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 ■コメント〈 innga 〉■

堤さんは自身のホームページだけでなく、様々な方面へ発信している。その一つが有明海汚染の原因裁定や再生を願って環境NGO、弁護士、研究者、漁民・一般市民などが情報交換の場として形成しているメーリングネットワーク〈 innga =因果〉へのコメント。“赤潮警報”を発したり、漁民の人たちが現場で目にした状況の報告に研究者の立場からアドバイスしたり、時には自らの調査結果報告などを行なっている。ここ1年あまりの投稿のうちの一部を紹介する。

潮受け堤防締め切り後、有明海の奧部海域で赤潮が発達しやすくなった
【その1】  >2003年10月21日
*島原の漁師の吉田訓啓さんから―

□吉田です。
島原で18日から赤潮が発生しています。20日現在でギムノディニウム サングイナムが、1tに226コです。数キロから10キロ程の規模だと思います。
―という報告に対し

*質問に答えて―
10月18日、有明海の定期調査を行いました。我々が赤潮発生でもっとも注目している筑後川河口から諫早湾の湾口に至る海域で、要注意すべき傾向を観測しました。この線上の中央域、佐賀県沖から諫早湾の湾口の手前、小長井沖ぐらいまでの海域で、Gymnodiumの赤潮を観測しました。島原沖の赤潮は、その赤潮が半時計回りの循環流に乗って、有明海の外の方へ島原半島沿いに流出している分ではないかと思われます。本来であれば、もっとはやく流出するのではないかと思うのですが、諫早湾の潮受け堤防締め切りに伴う島原半島沿いの流速の低下によって、その流出が遅く時間がかかるようになった分、有明海の奧部海域で赤潮が発達しやすくなっているのではと考えています。

先日、農水省の農村振興局の中長期開門調査検討委員会にも呼ばれましたので、その考え方を当方のデータを示しながら、説明してきました。また、その可能性が高いので、中長期の開門調査を行って、それを確認する必要があることも強調してきました。もうすぐ、その時の議事録が、この委員会のホームページに掲載されることになっています。

さて、現状の海況ですが、上述の問題となる海域の表層約1mの層で塩分が低下傾向にあり、そのことによる成層構造が形成されつつあります。これは昨年と同じ現象がほぼ同じ時期に発生しつつあることを示しています。この低塩分水は、筑後川からの河川水の流入によるもので、まだ、分析していませんが、その河川水の中に栄養塩がかなり高濃度の入っている可能性があります。昨年はそうでした。通常の10倍ぐらいの濃度の栄養塩濃度を観測しました。これは、筑後川流域の陸域から入っているもので、おそらく稲刈りに伴う水田の水落の効果ではないかと思っています。現在、筑後川の下流の栄養塩濃度も週に2回は採取して、測定しています。この2週間くらいがきわめて問題となる期間です。昨年は、ここからさらに低塩分の層が発達し、11月中旬には厚さが約3〜5mの深さに達して、そこでGymnodiumの赤潮が発生して、表層の栄養塩を消費し尽くしてしまいました。(現在、この部分の論文を執筆中で、今年内には日本海洋学会誌の海の研究に投稿するよていです。)これが昨年のノリの漁期の色落ちの原因です。第三者委員会の最終報告書にあるように、少雨傾向による河川からの栄養塩の流入量が少なく、そこでノリ養殖を開始したために栄養塩不足でノリが色落ちしたわけではありせん。成層構造を起きていたために、そこに栄養塩が集中して赤潮が発生し、栄養塩が消費し尽くされしまったのです。

一昨年、ノリの大豊作の年は、10月に有明海沿岸域で約200mm程度の大雨が降りました。そこのことによって大量の栄養塩が稲刈りの時期とも重なって有明海へ流入したと考えられます。また、その後、珪藻赤潮が有明海全域で発生しました。しかしながら、それだけの雨が降ると、有明海奧部で密度流が発生するので、表層の薄められた海水は島原半島沿いに外へ排出される速度が高まったようです。そのため、2週間ほどで赤潮は有明海から完全に消滅して、ノリ養殖には大きな影響を与えませんでした。でも、今から大雨が降ってくれても時すでに遅しです。約1ヶ月以内に赤潮が必ず発生しますが、つまり11月旬頃から赤潮が拡大するとノリ養殖の相当な打撃を与えることが予想されます。一方、今年の秋も昨年同様に少雨傾向が続いていますが、これがこのまま続くと、今の有明海奧部では成層構造が発達し、そこで規模の大きな赤潮に発展する可能性があります。

現在、このまま低塩分の層が発達するのか、きわめて警戒する必要があります。当方の次回の調査は11月1日に予定しています。もし、昨年と同様な現象が起きていれば、その時は報道機関を通じて情報を流すことにします。これは余計な事ですが、このような精度の海洋観測調査は、有明海4県の水産研究機関では困難です。それは昨年の調査結果の精度が物語っています。残念ですが。

昨年は、減少した栄養塩濃度を回復させるために、12月中旬に、確か、佐賀県と福岡県の漁連が、筑後川上流の松原ダムの緊急放水を依頼し、行われたと記憶しています。ところが、その時にはまだ成層構造が完全には解消していませんでした。そのため、成層した表層に栄養塩を供給してしまって、火に油を注いだかたちとなったはずです。残念ながら、当方の体制では悪天候のために1月には調査に出れなかったので、その後のデータが取れていませんが、珪藻赤潮が発達して、ノリの色落ちがさらに進行したのは事実です。(常識では、12月になって海水の成層構造があるとは思ってもみないでしょうから、いかしかたのないことだと思います。ダムの水を緊急放水することを依頼する方が常識的な判断だと私も思います。それくらい現在の有明海の奧部海域は非常識な状態にあると、頭を切り換える必要があります。)

