うつ病は単体で発症する場合のほかに、持病や服用している薬の副作用から起こる場合、
うつ病とは別の病気になってうつ病と合併する場合(うつ症状が現れる場合)、ほかの精神疾患や何らかの障害から移行や併発する場合などがあります。
薬剤に起因するうつ病は、病気が改善して服用の必要がなくなれば軽快するのがふつうです。
依存性のある薬剤(抗不安薬・睡眠薬など)を長期に服用した場合は、服用を急に中止したり減薬すると頭痛や注意力の低下、抑うつなどが現れる場合があります。
ASD(自閉症スペクトラム障害)*3:
自閉症の傾向が強い人から社会的な困難がほとんどない人までが含まれる。診断名を簡素化することにより誰が診断したかによって診断名が異なるのを避け、
より多くの人たちが早期療育や迅速な支援を受けられるようにすることが目的とされる。
診断は自閉性という観点から「社会的コミュニケーション」「限定した興味と反復行動(常同性)」の2領域。
たとえば、集団行動が苦手、回りの様子の変化に気づかない、相手の思いや感情を汲み取れない*1、人との距離感がつかみづらい、感情を言葉にすることが苦手、
記憶力・認識力が高い(映像や写真のような鮮明な記憶が多い)、光や音に過敏に反応する、
子どもだと人とものの区別が付きにくいなどに、無目的の反復行動(常同的な興味や活動)が含まれる。
親からの育児放棄・暴行・暴言などの虐待、いじめなどの迫害体験は、最悪の増悪因子である。
周囲に理解されず虐待やいじめにつながるといったケースや親子ともにASDというケースもある。
見過ごされると、過食症・拒食症、不眠、うつ、フラッシュバック、強迫行為、自傷行為につながることが明らかになっている。
一般的な人よりも右脳がよく働くため*2、視覚的記憶能力・認識能力が高く、
些細なことがきっかけで過去のつらい体験が鮮明によみがえり、
行動的な再現、言動的な再現、思考的な再現などにより、精神的に不安定となるためである。
年を重ねるほど鮮明な記憶のデータは蓄積され続けるため、つらい体験が多い場合には二次障害もどんどん積み重なっていき、その対応にものすごいエネルギーが必要となる。
つらい症状が出た場合の治療法としては現在、トラウマとなっているつらい体験を消すEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法(
『もう怖くない記憶』として再記憶させる方法))という治療が行われ始めている。
社会性については経験から人付き合いを学んでいくことが苦手なため、成人の場合は、知識としてコミュニケーションを学ぶトレーニングプログラムがある。
自治体の中には1歳半検診(1977~)でASDの可能性のある子には、話す人の顔の前でおもちゃを見せるなど、人の顔を認識させ相手の表情や声が分かるようにするトレーニング
(超早期療育・療育支援プログラム)やペアレントトレーニングを実施しているところもある。
(『人とうまくつきあえない』(NHK2013年3月放送)浜松医科大学特任教授児童精神科医杉山登志郎Dr.、DSM4/5(草案)より)
※自閉症は、現行基準では、対人的相互作用(社会性)の障害、コミュニケーションの障害、行動と興味の範囲が狭く限られる、の3領域で、
広汎性発達障害は「社会性」「常同性」のどちらかひとつ。
日本では、知能指数(IQ)が70以上あれば高機能自閉症、知的障害と言葉の遅れがなければアスペルガー障害とされてきた。
医師によって診断名が異なる場合がある。
*1.自分とよく似たタイプの人の考えや行動については理解度が高い、共感しやすい可能性がある(京大、福井大、金沢大のチームの研究。小坂浩隆・福井大特命准教授(児童精神医学)らによる)
*2.金沢大医学部子どもこころの発達研究センターMEGデータによる
*3.:アメリカ精神医学会が定めたガイドラインDSM-Ⅴ草案。19年ぶり改定予定。病因論などに余り踏み込まずに精神症状のみを論理的推察と統計学的要素を取り入れ分類した診断基準。
近年日本では、脳科学的な客観的根拠を持たせるものに切り替える研究が始まっているが、現状では脳内現象と心理作用の因果関係を完全に解明するに至っていない。
日本も含め、WHOの国際統計分類と共に各国で利用されている。
統合失調症:
さまざまな刺激を伝えあう脳をはじめとした神経系が障害される慢性の疾患です。
・陽性症状・・・急性期に生じる患者さんの感覚は「眠れなくなり、とくに音や気配に非常に敏感になり、リラックスできず、
