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第7章 黄砂と越境大気汚染

(2017年 11月30日 UP)

〔1〕大気の変化
〔2〕中国からの大気汚染
〔3〕症状
〔4〕対策
〔5〕回復の兆し

*CS:化学物質過敏症、ES:電磁波過敏症


 2007年頃から大気の濁りを感じるようになりました。中国大陸からはるばる海を越えて、日本にまで大気汚染物質が流れ込んでいたのです。その後、年を経るごとに汚染は増していきました。1000kmの範囲にわたる大気汚染の広がり。化学物質過敏症は悪化し、生活も大きく様変わりすることになりました。

〔1〕大気の変化
 始まりを感じたのは、2007年のことでした。それまで明るく鮮やかだった風景が、変化してしまったように感じました。太陽の光がまっすぐと地表に届いてこない感じがして、風景がぼんやりと霞んでいるのです。

 私のCS症状は、2004年頃から顕著に改善し、それまで視界が暗く感じていたのが取れ、世界を明るく美しく感じ始めたばかりでした。それからの2年間は、いろんなところに出かけていって、風景の美しさを堪能していました。それが一変して、また薄暗い世界に戻ってしまったように感じたのです。

 最初の変化は、視覚に現れました。どうしてこんなことになったのかわかりませんでした。原因が大陸からの越境大気汚染だと気づいたのは、それから2年以上も後のことです。 風景は確かに変わってしまったように感じましたが、それがどういう現象なのか、悩みました。かつて視界が明るく鮮やかになったのは、私の体の変化によるものでした。また体調が悪化して、暗く見えるようになってしまったのか、それとも世界自体が実際に暗くなってしまったのでしょうか?

 春には農薬の影響を避けながら花見を、秋には山に出かけて行って紅葉を楽しんでいました。しかし、2007年以降は、桜も紅葉も濁っていて、美しく感じられないのです。とても悲しい思いをしました。しかしまだこのときには、体調の悪化はごくわずかなもので、その後2〜3年して顕著に症状が現れてくるまでには猶予がありました。

○検証
 私は自分自身の変化なのか、世界自体が変わってしまったのか確かめてみようと思いました。私が取った方法は、それまで数年の写真を確認することです。もし私の体調に変化があったとしたら、どの年に撮った写真も同じように暗く濁って見えるはずです。もし私の体調に変化がなく、世界自体が暗くなってしまったのだとしたら、写真にはっきりと違いが表れるはずです。

 私は、数年にわたって同じ場所を撮った写真を比べてみることにしました。当時住んできた家の庭の写真を比べてみると、2006年と2007年では明らかな違いがありました。晴れた日に庭の花を撮ったものなのですが、2007年の方が光が白っぱけていて、花が鈍い色に写っています。ああ、私の体調の問題ではない、世界自体が変わってしまったんだな、と思いました。

 2008年からは、花見も紅葉も行かないことにしました。がっかりしてしまうからです。2009年の春から、夫婦で会社の経営を始めたので、忙しくなり行楽に出かけられなくなってしまいましたが、それもタイミング的には丁度よかったかもしれません。

〔2〕中国からの大気汚染
○体調の悪化
 2010年頃から体調にはっきりと変化が現れてきました。慢性的な息苦しさや喉の不快感を感じるようになってきたのです。その症状は、日によって強弱がありましたが、切れ目なく続いていました。風景はますます濁りを増して、薄暗い影絵のようになっていきました。

 道を歩いていると、不思議な感じがしました。まるで自分が水槽の中にいて、水に囲まれているような感じです。誰かが水をかき混ぜて、底の砂を巻き上げてしまったかのように、まわりの空気が砂状のもので濁っているのです。

 札幌の西側には手稲の山々が広がっています。2006年までは色鮮やかに木々の緑色が見えていましたが、2007年の秋からは、うっすらと霞んで見えるようになりました。2010年に至っては、まるで墨絵のように、薄暗く見えました。遠くの山だけではなく、間近にある街路樹の木々の葉も、影絵のように暗く黒く、その上に砂状のものが重なって見えるのでした。