したがって、もし、11月に有明海奧部海域で表層の低塩分化による成層構造が発達したら、昨年のようなことはして欲しくないのです。成層が崩れるまで、がまんくらべをするしかありません。それが崩れた後に有明海へ栄養塩を入れれば、それはノリに回ります。これから1ヶ月がきわめて警戒を要する期間です。
正確に現象把握し、因果関係を明らかにしするしかないのが歯がゆい
【その2】  >2003年11月4日
*11月1日の調査結果
10月1日、15日、11月1日と有明海の調査を行ってきました。
10月1日には全域で海水の鉛直混合が起きていて、赤潮もまったく見られませんでした。ところが、10月15日には有明海奧部海域中央部から佐賀県太良町沖の海域(北緯33度03分00秒、東経130度17分30秒〜北緯33度02分15秒、東経130度15分15秒)にかけて赤潮(Gymnodinium sanguineumを中心としたもの)が表層約1mで見られました。

11月1日には、さらに拡大して、南北方向に北緯33度05分00秒、東経130度16 分45秒〜北緯33度01分00秒、東経130度18分15秒(約6km)、東西方向に北緯33度03分45秒、東経130度19分45秒〜北緯33度02分15秒、東経130度15分15秒(約6km)に及んでいました。赤潮の東側では、すでに一部で福岡県側のノリ漁場にかかってきていると思われます。また、佐賀県側のノリ漁場でも、そのすぐ沖合に赤潮が迫っています。赤潮は、11月1日には、水面下2〜3mの層に約1mの厚さで存在していました。このような赤潮の場合、佐賀県や福岡県の水試の現状の調査方法では、測定することは不可能と考えられます。1つはGymnodinium sanguineumという小型の渦鞭毛藻類による赤潮では、プランクトン沈殿量という動物プランクトンの調査方法では、捕捉することができないこと、調査の層が0m、5m、海底直上1mの3つの層の調査では、その調査される層の間に赤潮が分布していて、調査にかからない可能性が大きいことによるものです。

このような赤潮を捉えるためには、我々の研究グループが用いているクロロフィルセンサーの付いた多項目水質計を使って、水深1mごとの鉛直プロファイルを測定しなければなりません。
これから昨年のようにこの問題となる海域でさらに表層に筑後川から流入する淡水によって薄められた低塩分層が発達してくると、この表層でさらに赤潮が発達して、栄養塩を消費し、栄養塩濃度を低下させる可能性があります。現状では、昨年とまったく同じような現象が起きつつあります。

ここで何をなすべきか? 残念ながら名案はありません。私としては、正確に現象を把握して、その因果関係を明らかにしていくことしかできないのが歯がゆいのですが、一つだけ強調させていただきたいのは、昨年は12月に佐賀県漁連や福岡県漁連の要請で、筑後川上流の松原ダムの緊急放水が行われたと記憶しています。しかしながら、このときにはまだ有明海奧部海域の表層に低塩分の成層構造が残っていました。そこへ筑後川から高濃度の栄養塩を含んだ水を流し込んでしまうと、さらに赤潮に拍車をかけてしまいます。冬季になれば海の表層は冷やされて重くなり、そのうちに成層構造は崩れます。(本来は、10月頃には崩れていないといけないのですが。海洋学の教科書にはそのように書かれています)それを待って、海へ高濃度の栄養塩を流し込めば、それはノリに使われる分が多くなります。しばらくがまん比べをするしかありません。赤潮がこれ以上大きくならないのを祈るばかりです。

次回の調査は11月12日を予定しています。また、海水の栄養塩濃度の分析やクロロフィル量の分析を急いでいます。何かわかりましたら、お知らせ致します。

P.S. 11月10日に第6回有明海・八代海総合調査評価委員会で、これまでの調査結果を報告します。いかに赤潮発生と諫早湾干拓事業が関係しているか、農水省や水試の調査結果に問題があるのかについて、説明してきます。

最近、4県水試の浅海定点調査の過去の調査結果を入手する事ができて、それと当方の調査結果を比較しているのですが、近い調査地点の結果でもかなりの違いがみられることがわかってきました。特に、赤潮の発生に関係が深い表層の調査結果が大きく違います。どうしてこんなことになっているのか? 原因を解析中です。(当方の調査結果のような成層構造や栄養塩濃度の表層と底層の差が、水試の調査結果には見られません)

今求められているのは開門し、締め切る前の状態に戻して調査し直すこと

【その3】  >2003年12月2日
*中、長期開門調査検討会議専門委員会について
たぶんに予想されたことではありますが、農水省の国営諫早湾干拓事業中、長期開門調査検討会議専門委員会の報告書案は、そのように思いたいという報告書です。

報告書案を読みましたが、特に、〈5〉赤潮・プランクトンの項目で、ノリ不作等第三者委員会の見解で、1997年の締め切り以後、。。。。福岡、佐賀両県では締め切り前後の発生件数に有意さはない」とされ、というところがあります。赤潮の発生に関しては、規模も問題で、発生件数だけで評価することはできません。大規模な赤潮が発生していれば、その間ずっと赤潮なのですから、件数としては1件です。その意味で、赤潮発生規模指数(最大面積x継続日数)を計算すると、明らかに1998年以降、佐賀県および福岡県沖合の有明海奧部海域で、大規模な赤潮が著しく長く発生しているという結果が出ています。

これは、水産庁の九州漁業調整事務所の「九州海域の赤潮」のデータにもとづく計算です。日本海洋学会誌、海の研究、2002年5月号の私の論文に掲載しています。そのことは、10月3日にこの委員会に招聘されてデータを挙げて示したはずですが。(この時の発言の議事録がホームページで公開されているはずです。)そもそも、ノリ不作等第三者委員会の見解がおかしいのです。また、このノリ不作等第三者委員会の最終報告書に書かれている2001年、2002年の赤潮の発生に関する記述にも誤りがあります。つまり、この委員会は赤潮の発生に関して、情報を正確に掴んでいないのです。

