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第2章 原因を探る 

〔1〕原因を特定することの難しさ
a.症状発現の原則
b.同時に複数のものに曝される
c.タイムラグがある
d.計測によって原因物質を特定することは可能か
e.原因物質の3階層

〔2〕原因究明の方法
a.よく観察し調べる
b.論理的に考える
c.発生状況によって判断する
d.感覚の「なれ」の問題
e.ブラインドテスト 
f.主成分と混入物
g.揮発性の化学物質は空気を介して移動する

〔3〕原因を究明する際の注意点
a.認識と実態のずれを減らす
b.「混乱」を防止する
c.<頭>で考えずに<感覚>で判断する
d.思い込みを排除する
e.今までの常識を再検証する


 

第2章 原因を探る

〔1〕原因を特定することの難しさ

a.症状発現の原則
 有害物質に曝されて症状が出たときに、その原因を特定し取り除くことができれば、症状を回復させることが出来ます。しかし、原因を特定することは実は難しいことです。この問題については 第1章でも何度か触れてきましたが、この章では、もっと掘り下げて考えて みたいと思います。

○ 症状発現の原則
 私は、これまで対策法を紹介していく中で、明文化してきませんでしたが、CS症状の現れ方には次のような原則があるということを前提にしてきました。

1. 同一個体においては、同一の原因物質は同一の症状を引き起こす
2.原因物質に曝されると症状が現れ、原因物質を取り除くと症状は消失する 
3.「量・距離・時間の法則」


これら3つの原則について説明します。

1.同一個体においては、同一の原因物質は同一の症状を引き起こす
  症状の出方には個人差があるので、同じ物質に曝されても人によって症状の出方が異なります。しかし一人の人間について考えた時は、同じ原因物質に曝された時は同じ症状が出ると私は考えています。曝露条件によって症状の出方に若干違いが現れるのですが、基本的には同じ症状が出ると想定しています。

2.原因物質に曝されると症状が現れ、原因物質を取り除くと症状は消失する
  私の場合、原因物質があれば症状は現れ、なくなれば症状もなくなります。ただし、さらされてから症状が現れるまでにタイムラグがあります。これは数分〜数十分くらいです。また取り除いてから症状が消失するまでにもタイムラグがあり、これは症状発現より長く、たいてい数十分〜数時間です。強い反応が現れた時には症状消失まで2〜3日かかることがあります。私の場合は、いわゆる「離脱」症状*1というのは経験したことがありません。

3.「量・距離・時間の法則」
☆ 原因物質の量が多ければ多いほど反応は強くなる。
☆ 原因物質との距離が近ければ近いほど反応は強くなる。
☆ 原因物質にさらされる時間が長ければ長いほど反応は強くなる。


  この3つの原則は、私個人の経験から導き出したものです。これが、他のCS患者に、どれだけ当てはまるのかは把握していません。現時点では情報が少ないので判断することが出来ないです。これらの原則に当てはまる方は、多分、このサイトの対策が有効だと感じることでしょう。しかし、この原則に当てはまらない方もいるかもしれません。私は、他のCS患者がどのように感じているのか、どのような症状が出ているのかについて大きな関心を持っています。これから少しずつそのような情報が出てくることを期待しています。

 この章では、上記の原則をもとに話を進めていきます。

*1 「離脱」症状・・・CS本によると、「有害物質に曝された後、それを取り除くと一時的にかえって症状が悪化する現象」だということです。治療用のクリーンルームに入ると一時的に症状が悪化する患者が一定数いるようです。


b.同時に複数のものにさらされる
○ 区別できない様々な原因
 上記の法則を踏まえて、原因物質を特定する難しさについて考えてみます。原因の特定を難しくしているのは、同時に複数のものに曝されることが多いということです。例えば、新しく買ったものを開封した時に、同時に、隣の家の庭で殺虫剤を撒布していたらどうでしょうか? あるいは歯の治療をして口の中に新しい歯科材料を入れた日に、そのシーズン初めてストーブをたいたとしたら、体調不良の原因はどちらなのか区別がつくでしょうか? これは2つの原因のうち、どちらかを取り除いてみることで確かめることができます。しかし現実には取り除くのが難しいものが多いです。隣家の殺虫剤はいったん撒かれてしまったら、少しずつ濃度が下がるのを待つしかありません。歯科材料も一度口に装着してしまうと簡単にはずしたり入れたりを繰り返すことはできません。ストーブもいったんたいてしまうと室内に有害物質が拡散するので、運転を止めて換気をしても、すべてを取り除くのは難しいのです。このように複数のものに同時に曝されること、複数の原因をきっぱり分けられないことが、原因の特定を困難なものにします。


c.タイムラグがある
○ 時間のずれ
  もう1つ原因の特定を難しくしていることは、原因物質に曝されてから反応が出るまでにタイムラグがあるということです。私は、原因物質に曝されてから症状が出るまでの仕組みを、次のように考えています。原因物質に曝されると、呼吸・経口・皮膚接触によって有害物質が体内に取り込まれます。それが血液中に入り、全身に広がっていきます。血中濃度の上昇と共に少しずつCS症状が出始め、次第に症状が強くなっていきます。原因物質に曝されて「あ、 具合悪いかな」と気づいてから、本格的に具合悪くなるまでには時間がかかります。曝された原因物質によって、急激に症状が強まるものもあれば、数十分かけてじわじわ浸透していくものもあります。

○ 様々な原因が重なる
 そのタイムラグの最中に他の原因物質にさらされると、原因の特定はとても難しくなります。例えば、歯の治療をして新しい歯科材料を口に入れた場合。歯科で口の中に装着する前にその歯科材料を嗅いでみて、「まあ、大丈夫かな」と判断しても、長時間口に入れているとじわじわと症状が進んでいくことがあります。歯科材料に限らずサンプルを嗅いでみるというのは判断する上で大切なことなのですが、サンプルは「量・距離・時間の法則」でいくと、「量・時間」が実際の使用より圧倒的に少ないので、判断しきれないことがあります。歯科治療後、数時間たって、本格的に 具合悪くなってしまった場合。例えばその間に、次のような別の原因物質の発生が同時に起きてしまったら、どうでしょうか。

