法を行っていた場合、どちらの効果が現れているのか、よく事情を聞いて判断します。

 無料サンプルのあるものは、とりあえず試してみます。試しはじめは、本当に少しずつ口に入れてみます。体に合わないものが多いので、慎重に試します。たいていのものは体に合わないので、この時点で終わりになるものは多いです。(健康食品は、成分を濃縮したものが多いので、私の体には負担が大きいようです。)重症だったときは、いちいち激しい反応が起きるので、新しいものを試すのに、及び腰になっていました。体調と相談して、慎重に試すようにした方がいいです。

 健康食品やサプリメントは、最初に飲んだときにいい感じがするものを続けました。続けていくうちにだめになるものもあるので、その時は服用を中止します。

 無料サンプルを試してみて、よさそうでも、値段が高いものは諦めました。前にも書いたとおり、私は1品目当たり1ヶ月5000円までと基準を決めているので、それ以上のものには手を出さないようにしています。サンプルでめざましい効果があったものは、基準を超えるものでも、例外的に試しました。シナール(ビタミンC)は1ヶ月当たり6000円かかりましたが、効果が大きかったので続けました。(→第3章〔2〕「健康補助食品」参照)

施術(整体・鍼灸・指圧など)
 まず、治療院の空気がだめで入れないところが多いです。そのため、私はあまり経験がないジャンルです。1回だけ「無料体験」というのにいったことがあります。体に電気を流す治療でした。(「化学物質過敏症」や「電磁波過敏症」という病名すら知らなかった頃のことです。)

 これは、特に何の効果も感じられず、それきりとなりました。保険がきかないものは、1回の施術で3000〜5000円のものが多いようです。よほど効果が期待できるもの以外はやらないつもりです。

 施術系も、急に試すと何があるか心配なので、はじめは少しずつ試していくのがいいような気がします。

 治療院に通ったことはほとんどないのですが、自宅で、自己流でやることはあります。ヨガやストレッチ(柔軟体操)の本を図書館から借りてきて、見よう見まねでやりました。やってみたら、すぐに体がほぐれて楽になったので、続けてやっています。この方法だと、好きな時間に好きなだけ行えるし、治療院の空気に煩わされることがないので、気に入っています。お金がかからないので、効果がないことがわかれば、後腐れなくやめられるのもいいところです。

 しかし、やはり自己流なので、専門家の手にかかるのよりは効果が限定されてしまうのかもしれません。それでも、気軽に行えるのがこの方法のいいところです。

化学物質対策商品(浄水器・化学物質の吸着剤など)
 対策商品は、どれも原理をよく調べます。実験室でのデータが、実際の使用場面の状況には当てはまらないものもあるので、注意が必要です。インターネットで評判を調べることもあります。まだ「患者が試してみて、どうだったか」という情報が少ないので、これから充実していけばいいと思います。

 塩ビ壁紙の上にホタテの粉末でできた塗料を塗ると、部屋の空気がよくなる、という商品があります。ある建築士の人に勧められて無料サンプルをとったのですが、この商品は、私には刺激が強すぎて、とても耐えられませんでした。サンプルなしで壁にいきなり塗っていたら、たいへんなことになっていたと思います。

 浄水器や空気清浄機は、返品できるものを試すようにしています。浄水器は、体に合わないものが多かったので、そのつど返品しました。

シックハウス・CS対応リフォーム
 (この項目は、ほとんど経験がないので、断片的な情報になってしまいます。)

 リフォームは、金額が大きいです。やることも大がかりです。そしてリスクも大きいです。  実際に効果があるかどうかも、事前に判断しにくいです。現在は、いろんな業者が様々な方法で行っています。まだ、「どの方法がいいのか」とか、「どの業者がいいのか」という患者側の評判は表に出ていない状態です。だから、

「どこに頼めばいいのか」
「その方法でうまくいくのか」
「トラブルが起きたときはどうするのか」


ということを判断するのが難しいです。

 シックハウスに住んでいる人にとっては、切実な問題です。最近、利用者側の情報が少しずつネットに出始めたので、この先、それが増えて集約されていけばよいと思います。

 シックハウスのリフォームを行うときは、次のようなことを検討してみる必要があります。

・自分の家の状態がどうなのか(リフォームで対応できるか)
・どんなリフォームが適しているのか
・業者に提案された方法は、どの程度効果があるのか
・自分の重症度にあった方法はどれか