さらに、掘り下げると、この委員会の見解のもとになっている有明海沿岸4県の水産関係の研究機関が行っている浅海定線調査の調査結果自体に大きな問題点があることがわかりました。少なくとも、有明海奧部海域で2002年に発生した2回(7月、10月から12月)の大規模な赤潮の発生時の海水表面の水温、塩分の値が、当方の調査結果と著しく異なります。赤潮発生は、有明海奧部海域の表層水が低塩分化した時に、その表層で赤潮が発生しましたが、このような表層の低塩分化が浅海定線調査ではデータに現れていません。多少、調査日時や潮時は異なりますが。塩分が5〜10psuも異なります。(5m、海底直上1mの値はほぼ同じです。)そのようなデータをもとにした見解など、信頼することはできません。そのため、2002年度は1月半ばまで(つまり2003年1月半ばまで)目立った赤潮は発生しておらずということが、ノリ不作等第三者委員会の最終報告書に述べられています(ホームページで公開されています)。実際には、2002年10月〜12月に有明海奧部海域で、少なくとも長さ20キロ、幅10キロ以上に及ぶ赤潮が発生し、それが表層の栄養塩を消費して、12月までには枯渇させていました。このことは、12月13日の当方での沿環連のシンポジウムで発表致しますが、なんと、その日に長期開門調査検討会議専門委員会が開催されるので、困ったものです。届かないですね。

そもそも浅海定線調査の結果には非常に大きな疑問があります。赤潮を調査すべくプランクトン沈殿量などという聞いたこともなかった調査項目がありますが、海水表面から海底まで、ほとんどの調査において、同じ値が連ねられています。表層と15mの海底で、プランクトン量が同じ訳ありません。これはプランクトン、特に植物プランクトンの量を反映したものではありません。(我々は、各調査地点で、クロロフィルの量を海水から抽出して実測します。また、クロロフィルセンサーを使って、水深10mまでは1mごと、それ以深は2mおきに、クロロフィル量を測定して、赤潮プランクトンの鉛直分布を精密に測定しています。通常、植物プランクトンは光合成を行うので、表層4〜
5mまでで高い値がみられます。)栄養塩濃度も表層で海底直上で大きな差が見られません。なにせ、浅海定線調査の結果は、つねに有明海奧部海域では海水が鉛直混合をして、成層構造などが発達する海ではないことを示しています。

我々の調査結果の方がはるかに調査精度が高いので、これは否定されます。いままで、誰も浅海定線調査の結果の調査精度を検証してこなかったのです。したがって、この調査結果を用いたシュミレーションなどはまったく意味がないし、有明海での調査そのものを、我々が行っているような調査デザインにして、振り出しに戻って調査し直す必要があります。

中、長期開門調査検討会議専門委員会で、現場観測ではなかなか的を得た調査 結果が得られず、「潮受け堤防がある場合とない場合について有明海の水質をコンピュータによって計算し、浅海定線調査や公共水質測定の観測データとあわせて、潮受け堤防の影響を検討している」と、ありますが、浅海定線調査や公共水質測定の観測データが、有明海の現状を的確に示しているデータではない可能性が高いので、そのようなデータを依存したコンピュータによる計算などというものが、どれだけの意味を持っているのか?私はほとんど無意味なものであると思います。ーーーコンピュータシュミレーションを行う物理屋さんは、自分ではまったく現場調査の経験がないので、データの質を自分で判断することができません。したがって、浅海定線調査や公共水質測定の観測データがどれだけの意味をもったものかは知るよしもありません。ただ、その数値を使って計算しただけです。でも、観測データは、取り方によってどのようにでもなります。成層構造を起こしていても、起こしていないような結果を出すことも可能なのです。

今求められているのは正確な現場調査であり、開門して少しでも堤防を締め切る前の状態に戻して調査をやり直す必要があります。そうすれば、どれだけ赤潮が発生してノリ養殖に影響を与えている有明海奧部海域の潮流や海洋構造に、潮受け堤防の存在が影響を与えているか、明らかになります。その事が怖いので、中、長期開門調査検討会議専門委員会は開門調査をしたくないための屁理屈を述べたいのだと思います。

中、長期開門調査検討会議専門委員会と直接対決して、思いっきり論議してみたいですね。私が東先生と一緒にこの委員会に招聘されたときには、持ち時間わずか20分で、この委員会の研究者の専門委員はだれも出席していませんでした。
戦う場所が欲しい!

「経塚論文」に衝撃。自らの発想転換へ
【その4】   >2004年7月16日
*7月15日の有明海調査結果
昨日、7月15日に有明海の水質調査を行いました。梅雨の雨で、大量の淡水が奥部海域の河口から流入したため、水面下5〜8m付近に相当に明瞭な塩分躍層が形成されていて、さらに表面と海底の水温差も4度ぐらいになっていますので、成層構造が発達しています。躍層の下では、DOが4 ml/Lを下回り、3 ml/Lに近い値のところもあります。今度の大潮は潮位差が少ない大潮で、さらに25日頃には小潮がきます。このあたりで、相当にDOが低下することが予測されます。このままでは、台風でもこないかぎり、3年ぶりに奥部海域で大規模な貧酸素化現象が発生しそうです。そこで、私の研究室でも、28日水曜日には、海が荒れなければ水質調査を予定しています。

赤潮も大牟田市および荒尾市の沖合で、発生し始めているようです。いまのところ、珪藻類のSkeletonemaのようです。成層化した表層にはたっぷり栄養塩が入っている可能性があるので、どこまで赤潮の規模が拡大するか、こちらの方も追跡してみます。

ところで、経塚先生の最新の論文(海の研究)は、大きなショック、刺激、ヒントをいただきました。私も海の研究に投稿すべく、2002年度の水質データを使って論文を書いているところで、ちょうど考察の中盤にさしかかっていました。そこで、論文を拝見し、考察の大規模な赤潮を誘発する物理的な海洋構造の変化に関する部分を、根本的に見直すことが必要となりました。この1週間ほど、随分悩みましたが、そこで私もこの話に乗って、諫早湾潮受け堤防の締めきりは、有明海の潮汐振幅の減少に寄与していなかった!という基盤に立って、ではなぜ秋季〜初冬にかけての赤潮発生規模が1998年以降何倍にも大きくなったのか?ということを説明する考察を始めました。そこで、大胆にも、そもそも1980年以降、有明海で観測されたM2分潮の潮汐振幅の5cm程度の減少は、有明海奥部海域における大規模な赤潮発生とは、直接的な因果関係はなく、諫早湾潮受け堤防の締めきりに係わる別の理由に原因があるという説を、現場での水質観測結果をもとに提唱することを考えています。よーく考えてみると、ノリの漁期と重なる10月〜12月の赤潮は1998年から急に大規模化している(赤潮の記録でもそうなっていますし、漁民の方の経験としても合致していると思います)のですが、この前後2年間、つまり1996年〜2000年でのM2分潮の潮汐振幅の減少は1cmくらいしかありません。これで、赤潮の規模が何倍も変化するでしょうか?また、武岡先生が指摘された月の軌道の昇降点による18.6年周期の変動fの潮汐振幅への影響についても、最近では1998年が影響のピークとなっているので、その影響がピークの時に大規模な赤潮が発生し始めたということになり、これも赤潮発生には無関係と判断されるのではないでしょうか?