○ 買ってきたものを開封した
○ 郵便物・宅配便が来た
○ 水道が故障して修理(修理に使った材料に刺激がある)
○ 体に合わないものを食べた
○ 家族が怪我をして湿布を貼った
○ 隣家でボイラーを長時間使用(排気が自分の家の方に出てくる)
○ 隣家の庭で花火
○ 隣家の庭で蚊取り線香をたいている
○ 近所の家で大量の洗濯物を干している(合成洗剤)
○ 近所で家を建築中
○ 近所で野焼き
○ 近所で外壁塗装
○ 近くの道路が渋滞(排気ガス)
○ 近所で道路工事
○ 近所で農薬撒布


これらの曝露が同時に重なると、どれが原因なのかわからなくなってしまいます。上記の原因を把握できていればまだよいのですが、遠方より風に乗って運ばれてくる原因物質もあり、その場合は原因そのもの(発生状況)が目に見えないので、匂いや症状によって推測するしかなくなります。この場合は原因物質を特定するのは困難です。ただ「有害なガスが漂ってきて 具合が悪い」ということがわかるのみです。

 このように見てくると、原因の究明は手探りの状態で行っているようなものだということがわかります。原因物質がわからずに終わるということも多いです。しかし、日々の観察や記録によって 、その精度を上げることは可能です。


d.計測によって原因物質を特定することは可能か
○ 客観的な指標
 私は、自分がCSだと気づいた頃(1999年)、原因物質を計器で測定できないかと考えていました。自分が具合悪くなった時に 、その原因物質の種類は何であるか、どのくらいの数値(量)がでれば症状が発現するのか(閾値はどれくらいか)。そのようなことがわかれば、有害物質を避けるための有効な手段になります。また周囲の人たちに協力を仰ぐときに 、自分の症状を客観的データと共に説明することが出来ます。

○ 計測は難しい
 1999年頃は、ホルムアルデヒドの計測は実施され始めていました。しかし、私はこの頃すでに、合板よりも畳や農薬に強い反応を起こすことがわかっていたので、農薬類の計測が出来れば 、非常に有効なのではないかと思っていました。それで、本でいろいろ調べてみたのですが、化学物質を計測するのは難しいということがわかってきました。問題となるのは次のような点です。

1.原因となる化学物質の種類が多い。
2.分析するのに化学の専門知識が必要である。
3.計測するための装置が高価である。


以上の点から、私が原因物質を日常的に気軽に次々と測れるものではないということがわかりました。*2

 計測が必要になるのは特別な場合で、例えばシックハウス問題でメーカーと争っている事例などに限られるようです。また、研究機関でCSを研究する際にも計測器は使われています。

 個人が日常生活で計測器を使うことが現実的ではないということがわかったので、私は主観によって危険なものを避けるしかないのだと思うようになりました。

 CSの研究には計器による測定が行われています。研究者は、CS症状が目に見える形でとらえられるようにと研究方法を工夫しています。ここ数年の動きはとても興味深いです。概要を知りたい方は、例えば 、下記の本をご覧下さい。
「化学物質過敏症」 柳沢幸雄 他・著 文春新書 兜カ藝春秋・刊

*2 「室内空気汚染の原因と対策」池田耕一・著 日刊工業新聞社・刊


e.原因物質の3階層  
○ 区別して考える
 原因物質を考える時に、次のような3段階の階層を考える必要があります。

階層(例)

原因となる物 食器棚
原因となる材質名 合板・接着剤・塗料・防虫処理剤・プラスチック・ガラス・金属
原因となる化学成分 (例) ホルムアルデヒド・トルエン・キシレン・エチルベンゼン・アセトアルデヒド・ダイアジノン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ ポリ塩化ビニル・フタル酸エステル類・他成分不明のもの多数

は鼻で嗅いでみることで原因が特定可能です。

は各部分を嗅いでみることである程度特定可能ですが、細かい部分まで嗅ぎ分けるのは難しいです。例えば、接着剤といっても多くの種類があるので、どのにおいが接着剤なのか を特定するのは難しいです。

は鼻で判断するのは無理なのではないでしょうか? やはり計器を使用することになります。ホルムアルデヒドは特徴のあるにおいなので 、嗅ぎ分けられる人もいると思いますが…。(私はあまり自信がありません。) 日常的に自分の感覚で嗅ぎ分けられるのは 、1と2の部分ということになります。しかし、それだけでも対策することは可能です。私は、化学成分をほとんど特定することはできませんが、感覚と原因物質(材質)を結びつけて 、その都度対応しています。

この3階層を区別して考えると、原因を特定する時に考えやすくなります。これらを区別せずに混ぜて考えると混乱しやすくなります。
 

 

〔2〕原因究明の方法

a.よく観察し調べる
 次に、原因を特定するための具体的な方法を紹介します。

  まず、第1章〔1〕−aで紹介したように、よく観察することが大切です。そして原因物質についてよく調べてみます。

○ 本を使って調べる
 例えば、私は山や森に行くと具合悪くなっていたのですが、その原因がわかりませんでした。森林浴というと健康によいイメージです。体にいいはずなのに、なぜこんなに 具合悪くなるのか疑問に思っていました。症状は農薬に曝された時と同じです。1999年頃、図書館に行って林業関係の本などを何冊も読んで調べた ところ、山林にも除草剤や殺虫剤を撒布しているらしいことがわかってきました。林業では、雑草が生えていると、樹木の種が発芽しにくいので、除草剤を撒布するようです。また、松林には 、松くい虫を殺すために殺虫剤を撒くこともわかってきました。

