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■データ 1■

ホルマリン汚染の驚くべき実態

 

「天草の海からホルマリンをなくす会」

松本 基督 

 

  2003年4月27日、「裏切りの海」〜トラフグとホルマリン〜と題した民放のドキュメント番組が放映されました。10ヶ月に及ぶ長期取材の集大成として制作されたもので、数年前に熊本県に代わりトラフグ生産量日本一となった長崎県における驚くべきホルマリン使用の実態が克明に撮影されていました。

養殖トラフグの全国シェア40%強を占める長崎県。その生産量の半分以上が伊万里湾に浮かぶ人口3000人程の離島・鷹島町で生産されます。‘02年4月に県内養殖事情の特集記事を組んだ地方紙には「急成長した鷹島のブランドフグ」という見出しの記事が掲載されました。急成長を遂げた理由として鷹島阿翁漁協の組合長は、高品質のトラフグを全国に安定供給することにより「鷹島ブランド」としての信頼と安心を勝ち取り、価格が高値で維持するようになった、と説明されています。

02年3月、全国漁業協同組合連合会(全漁連)主催の第7回全国青年・女性漁業者交流大会では漁協青壮年部の人が「トラフグのブランド化とその努力」と題する発表を行ない、増・養殖部門で表彰されたとのことです。

 

番組ではその鷹島におけるすさまじいまでのホルマリン使用の有り様を生々しく描いていました。

早朝、倉庫代わりにした保冷車のアルミコンテナからホルマリンの箱を続々運び出す様子、それを船に積み込み沖のイケスに運び、ホルマリンと書かれた箱から直接海にドボドボと注ぐ様子、消毒作業を終え使用済みとなったホルマリンの箱を陸に揚げ証拠隠滅のためか燃やし尽くす様子など、ショッキングな場面の連続でこれが本当に信頼と安心を得てブランド化しているトラフグ養殖現場なのか、と我が目を疑うほどでした。

 また、夏休みの海水浴場ではしゃぐ子どもたちの数百メートル沖にある養殖場でホルマリンが次々とまかれるシーンも映し出されました。養殖魚のホルマリン使用が長年問題となってきた愛媛県でも‘02年5月海水浴場でホルマリンが検出されたという報道が流れましたが、リアルタイムでそれを捉えた映像はまさに衝撃的でした。

 最初の電話取材に対して「熊本のホルマリン騒動で全く使っていないうちの漁協は迷惑している」と答える漁協長。‘03年4月の直接取材の際には「昨年夏までは使っていたかもしれない。稚魚はあれ(ホルマリン)がないとできないようだ」と全く整合性のとれないコメントをする有り様でした。

しかし、カメラは出荷時期の‘02年12月にもホルマリンをまいている様子を捉えていました。

 消費者を欺く行為はこれだけではありませんでした。全国のフグが集まる下関・唐戸魚市場では食肉、農産物の表示偽装が次々と明るみに出た教訓から、生産者にエサの種類や薬品投与などについて記載する商品履歴書の提出を求めています。その商品履歴書の薬品投与の有無の欄には「無」と書かれていました。それは表示偽装そのものだったのです。

 私たちの活動拠点である熊本県では7年前にアコヤガイ大量死原因の究明過程でホルマリンの大量使用が表面化しました。その後、何度となく不正使用が発覚しましたが、‘00年にはまことに不完全とはいえ全国に先駆けて罰則が適用できる漁業調整委員会によってトラフグ養殖へのホルマリン使用禁止指示が出されました。熊本の業者の人たちは常々「熊本だけホルマリン使用に対して厳しいのは不公平だ、隣の長崎や愛媛などは使い放題ではないか」と不満をもらしていましたが、まさにそのような実態が目の前で繰り広げられていたのです。

 民放のスクープ番組放映前に何とか自らの立場を保ちたい長崎県は4月22日、金子知事が緊急記者会見を行ない、県内トラフグ養殖業者の過半数が寄生虫駆除剤としてホルマリンを使用していたとする調査の中間結果を発表し、「実態把握が十分でなかったことを深く反省し、全国の消費者に申し訳ない」と陳謝しました。

 発表の主な内容は以下の通りです。『ホルマリン登録業者の販売記録をもとにした調査の結果、県内でトラフグ養殖を営む33漁協151経営体の内、11漁協95経営体で‘01〜‘03年のホルマリン使用が判明した。年間使用量はおよそ500kℓ。魚介類へのホルムアルデヒド残留調査結果(養殖および天然トラフグ、養殖マダイ、貝類など)は全て検出限界値(1ppm)未満。養殖イケス内の水質調査(37検体)もすべてホルムアルデヒド検出限界値(2ppb)未満。「トラフグ養殖適正化対策協議会」を設置し、ホルマリン不使用の徹底を図り、早急に適正な生産体制を確立する』

しかし、これはあくまで中間報告に過ぎません。ホルマリン使用量や使用経営体はまだまだ増加すると見られています。同調査は使用実態についてかなり突っ込んだものですが、決定的に不備な点があります。それはホルマリンが大量に垂れ流されてきた漁場周辺の環境影響調査です。つまり、海藻や水生生物がどのような影響を受けてきたか疫学的な調査を行なうという視点が全くありません。

 

 ホルマリンの主成分は発がん性が指摘され、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている有害物質ホルムアルデヒドです。シックハウス症候群や化学物質過敏症を惹き起こす最大要因の一つとされています。ホルマリンは安価で寄生虫駆除の特効薬、飼育水槽の殺菌剤として早くから淡水魚に用いられてきました。‘90年代に入り、飼育にホルマリンが不可欠といわれるヒラメやトラフグの生産量が急増し、それに伴い海域での使用も膨大な量となったと思われます。そもそも、ホルマリン使用を前提とした養殖技術自体が全く不適切、不完全であると言わざるを得ません。

 

 長崎県でのホルマリン使用に関する発表を受け、水産庁は各都道府県に改めて使用実態調査の通知を出しました。しかし、調査方法はあくまで養殖業者に対する聞き取り調査であり、虚偽の報告をしてもそのまま集計されてしまいます。これではやる前から結果は分かっています。不祥事を起こした長崎県を「いけにえ」にして、全国の養殖現場に広がるホルマリン汚染の実情にふたをする「トカゲのしっぽきり」作戦としか思えません!ホルマリン販売業者の販売記録をもとにしたものでなければ、まともな結果は出てこないはずです。

 

 1219号でお知らせした通り、国は薬事法の改正によって養殖魚へのホルマリン使用禁止の法規制が可能になるとしています。しかし、ただ法律で禁止するだけでは片手落ちです。今後、このホルマリン問題に関して厚労省に働きかけて全国的な販売記録をもとにしたこれまでの使用実態調査、水産庁による疫学的な漁場環境影響調査を行なうよう強く求めていきたいと思います。

 

*発表先:日本消費者連盟「消費者リポート」1224号(2003年5月27発行)

 

※データ1〜6をクリックすると別ページで詳細がみれます。
・データ1 ホルマリン汚染の驚くべき実態
・データ2 ホルマリンで海を汚すな!!
・データ3 ホルマリン使用トラフグ出荷へ
・データ4 「ホルマリンで海を汚すな!」あぶない養殖魚の実態
・データ5 「ホルマリンで海を汚すな!」あぶない養殖魚の実態〜2
・データ6 高木基金助成報告集原稿
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