頭のなかが騒がしく、やがて大きな疲労感を残す」。誰も何も言ってないはずなのに、現実に「声」として聞こえてしまう幻聴や、
客観的に見ると不合理であっても本人にとっては確信的で、
そのために行動が左右されてしまう妄想といった症状。
・陰性症状・・・込み入った話をまとめてすることが苦手になったり、会話を快活に続けることに困難を感じたり、考えがまとまらなかったり、話が飛びやすくなったりして、
しばしば、自分でいろいろなことを決めて生活を展開していくことが大変難しく感じられます。根気や集中力が続かない、意欲がわかない、喜怒哀楽がはっきりしない、
横になってすごすことが多いなどの状態として現れるものがあります。「一見、元気に見えるのに、なぜか仕事や家事が続かない」といわれるような状態など。
(「家庭医学大全科」2004)
心身症:
精神的なストレスや悩みが体の症状として現れる病態です。(
たとえば、ストレスによって十二指腸潰瘍のように身体的な病気になるもの。※3「気分がしずむ」項より)
「心身医学の新しい診療指針」(日本心身医学会教育研修委員会編、1991年)によると、心身症とは、病名ではなく身体疾患の病態を説明するひとつの概念。
身体疾患や経過に深深相関の機構(メカニズム)を解した心理社会的要因が強く関係し、その多くは心理社会的要因を治療の対象として扱うことが必要と考えられる病態で、
特にそれらの要因が強く影響していると考えられる身体疾患を心身症として扱います。(「家庭医学大全科」2004より)
したがって心身症という病態はうつ病とははっきり区別されています。原因はストレスだが、症状がからだに出るのが心身症。
(「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
症状の現れ方としては、それぞれの疾患に応じた症状が現れます。心身症になりやすい人には、不安や緊張の強い人、あまり感情を表に出さず、
自分のことを表現するのが苦手な人が多いようです。病名表記は、たとえば「胃潰瘍(心身症)」になります。(「家庭医学大全科」2004より)
不調の例:過換気症候群、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、過食症、アトピー性皮膚炎、まぶたのけいれん、じんましん、
狭心症、心筋梗塞、気管支喘息、偏頭痛や緊張性頭痛、円形脱毛症、など。また、ストレスがかかった状態が続くと免疫力が低下し、
その結果、ウイルスなどを排除できず、病気にかかりやすくなります。(「名医の図解
うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
糖尿病:
膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンの働きが不十分なため、血液・尿の糖分が高くなり、全身にさまざまな障害をおこす病気。
口が渇く、尿が多くなる、やせるなどの症状から、動脈硬化の急進、目の網膜の障害(失明)、昏睡がおこる。
急激に起こるものと慢性的に起こるものがある。遺伝的な基盤の上に、さまざまな環境要素が加わって発病する。(「からだの地図帳」高橋長雄より)
糖尿病の大半を占めるインスリン非依存型は、発症する前に抑うつ症状が見られたケースが8割から9割あるという報告があることから、
うつは糖尿病の危険因子とも言われている。また、糖尿病がインスリンだけでなくモノアミンの分泌にも異常をきたしているのではないかとも考えられる。
糖尿病の人がうつになると、ヤル気などが低下し、十分な血糖コントロールができなくなる。(「名医の図解
うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
悪性腫瘍:
病的な細胞が無制限に増殖してかたまりをつくり、本来の働きを失ったもの。このうち血流などを介して転移し、組織の原木を障害し、
あるいは毒性物質を出して固体の死をまねくもの。致命的な性質を持たないものは<良性腫瘍>という。(「からだの地図帳」高橋長雄より)
がんと聞いたときのショックや転移や再発の可能性の不安、痛みなど、気持ちが落ち込みやすいため、治療と同時にうつ状態やうつ病を防ぐケアが必要。
警告うつ病:
抑うつ症状が現れたために医療機関を受診して、うつ病と診断された人が、その後の検査でがんなどの重い病気が見つかるケースがあります。