○ 松林のドライブ
 2000年7月に、松の名所として知られている観光地に、ドライブしたことがありました。松林を車で走っているうちに、私は急激に具合悪くなってしまいました。症状は、頭が腫れたような痛み・車酔いのような気持ちの悪さ・息苦しさ・ 手足の痺れです。症状は急激に悪化して、あっという間に体中がしびれて動けなくなり、口もきけなくなってしまいました。この時は、夫が私の具合悪そうな様子に気づいて、すぐに松林から離れてくれました。松林から遠ざかると体がみるみる楽になるのを感じました。松林の道路わきには「松くい虫を殲滅しよう!」という立て看板が立っていました。 実際には発生源を確定できていないので、あくまで推測なのですが、多分、殺虫剤に反応していたのではないかと思います。

 家に帰ってから記憶を辿ってみて、 これまで松林に行ったときに体調はどうだったのかを思い出してみました。すると、人生の様々な場面で松林に近づくことがあったのですが、 その度に具合が悪くなってしまったことを思い出しました。

 このドライブの日を境に、私は松林のある所にはなるべく近づかないようにしています。本で調べた所によると 、松くい虫対策の薬剤を撒布するのは7月頃のようなので、その時期は特に警戒しています。

 このように、調べたことや経験したことを もとに原因を推定し、危険を避けることが出来ます。様々な情報源を使って必要なことを調べ、対策に役立てる方法は、「第5章 資料を活用する」で詳しく述べる予定です。


b.論理的に考える
○ よく考えてみる
 原因を特定するためには論理的に考えることも必要です。例えば「はじめに」の例について考えてみましょう。合板を使った食器棚は古いものなので、

1.何年たったものなのか
2.その年数たったものに対して、自分はどの程度の反応を起こすのか

ということを考えれば、判断しやすくなります。また、 「今までその家具と同じ空間にいて大丈夫だったのに、急に有害になるということはあり得ないのではないか」と考えれば、原因物質から除外できます。「季節柄、気温があがってきたせいで 、化学物質の揮発量が増え、今まで大丈夫だったものに反応するようになったのではないか」と考えたのなら、前年・前々年の同時期の記録(日記)を読むことによって、その可能性を検証できます。 このようによく考えてみると、原因を特定しやすくなります。論理的に考えることは、CS症状によって思考力が落ちていると難しいので、そのときは紙に書いて考えてみたり、家族で協力的な人がいれば、一緒に考えてみたりするといいです。

○ 書店での体験
 原因を追究する時には、まず原因になりそうなものをすべて数え上げていきます。そして、その1つ1つについて検証してみます。例えば、 書店で本を手に取り、立ち読みしていたとします。読んでいくうちにその本が気に入って、購入しようと思いました。しかし、立ち読みしているうちに、だんだん具合悪くなってきてしまいました。 もし、本から揮発する有害物質によって具合悪くなっているのだとしたら、その本を買って帰っても、家で読むことはできないでしょう。その本を買うのはあきらめた方がよいのでしょうか? 

 この時、他にも原因となりそうなものがないか考えてみます。 例えば、「そういえば、その本を読み始めたと同時に、自分の真横に他の客が来て立ち読みを始めたのだ」ということに思い当たります。その客が身に着けている有害物質によって 具合が悪くなったのかもしれません。例えば、服をクリーニングしたばかりなのかもしれないし、ヘアースプレーをたっぷり つけているのかもしれません。あるいは、原因はその客ではなく、 書店の建物自体のにおいなのかもしれません。

 原因が「本」なのか、「他の客」なのか、「書店の建物 」なのかを確かめるために、一旦その場を離れて、店内の他の場所に移動してみます。症状がよくなるようであれば、 書店の建物が原因ではないということがわかります。しばらく例の客から離れた場所にいて、その客が立ち読みを終えて移動するのを待ちます。客がいなくなったら元の場所に戻り、先ほどの本を手にとって見ます。これで 具合悪くなるようであれば本が原因です。具合悪くならないのなら先程の客が身につけていたものが原因だとわかります。

○ 電灯の刺激の原因を探る
 もう1つ例を挙げてみます。2005年1月に、私は我が家のリビングの電灯の位置を変えました。それまでの位置だと使いづらいので、50cmほど移動させました。電灯は裸電球です。(電灯の傘で 私が使えるものを見つけることができませんでした。) この時、ソケットと電気コードの接触が悪かったので、コードの先を2cmほど切ってソケットとつなぎなおしました。

 電灯の位置を変えた直後から強い刺激を感じるようになり、目が痛くなってしまいました。原因は何なのか? 考えられる可能性を挙げてみます。

○ 1つ1つ原因をピックアップ
電気コードの先端を切ったことが原因ではないか?
  電灯の構造を考えてみると、ソケットに近い部分の電気コードは電灯の熱で熱くなり、化学物質が揮発する。この電灯は1年半前に使い始めた時には刺激臭がしていたが、次第に化学物質の発散が収まり、刺激が弱くなっていた。今回電気コードの先端を切ったことで、これまでの熱に曝されていなかった部分のコードが新たに加熱されて化学物質が発散し始めた可能性がある。

天井のクロスが原因ではないか?
 電灯を移動させたことで、それまで電灯の熱に曝されていなかった天井のビニールクロスが加熱して、化学物質を発散させている可能性がある。(元の位置の天井クロスは、電灯を使い始めた時はにおったが、1年半加熱されつづけて化学物質の発散が減ってきて、刺激がなくなっていた。)

電灯から落ちた埃が原因ではないか?
  電灯を移動したときに、積もっていた1年半分の埃が床に散った。この瞬間、のどや目に刺激を感じた。散ったのは埃だけでなく、ススのような粒子状の物質・虫の死骸などか混じっていた。

「どんど焼」
  家から500mの所に神社がある。この日は「どんど焼」の日なので、煙が家まで流れてきている恐れがある。

○ 1つ1つを検証する
 上記4つの可能性について検証してみました。まずは「どんど焼」ですが、これは家の中の空気と外気とを嗅いでみることにしました。何度か外に出たり、家の中に入ったりして確認しました。この時は、リビングの方が外より明らかに強い刺激を感じました。 「どんど焼」の可能性は除外できます。

 次に「埃」の可能性を確かめるために、リビングの床や家具の上に掃除機をかけました。その結果、埃っぽさは 取れて、のどのイガイガ感はなくなりましたが、目の痛みはそのままです。 埃以外のものが原因だとわかりました。