これまで潮汐振幅の減少過程と赤潮発生過程を照合してこなかったというところに、1つの盲点があったように思うのですが。24日、25日には、島原で合宿がありますので、そこでいろいろご意見・ご批評を伺わせて頂きたいと思っています。

赤潮の記録、98年以佐賀沖から広範囲に広がる
【その5】   >2004年8月3日
*過去の大規模赤潮の記録
5月の公害調停委員会での証人尋問の資料にも使いました、水産庁がまとめた過去の赤潮の記録の中から、有明海奥部海域(佐賀県、福岡県、熊本県北部)を中心に発生した最大面積50km2以上の赤潮について、再度詳細をチェックしてまとめなおしたものを添付書類にしました。資料は1981年からの九州海域の赤潮(水産庁九州漁業調整事務所)を元にしています。1980年代は、ほとんどまともな赤潮が記録されていないこと、1997年までは佐賀県の記録がほとんどなのが、それ以降は、福岡県、熊本県の北部からさらに熊本市や天草郡大矢野町の沖合まで赤潮の分布が広がっていることがわかります。

国側準備書面、レベルの低さにやりきれぬ思い
【その6】   >2004年9月30日
*国側準備書面11貧酸素と赤潮に対する反論

国側準備書面11貧酸素と赤潮に対する反論を宿題として頂いていましたので、お送りします。
それにしても、まともな論議ではないですね。これで国民を納得させることができると思っているのでしょうか?

しかしながら、過去のデータが本当につかいものにならないものばかりで、浅海定線調査がもう少し真実を伝えてくれていればと思うのですが。もう一度、せめて4月〜12月まで、開門調査が行われれば、データの取りようもあるのですが。

9月25日、松山の愛媛大学で開催された日本プランクトン学会・ベントス学会合同大会で、つぎのような講演がありました。
「潮受堤防締切前後における諫早湾の底生生物と生育環境」=中野拓治・塩福輝雄(農林水産省)・藤井暁彦((財)九州環境管理協会)
農林水産省の中野さんは、5月の公害調停委員会で私の証人尋問に農水省側から尋問した方です。
潮受け堤防締め切り後も、諫早湾の底生生物の豊富さも底質も変化ないという調査結果を示されていましたが、今度は私が質問のお返しをさせて頂きました。
1. 底生生物の豊富さを密度でしか示しておらず、密度は締めきり以後むしろ増加したということでしたが、優占種の構成として短命な種の密度が増えたという記述がありました。密度は増えても、湿重量などのバイオマスは環境が貧酸素化現象などで不安定化すると極端に減少します。つまり、雑草ばかり生えた草地と、大木が茂る森林では、どちらが植物の密度が多く、どちらが生物のバイオマスが多いか?ということです。要するに、森林が草地になってしまったのでは?ということです。バイオマスのデータはこのようなアセスにはかかせません。それを密度だけで生物が豊富になったと言わんばかりでしたが、これは明らかに誤りです。

2. 諫早湾の底質も締め切り以後、変化ないということでしたが、AVS(硫化物量)のデータについて、どの層のデータがを問いました。すると、採泥器で採集した深さ15cmまでの底質のAVSという説明で、会場からため息がでました。汚泥が堆積して貧酸素化現象が発生すると、バクテリアの作用で硫化物が底質で生産され、これが底生生物にとって呼吸毒となって生物が棲息できなくなります。それが変化ないということでしたが、水質環境の変化とAVSの値の対応を取るためには、表層1cmを取って、そのなかの底質のAVSのデータを調べるのが一般的な方法です。15cmまで取ってしまうと、おそらく数十年前の堆積物中のAVSを調べていることになります。そのような底質と表層の底質をかきまぜれば、数十年分の堆積物のAVSの平均値をしらべることになり、変化が起きていても、見いだせるわけありません。底質のデータが示されたときには、それがどの層の値かを確認する必要があります。

こんな調査を税金を使って行い、専門家のような顔をして説明し、異常ないと報告する。
日本の科学のレベルはこんなものなのでしょうか! 農林水産省の職員になるためには、相当な勉強と努力をされて今日が皆さんおありと思うのですが、その果てが公の場でこのような人を欺くような科学論議をされるというのは、いったいなんのためにこれまで勉強されてきたのでしょうか? 勉強するということは、私にとってはもっと神聖な行為なのですが。勉強して世の中のために尽くすという基本が高級官僚にできていないという現実を垣間見て、やりきれない気持ちになりました。

「有明海再生機構」構想、研究者会議のメンバーだが聞いていない!
【その7】   >2004年10月4日
*有明海の異変 産学官で究明「宝の海」再生へNPO発足???