○謎解き
 2010年頃のことだったと思います。月1回参加している趣味のサークルの会合で、環境問題に関心のあるメンバーから、私の謎を解くような話を聞きました。その人は次のように話してくれました。「中国大陸から大気汚染が流れてきている。中国は、2008年の北京オリンピックと2010年の上海万博のために建築ラッシュが起き、それが今まで続いている。シベリアの木を切り倒しては、建築材料として中国に運んでいる。そのため、シベリアでは森林火災が起きて、その煙が日本までやってくる。また中国国内では工業化が進んで、その煤煙も海を渡ってやってきている。」私はこの話を聞いて、それまでの謎が解けたように感じました。

 私は家に帰ってから、インターネットで大気汚染について調べてみました。「越境大気汚染」をキーワードに検索してみたのです。数少ないながらも情報はヒットしました。確かに中国では大気汚染が進んでいて、それが日本にまで流れてきているようです。あるサイトには、東アジアの地図が載っていて、1980年代は大気の状態はきれいだったのに、90年代、2000年代と汚染が広がっていく様子が描かれていました。はじめは九州から始まった越境大気汚染が、本州を進んで、北海道まで到達する様が描かれていました。

 その後のシミュレーションも書かれていて、2020年まで汚染が進み、それまでにないくらい汚染度が増してしまう予想になっていました。2010年時点ですら息苦しさがひどいのに、それ以上進んでしまったらどうなってしまうのだろう?と身震いしました。

 私は1970年の生まれですが、子供の頃はずいぶんと空気環境が悪かったというのが実感です。生まれてすぐにオイルショックが起こって少しブレーキがかかったとはいえ、日本の高度経済成長の余波を受け、工業化による大気汚染や車の排気ガス汚染が強い時期でした。室内や公共交通機関での喫煙も当たり前に行われていたので、屋外も室内もひどい環境でした。それが次第に法整備がなされて、外気も屋内も空気の浄化が進んできました。この先もよくなっていくのかと思っていたら、まさか隣国からの大気汚染です。

 日本の高度経済成長期の大気汚染は社会問題化してから改善されるまでに20年の歳月が流れています。中国でも経済成長期にさしかかり、かつての日本と同じような工業化が進んでいます。歴史を振り返るなら、中国の大気汚染が改善されるまで20年の年月が必要だということになります。そのときまでどうやって耐えていけばいいのだろうか。私の人生の構図が変わってしまうほどの問題だと思いました。

○認識の広がり
 当時、私にとっては大きな問題でしたが、世間の大半の人々はそうは感じていなかったようです。私の体調は空気の濁り具合と連動していました。濁りが強ければ息苦しさも強く、濁りが弱まれば体も楽になります。そのことを身近な人々に訴えてみましたが、まともに取り合ってもらえませんでした。「中国からの汚染?そんなものあるの?」「中国は遠く離れているから、日本にまで大気汚染が来るわけないよ」というのが典型的な反応でした。マスコミでは全く取り上げることがなかったし、インターネットでもちらほらと書き込みを見かけるだけでした。ときどき、出張や旅行で中国に行った知り合いに聞くと、現地は大気汚染がひどいと言っていましたが、当時の情報はそのくらいでした。

 この問題が社会的に注目されるようになったのは、2011年に北京のアメリカ大使館が、大気汚染についてプレス発表をしたことです。このニュースは日本でも取り上げられ、少しずつ越境大気汚染のことが知られるようになりました。その後、2013年に高濃度の大気汚染物質が日本に飛来すると、マスコミが大きく取り上げるようになり、多くの人々がこの問題を認識するようになったのです。「pm2.5」(2.5マイクロメートル以下の微粒子)という言葉も、知られるようになりました。