 建築基準法や、室内空気の測定の実態など、患者本人がある程度、自分で調べることは必要だと思います。何もかもお任せでやってもらうと、問題が起きたときに、面倒なことになります。

 シックハウスの対策リフォームの現状については、次の本に詳しく書かれています。
 「シックハウスの防止と対策」 井上雅雄/著・日刊工業新聞社/刊

○ 私の経験から
 シックハウスに住む人から相談を受けたことがあります。私がその家に行ってみると、ものすごい有害度の家で、たちまちぐあい悪くなってしまいました。私の体感では、「こんなに有害度が高くて、リフォームではとても対応できないのではないか」と思いました。家の中は合板だらけです。壁の下地にも合板が使われており、壁紙だけを替えたからといって対応できるものではないと思いました。「引越した方がいいのではないか」と言ってみましたが、本人はずっと住み続けたいと言います。家のローンなど、経済的な問題もあり、とても難しい事態でした。そんなこんなで、どう対策をしたらいいか迷っているうちに、その人はどんどん体調が悪化してしまいました。

 私が札幌に引越したとき、ある建築業者に相談しました。私が借りた家は、築30年の木造住宅です。この家を住みやすくするために、対策を行ってもらうことにしました。前に書いたとおり、ホタテの塗料は、サンプルの刺激が強かったので、断りました。実際に行ったのは次の対策です。

・ 石膏ボードをカーペットの上に敷いた。
・ 和室の畳の上にアルミ箔を敷き、その上に石膏ボードを敷いた。


 私は、石膏ボードそのものに反応してしまい、結局ボードを撤去しました。また、和室のアルミ箔は、電磁波過敏症のためだと思いますが、強い反応を起こしました。激しい目の痛みでした。これも取りはずしました。はずしたら、目の痛みはおさまりました。

 私は難しい患者だったのだろうと思います。業者は、「これまで石膏ボードに反応した人はいない。使った人はみんないいと言ってくれている。」と言っていましたが、やはりどんなものでも、人によって合うもの・合わないものはあるのです。業者は、それまでのノウハウを駆使して対応してくれたのだと思いますが、私のように過敏性が高いと、うまくいかないこともあるということです。

 2002年当時としては、この業者はよく対応してくれたと思います。当時はまだ、化学物質過敏症に関する情報がとても少なかったからです。私は体調が悪くて、ぜんぜん余裕がなかったので、業者にお任せでやってもらいましたが、当時もっと余裕があれば、こちらからも細やかな対応ができたと思います。


私が試した治療法
   私がこれまで試した治療法の種類と、試した結果を表にしました。

S・・・著効, A・・・効果があった, B・・・効果は無し、害もなし, C・・・有害だったもの

試したもの 結果
CSだと気づく前 「体質改善の注射」(内科にて)1日1回×3ヶ月(内容は不明)
抗うつ剤(精神科)
カウンセリング(県総合福祉センター)
健康食品いろいろ or
総合ビタミンミネラル剤(サプリメント)
アレルギー治療=掃除
アレルギー治療=抗アレルギー剤,抗ヒスタミン剤
回転食
アレルギー対応食(低タンパク・低脂肪・有害なものを避ける)
ヨガ(自宅で)
マッサージ・指圧(自己流)
電気治療(無料体験)
漢方薬(いくつか)
CSと気づいてから 原因物質を回避する
転居
酸素吸入
ビタミンC大量摂取療法
銅・マンガンのサプリメント
高タンパク・高脂肪食

 


コラム1CSの治療情報は2種類ある

 1999年に私がCSだと気づいたとき、私は治すための情報を探し始めました。そのとき見ることができたのは、ほとんどが商品を売る側が流している宣伝です。私は、患者たちが日々の生活の中でどのような対策をしているのか、どのような工夫があるのか、ということを知りたかったのです。しかし、そのような情報は、ほんのわずかしかありませんでした。私は、発症から自分がCSだと気づくまでに14年かかっているので、その間に健康食品や健康法など相当な量を試しました。はかばかしい効果があったものはほとんどなかったです。化学物質過敏症だと気づいてからは、日々の生活の中での対策・工夫に目が向くようになりました。これは、とても効果があるものでした。しかし、このような情報は、商品にはなりにくいものです。