 その後、原因が電気コードなのか天井のクロスなのかを確かめるために、手で電気コードとクロスに触ってみました。電気コードは熱くなっていましたが、天井は冷たいままでした。これで天井の可能性も否定されました。

 上の4つの原因以外の可能性もあるので、念のため、電灯を元の位置に戻してみました。そうしているうちに、目の痛みが強くなってきて判断しづらくなってきたので、別の部屋で20分くらい過ごしてから、リビングに戻ってみました。刺激は相変わらず強いままです。

○ 電気コードについて検証
 多分、電気コードが原因だろうと思い、その対策を考えてみました。1年半前に電灯を設置した時も同じような刺激を感じていたことを思い出したので、当時の記録を読み返してみることにしました。この時は約3ヶ月で刺激が収まってきたことがわかりました。前回は電灯全体が新品で、電気コードの他にソケットの部分も加熱していたので、刺激が減るのに時間がかかりました。今回は 、新たに熱にさらされるようになったのは電気コードの先端だけなので、前回より時間は短く、多分2〜3週間以内には刺激が減るのではないかと推測しました。そして、一時的に夫の部屋にある電灯とリビングの電灯を取り替えてもらう事にしました。

 取り替えたら、リビングの刺激はおさまりました。一方、夫の部屋は目の痛い部屋になってしまいました。これで、電灯のコードが原因だったことが確実になりました。

 その後1週間ほどで、電灯の電気コードの刺激はおさまり、またその電灯を使えるようになりました。 予想していたよりも、ずっと早く刺激が抜けました。1週間の内に電気コードの先端が熱に曝されて有害成分が揮発し、濃度が下がったようです。

 このように、原因となりそうなものをすべて挙げてみて、その1つ1つについて検証していくと、原因を特定することができます。その時、1つ1つ検証するためにはどのような手順をとったらよいのかをよく考えてみます。

電灯の刺激の原因究明チャート図
(図をクリックするとPDFファイルが開きます)

考えられる原因
1.「どんど焼」
2.床に落ちたホコリ
3.天井のクロス
4.電気コード


 


c.発生状況によって判断する
○ 原因物質の発生状況は様々
 原因物質に曝された時に、その発生の仕方によって原因物質を推測することが出来ます。原因物質の発生の仕方は、自分の体の感じ方で判断します。発生の仕方はその時々で違います。

外からやってくる ←→ 家の中で発生
短時間で急激に発生 ←→ じわじわと広がってきた
すぐに減衰した ←→ 長時間とどまった
局所的に存在している ←→ 広範囲に広がっている


以上のようなスケールで、発生状況を区別することが出来ます。私の場合、夏になると、農薬に曝されて具合悪くなることが多いのですが、実に様々な曝され方をします。

○ 農薬の感じ方
◎ 近所で庭木の消毒をしたり、家庭菜園で殺虫剤を使ったりした時には、狭い範囲で農薬の濃度が上昇 します。これらは、撒布された日に家の窓を閉め切 って濃度が下がるのを待ちます。撒布現場を目撃していないと、いつの間にか具合悪くなってしまうのですが、症状や感覚で判断します。においを辿っていくと発生現場を特定できることがあります。有害物質は発生源で最も濃度が高く、離れるにしたがって濃度が下がります。濃度の高い方へ高い方へ辿っていくと発生源に辿り つくことが出来ます。しかし、辿っている途中で症状が激しくなってしまい、それ以上近づけず、発生源まで辿り切れないことは多いです。2000年までは原因を知りたくて発生源探しをよくやりましたが、2001年に 症状が悪化してからは、発生源に近づくとひどい症状を起こしてしまうので、あえて辿らないように自制しています。前年度の記録を参考に判断しています。

◎ とても広い範囲で、刺激のある霧が発生することがあります。これは半径5kmに渡って広がっているということもあります。車で走っていて、ある場所からその霧の中に入り、ある所から抜け出るという感じです。これは大きな公園や畑・ゴルフ場などに撒いたものが、風に乗って拡散していっているのだろうか、と推測しています。農薬は目に見えないために、推測することが多いので、常に不確実さが残ります。
(これとは対照的に、目で確認できる場合もあります。清掃工場の近くに行くと、広範囲で刺激性の霧が広がっているのを感じることがあるのですが、この場合は 、煙突からの煙のたなびき方で、拡散方向を推測することが出来ます。発生場所・風向きが目で確認できます。)

 家にいて、だんだん具合悪くなってきたときに、外気が強い刺激を帯びていることがあります。その時は局所的に発生しているものなのか、広範囲で発生しているものなのかを探るために、車で走ってみることがあります。局所的であれば、家から離れるとすぐにその刺激は消えます。広範囲の場合は刺激が消えるまで何kmも走ることがあります。広範囲で発生している時は、車であちこち走ってみると、どのくらいの範囲で広がっているのか、どこの濃度が高いのかを確認できることがあります。実際に撒布現場を目にすることもあります。この時は発生源を特定できます。発生源を特定できない場合でも、分布の仕方によって発生源を推測します。広範囲で発生している時の対策も、家の窓を開けないようにすることです。分布の仕方によって、その刺激がどれくらいの時間で収まるのかを推測します。

◎ さらに広範囲で農薬の刺激が高まる場合があります。毎年4月頃から、市内全体の農薬の濃度がじわじわと上昇していく感覚があります。庭木の消毒をしたり、畑やゴルフ場に除草剤を撒いたりして 、局所的に濃度が上昇しますが、それが市内のいたる所で行われるために、市内全体の濃度が上がっていきます。ピークは7月頃です。そして少しずつ濃度が下がっていき、10月末にはだいぶ低くなります。夏 の間ずっと、体調が悪い感じが続きます。冬になると、体はとても楽になります。これは窓を閉めて対処できるというものではありません。(一夏中閉め切 っているというのは無理です。) この問題への対処法は、体調をよくして体の適応力を上げていくしかないと思っています。