 このときを境に、越境大気汚染に関する情報が一気に広まるようになって、それまでわからなかったことも調べられるようになってきました。大気汚染の観測値や予報値などの便利なサイトも出てきて、体調の観察や対策をしやすくなりました。

〔3〕症状
 私はいくつかのサイトを見て、そのときどきの空気の汚染状況を知ることができるようになりました。毎日確認して、自分の体調と比べます。それを記録日誌に毎日書き留めるようにしました。続けていくうちに、体調との関連がよくわかるようになっていきました。どのサイトが一番自分に適しているのかもわかってきました。

 私の体調によく連動してピッタリだと感じたのは次のサイトです。
(A)東アジア域の黄砂・大気汚染物質分布予測
(B)全国 PM2.5 大気汚染・微小粒子状物質速報・対策


 (A)のサイトは、黄砂と硫酸塩エアロゾル (大気汚染物質)の飛来状況を表したもので、東アジアの地図の上に、グラデーションで汚染の広がりを表示しています。アニメーションになっていて、前日から3日後までの経過が順を追って見られます。このデータは、私の体調によく合っていました。 現況に加え、予報も出るので、先の外出の予定を立てるのにも役立ちます。

大量に押し寄せる黄砂


 (B)のサイトは、観測点ごとのpm2.5の速報値が表示されるものです。自分が住んでいる地域の数値を見ると、そのときどきの汚染状況を知ることができます。これが、私の体調と実によく連関していました。また、(A)の硫酸塩エアロゾル値と (B)のpm2.5速報値サイトとも、よく相関していて、この2つを見れば、汚染の状況がつぶさにわかりました。越境大気汚染の研究を続け、このようなサイトを作ってくださった研究者の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。

○大気汚染と体調との関連
 こうやって観察してみると、私の体調は、黄砂に強く影響を受けていることがわかりました。それまでも窓ガラスに付着したり車に降り積もった黄砂を見て、体調との関連を疑っていたのですが、(A)のサイトで細かく観察していくうちに、さらに相関がよくわかったという感じです。

 (A)の硫酸塩エアロゾルと(B)のpm2.5はほとんど同じ動きをしているので、私の中ではまとめて「大気汚染物質」と呼んでいます。黄砂に対する反応は、「大気汚染」の10倍以上という感じがしています。黄砂による症状は、アレルギー症状全般(目のかゆみ、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、喉のイガイガ、息の苦しさ)とCS症状(頭痛など)です。「大気汚染」の 方は、アレルギー症状よりCS症状の方が強く出ます。こちらは痛みが強く、頭痛、粘膜の痛み、筋肉の痛みなどです。黄砂に対する反応の方が強く、外出時に黄砂を浴びると、その後3日〜1週間は具合が悪いままです。黄砂の予報を優先にして、外出の計画を立てるようになりました。

 予報サイトに関していえば、SPRINTARSのサイトでは、私がひどい黄砂アレルギーの症状を起こし、実際に降り積もる黄砂を目にしているにもかかわらず、たいていの場合黄砂は来ていないことになっています。私の体に反応があるときは、(A)のサイトではほとんど黄砂が来ているので、私はこのサイトを本当に信頼しています! ときどき予報が更新されていないことがあり、それが2〜3日続くと、精神的に不安定になってしまうほどです。

 気象庁の黄砂情報は、目視による観測結果だということです。他のサイトでは飛来が報じられていて、すでに車にも窓ガラスにも砂がついているのに、気象庁のサイトではたいていの場合は来ていないことになっています。目視とは時代遅れの観測方法のような気がします。マスコミでは気象庁の発表をもとに報じるので、5月頃に「今年初めての黄砂が観測されました」とニュースになったりします。とっくに3月から黄砂はさんざん来ているのに、「今年初めての黄砂」といわれると「今さら?」と情けない気持ちになります。