 「化学物質過敏症はこうすれば治る」という情報源は、大きく分けて2つあります。

【1】商品を売るための宣伝(広告・コマーシャル)
【2】患者の工夫(支援団体の会報、本、ブログ、HPなど)


 商品を売るための宣伝は、ピンからキリまであります。患者のことをよく考えて、よい商品を開発しているところから、ただ売れればいい、というようなところまで。洗脳や暗示のような宣伝や、マルチまがい商法のものもあります。あふれんばかりの大量の情報が流通しています。商品の質を見極める目が必要です。

 【2】の情報は、利益が発生しない分、とても量が少ないです。発症したての方は、【1】の情報に大量にさらされることになります。「藁にもすがる」思いで、内容を検討せずに試していくと、お金がどんどん飛んでいきます。また、はずれが多いと、「何をやっても治らないんだ」という心境に陥っていきます。そうならないためにも、見極める目は必要です。【2】の「患者の工夫」の情報が、私がずっと望んでいたものでした。ここ2年くらいの間に、インターネットでそういう情報が増えてきたので、心強く思っています。

 私のこれまでの経験からすると、「人に言われるまま」「与えられるまま」に受け取れば効果がある、という治療法は、ほとんどありませんでした。(私の過敏性が高かったせいもあったと思います。)

 自分なりに考えたり、工夫したりして対処していくしかありませんでした。一番効果があったのは「原因物質を避ける」ということで、これは自分で考えて工夫することが多かったです。

 世の中には「これを飲めば効く!」というような宣伝は多くありますが、「避けるための工夫」みたいな情報は少なかったので、このサイトを作りました。


コラム2「この治療法は効果があるの?」〜医学的信頼性について

 健康食品などの宣伝には、「動物実験で効果が確認された」という説明や、「治った人の体験談」が載っていることがあります。動物実験や体験談は、その商品の効果をどれだけ保証するものなのでしょうか。動物実験で効果があったものは、そのまま人間にも効果があると考えてよいのでしょうか? 治った人の体験談は、誰にでも効果があることを示しているのでしょうか。

 このことを考えるためには、「根拠に基づく医療」*1 という言葉が、キーワードとなります。昔からお医者さんは、自分の臨床経験に基づいて、診断や治療を行ってきました。お医者さんによって、そのさじ加減がちがうことも多かったのです。しかし、90年代に入ってから、「治療の根拠は何か」とか「治療法の有効性はどのくらいか」ということを、厳密に考えてみようという動きが出てきました。コンピューターの発達と共に、これまでの研究論文を集積して比較検討できるようになったためです。その中で、様々な治療法の1つ1つが、どれだけ科学的根拠に基づいているものなのか、ということが調べられてきています。

 難しい話が苦手な人は、次を読み飛ばして、いきなり下の《まとめ》へGO!

 医学的な信頼性は、次のように分類されています。大まかに見ると、表の下に行くほど、信頼性は高くなると考えてよいです。*2

 

 




1 細胞を培養して、実験する.
2 動物実験.










研究

3 症例報告:医師が「このような患者がいました」と経過を報告.
4 ケースシリーズ:症例報告がいくつか集まったもの.
5 集団を調べる:ある集団を観察して病気の成り行きを調べる.
6 対照試験:(例)薬を飲む人と飲まない人に分けて、経過を観察する.

7 ランダムに対照試験する:(例)薬を飲む人と飲まない人をランダムに分けて実験する.こうするとグループ分けに主観が入らないので、信頼性は高くなる.

8 「ランダムに対照試験」を盲検法でやる(一重盲検).一方の患者群に薬を飲ませ、もう一方の患者群には偽薬を飲ませる.どちらの患者にも同じ薬を飲んでいるように思わせる.「プラシーボ効果」による影響をなくすため.
*プラシーボ効果・・・効果のない薬でも、飲んでいる(治療を受けている)というだけで、回復することがある.