 有害物質は発生の仕方や分布の仕方が様々なので、感覚を研ぎ澄ませてその状態を探っていくことになります。有害物質に曝された時に 、「有害ガスがどのように分布しているのか」「時間と共にどのように変化していったのか」をよく観察し、記録をとります。記録が蓄積してくると、有害物質が発生した時に、原因を推測しやすくなります。


d.感覚の「なれ」の問題
○ 原因物質のレベルによって反応は違う
 原因物質に曝された時には、その有害度によって症状の出方が異なります。レベル5のものに曝されたときと、レベル3〜4のものに曝された時の症状の出方の違いと原因特定のための注意点を書いてみたいと思います。

○ レベル5の物質に対する反応(時間の経過と共に次のように反応が進む)
1.刺激を感じる。短時間で猛烈に具合が悪くなる。
2.原因物質を取り除くが反応は続く。刺激も続く。
3.服や身体に原因物質が付着してしまっているので、それを取り除く(着替え、洗髪、シャワー)。 刺激はなくなるが、体はダメージを受けたまま。
4.静養。(数時間〜数日)
5.その時着ていた服に接すると症状がぶり返すので、隔離し、十分に回復してから洗濯する。回復後も、その時着ていた服に強い刺激を感じる。


○ レベル3・4の物質に対する反応(時間の経過と共に次のように反応が進む)
1.刺激を感じる。
2.具合悪くなってくるが、我慢する。
3.刺激に慣れてきて感じにくくなるが、具合悪さは続く。(嗅覚が順応するのと同じ感じ)
4.取り除いてみると、体がすごく楽になる。(反応物質を取り除く、着替える、シャワー、洗髪)


○ レベル3・4の原因特定が難しい
 レベル5のものは反応が激しいので、むしろ原因がわかりやすいことが多いです。ただし反応が激しすぎると具合悪すぎて何が何だかわからなくなってしまうことがあります。(意識が遠くなることもあります。) この時は適切に対処するのが難しくなることがあります。

 レベル3・4の反応は3の状態が問題になります。においに鼻が慣れてくるように、有害物質の刺激に対し感覚がなれてきて 、刺激自体は感じなくなるのに、症状は続いている状態。この状態が、CS患者のどの程度の割合の人に当てはまるのかはわからないのですが、私は確かにこのような感覚を日常的に経験しています。

 レベル3・4の曝露がいくつか同時に重なると、原因を特定するのが難しいです。思い当たるものを1つ1つ取り除いてみて、もし病状が軽くなるなら、それが原因だとわかります。原因を推測するためには、次の方法をとります。

◎ 症状から原因を推測する。
◎ これまでの記録により原因を推測する。
◎ 論理的に考えてみて原因を推測する


このような方法で見当をつけ、取り除いてみます。

○ 外出時の反応
 外出していろいろな物質にさらされると、調子が悪くなって帰ってくることがあります。外出時に様々な刺激に曝されると感覚の「なれ」が起きてきて、帰宅時には何が原因だったのか判断できなくなっていることがあります。このときは いったん着替えてシャワーをあび、体についている有害物質を除去し、体が回復するのを待ちます。回復してから外出時に着ていた衣類を嗅いで見ると、実に様々なにおいが付着しているのがわかります。排気ガス・芳香剤・建築現場のにおい・消毒のにおいなど が混じり合っていますが、どれが強くてどれが弱いのかを嗅ぎ取ることが出来ます。 服のにおいを嗅ぎながら、外出時の記憶を呼び起こし、どの物質に強く反応したのかを考えてみます。これを何度も繰り返すと、「自分がどのような化学物質に過敏なのか」「どのような症状が起きるのか」をつかむことが出来ます。

○ いったん離れて症状を抜く
 ある朝、目覚めてみると、すでにドロッと具合悪くなっていることがあのます。私の場合は夏に多いです。早朝近所で農薬撒布をしたりすると、起床時にはすでに具合悪くなってしまっています。しかし、私は農薬撒布現場を見たわけではないので、原因を特定することができません。この場合は体がつらくても、外出してみます。車で出かけていって、比較的空気のよい場所に行き、そこに2、3時間とどまります。すると、起床時の 具合悪さが抜けて 、体調がよくなって来ます。この状態で、家に戻ります。

 車に乗って少しずつ家に近づいてみると、ある時点から、朝の具合悪さと同じ症状が出てくるのを確認できます。 この方法で、自宅からどのくらいの距離の範囲に、有害物質が広がっているかがわかります。前述のように半径5kmにわたって有害な霧に覆われているという場合もあります。また、自宅の近所まで来て初めて症状が現れることもあります。また、自宅の玄関までは大丈夫でも、家の中に入って初めて症状が出ることもあります。自室まで戻ってみて 、症状が出るかどうかを確認します。有害物質の広がっている範囲を確認すると、それがどんな物質なのかを推測することが出来ます。

 家の外に原因があるときは、私の場合、農薬散布が原因だということが多いです。家の中で具合悪くなる原因としては、前の日に購入して部屋に置いておいたものが有害だった、などという場合が考えられます。外から少しずつ自宅に近づいていく方法をとると、あらかじめ家の外で症状を抜いてきているので、その後初めて原因物質に出会った時点でその刺激を感じることが出来ます。自室に戻るまでにどこでどのくらいの範囲で原因物質が分布しているのかが感覚でわかります。起床してからずっと家の中にいたままだと、有害物質の刺激に感覚が慣れてしまっているので、何が原因なのか感じ取ることが出来ないのです。この「一旦離れて症状を抜く」方法は有効なので、私はよく行います。


e.ブラインドテスト
○ タイムラグの問題
 私は新しい商品を試す時に、何種類か購入して嗅ぎ分けてみることがあります。その際、どうしても先入観が入り込んでしまい判断力が鈍るので、ブラインドテストを行います。洗濯用の洗剤(液体)を試した時は、4種類を購入し、夫に協力してもらって 、ブラインドテストをやりました。まず、夫がそれぞれの洗剤をティッシュペーパーにしみこませます。それを1つ1つ私の鼻先に差し出してもらい、においを嗅いでみます。何度か繰り返してデータを取り、どれが一番安全なものかを判断します。