○黄砂の性質
 黄砂の何が体に影響を及ぼしているのでしょうか? 黄砂は、砂漠から巻き上げられた砂が日本まで飛来してくるもので、すでに平安時代の文学作品にも現れています。天然物質であるはずの黄砂が、なぜ体調を悪化させるのか、疑問に思いました。

 ネットで調べてみると、まず、黄砂に含まれている金属成分がアレルギーを起こす可能性があるとわかりました。様々な金属が含まれていますが、その中でもニッケルが私にとって危険だと思いました。以前、金属アレルギーの血液検査をしたときに、ニッケルが強陽性となったことがありました。

 他に、黄砂にはカビや細菌が大量に含まれていることもわかりました。私はカビに対するアレルギー反応が強いので、約数千kmにもわたって、大量にカビの胞子が飛散しているのかと思うと、身の毛がよだつ感じがしました。

 さらに、黄砂には中国の工業地帯を通過する際に、大気汚染の有害物質が付着します。これらのアレルゲンや化学物質が結合して、「黄砂アレルギー」の症状を起こさせているのです。

〔4〕対策
 2013年になると、黄砂による症状はさらに進んで、寝てるときも起きているときも、常に息苦しさを感じるようになってきました。肺の中にザラザラとした砂粒が入ってふさがっているような感覚がして、苦しくてたまりません。起きている間中、肩で息をし、寝ている間は、溺れる夢を見ます。一時も苦しみから逃れる間がなく、このままではどうなってしまうのだろうと不安になりました。

 それまでは受け身で体調の悪さに身をまかせていましたが、2014年から具体的に対策をしていくことになりました。

対策の内容
・黄砂記録用紙で管理
・春秋は窓の隙間を目貼り
・pm2.5用マスクを購入
・空気清浄機を購入
・夏に窓を開けずに済むようにエアコンを購入


○記録用紙
 「東アジア域の黄砂・大気汚染物質分布予測」のサイトを見て、毎日記録をとり、いつでも確認できるようにしました。

説明
 左端に記入日を書きます。上段の日付は前後4日間(経過1日+予報3日)のものです。強度は予報図の色の濃度を数値化したものです。濃度が薄いのから濃いのまで8段階です。これを予報アニメーションを見ながら、記録していきます。黄砂が来ている間は、ほとんど毎日記録しました。

 年間どのくらい黄砂が来ているのかを、上記の記録をもとに、カレンダー上に書き入れたのが下図です。

2016年の札幌では、一年間に131日黄砂が飛来していたことになります。1年の約3分の1です。丸に黒丸が重なっているのは、強度3以上の日です。黒丸の日は外出しない、白丸だけの日もなるべく外出を避けていましたが、それでは、春秋は丸1ヶ月外出できない期間もできてしまいます。何とか黄砂の弱まる時をぬって外出の用事を済ませていました。仕事は職住一致で、同じ建物内に住居と職場があるので、外に出なくても行き来できます。

○空気清浄機
 息苦しさがあまりにもひどかったので、黄砂や大気汚染物質が取れる空気清浄機を購入しました。次の条件で探しました。

・風量が大きく、部屋中の空気を濾過できるもの
・粒子状の物質が取れればよい(ガス状のものは取れなくてもよい)。つまり、CS対応の空気清浄機でなくてもよい。
・フィルター・機能などがシンプルなもの。CS・ESを起こしそうな抗菌・マイナスイオン・プラズマ・オゾンなどの機能がないもの
・できれば活性炭を使っていないもの(私は活性炭に反応することが多い。主な症状は、頭痛・目の痛み。)


 以上を検討した結果、バルミューダのエアエンジンという空気清浄機を買うことにしました。風量が大きく、フィルターとファンのみのシンプルな構造です。紙のフィルターに活性炭フィルターが組み合わさっていますが、この活性炭フィルターを取り外して使うことができます。もし活性炭に反応するようなら、はずしてしまえばよいのです。問題は、抗菌フィルターとなっている点で、これにCS反応を起こさないか心配でした。