  • 赤潮の発生などで漁獲量が減少している有明海の異変の原因を究明し、再生策を提言する民間非営利団体(NPO)「有明海再生機構」が来年4月、佐賀県で発足する。関係者が30日、明らかにした。自治体、研究者、民間企業が一体となり有明海を継続して総合的に研究する組織は初めて。中心となる佐賀県は、福岡や長崎など沿岸各県に協力を要請し、県境を超えた有明海研究の中核組織にしたい考え
    だ。
  • 機構の最高顧問には、水に関する国際シンクタンク「世界水会議」(事務局・フランス)のウィリアム・コスグローブ会長が、理事長には、九州大大学院の楠田哲也教授(環境工学)がそれぞれ就く予定。機構には楠田教授が代表を務める「有明海・八代海研究者会議」(約50人)のメンバーが多数参加するとみられる。
という報道に対し―
私も、有明海・八代海研究者会議の理事をしていますが、理事会でそのような正式は話は聞いたことありませんが?第一、この会議が有明海の問題でまともに機能しているとは思えません。いろいろ会議する前に、研究者はもっと現場へ行って調査をすべきです。調査もせずにあれこれ論議をしている人があまりにも多すぎます。

10.7から1ヵ月たって赤潮増殖の恐れ、厳重な警戒を!
【その8】   >2004年11月8日
*11月6日、有明海奥部海域赤潮発生情報
ここのところ、台風の影響もあって、なかなか有明海の水質調査に出ることができませんでした。
11月6日に有明海奥部海域で水質調査を行ったところ、奥部海域中央部から東側の佐賀県、福岡県、熊本県北部の海域で、赤潮が観測されました。分布域は主に沖合にあり、佐賀県東部のノリ養殖漁場はすでに、一部の海域が発生域に入っています。

定期観測調査地点Stn Bの表層では、クロロフィルa濃度が28.7μg/Lに達し、検鏡では水面下約2m層の海水中から渦鞭毛藻類Akashiwo sanguinea 306 細胞 /ml、珪藻類Skeletonema costatum 1124細胞/mlを確認しました。

10月7日の観測では、奥部海域で表層の塩分が低下し、栄養塩濃度が急激に上昇し、赤潮発生前状態となっていた。約1カ月後の11月6日においても、表層の塩分の低下傾向は続いており、水面下約5mに塩分躍層が見られます。この躍層の上方にある表層水で赤潮プランクトンが増殖しつつあります。これから1週間は晴天の日が続くため、さらに赤潮プランクトンが増殖する可能性があります。厳重な警戒が必要です。早く、この成層構造が崩れてくれると、赤潮プランクトンの増殖を止めることができるのですが。

今回の赤潮の注意点:11月6日の時点では、赤潮プランクトンの濃度のピークが、水面下約2〜3mに認められました。そのため、海水表面の色では、赤潮が発生していないように見えますが、実際にはその下の層で増殖している海域があります。そのような海域では、船のスクリューで海水をかき混ぜると、下層の海水が捲き上がって、赤茶色の植物プランクトンの増殖した海水が表面に上がってきます。

ホームページにもう少し詳しい水質結果を掲載しています。

11.11の赤潮、12月に入れば海面冷却でおさまりそう
【その9】   >2004年11月11日
*有明海の赤潮発生
昨日、熊本では、熊本県民テレビの夕方のニュースのトップで、赤潮発生が報 じられました。熊本県の海域では、荒尾市から南方へ赤潮の発生域が延びています。すでに一部で養殖ノリが色落ちをしているところがあります。

状況は2002年の場合と酷似しています。ただ、幸いにも台風シーズンが1ヵ月ほど長く、その分海が安定する期間が短くなっています。よほどの暖冬が来ないかぎり、12月下旬には海面が冷気に冷やされて、海面冷却による海水の鉛直混合が始まります。それまでに、表層から栄養塩が赤潮プランクトンによって奪われなければいいのですが。そう願っています。

当方の次回の調査は、天候に問題がなければ17日か、18日に行います。速報は、調査から2日後ぐらいには、ホームページに掲載します。

総合評価委小委で論文“格付”で評価分かれる……
【その10】   >2004年11月15日
*≪環っ波≫から、以下のような連絡をする―
□堤先生
東京・広瀬です。
実は、面白いやりとりに遭遇しましたのでご連絡する次第です。

本日、13:30〜15:15くらいまで、「有明海・八代海総合調査評価委員会」の小委員会(委員長=荒牧軍治・佐賀大学教授)があり、主たる議題は各委員が分坦して作業を進めて来た「16年度版文献概要リスト」の了承で、要はH15年4月〜16年6月までに発表された研究論文、各種報告書を収集・分類・判定基準付けでした。

つまらない会議を傍聴しちゃったなと思った矢先に、議論は面白い方向に………。

その前に、同じ姓だけど仲悪いのでは? と思ったのですが、「堤泰博(熊本県水産研究センター所長)」というひとが、自分の担当(割り振りが委員の地縁でやったそうです)のと、ほとんど同じ内容の論文があったけど、片や「1」に、片や「4」になっている。

その理由は、いろいろマンガンの毒性やら自分で調べたけど、そうひどいものはないらしいし、第一、有明海には何万年前から川の水は流れていて、それでも60万トン以上のアサリが取れたときもあった。なのに、いになってどうしてマンガン説を持ち出すのか? 科学的に証明する説明がほとんどなされていない………という感じで、鹿児島水産技術開発センターの古賀吾一氏は佐々木論文を「1」にしているが、自分は堤論文を「4」にした、と発言。

ご存知と思いますが、ここでいう「1」とは【最も参考になるもの】であり、「4」とは、「1」および【1についで参考になるもの=2】や【その他参考になるもの=3】に該当しないもの、即ち【参考にならないもの】をいいます。

隣りに陣内氏もいた(したがって、彼をそそのかしてメールに流すようにいいましたが)のですが、ここにも縮図があるように思えてなりませんでした。
荒牧さんは「堤先生がマンガン説を説いていることは知っています」と毒にも薬にもならないような発言をしていましたが、堤さんと佐々木さんの「マンガン説論文」がこの場で取上げられるのは単なる偶然ではないなと思った次第です。というのは、他に単独で話題になったのは熊大・逸見泰久氏の「タイラギ」(ちなみに考察であって論文じゃない。ゆえに「4」)と、長崎水産大の山口敦子氏の「ナルトエビ」(1)でしたから。
―という報告に対し

研究者より現場の漁業者の方が理解してくれるという事実
*質問に答えて。
そんな論文の格付けがなされていたのですか。
反対に、評価する人たちの学術レベルの格付けをさせて頂きたいものです。マンガン説の関係では、1月に月刊海洋にアサリの話が掲載されます。また、応用生態工学会誌にも、レビューが掲載されます。なんで、聞きかじりの情報をつかうのかが理解できませんが、河川での砂の採取量のことを全然理解されていないようです。ほとんど取り尽くされているのに。そのために、マンガンだけが堆積して、濃度が上がってしまったのですが。