 この際にタイムラグの問題が起きてきます。有害物質を嗅いで 、いったん症状が起きると、原因を取り除いても症状はすぐには消失しません。いったん有害なサンプルを嗅いでしまうと、症状が出てしまい、すぐには消えないので、その後に安全なサンプルを嗅いでも判断できなくなってしまうのです。症状が継続したままなので、安全なサンプルも有害なものに思えてしまいます。刺激を帯びたサンプルを嗅ぐと、鼻やのどや目の粘膜がヒリヒリと痛みます。その状態で別のサンプルを嗅ぐと、粘膜の痛みは続いたままなので、そのサンプルも有害なものだと思われるのです。

○ タイムラグへの対処法
 この問題に対する対策法は、次のようなものです。まず、いくつかのサンプルを嗅いでいきます。安全だと思うサンプルを嗅いでいるうちは、次のものに進みます。有害なサンプルを嗅いでしまったら、その時点で一旦テストを中断します。その後、数時間サンプルから離れて過ごしていると身体症状が回復するので、その時点でテストを再開します。再び有害なサンプルに当たったら、またテストを中断して症状が回復するのを待ちます。数時間後、テストを再開します。とても時間がかかるのですが、このような方法が有効です。しかし、中断している最中に、周囲の環境に変化があると、各サンプルを同条件で比較できなくなるので、その点は注意が必要です。周囲の環境で、有害な化学物質が発生していないかをよく確認しながら、テストを行います。周辺環境の変化が起きたときは、一旦テストを中断して、その原因が取り除かれてから、再びテストを行います。

○ 様々なものをブラインドテスト
 ブラインドテストは、これ以外の場面でも応用できます。例えば買ってきたものが有害な時に、原因は中身なのか包装なのかを知りたい時に有効です。また第1章〔4〕−cで書いたように、それまで問題なく使っていた生活用品でも、ある時から中身が変わり 、有害になって使えなくなることがあります。このとき、どの程度有害になったのかを判断するために、元のものと新しいものとをブラインドテストで比較できます。新しい商品は、包装をあけた時に中にこもっていたにおいが一気に発散するので、開封時に最も強く刺激を感じます。使用していくうちに、何度も蓋を開け閉めするので、少しずつ刺激が発散していき、使い切る頃はかなり弱くなります。そのため新しいものを開封した時は、それまで使っていたものより強い刺激を感じることが多いです。開封した瞬間に刺激を感じると 、それが前のものよりも有害になった(中身が変わった)と思ってしまいます。本当に中身が変わったのかを確かめるためにブラインドテストをします。また中身が変わってしまった場合でも 、どの程度有害になってしまったのかを確認するために、テストすることもあります。

○ ブラインドテストのやり方
 洗剤のように透明な液体状のもので、見た目にあまり違いがないものは、そのままブラインドテストが出来るのですが、目で見てはっきり違いがわかるものは、 そのままではテストになりません。この場合は、ブラインドテスト用の箱を作ったり、不透明なビニール袋に入れたりして行います。その箱やビニール袋の素材が有害だとテストにならないので、安全な素材を見つけることが大切です。また、箱・ビニール袋は使い捨てにしないと、前回の試料のにおいが染み ついてしまっています。 よく注意しながら、テストを行います。
 
 ブラインドテストをしてみると、「思い込み」の影響の大きさを実感できます。先入観によって、感覚がどれだけ影響を受けているのかということがわかり、ちょっと怖くなります。頭で「これは有害だ」と思い込んでいるものでもブラインドテストをしてみると、安全なものと違いなかったりします。その時は使えるものが増えるので大助かりです。また、ブラインドテストをしてみて安全だと判断しても、実際使用してみるとダメな場合があります。テストと実際の使用では「量・距離・時間」が異なるためです。この点に注意してみてください。


f.主成分と混入物
○ 主成分だけが原因ではない
 ある物質に反応を起こす時には、原因となる物質そのものに反応している場合もありますが、それに微量に混入したものや、後から付着したものに反応している場合もあります。過敏性が高まると、微量の混入物にも反応を起こすようになるので注意が必要です。

 例えば、私は風呂水の塩素を中和するためにクエン酸の結晶を入れているのですが、このクエン酸を買う時にも、メーカーによって、体に合うものと合わないものがあります。体に合わないものは、目やのどに強い刺激を感じます。しかし、クエン酸の表示成分は、どの商品も「クエン酸結晶100%」であり、違いはありません。商品によって合うものと合わないものとがあるのは、クエン酸結晶以外の何らかの混入物に反応しているせいだと考えられます。容器から揮発したものや、製造段階で付着したものなどが、原因として考えられます。このくらい過敏になってくると、ますます原因特定は難しくなってきます。

 私は重症だった時(重症度4E)、農薬に極端に過敏になっており、農薬に接したときに感じるような刺激を、日常的なありとあらゆる物にも感じていました。ごく微量の農薬が混入したり、付着したりしているものにも、過敏に反応していたのではないかと考えています。

 以上のように、「主成分だけでなく混入物にも反応している可能性がある」という視点で原因追究していくと、原因がわかりやすくなることがあります。


g.揮発性の化学物質は空気を介して移動する(二次汚染)
○ 服ににおいがつく
 ガス状の有害物質は、空気を介して移動します。だから、有害物質に曝されていた時に着ていたもの・持っていたものに有害物質が付着しています。また、有害物質が存在している場所に 直接行ったのではなくても、その場所に行った人の体や持ち物についた有害物質によっても、反応を起こすことがあります。家族が帰宅した時に、服にタバコの匂いが染み ついていて具合悪くなる、などという反応がこれに当たります。私の場合は、農薬撒布場所に行ってきた人の服についている農薬成分で、具合悪くなってしまいます。有害物質は 、紙・布など表面積の大きいものに、より多く付着します。布の中でも、ナイロンのようなツルツルした布(表面積が小さい)には 、それ程においはつきませんが、タオル地や起毛素材(表面積が大きい)だと 、匂いが移りやすいです。「ものに有害物質のにおいが移る」という現象を逆手に取ることで、原因物質を追究することが出来ます。

