体のある部分の痛みがひどく長期にわたるので、病院で検査を受けたところ異常は見つからず、
「ストレス性のものでしょう。心因性です」。その言葉を聞いて、なぜ痛いのか?どうしたら痛みがとれるのか?何に気をつければいいのか?などと聞くに聞けず、
痛みをこらえて帰宅した経験はないでしょうか。
誤診ではないのか、なにか大病を患っているのではないかという不安が患者を襲うのはこんなときかもしれません。
この場合、病気ではないというよりも器質的に原因がはっきりしなかった(検査で異常値が見当たらなかった)ということがあります。
医療の世界では研究が進んでいます。研究が進めば進むほどより多くの細分化された疾患が見つかり、それらが治療できる疾患へと移行しています。
つまり細分化され専門化された「病気」は増えています。そのため、一口に医者といっても専門外にもなるとわからないケースも増えています。
そういうとき私たちが困るのは、担当医師の専門外の疾患なのか、つまりは違う診療科にいけば痛みと縁が切れるのか、
あるいは全く問題がないのかといったことがわからないことです。
(それでも総合病院につなげてくれたり、見当をつけて専門医を紹介してくれる医師に出会えたら感謝の念に耐えません。)
検査に異常が見られない場合によくいわれる診断名としては、「心因性~」(気のせい、ストレス)や「機能性~」(~が正常に機能していません)、
「過敏性~」(~が過敏)というのがあります。これは症状名です。こうした症状名で内科的治療を受けていると、
病院を次々と変える”ドクターショッピング”に陥る可能性も指摘※2されています。
私たちにとってこのような診断名は、症状名なのか疾患名なのかの判断は難しく、自分の状態を理解しにくいものにしています。
こうしたなか、NHKでも名を冠した番組のある総合診療医が注目され始めています。奈良県のある病院の総合診療医の名診察で一躍有名になりました。
総合診療医とは、専門の枠を超え幅広い知見を持ち、
全人的・多角的に疾患の可能性を考慮し診断、そして場合によっては専門科への橋渡しも担う医師です。
まだ総合診療医の数は少なく、また医療機関によって方向性が異なることもあるようですが、将来的には、苦痛にあえぎながら1件1件病院をまわるということがなくなるかもしれません。
(リンク集「学会・協会」の一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会)
患者として覚えておきたいのは、人間はあらゆる肉体的苦痛や精神的苦痛の根本原因を解明したわけではなく、
あらゆる人を健康体と呼ばれる状態に出来るようになったわけではないということです。どこかで折り合いをつけ、病気と共に生きることを選択することもあります。
以下は、最終的にうつ病と診断され最適な治療を受けるまでのあいだに各科をまわり、ついた診断名(病名)です。
各科共通 | 自律神経失調症、心身症、各種神経症、更年期障害、不眠症、不定愁訴、ヒステリー、過労、異常なし、少し何々が弱っている |
内科 | 各種頭痛症、めまい症、低血圧症、起立性調節障害、脳動脈硬化症、多発性脳梗塞、脳梗塞後遺症、狭心症、心不全、 不整脈、神経循環無力症、心臓神経症、胃腸神経症、胃下垂症、慢性胃炎、non-ulcer dyspepsia、胃アトニー、胃・十二指腸潰瘍、神経性嘔吐、空気嚥下症、神経性食欲不振症、慢性肝炎、慢性膵炎、 慢性腎炎、胆嚢炎、胆嚢ジスキネジー、過敏性腸症候群、便秘症、糖尿病、過呼吸症候群、気管支喘息、感冒、甲状腺機能低下症、 甲状腺機能亢進症、高血圧症、アルコール依存、パーキンソン病、貧血、各種神経症、腰痛 |
小児科 | 登校拒否、起立性調節障害、神経性嘔吐、臍仙痛、思春期やせ症、過呼吸症候群、気管支喘息、各種頭痛症、各種行動異常 |
婦人科 | 更年期障害、月経不順、月経困難症、月経前緊張症、卵巣機能不全、機能性不正出血、産褥神経症、育児ノイローゼ、マタニティーブルー、不感症、高プロラクチン血症、術後不定愁訴 |
外科 | ダンピング症候群、胆石症、胃・十二指腸潰瘍、回復術後遺症 |
脳神経外科 | 頭部外傷後遺症、脳腫瘍、筋緊張性頭痛、偏頭痛、各種神経症、頚椎症、むちうち症 |
整形外科 | 筋痛症、腰背痛症、頚肩腕症候群、頭部外傷後遺症、むちうち症、頚椎症、変形性脊椎症、各種神経症、関節リウマチ |
眼科 | 眼精疲労、屈折異常、めまい症 |
耳鼻咽喉科 | メニエル症候群、めまい、耳鳴、咽喉頭神経症、副鼻腔炎、鼻性注意集中不能、アレルギー性鼻炎、慢性中耳炎 |
泌尿器科 | 神経性膀胱、神経性頻尿、インポテンツ、膀胱神経症、心因性排尿困難、慢性膀胱炎、排尿痛 |
皮膚科 | 円形脱毛症、掻痒症、多汗症 |
歯科口腔外科 | 舌痛症、不定疼痛症、口内乾燥症、異味症、義歯不適合、口臭症、パレステジー |
(表の出典:渡辺昌裕、光信克甫『プライマリケアのためのうつ病診察Q&A』 p234、金原出版、1997) |
この表は、今まで多くの科で多くの病名・症状名の診断を受け、治療が回復の兆しや一定の安定を見せず、 なおも苦痛が続いている方へのあくまでも参考のためのものです。治療に時間がかかる疾患も多いものです。 本来の治療の妨げになっては本末転倒ですので、お心当たりのある方は医者を変える前にまず担当医師とよく相談してください。