 結果として、「抗菌」には反応せず、「活性炭」には目の痛みを感じたものの取り外せば問題なくなりました。空気清浄機を運転してみると、みるみる部屋の粒子状物質を濾し取ってくれる感じがあり、室内の空気が澄み渡っていく感じがありました。息苦しさが取れてきて、溺れている感じもなくなっていきました。「助かった」と思いました。

 空気清浄機について詳しくは「スモール・データ・バンク2空気清浄機」で書きました。

 空気清浄機で室内の空気がよくなってみると、空気清浄機がない場所との空気の差がはっきりとわかるようになりました。マンション廊下に出てみると、建物の中であるにもかかわらず、空気がものすごい粉っぽさです。ザラザラとした質感の空気に、土か泥のような匂いがします。この空気をずっと吸っていたのかと思うと、恐ろしくなります。長い間吸い続けていたので、それが当たり前になっていたのです。

○窓に目貼り
 黄砂が連日飛来する春と秋には、自室の窓をテープで目貼りして、細かい黄砂の粒が入ってこないようにしました。それでも、黄砂が来ているときは、ザラザラとした粒状のものが漂っている感じがあったし、実際にテーブルや床の上に黄色い粉が降り積もりました。どこの隙間から入ってきているのでしょう? フローリングワイパーで床を掃除すると、黄色い粉が大量に付着しました。しょっちゅう掃除機とワイパーをしているのに、キリがない感じでした。布団にも降り積もるので、頻繁に掃除機をかけました。

○マスク
 外出するときのために、黄砂対策のマスクを買いました。黄砂の粒の大きさは、平均で約4ミクロンメートルくらいあります。pm2.5対応のマスクであれば、2.5ミクロン以下の粒子は通さないはずなので、黄砂にも対応できます。通販や店舗で何種類か買って試してみました。よかったのは、エムズワン「ウイルス・花粉対策 Vカットプリーツ型不織布マスク」という製品です。

マスクの素材の匂いも少なくCS反応を起こさずに済みました。ノーズフィットが金属ではなくプラスチックなのもありがたい! 私は電磁波過敏症を発症してから、金属製品を身につけると、そこが痛くなるようになっていたからです。耳にかけるゴムは匂いがダメそうなので切ってしまい、ひもで頭に取り付けるようにしました。詳しくは「スモール・データ・バンク2 マスク」に書きました。

 このマスクはCS対応ではないので、ガス(気体)状の物質にはほとんど効果はないと思いますが、粒子状の物質はよく防いでくれるように感じています。外出時はもちろん、室内でも息苦しいときに使っています。

※追記:2019年に「Vカットマスク」は販売終了となり、代わりに「くらしリズム やわらか快適マスク」が販売されました。ゴムが少し太くなったくらいで、ほとんど同じ内容のものです。私は代わりにこれを使っています。



○エアコン(クーラー)の購入
 真夏でも黄砂が飛んでくるときがあり、そのときは窓を開けていられないので、エアコンを購入しました。窓を開けずに部屋を冷やせるのでとても助かります。集合住宅なので、他の部屋からベランダ越しにタバコの煙が入ってくることもあり、ずっと窓を開けていられないので、エアコンは本当に重宝します。エアコンについて詳しくは「スモール・データ・バンク2 エアコン(クーラー)」をご覧ください。

○生活に大きな影響が
 CS対策の基本的な考え方として、有害な化学物質をきれいな空気で薄めるというのがあります。室内の建材や日用品から揮発する化学物質を薄めるために、換気が推奨されるわけです。しかし、それは外気がきれいなことが前提となっています。もし屋外の空気が室内よりも有害ならば、換気によって室内の空気が汚染されてしまうのです。

 何年にもわたってCS対策を重ねてきて、室内の空気をきれいに整備してきたのに、外気が大陸から1000km以上にわたって汚染されているのです。いくら室内の化学物質の対策をして暮らしていても、だんだん空気が汚れてきます。それなのに、外気を取り込んで空気を入れ換えることができないのです。