熊本の水産研究センターの方々と最初は緑川で調査をしていて、彼らはこの問題から目をそらしてしまいました。一方、地元の漁協の現在の組合長は、私の話をよく理解してくれて、覆砂が緑川河口干潟でいかに有効かという理屈がわかった上で、覆砂を独自の予算で行い、基質中のマンガン濃度を下げて、劇的なアサリ漁獲量の回復に成功しました。昨年度は、2000トンを超える水揚げで、6億以上の売り上げとなり、多くの漁師の方が笑顔の絶えない漁をされていました。といういことで、この話を持ち出しても、水研センターの手柄にならないので、結構反応が冷たいようです。

今、動ける研究者に必要なのは現場に立つという基本に返ることでは
【その11】   >2004年11月16日
*有明海・八代海総合調査評価委員会小委員会での文献の検討について
有明海・八代海総合調査評価委員会小委員会(第5回)での文献の検討で、私 のアサリの研究論文(おそらく、Benthos Researchに昨年掲載したものだと思いますが)に対する評価が、大きく分かれているようですね。私の研究結果というのは、往々にしてこのような評価が下されます。これまでにも何度も経験したことです。レベルの高い国際学術雑誌でも、同じ原稿に対して、レフリー が3人、4人と評価して、非常に高く評価するとするレフリーと、意味がないから掲載不受理を下すレフリーがいて、評価が真っ二つに分かれてしまったことが何度もあります。こんな時に、仕切る編集責任者は大変だと思います。

アサリの研究に対して、「1」の評価を下して、「よくわからないが、一つ貴重な知見であることは事実」と言って頂けたのはあり難いことです。わたしもこの件に関してまだよくわからない部分が多く残されていると思っています。だからこそ、研究しなければならないことですし、学問的な興味も楚々そられることなのです。何か未知のことがあるのではないかという臭いが強くします。

いずれにしても、論文を見て頂ければわかるように、マンガンが1000ppmを超えた基質の干潟では、アサリを含めた底生生物群集の生息量が極端に低下しています。

でも、マンガンが高濃度に堆積した干潟は、熊本市の緑川河口干潟(2200ha)と荒尾市の干潟(1600ha)しか確認していません(ただ、この2つの干潟だけでも、1970年代は合わせて年間4万トンを超えるアサリの漁獲があったわけで、この量は当時の全国のアサリ漁獲量の約1/4をまかない、現在の全国におけるアサリ漁獲量に匹敵する量です)。その中間にある菊池川河口干潟(800ha)は、上流部に広大な花崗岩地帯があり、その風化によって砂の供給量が多く、マンガンの濃度は低く保たれています。また、天草地方の本渡市、瀬戸干潟、八代海に面する八代市金剛干潟でも、高濃度のマンガンの堆積は認められていません。しかしながら、これらの干潟でもアサリの漁獲量の激減は起きています。それぞれに、異なる原因があるようです。菊池川河口干潟は、成貝が繁殖しても幼生が干潟にほとんど回帰してきません。沖合の潮流に1982〜83年頃に、何か大きな変化があったのではないか?と考えられます。

85年頃から漁獲量が激減しました。本渡市瀬戸干潟では、基質に含まれる泥分が極端に少なく、0.5%程度しかありません。そのため、アサリの餌となる水中に再懸濁した有機物がきわめて少ない状況にあります。この干潟の場合、周囲の護岸工事などで、本来は亀川という川の河口干潟として存在してきたものが、機能しなくなっているようです。そのため、泥分の供給が途絶え、きれいすぎる干潟になってしまったようです。他の干潟と違って、イボキサゴという巻貝が大量に生息するようになっています。この種であれば、砂粒の表面に繁茂する珪藻類を自力で巻き上げて摂食することが可能です。いつの間にか、イボキサゴの浜にかわってしまったようです。同じような現象を、東京湾の木更津の干潟でも見つけました。アサリの漁場でイボキサゴが増えています。泥分も本渡市瀬戸干潟と同じレベルにあります。

アサリの研究に関しては、いろいろ諸説入り乱れているので、私なりのレビューをすでに書き上げています。月刊海洋の1月号と、日本応用生態工学会誌(来年前半)に掲載される予定です。

有明海の赤潮の問題も同じ事なのですが、やはり頻繁に現場に出かけて、自分の五感で感じて、調査を続けなければ、現場で何が起きているのか見いだすことはできません。また、海を生活の場としている漁師の方々からの情報もきわめて重要です。有明海に係わる他の研究者や研究機関の研究結果を聞いていると、どうもこのような基本的な事が低く扱われている気がしてなりません。何とか委員会とか協議会とか研究会とか、はたまたNPO法人まで組織されたりしていますが、どれだけの研究者が本当に自分で調査しているのか? はなはだ疑問です。

有明海では、陸からの栄養塩負荷量が増加していないのに大規模な赤潮が起きるとか、湾の最奥部の水深わずか10〜15mの浅海部で貧酸素化現象が起きるとか、この20年余りの間に何千年もの間高密度に生息していたであろう二枚貝類が激減するとか、いままでに経験したことのない現象が数多く発生しています。現場での調査の実体験のない方が、過去の研究例や調査結果(過去の経験)を持ち出して、これらの問題を解明したり、評価することは不可能ではないかと思います。

今、体を動かせることができる研究者にとってもっとも必要なことは、現場で自らの力で調査すること、その基本に立ち返ることとだと思います。

11.17現在、秋の赤潮被害は回避できそう
【その12】  >2004年11月17日
*有明海奥部海域赤潮発生情報
先ほど、有明海の水質調査から帰ってきました。

17日現在で、有明海で発生していた赤潮は、一部の海域(熊本市沖、佐賀県西部の海域)を除いて、ほぼ消滅しています。また、全域で、海水の鉛直混合が発生し、表層から海底までの塩分差が非常に小さくなり、成層構造も解消されています。現在、赤潮が発生している海域でも、成層構造が解消しているので、赤潮状態がこのまま長く継続するとは考えられません。