これを「警告うつ病」といいます。これは、すい臓がんの発見の手がかりになるとも考えられています。
すい臓がんとうつ病が併発する割合は高いのですが、はっきりした関係はわかっていません。(「名医の図解
うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
マタニティー・ブルーと産後うつ病:
出産直後の10日ほど、女性ホルモンの変化の影響で、10~30%の人が、イライラしたり、気分が沈むことがあります。
これをマタニティー・ブルーといい、無気力や不安感、集中力の低下などがあったり、周りの人の態度や言葉への反応が過敏になって、
急に泣き出すこともあります。ふつうは自然におさまりますが、数週間もうつ状態が続いたり、数ヵ月後に再発したときは、産後うつ病の可能性があります。
産後うつ病は、育児に対する意欲や自信がもてずに悲観的になったり、子どもに対して愛情が感じられずに罪悪感を抱いたりするのが特徴です。
母子関係に大きく影響し、子どもの心身の発達をさまたげることもあるので、早めの治療が大切です。(「名医の図解
うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
月経前症候群(PMS、月経前気分不快症、月経前緊張症):
女性ホルモンの分泌は、月経周期と密接に関わっています。月経前の憂うつやイライラ、全身の倦怠感やむくみ、頭が重いなどの症状があります。(「名医の図解
うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
月経前3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経が始まるとともに減ったり消えるものをいいます。
症状は、月経前に周期的に現れ、身体症状としては、むくみや腹部の膨満感、頭痛、腹痛、腰痛、食欲不振、
めまい、倦怠感、情緒不安定、抑うつ、不安、睡眠障害などがあります。ただし、症状の表れ方には変化があり、
月によって程度が異なることも少なくありません。(「家庭医学大全」より)
PTSD(心的外傷後ストレス障害):
大きな災害や事故、戦争に巻き込まれたり、身体的・精神的虐待によって、極度の恐怖や不安を体験したことなどが、
心に深い傷となって残ることを、トラウマ(心的外傷)といいます。こうしたトラウマがもとで、ある時間を経てさまざまな症状があらわれるのが、PTSDです。
症状には、不安や抑うつ感、不眠、錯乱、物忘れなどがあります。イライラしたり寝付かれない、
ちょっとした物音や気配に驚いたりビクビクする「覚醒亢進症状」もよく見られます。感じやすい性格の人や、
神経症を発症しやすい要因を持っている人に起こりやすいと考えられています。(「名医の図解
うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)
自律神経失調症:
心に悩みを持っていたりすると自律神経系であらわれますが、確立した疾患概念や診断基準はありません。
・神経症型:原因となる心の悩みのために、不安や緊張、抑うつなどの症状が起こり、身体症状があまり見られない。
・心身症型:倦怠感や肩こり、手足のしびれなど、体の具合が悪くなるが、検査をしても病気が見つからない。
・本態性:交感神経と副交感神経のはたらきが不安定で起こり、身体症状が出るが、心理的なストレスがあると悪化する。
よく似た病名として、不定愁訴症候群、身体化障害など。症状別に分けた疾患名では、起立性調節障害、過敏性腸症候群、
緊張性頭痛、過呼吸症候群、機能性消化不良、逆流性食道炎など。
(「名医の図解 うつがよくなる生活読本」『家庭医学大全』より)
パーキンソン病治療薬例 : レボドパ(ドーパミンの前駆物質で、脳内で減少したドーパミンを補充する物質)を含む製剤(ドパストンなど)、 ドーパミンを受け取りやすくするドーパミン受容体刺激薬(ペルマックス、カバサールなど)、 ドーパミン放出を促進するアマンタジン(シンメトレル)、ドーパミン分解阻害薬のセレギリン(エフピー、三環系抗うつ薬との併用禁止)など。 (「医者からもらった薬が分かる本」2004より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
抗悪性腫瘍薬の一部 : プレオマイシン、アザチオプリンなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
