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■データ 2■

〜ホルマリンで海を汚すな!!〜

「天草の海からホルマリンをなくす会」

事務局長 松本基督

 

 ホルマリン。皆さんは分子量30.03、構造式がHCHOで示されるこの化学物質の名前を聞いて何を思い浮かべるでしょうか?生物標本作成用の固定液、殺菌・消毒剤、合成樹脂原料?

あるいはその主成分・ホルムアルデヒドがシックハウス・シックスクール症候群や化学物質過敏症などの健康被害を引き起こす要因であるとして建材からの使用が規制されるようになったということを思い起こされるでしょうか?

 しかし、ホルマリンが近年急増したトラフグやヒラメなど養殖魚の寄生虫駆除剤として多量に使用されているのはあまり知られていないと思います。

 

 水産行政による「獲る漁業から作り育てる漁業」の推進体制を背景に‘70年代に急増した魚類養殖は当初から「薬漬け」と批判され、食の安全性・周辺漁場に与える環境負荷が問題視されてきました。

魚類養殖は限られた面積の漁場で最大効率を上げる為に、密飼い、エサのやり過ぎが起こり易く、各種報告書にも「養殖イケスの底質環境が悪化し、慢性的な魚病被害が発生。被害の拡大を防止する為に日常的な投薬等により魚病被害を回避せざるを得ない状況になっている」と記述されています。すでに抗生物質の多用が問題となっていた‘80年を100とした場合の養殖魚の生産量が121に対し、抗生物質などの生産量が249(2000年)とさらに「薬漬け」状態が加速していることが統計からも分かります。

また、人や水産生物に極めて有害であることが分かり、‘90年に製造・輸入・販売・使用が原則的に禁止・規制された有機スズ(TBTO)入り漁網防汚剤が未だに一部地域で裏流通し、使用されていることも重大な問題です。

 

 魚類養殖の主流であるハマチ・タイ養殖はイワシ漁獲量の激減からエサが高騰し、さらに生産過剰による価格低迷で採算性が悪化し、‘90年代に入りより高価な魚種であるトラフグ、ヒラメなどへの転換が急速に進み、生産量が急増しました。

ところが、寄生虫による疾病などで飼育が困難とされていたトラフグ・ヒラメ生産急増の背景には、寄生虫駆除に安価で高い効果を発揮する消毒剤としてこともあろうにホルマリンが大量に使用されていたのです。

その消毒は「薬浴」と呼ばれ、シートで覆ったイケスに海水で希釈したホルマリンを注ぎ、濃度

1000ppmに調整し、その中で魚を一定時間泳がせて寄生虫を駆除する方法が一般的です。

薬浴後のホルマリン含有海水はそのまま海に垂れ流されます。有数のトラフグ生産県である熊本や長崎におけるホルマリン使用量はピーク時ではそれぞれ数千トンに及んだといわれます。

 熊本県水産研究センターが行なった「ホルマリンが植物プランクトンの増殖に及ぼす影響実験」によると、種類によっては0.01ppmですでに深刻な増殖阻害が認められ、魚介類のエサとなり、海の食物連鎖の出発点である植物プランクトンの増殖阻害は海全体の生産力の低下に直結するのです。

現場の観察や住民・漁師の聞き取りなどから、大量のホルマリンを使うとされる魚類養殖漁場周辺で海藻が枯れ、岩がツルツルの「磯焼け状態」になってしまった、死んだ貝の腐敗臭がしない、などの異変が報告されています。

 地元住民はホルマリンが大量に使われるようになった結果起きた様々な海の異変に対して大きな不安を抱いています。しかし、ほとんどの場合、魚類養殖は過疎地で行われているため、仲間意識や縁故関係による遠慮や地域水産物全体の風評被害を恐れて報道機関の取材などに対して最も情報量の多い地元住民から実態は外部に発信されず内在化するのです。

 

 本年4月、「裏切りの海」〜トラフグとホルマリン〜と題した民放のドキュメント番組が放映され、数年前に熊本県に代わり養殖トラフグ生産量日本一となった長崎県における驚くべきホルマリン使用の実態が克明に映し出されました。

早朝、倉庫代わりにした保冷車のアルミコンテナからホルマリンの箱を続々運び出す様子、それを船に積み込み沖のイケスに運び、ホルマリンと書かれた箱から直接海にドボドボと注ぐ様子、夏休みの海水浴場ではしゃぐ子どもたちの数百メートル沖にある養殖場でホルマリンが次々とまかれるシーン、消毒作業を終え使用済みとなったホルマリンの箱を陸に揚げ証拠隠滅のためか燃やし尽くす様子など、ショッキングな場面の連続でした。

 

 金子長崎県知事もその事実を認め、「ホルマリン使用の実態把握が十分でなかったことを深く反省し、全国の消費者に申し訳ない」と陳謝しました。現在、長崎県の要請によってホルマリンの不正使用が判明した166万匹のトラフグは出荷停止となっていますが、養殖業者は「残留がなければ出荷しても構わない」などとして出荷しようとする動きが出ています。

 

 1981年以降、ただ一片のホルマリン使用制限通達を繰り返し出すだけで何ら実効力ある対策を講じてこなかった水産庁、自らも社会に対して「ホルマリンは使用していない」と明言しながらばれたら強行出荷しようとするトラフグ養殖業者、食品安全性だけのことしか頭にない大多数の消費者。そこには飼育過程における漁場の汚染という視点は全く感じられません。

 このままでは日本の海が「命湧き出るところ」からただ単に「海水があるだけの場所」となってしまうのはそう遠い日ではないかも知れません。

 

*発表先:「てんとうむし通信」(2003年7月号)

※データ1〜6をクリックすると別ページで詳細がみれます。
・データ1 ホルマリン汚染の驚くべき実態
・データ2 ホルマリンで海を汚すな!!
・データ3 ホルマリン使用トラフグ出荷へ
・データ4 「ホルマリンで海を汚すな!」あぶない養殖魚の実態
・データ5 「ホルマリンで海を汚すな!」あぶない養殖魚の実態〜2
・データ6 高木基金助成報告集原稿
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