 私は2001年に水道水に対するCS症状に苦しめられたことがありました(スモール・データ・バンク「水」参照)。水道水に強い目の痛みを起こすようになり、使用できなくなってしまったのです。過敏性が高く、浄水器もほとんど効果がありませんでした。水道水に反応するようになると、世界が一変しました。水は正常なものではなく、まるで赤い色がついているように汚染されて感じました。水で体を洗おうにも掃除をしようにも、水についた有害物質が体にも部屋にも広がっていきます。洗えば洗うほど、赤い色がそこら中について汚染されていくのです。水道水のみならず雨など、あらゆる水分に反応していました。私のCS歴において、このときほど追い詰められたことはありませんでした。

 越境大気汚染で強い反応を起こすうちに、この構図がかつての水に対する反応によく似ていることに気づきました。あのときは水でしたが、今度は空気に対する反応です。世界中のありとあらゆる水が汚染されていると感じたように、見渡す限り何百キロにもわたって、空気が汚染されているのです。汚染物質はあらゆるところに充満していて、どこにも逃れるところがないのです。そしてそれがこの先20年にもわたって続くかもしれない。そう思うと絶望感を覚えました。

〔5〕回復の兆し
 様々な対策を組み合わせて何とか日々をしのいでいましたが、症状はすっきり消えることはなく、不便で不自由な生活でした。この原稿を書いている現時点(2017年)で、数年の経過を振り返ってみると、札幌では大気汚染のピークは2012〜2013年だったように思います。最盛期には空気の濁りが特にひどく、ほとんど物の色が抜けて影絵のようになっていました。真っ昼間でも夕方のように日射しが暗く黄色が かっていて、異様な風景でした。2015年になるまで、札幌では澄んだ青空が見えたのは年2〜3日といったところでした。快晴の日でも、灰色か黄色がかった、くすんだ空の色でした。

 それが2016年になると、はっきりとして変化が現れてきました。札幌では、年の半分くらいは澄んだ青空になってきました。遠くにある建物が、ざらついた灰色の霧で覆われていたのが晴れて、くっきりと見えるようになりました。

 2017年になると、ずいぶんと空気が澄んで透明感が出てきました。前年までは、東の窓から外を見ると、日の出後の空が霞んで、建物が黒く影になっていましたが、2017年になると、霞が減って、建物の色や形がわかるようになってきました。私はまた自然観察を楽しむようになりました。透明感のある空の美しさ、日光のきらめき、木々のみずみずしい緑、そういったものが戻ってきたのです。2017年は、朝早起きをして、日の出を見るようになりました。澄んだ空に広がる朝焼けの美しさ、日の出前の空に表れるグラデーションの鮮やかさ、日の光を浴びた雲の輝き。

 2014年頃、空が濁っていたときは、肉眼で日の出を見ることができました。汚れた空気の層がフィルターとなって、太陽光を減じ、まぶしさを感じさせなくなっていたためです。2017年の日の出は、澄んだ空気を通して、まぶしく輝いています。年に何割かの日々は、まだ空気の濁りがありますが、日数も汚れ具合も格段に減りました。10年ぶりに美しい風景が戻ってきて、感無量です。

○気候との関連
 10年にわたって大気汚染を観察してきて気づいたことがあります。越境大気汚染と猛暑との関連です。夏の間、空気の汚染状況を観察していると、たいてい汚れがひどいときに蒸し暑い気候となります。空気が澄んでいると、湿度が低く、すっきりとさわやかな陽気となります。

 これはどういうことかと考えてみました。上空に大気汚染の層があると、温室効果のようになり、昼間空気が暖められます。しかし、夜になっても、汚染の層が覆っているので、昼間たまった熱が上空に逃げないのです。そのため、じめっと蒸し暑い夜になってしまいます。