12月末になれば、平年の気象条件であれば冬季の冷気によって表層水が冷却され、さらに海水の鉛直混合が促進されます。あと1カ月間の間に2000年の時のような約200mmにのぼるような降雨がなければ、今度の冬季に大規模な赤潮が発生することはまずないと考えられます。ちなみに、11月の大雨は、1990年以降では2000年の一度しか発生していません。

一つの不安材料は、外海水の水温がまだ高いことです。有明海へ外海から侵入する海水の水温が、まだ20度を超えています。表層水が冷却されていますが(本日の調査はかなり寒く感じました!)、底層へ外海の暖かい海水が侵入し、その底層水と鉛直混合しているので、表層水の水温もなかなか低下しません。

とりあえず、秋の赤潮被害は回避できそうです。次のポイントは、水温です。
そこで、当方のホームページの速報にも、水温の項目を追加することにします。

来週の月曜日までは、ホームページを更新する予定です。

“虚構の有明海”作りに現場知らない研究者加担?
【その13】  >2004年12月8日
*有明・八代海総合調査委 05年末に中間報告
□有明海と八代海の再生策を探る環境省の「有明海・八代海総合調査評価委員会」の第十二回会合が六日、東京・霞が関の同省であり、両海の現状評価や問題点をまとめた中間報告を、二〇〇五(平成十七)年十二月ごろまでに作成することを決めた。再生策を盛り込んだ最終報告は〇六年秋の見込み。

 委員十五人が出席。事務局の環境省が今後のスケジュールを説明した。この日は、両海の水質や底質の変化などの問題点について、委員による議論もスタート。
九州大大学院農学研究院の本城凡夫教授が、赤潮の発生域や仕組みを報告した。
 
委員らが「二〇〇〇年の赤潮の長期化の原因は何か」「赤潮が経年的に見て大規模、長期化しているのではないか」と質問。本城教授は「おそらく高照度、高塩分が原因」「潮流の低下などが助長しているのではないか」との見方を示した。
 次回以降も貧酸素水塊など、個別のテーマについて議論を続ける。
以上の報道に対し―
本城先生は確かに長年赤潮の研究をされてきて、その道のプロであると尊敬していますが、有明海の赤潮発生機構に関しては、理解不能のことを話し続けられていると思います。高照度、高塩分は全く関係ないし、それを支持するデータはないどころか、低塩分化した表層で赤潮は発生しています。本城先生の前で、何度もそのデータを示して発表しているのですが、彼はこの説明に関心がないようです。一方、彼の研究室で行っている現場調査は、とても精度が粗く、環境調査になっていません。どうして、もっと精度の高い調査結果に耳を傾けてくれないのか?と思う次第です。ちなみに、西海区水産研究所も同様な反応が感じられます。浅海定線調査の結果では、私の研究室の調査結果が示すような成層構造の形成が観測されていません。そのため、当方の調査結果に同意したくないのでしょうか?と、疑いたくなります。でも、調査の精度は当方の方がはるかに高いという現実をどのように考えているのでしょうか?これも理解できません。今の時代に、プランクトン沈殿量というわけのわからない指標で、植物プランクトンの増殖や赤潮発生を観測しようというのですから。

貧酸素水塊の発生も、赤潮の発生も、成層構造形成の裏と表の関係にあり、表層の塩分が低下して成層構造が形成されたら表層では赤潮、夏場の底層では貧酸素水塊の発生が見られる。それでは、なぜ、成層構造が発達するようになったか、その理由を探すべきなのですが。

また、そこで、九大の柳先生が、有明海では以前の方が成層構造が発達しやすかったなどという訳のわからない論文を発表してます。これも浅海定線調査の結果を使って導き出された結果です。

どうも水産関係の研究機関は、虚構の有明海を作り上げようとしていて、それに現場を知らない研究者も巻き込まれているという感じがします。

台風崩れの大雨降っても成層構造形成され心配
【その14】  >2004年12月8日
*有明海の海況について
有明海奥部海域は、HPでお伝えしているように11月17日の調査の段階では、栄養塩濃度はノリ養殖漁業には適した濃度に保たれ、海水の鉛直混合も起き、このまま水温が低下していけば良好な条件が形成されると考えられる状況にありました。栄養塩が低下していていません。ただ、まだ一部に、特に熊本市沖には赤潮が残っていました。それもそのうち消滅すると考えていました。

ところが、3日に台風崩れの低気圧が1日で70〜95mmの雨を有明海沿岸に降らせました。12月としてはめったに起きない雨量です。今の有明海は一旦このような大雨が降ると、河川から流入した淡水がなかなか外の水と交換されないで、鉛直方向にも混ざらないで、表層が低塩分化して成層構造が形成されます。当然、その表層には高い栄養塩濃度の淡水が混じっていますので、栄養塩濃度が上昇し、赤潮発生の可能性が出てきます。せっかく、衰えて解消するところまできていた赤潮が、この雨で復活し、その後の好天も手伝って勢いを盛り返してくるのではないか?と、心配しています。
明日、台風で延びていた調査を行うことができそうです。有明海を一回りしてきます。

いまや有明海の海況は、従来思考でなく頭切り換える必要
【その15】  >2004年12月9日
*12月9日、有明海水質調査
本日、12月9日、有明海水質調査を行いました。
赤潮が発生している海域は、熊本県玉名市の菊池川河口の沖合で、かなり海水が赤黒く変色しています。

福岡県大牟田市沖合から北側の沖合の海域全域でも赤潮が発生していますが、赤潮プランクトンの濃度はさほど高くありません。佐賀県や福岡県の筑後川を挟んだ有明海沿岸中央から東側の海苔養殖漁場にはかかっていないようです。

佐賀県の西側の海域では赤潮プランクトンの濃度が高くなっています。

赤潮プランクトンが濃く発生しているところほど、表層約5m前後の層の塩分 が、25〜30psuくらいに低下していました。その下に塩分躍層が形成されていて、その下層には塩分31〜33psuで、水温が17〜18度の外海から侵入した高塩分の暖水があります。