○ においの原因をたどる
 ある場所に行って具合悪くなった時に、そのとき着ていた服装をあとから嗅いでみて、原因を推測することが出来ます。また、何年か前に住んでいた家が、どれだけ有害な場所だったかということを知るためには、当時の手帳を出してきてにおいを嗅いで見るといいです。手帳は持ち歩くものなので、外出した時に開けていたページと、家にいるときに開けたページとでにおいが違っていることがあります。ページによって有害度が違います。手帳など紙を綴じたものは、ページを開いた時はその空間に曝されますが、ページを閉じてしまうと長い間空気に曝されることがないので 、その時のにおいが発散してしまうことなく残るのです。手帳はタイムカプセルのようなものです。比較的空気のよい場所で開けたページと、家の中で開けたページを比べてみると、当時住んでいた家の有害度がわかります。

○ 過去のにおいをたどる
 私は発症してからCSだと気づくまで14年かかりましたが、その間、波はあったものの、ずっと具合悪いままでした。CSだと気づいたとき、「特に具合悪かった時期の部屋の空気はどうだったろう 」と後から知りたくなりました。発症当時の持ち物はほとんど残っていなかったのですが、大学時代一人暮らしをしていた頃の日記帳が残っていました。それを嗅いでみると 、すごい刺激です。そして、そのにおいと共に当時の生活の様子が、まざまざと脳裏に蘇ってきました。そのとき住んでいたアパートは、築20年の木造だったので、合板などの新築建物のにおいはほとんどなかったのですが、多分 、畳の防虫剤と思われるようなにおいが、強くしみついていました。古い建物でも、畳表は替えるので、このにおいにさらされていたと思われます。私は結局、体調不良のために大学を中退してしまったのですが、後にその当時の生活環境をたどってみると、中退したのも無理からぬことだったと納得しました。あの とき無理して大学に残っていなくてよかったのだと思ったのです。

 私はCSだと気づくまでが長かったので、 気づいた後、それまでの経験を今後の対策に生かせないかと思いました。それで、どのような場面でどのような反応を起こしていたのかを、こと細かに回想しました。 具合悪くなったときの記憶をたどっていくと、それぞれに、納得いくようなCS原因が思い当たりました。そして、回想していくうちに、自分が14年間まぎれもなくCSだったのだということを実感しました。それまでの体調不良の原因がわかり、本当にスッキリしました。その回想の過程で役に立ったのが 、紙製品や布製品の過去のにおいを辿ることでした。

○ 届いた手紙から住環境を推測する
 お正月に年賀状が来ると、1枚1枚においを嗅いでみるのですが、差出人によって実に様々な匂いがします。芳香剤・新築のにおい・カビのにおい・畳のにおいなど。それによって 、その人がどのような生活空間で暮らしているのかが推測できます。はがきの場合は配達されるまでの過程で様々な化学物質に曝されるので、それだけで確実にその人の生活空間を推定するのは難しいです。しかし封書の場合は、封筒 の表面には、外気にさらされて様々な化学物質がつきますが、中の便箋は、外気の影響を受けることがありません。ほとんどそのまま、その人の生活空間を表してい るといえます。あとは、便箋の紙とペンのインクのにおいが混じっているので、それを引き算して考えます。もし、ある人の家に訪問する予定がある場合は、その人から来た郵便物を嗅いでみると、その家が自分にとってどの程度 の有害度なのかがわかります。便箋についたにおいは実際の生活空間より弱くなっているので、正確な有害度はわからないのですが、目安にはなります。
 


〔3〕原因を探るときの注意点

a.認識と実態のずれを減らす
○ 独特の世界観
 CS患者の世界観は 、一般の人とは異なっています。一般の人が感じないものを感じ取り、それに反応しているからです。一般の人が気にかけないようなものも、CS患者には、自分の生活に大きく関わる重大な物だと感じ られます。特に一般の人と異なってくるのは嗅覚で、CS症状として極端に過敏になります。(人によっては麻痺する場合もあるようですが…。) 

 有害な物をさけるために、嗅覚は外界認識のための重要な手段となります。嗅覚によって、それまでとは違うやり方で外界を認識し直していきます。自分にとって安全な ものと危険なものの区別を、こと細かにつけていくようになります。CS患者の反応には個人差があって一人一人反応の仕方が違うので、現在のあなたの外界認識はあなた個人の固有の ものになります。他の人とその認識を分かち合うことはできません。それでもあなたにとって、その安全・危険情報は、生活の安全性を保つための重要な指標となっています。他の人と互換性がないということは、世界でたった1つの外界認識パターンだということです。だから 、もしあなたが「他人の協力を得たい」「助けてもらいたい」と思っているなら、その独特の感覚を、他人にもわかる形で説明することが必要になってきます。

 これまで見てきたように、原因を特定するときには様々な困難が伴います。そのため自分で築き上げてきた認識の世界が実態とずれてくる、ということは当然起こってきます。自分で危険だと思っている ものが実は危険ではない、ということが起こりうるし、その逆もしかりです。自分ではよく考え確かめたつもりでも、実際と認識の間に誤差が生じてしまうのは仕方のないことです。その誤差を少しでも埋めていくように努力すべきです。


b.「混乱」を防止する
○ 迷宮に入って行く怖さ
 CS反応で症状が起きてきた時に、陥りやすい罠は「混乱」です。

原因を探す → 「これが原因か」と思い取り除く → よくならない → 「それともこれが原因かな」と思い取り除いて代わりのものにする → 代わりのものの方がかえって有害 → 「やっぱりこれかな」と思い捨てる → よくわからない → 捨てたことを後悔 → さらに別のものを試す