 2011年の7月に日本の南海上に台風が約2週間居座ったことがありました。このときは、台風の気流に押されて、黄砂も大気汚染も日本に漂って来られませんでした。この2週間は空気が澄んでいて、さわやかでカラッとした気候になりました。台風が去ると、大陸から汚染空気が流れ込んできて、またジメジメとした蒸し暑さが戻ってきてしまいました。その後、何度も同じパターンを観測しており、私見では、大気汚染と蒸し暑さには関連があると考えています。

↓台風の気流の影響で、大気汚染が日本に流れてくるのが抑えられている

 2009年頃から、家中にカビが生えやすくなって困っていました(→第2部 第6章 引越〔1〕参照)。それも、黄砂や大気汚染の影響で説明がつきます。

1.黄砂にカビの胞子が大量に含まれていて、それが部屋に降り積もる。
2.上空を黄砂や大気汚染の層が覆い、地上はベタベタの蒸し暑い気候となる。
3.外気が汚れているので、なかなか窓を開けて換気ができず、部屋に湿気がこもる。


 この3つの要因が絡み合って、家中にカビを大繁殖させたと思われます。

 2010年に日本中が記録的な猛暑となり、その後、何年も暑い夏が続きました。東日本では2010年が一番の猛暑でしたが、西日本では2013年がピークだったようです(高知県の江川崎で41.0度を記録)。気象庁の統計を見ているとそのように読み取れました。

 全国的に2014年頃から、記録続きの猛烈な暑さは少しずつ弱まってきたようです。2009年以前の水準にはまるで戻っていませんが、2015〜2017年と、年々少しずつ暑さが和らいでいっているように感じます。ここ札幌では、2017年の夏は近年にない涼しさでした。来年はどうなるのか、実際そのときになってみないとわからないのですが、この先も暑さは和らいでいくのではないかと予想しています。

○中国経済との関連
 中国の経済活動と照らし合わせてみると、北京オリンピックの2008年頃から急速に工業化が進み、2010年の上海万博のあたりがピークだったようです。その後、中国株のバブル崩壊などが起き、だんだんと中国経済は下り坂に向かっています。経済指標を見ても、その傾向が読み取れます。中国のGDPは政府発表なので、実態とどのくらいあっているのかわからないので、もっと実際的な数字を見てみます。中国の電力消費量、鉄道 貨物輸送量などです。


出典:https://japan.zdnet.com/article/35069545/


出典:http://www.mag2.com/p/money/5495

 これらのデータを見ると、2014年頃から下降しているのが見て取れます。現在、中国では労働賃金も上がってきて、工場を他の国に移す外国企業も増えてきています。建築バブルも終わって、新たに大規模な建築ラッシュが起きる気配もありません。この先の状況を見通せば、中国の工業活動は、だんだん減少していくことでしょうし、大気汚染の発生も抑えられていくのではないかと予想できます。

 実際、「東アジア域の黄砂・大気汚染物質分布予測」のサイトを見ていると、赤い大気汚染の範囲も濃さも、2013年頃に比べて、狭く薄くなってきているように感じます。黄砂のほうも・・・心なしか減ってきているようにも感じます。黄砂は砂漠化が原因と考えられるので、工業活動が減ったとしてもすぐに回復するものではないでしょうが・・・。それでも、長い目で見れば、少しずつ改善して行くのではないかと思います。

 中国の大気汚染は、少なくとも2027年までは続くと予想していたので、それよりも早く沈静化の兆しが見えてきて、本当にありがたいと思います。近頃は世の中の動きがどんどん早まってきており、物事の推移が加速されていっていますね。大気汚染も猛暑も、この先収まっていってくれるように願っています。

 本来ならば、あと数年観測してからこの章を書くつもりでしたが、大気汚染を実感した始めの年から丁度10年経ったので、節目と思い、書きしたためてみました。


「スモール・データ・バンク2」へ続く
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