膠原病などの治療に用いる副腎皮質ステロイド薬 : 酢酸コルチゾン(コートンなど) 、ヒドロコルチゾン(コートリル)、酢酸パラメタゾン(パラメタゾン)、 デキサメタゾン(デカドロンなど)、トリアムシノロン(レダコート)、ベタメタゾン(リンデロンなど)、プレドニゾロン(プレドニゾロン、プレドニンなど)。 (「医者からもらった薬が分かる本」2004より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
降圧剤 : レセルピン、メチルドバ、ヒドララジンなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
経口避妊薬 : ノルエチステロン(女性ホルモン剤)。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
抗てんかん薬の一部 : カルバマゼピンなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
抗結核薬の一部 : サイクロセリン、エチオナミドなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
消化性潰瘍治療薬 : シメチジン、ラニチジンなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
強心薬 : ジギタリス製剤など。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
催眠・鎮痛薬 : バルビタールなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
抗(向)精神病薬 : フルフェナジン、クロルプロマジンなど。 (「名医の図解 うつがよくなる生活読本」岩崎靖雄著より)詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
抗不安薬・睡眠薬 : ソラナックス、コンスタン、レキソタン、マイスタン、 リボトリール、ランドセン、セルシン、ホリゾン、ユーロジン、ロヒプノール、ワイパックス、レスミット、ベンザリン、 ドラール、ハルシオンなどのベンゾジアゼピン系。デパス(チエノジアゼピン系)。 マイスリー、アモバン(非ベンゾジアゼピン系)。 (詳しくはリンク集医薬品情報で副作用情報をご確認下さい)
疾患からの併発にはほかに、アルツハイマーや慢性関節リウマチ、メニエール病、パーキンソン病、インフルエンザ(※1※2※4より)などがあります。
完治しない病というショックから引き起こされるものや、からだにあらわれる諸症状などのストレスから引き起こされるもの、
仕事や学校を休んだり家族に迷惑をかけるかもといった思いから引き起こされるストレスなどもきっかけとなることがあります。
薬剤からの併発で、とくに降圧剤やステロイド薬(副腎皮質ホルモン剤)はうつを招く確率が高い(※4より)といわれています。
女性の場合は、女性特有のライフサイクルに女性ホルモンの分泌の変化などの要素が加わり、うつ病の発症に影響を与えます。
結婚退職や引越し、出産や子育てのストレス、更年期によるホルモンバランスの変化が挙げられます。
また、仕事と家庭、子育てや介護など両立させようとしてストレスがたまり、うつ状態になる人が増えているといわれています。
うつ症状にお悩みの方で持病・既往症のある方は、まず主治医とよくご相談ください。持病・既往症の関係や服用中の医薬品と関連があるかもしれません。
またうつ病とよく似た症状があらわれる疾患も多いため、気になる方は医療機関でご相談ください。
※参考文献: 1.「専門医がやさしく教える うつ病 」(平安良雄/著、2007、PHP研究所)、 2.「あなたの家族が病気になったときに読む本 うつ病 (介護ライブラリー) 」(福井次矢、川島みどり、大熊由紀子/編、上島国利、衛藤理砂、近藤昭子、土村啓子/執筆、講談社) 3.「健康の地図帳 」(地図帳・ナース) (大久保昭行/監修、講談社)、 4.「名医の図解 うつがよくなる生活読本」 5.「家庭医学大全」、 6.「からだの地図帳 (地図帳・ナース)」(高橋長雄/監修、講談社)
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