塩分の低下は、先日の台風崩れの低気圧のおかげで、1日に75〜95mmの季節はずれの大雨が降ったためと考えられます。このような雨は一過性のもので、しばらく雨がふらなければ、塩分成層が崩れて、赤潮は徐々に解消されるはずなのですが、それまでに赤潮プランクトンがこれ以上増殖しないことを願っています。

有明海の海況については、頭を切り換える必要を感じます。今までは、雨が降って海が多少荒れると、栄養塩が供給されてノリはよく育つという考えがありました。ところが、現状は違います。雨が降れば、河川からの淡水の流入量が増えて必ず表層の塩分が低下し、成層構造が発達して赤潮が発生します。今の有明海では、相当に強い風が吹かない限り、まとまった雨が降ればかならずその後に赤潮が付いてきます。

もうひとつ、水質で気になるのが、外洋から有明海の底層に侵入してくる海水の温度の高さです。未だに18度前後の水温があります。この底層水と海面冷却によって冷やされた表層水が鉛直混合すると、表層水は暖められてしまうので、結局水温が水塊全体でいつものようには冷えません。熊本県沖で表層水温が16度ぐらい、佐賀県沖でも14度ぐらいのところにあります。

有明海は、こんなに赤潮が簡単に起きる海だったとは、どうしても思えません。
早く寒くなれ!

有明海漁民・市民ネットワーク宛に批判の手紙
【その16】  >2004年12月21日付
*批判の手紙
有明海漁民・市民ネットワーク宛に以下のような批判の手紙が届く。残念ながら匿名。消印は熊本だそうだが、それ以上は分らない………。関係者によると、自然保護助成基金の助成によって作成した「諫早湾干拓と有明海異変」という解説パンフレットへの反論と考えられるという。 原文のまま紹介する。
有明海漁民・市民ネットワーク 様

貴会が、「諫早干拓を中止し、水門を開放しなければ有明海を再生しない」という主張については疑問があります。当然のことながら、その主張の全部が誤りだということを申し上げているのではありません。確かに、「貧酸素」、「赤潮」等についてもそうしたメカニズムで発生していることの理解は出来ますが、部分論が正解だからと言って、全体論におしなべることは疑問が残るのです。そして又下記の理由により、貴会の考え方には同調しかねる次第です。

1・有明海悪化の素因について
今漁期において、海苔養殖は不調です。理由としては、暖冬だからです。海水温が昨年と比較して1度以上高いのが事実です。そのことにより、海苔養殖の病気である「赤ぐされ病」などが蔓延した経緯があります。海水温の上昇については、諫早干拓という狭義だけではなく、世界的に見られる傾向であることは周知のことであります。京都議定書に批准しなかったアメリカや中国などを考えても、国家エゴが働き、この地球温暖化傾向は益々深刻な様相を呈しています。有明海の天草灘に珊瑚礁が出現したことや、ナルドヒエイなどの熱帯性生物が有明海を回遊していることは、こうした温暖化傾向による自然の歪であると解釈した方が自然と考えられます。

2・貴会について
パンフレット等で紹介されているように、貴会には、学識経験者や一般市民、漁民など様々な方々で構成されていると思います。しかし、疑問を感じることがあります。それは、それぞれの方々の利害関係が余りにもかけ離れている点です。有明海再生とは何でしょうか。漁民における有明海再生と、市民と学識者では異なると考えられるのです。漁民は漁獲高増加による生活の安定を望み、市民は環境保全を唱え、学識者は持論を臨床実験で証明せんがための所作ともとれます。これらの利害関係の異なる人々が、有明海の再生は、諫早干拓の開門にあると主張することは無理があると感じるのです。環境の悪化により確かに漁獲高の減少があります。反面、漁獲高の減少には、漁民の無計画な乱獲の事実もあります。又、環境を悪化させているのは、何も諫早干拓だけが原因ではありません。海流の流れを変えているのであれば、筑後大堰もそうであろうし、海水を汚濁しているのであれば、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分等からの生活排水の有明海の流れ込みもあるはずです。そうした事実を無視して、公共事業を有明海疲弊の元凶と指差していることは非常に安直である申し上げているのです。

3・有明海再生について
冒頭でも触れましたように、有明海再生とは何でしょうか。確かに、公共事業によりなぎ線が減少し、海に浄化作用がなくなったことも事実でしょう。しかし、有明海は、日本経済の成長と共に疲弊し、人間の利便性の対価として閉塞していったと言えます。私自身、諫早干拓を是認しようと思いません。しかし開門することはリスクが高いと考えております。開門をすることによる二次災害を懸念するからです。又、その事前準備及び諫早干拓事業工事凍結等による費用と歳月を考えた場合、他に選択肢がないかと考えるのです。恐らくは、開門することにより、そこに莫大な国費から捻出されるでしょう。開門のための調査費用、開門の為の工事費用、その影響被害の補償と考えた場合、それは我々の常識を超える数字となるかもしれません。裁判の結果については、それが正しい判決なのかどうかは分りませんが、悪戯に混迷の度合を深めたという印象です。出口の見えない論争を行うことより、有明海再生が旗印なのであれば、有明海保全の為の他の効果的な手段の選択肢があるのではないでしょうか。
                                                         以 上

残念な匿名。分れば直接説明に行きたい
【その17】   >2004年12月21日
*批判の手紙へのコメント
地元でいろいろな方を対象として講演しながら感じることは、このような意見が少なくないことです。ノリの色落ちは、確率的な現象として発生する気象現象との関係で起きるので、確かに今年のように台風やら暖かい天気やらの影響を受けると、事の本質が見えにくくなるのは当然のことです。その意味で、より多くの方に事の本質をもっと理解してもらうような努力がもっと必要と感じます。

でも、このような事に関して、匿名というのは納得いきません。名前が書かれていれば、熊本の方の要ですから、説明に出かけたいのですが。わかってもらえないでしょうか?
(どんなに説明しても、最初から結論を用意されていて、聞く耳を持たない方も少なくありませんが。特に、高学歴の方に多い傾向があります。まあ、それぞれ自信をお持ちでしょうから)

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