9 「ランダムに対照試験」を二重盲検法でやる.
*二重盲検法・・・患者にも、薬を渡す医師にも、どっちが薬でどっちが偽薬かを知らせない。一重盲検だと、医師の表情やそぶりでどちらが偽薬か、患者にばれる恐れがある.

10 「ランダムに対照試験(二重盲検)」をいくつもやって、まとめたもの:1つの実験ごとにやり方や集団に偏りがあるので、あちこちの研究施設でやった実験を集めて、まとめて評価する .

 この表を見ると、動物実験はそれほど根拠が強くないことがわかります。動物実験で効果が認められたとしても、それが人間に当てはまるのかどうかはわからないからです。動物実験で効果があるとわかったものは、さらに信頼性の高い実験にすすんで、効果を調べる必要があります。

 また、「治った人の体験談」というのは、あえて分類しようとすれば、3 の症例報告になります。しかし、症例報告と体験談とでは大きな違いがあります。症例報告は、医師が専門的な立場から患者の経過を観察し、報告したものです。それに対し、体験談は、患者が自分の体験を思ったままに表したもので、医学的信頼性を考える上で必要な情報が揃っていないことが多いのです。そのため、体験談は、あえて分類するならば、3といいましたが、実際は、上の表のどこにも当てはまらないのです。

 お医者さんでもらう薬は、9の「ランダムに対照試験(二重盲検)」を行っています。厚生労働省から販売の認可をもらうためには、9をやることが必要だからです。この試験には、たくさんのお金と時間がかかります。西洋医薬の開発には、莫大な費用と長い時間がかかるので、販売価格も高いものになっています。

 集団を対象にした研究は費用と時間が多くかかります。そのため、多くの人がかかる病気について優先的に行われています。タバコの害は、アメリカで裁判が起きたりして、大きな社会問題になりました。そのため、多額の予算を使って、大がかりな研究が行われました。その結果、喫煙が多くの病気と深い関係があることがわかりました。タバコの箱に喫煙と病気に関する警告文がつけられるようになったのは、このような経緯によるものです。

 民間療法や東洋医学の分野では、まだ医学的信頼性をはかるような研究はあまり行われていません。そのため、どの治療法がどれだけ効果があるのかという科学的根拠は、まだ明らかになっていません。最近、アメリカで民間療法の医学的証拠を確かめるために、大がかりな研究がスタートしました。研究には10年単位の時間がかかるので、その結果がわかるのは、まだまだ先になりそうです。

 それでは、CSの治療法の信頼性はどのくらいなのでしょうか。残念ながら、CSの治療法で、医学的信頼性をはかるために研究が行われたものは、まだありません。まだ歴史が浅い病気ですし、患者の数もそれほど多くはないので、治療法についてはまだしっかりと研究されてはいないのです。3の症例報告がいくつかあるだけです。現時点では、「まだ医学的根拠のあるCS治療法はない」ということです。

 だから、病院に行っても「試してみてよさそうなものは、何でもやってごらんなさい」というようなアドバイスを受けることになるのです。

 「根拠のはっきりした治療法はない」と言われると、がっかりする方もいるかもしれません。しかし、このような状況でも、患者がいろんな方法を試してみて、自分に合うものを見つけられれば、回復していくことができるはずだと、私は考えています。

《まとめ》
・ 「ある治療法が効果があるかどうか」を調べるには、様々な研究方法がある。
・ 研究方法の種類によって、信頼性に違いがある。
・ 動物実験や体験談は、それほど強い証拠とはならない。
・ 人の集団を対象に研究すると、治療法の効果をよく確かめられる。しかし、それにはたくさんお金がかかる。
・ CSの治療法で、根拠が明らかにされたものは、まだない。


*1 「EBM」と呼ばれることが多いです。Evidence Based Medicine の略です。
*2 この表は、マルガリータが、説明のために作成したものです。わかりやすいように内容をかみ砕いて書いています。 正確な内容が知りたい方は、例えば、下記の参考文献をご覧ください。

参考文献:
「 EBM正しい治療がわかる本」福井 次矢/著,法研/刊
「 検証免疫信仰は危ない!」代替医療問題取材チーム/著,南々社/刊

(2006年1月)

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