……などと延々とやっているうちに「混乱」が生じ、どんどん迷宮に入っていく感覚にとらわれます。これは けっこう怖い感覚です。できるだけ避けたいです。本人も混乱するし、周りの人も混乱してきます。家族を巻き込んで大騒動になります。この「混乱」を少しでも減らすことが大切です。これは今まで書いてきたように、〈観察〉+〈記録〉+〈基礎知識〉+〈論理的思考〉+〈実験−検証〉によって乗り越えることができるものだと思います。


c.〈頭〉で考えずに〈感覚〉で判断する
○ 感覚を優先する
 原因を追及するときには、「頭」で考えずに「感覚」で判断することが大切です。〈思考〉と〈感覚〉とでは矛盾することがあります。 CS生活を続けているうちに、頭で考えてみると「絶対そんなことはありえない」と思うような感覚にとらわれることがあります。私の場合、「オーガニック・コットンは無農薬で作られた ものだから有害なはずはない」という思い込みがあって、ずいぶん悩みました。オーガニック・コットンは 、私の感覚では、明らかに有害だったからです。呼吸器の粘膜に刺激があり、息苦しくなります。 「無害であるはずのものを有害だと感じてしまう」ということに、かなり戸惑いました。のちにCS患者の中にオーガニック・コットンが苦手だという人が結構いることがわかり 、私の感覚もおかしいことではなかったのだと納得しました。

「CS患者は、人工物質はダメだが天然の物なら大丈夫」という考えも、私を一時悩ませました。私の感覚とは異な っていたからです。 私は天然の木材にも強い反応を起こしました。1999年頃は、「天然木で健康住宅を建てれば、CSは治る」という情報が多かったので、天然木に反応する私は、おかしいのではないかと思っていました。しかし、これも、私と同じように天然木に反応するCS患者の存在を知るようになり、謎が解消されました。

このような経験が重なっていくうちに、頭で考えるよりも感覚を信じていった方が、よい結果をもたらすことがわかってきました。感覚を信じて行った対策の方が 、頭で考えたものより効果があったからです。

○実家での体験
 実家にいたときに一番私の頭を悩ませたのは、CS対策をしている私の部屋より、ほとんど対策をしていない台所の方が、体が楽だと感じていたことです。これは大きな矛盾であり、大きな謎でした。 台所には、CS患者にとって危険なものがたくさん存在していました。私の部屋は、有害な物を徹底的に取り除いていました。それなのに、なぜ、私の部屋の方が苦しいと感じるのでしょうか。

この謎にも、解答が見つかりました。私は、2001年に劇的に電磁波過敏症(ES)を発症 したのですが、その時、ESのことを調べてみているうちに、思い当たることに気づきました。私の実家はオール電化住宅で、私の部屋に接して3つの配電盤が設置されていたのです。 ESの知識を得て、このブレーカーの害に気づくことができました。試しに、このブレーカーに近づいてみると、具合悪さが増 し、ブレーカーから遠ざかると具合悪さは軽くなります。それを、自分の体で確かめることができました。急激にESを発症する前から、私はすでに潜在的にES だったようです。多分、ブレーカーには、10年以上前から反応していたようです。

このように自分にとって未知の要因によって症状が出ていることがあり、そのため原因に思い至らないことや、原則と全く異なった反応が生じることがあります。未知の ものというのはどんなに努力して考えつくしたとしても必ず存在するものです。 頭で考えるよりも、感覚を大切にして判断した方がよいです。有害物質の正体がわからなくても、感覚で危険なものを避けることができるからです。


d.思い込みを排除する
○ ダメだったものも何度か試してみよう
 未知の問題に対処するためには、「わからないことをわからないままにしておき、決めつけない」という姿勢が必要です。無理に原因をこじつけようとすると歪みが生じ、その歪みがどんどん広がっていってしまいます。また誤った認識は誤った対策を生み出します。思い込みで無害な ものまで有害としてしまうようなことがあると、自分で自分の生活を不必要に制限することになります。

 恐れの感情があると、判断を誤りやすいです。過敏性が高く、強い反応が何度も起こると、その時の恐怖の記憶が脳にこびりついて、その後の判断を誤らせます。この「恐れ」を克服するのは 、とても難しいことですが、重要なことです。恐れの気持ちがあると、何もかも避けてしまいたくなり、新しいものを試せなくなってしまいます。一度反応した ものでも、もう一度試してみると大丈夫な場合があります。原因として考えられるのは次のようなことです。

1.以前反応したときにそれが原因だと思ったが、実は別の物が原因であった。同時にさらされたので混同した。
2.(例えば商品を試すときなど)以前反応したときに比べてその商品の有害性が下がった(第1章〔4〕−c参照)
3.以前反応した時は、たまたま体調が悪くて反応を起こしやすい状態になっていた
4.以前より回復して過敏性が下がった。


 以前ダメだった物でも、用心深く試してみると大丈夫なことがあります。使用できるものが増えると 、生活が楽になります。私の場合は、夏に試してダメだったものでも、冬に試してみると大丈夫ということがよくあります。夏は農薬の影響があるので、体調が悪く過敏性も高くなります。そのため冬よりも多くのものに 、過敏に反応するようになってしまうのです。このように、季節や体調によって、反応が違うことがあります。


e.今までの常識を再検証してみる
○ 1つの考えに凝り固まらないように
 CS患者は常に危険予測して、有害物質との接触を避けようとします。有害物質を避ける時は、次のような判断によって避けています。

1.「これは危険かもしれない」という予測によってさける。 (これまでの知識や経験から判断して避ける。)
2.接触した瞬間、感覚で有害だとわかり、避ける。


1.の予測が発達してくると、うまく有害物質を避けられるようになってきますが、1.は諸刃の剣です。あらかじめ危険予測をして避けること で、有害物質に曝されずにすみますが、それが本当に避けなければならないものだったのかどうか確認できないからです。 実際には、避けなくてもいいものまで、避けてしまっているのかもしれません。避けよう避けようとしていると、実際の感覚とかけ離れていってしまう恐れがあります。 ときどき曝されてみて、実際の感覚を確かめてみるべきなのですが、「恐れ」の気持ちが強いと、それが難しくなります。ときどき自分の中の原則を疑ってみます。今まで避けていたものを試してみます。

(2005年2月)
 

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